【対談】 小坂浩彰(NGOレインボーブリッヂ事務局長)×木村三浩(一水会代表) 政府とエセ保守勢力による「拉致問題」利用の大罪
政治森友事件をはじめ、自公政権が〝未解決〞のまま闇に葬ろうとしている問題は多い。一方、あえて〝未解決〞とすることで、政治利用を続けるのが拉致問題である。誰も語らないその本質と、東アジアのあるべき未来について、1996年から北朝鮮への支援を続ける「NGOレインボーブリッヂ」事務局長・小坂浩彰氏と、民族派団体「一水会」代表・木村三浩氏が語る。
(構成・本誌編集部)
・北朝鮮に対する岸田政権の姿勢
木村:2021年に岸田政権となりましたが、閣僚や政府関係者には小坂さんとパイプを持つ人もいるようですね。その点で、今後、現政権には北朝鮮問題についてアクションを期待できるかもしれません。ただし、岸田氏は首相就任早々、朝鮮戦争の「休戦協定」を「平和条約」に、つまり終戦することについて、「まだ時期が早い」と言いました。誰かに言わされているのでしょうか。
小坂:もちろん、言わされているのでしょう。すでに韓国の文在寅大統領は、終戦について言及しています。しかし日本では、産経あたりのメディアで、急ぎすぎているというような批判的な論調が多い。その辺りの筋の軋轢があるのだと思いますよ。そもそも、何をもって「まだ早い」と言ったのか。
木村:そう、それがないのです。そのうえで岸田首相は、21年11月には拉致被害者家族会らが主催する「全拉致被害者の即時一括帰国を求める国民大集会」に出席して、「私の手で必ず拉致問題を解決しなければと強く考えている」と言った。しかし、その手法や戦略は、全く示されない。これこそ拉致問題を利用したポピュリズムでしょう。
小坂:「条件を付けずに北朝鮮側と対話する用意がある」とも言いますが、私はそれがどういう意味なのか、わからないんです。これは安倍晋三元首相が言ったことを、岸田さんがそのまま踏襲しているわけですが。「条件」とは、何の条件なんでしょうね。
木村:日本語になっていませんね。北側が対話をしたがっていて、日本政府にイニシアティブがあるならわかりますが、もちろんそういう状況ではない。
小坂:そこに、国民へのまやかしが見えるんです。拉致問題を政治利用し、この20年間しゃぶりつくしてきた安倍晋三元首相のやり方を引き継いでいるともいえます。それでも、岸田さんは内心、安倍さんが嫌いなはずです。外務大臣に林芳正さんをもってきたことにも表れています。出身地の広島で河井案里夫妻のような事件を起こされて、当たり前といえば当たり前ですが。
木村:そんな岸田内閣は、総選挙では議席を守った。これは立憲民主党に原因があったと思いますが。
小坂:枝野幸男代表がダメでしたね。北朝鮮問題においては、総選挙の前月に所属だった生方幸夫衆院議員が「拉致被害者で生きている人はいない」と言ったことが問題とされた。その際にも、枝野氏はまともな対応をせずに逃げてしまった。生方という人への評価はさておき、彼は本音を言ったわけです。「調査すべきではないか」くらい言うべきだったのではないでしょうか。
木村:生方氏の発言は21年6月ごろ。選挙直前に産経新聞が、「こんなことを言っている」とむし返したものです。
小坂:いかにも作為的ですね。
木村:しかし、「亡くなっているのではないか」という疑問すら言えない日本の状況は、おかしいですよ。同調圧力があるわけです。
小坂:まったく同感です。だからこそ、枝野さんの取るべき立場としては、少なくとも、「調査するべきではないのか」と踏み込む必要がありました。しかし、同調圧力を苦にして「生きているはず」と発言しました。
木村:生方氏の発言を問題提起とすべきだし、枝野氏自身は拉致問題を政治利用してきた利害関係者でもないのに、腫れ物に触るように封じてしまった。
小坂:日朝首脳会談から20年もたつのに、何も進展がないわけですから、国民にも不思議に思っている人はいるでしょう。
木村:少なくとも、事態を進展させる方法はあるわけです。たとえば遺骨。04年に北朝鮮側が提出した遺骨を日本政府は「ニセ遺骨」と言って切り捨てましたが、国際的な鑑定を、アメリカなどではなくドイツやフランスなどの第三国に鑑定を申し入れるとか、調査の方法はあります。しかし、生方発言に対して枝野代表は引いてしまった。与党の拉致問題利用を手助けしたも同じです。
株式会社鹿砦社が発行する月刊誌で2005年4月創刊。「死滅したジャーナリズムを越えて、の旗を掲げ愚直に巨悪とタブーに挑む」を標榜する。