【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ウクライナ和平の動向を探る〈下〉:遠い停戦

塩原俊彦

米国報道に変化

興味深いのは、2022年11月下旬になって、米国のマスメディア報道に変化がみられるようになった点である。

11月25日付のニューヨーク・タイムズ(NYT)の(https://www.nytimes.com/2022/11/25/us/ukraine-artillery-breakdown.html)では、ウクライナ軍は、米国とその同盟国から供給された大砲を使って、毎日ロシアの標的に向けて何千もの爆発弾を発射しているが、これらの兵器は数カ月の酷使の末に損傷したり破壊されたりしている。このため、ポーランドで修理するものも多く、「キーウに寄贈された西洋製榴弾砲約350基のうち3分の1が常時稼働していない」と伝えている。

11月26日付のNYT(https://www.nytimes.com/2022/11/26/world/europe/nato-weapons-shortage-ukraine.html)は、「西側諸国は、S-300防空ミサイル、T-72戦車、とくにソ連製の大砲の砲弾など、ウクライナが今すぐ使えるソ連時代の装備や弾薬がますます不足しているため、必死で探している」と報じている。

Russian Sovjet Union cold war T-72 main battle tank

 

こうした米国側の動きを分析したうえで、ロシアの有力誌『エクスペルト』(https://expert.ru/expert/2022/49/postavki-oruzhiya-na-ukrainu-ne-beskonechny/)は、「米国はロシアの軍事的勝利を阻止するために崖っぷちを歩もうとしているが、ウクライナの軍事的大成功をより一層警戒している」と書いている。

要するに、ウクライナ側が勝ちすぎると、ロシア側の核兵器使用のリスクが高まると米国側はみている、とロシアの有力誌は分析しているのである。

ただし、こうした状況は必ずしも和平交渉への道筋を開くものではない。2022年12月5日朝、ロシア国内のサラトフ州エンゲルス市にある、長距離機であるTu-160とTu-95と呼ばれる戦略爆撃機が駐機する軍用飛行場が無人機の攻撃を受けた。

エンゲルスの軍用飛行場で爆発があった。監視カメラの映像のスクリーンショット
(出所)https://novayagazeta.eu/articles/2022/12/07/zhertvy-razrusheniia-est

 

その数時間後には、リャザン州にあるジャギレヴォ飛行場でも爆発があった。こちらでは、3人の死者が出た。いずれも、ウクライナ軍がソ連時代の低空飛行ドローンを使って攻撃したものとみられている。ウクライナとロシアとの国境から450キロ以上離れた二つの空軍基地が攻撃されたのは第二次世界大戦後はじめての出来事である。

さらに、12月6日には、Su-30SM戦闘機が所属するクルスク州のハリーノ空軍基地にも空爆が行われた。ウクライナ軍はロシア国内への攻撃を強めており、それがロシアによる報復攻撃を招き、停戦や和平の交渉を難しくしている。

2022年12月9日の安保理

2022年12月9日、ロシアの要請で国連安全保障理事会において、欧米のウクライナへの武器供給について議論された。

ロシア側は、武器密輸の心配とは別に、欧米諸国がウクライナへの武器供給によってロシアとウクライナの紛争をさらに激化させ、ヨーロッパ大陸の情勢を不安定にしようとしているとみている。武器供給はウクライナの和平交渉意欲を削ぐ、とロシア側は考えている。

これに対して、米国政府は、「ロシアとの戦争」を求めているのではなく、「ウクライナの自衛の機会」を確保するための武器供与を建前としている。だからこそ、ウォール・ストリート・ジャーナルのCEO Council Summitに参加した、アントニー・ブリンケン国務長官は、12月7日、「米国はウクライナのクリミア奪還に協力する気はない」と述べたのである。この場合の自衛とは、2014年にロシアが併合したクリミア半島を含んでいないというのだ。

12月9日の安保理では、米国代表は、米国政府が10月に「東欧における特定先進通常兵器の不正転用の対策に関する米国の計画」を発表したことを説明した。

News headline with “Security Council” written in Japanese

 

この計画には三つの柱(①ウクライナ当局と協力して機密・危険な武器を監視・管理する、②ウクライナ国内および周辺の国境管理を強化する、③近隣諸国の法執行能力を強化する)があり、武器転用を防ぐという重大な責任へのコミットメントを一貫して果たしているとした。

国連の軍縮担当トップは、各国に対し、武器が消失し、別の場所で再び姿を現すというリスクに対処するために、効果的な武器管理措置を適用するよう求めた。

2022年12月中旬現在では、米国およびその同盟国は、何らかのかたちで、「必要な限り」ウクライナを支援する用意があるとの立場を崩していない。ただ、フランスなどは、「いつでも交渉できる状態にしておくべきだ」「交渉開始は早ければ早いほどいい」との立場だ。さらに、マクロン大統領はプーチン大統領とのコンタクトを維持すべきと考えているが、バイデン大統領は、そのためには一定の条件が整うべきと考えている。

A news headline that says “weapon support” in Japanese.

 

インドのモディ首相がカギか

2022年12月初頭以降、和平交渉で大きな役割を果たしうるのは、インドのナレンドラ・モディ首相だろうとの見方が生まれている。それを後押ししているのは、12月1日からインドネシアからG20の議長国をインドが引き継ぎ、2023年に次のG20会合を開催する予定であることだ。

The National Flag of India is a horizontal rectangular tricolour of India saffron, white and India green; with the Ashoka Chakra, a 24-spoke wheel, in navy blue at its centre. It was adopted in its present form during a meeting of the Constituent Assembly held on 22 July 1947, and it became the official flag of the Dominion of India on 15 August 1947.

 

同年11月2日付の情報(https://economictimes.indiatimes.com/news/india/russia-becomes-the-no-1-oil-supplier-for-india-in-october/articleshow/95240329.cms?from=mdr)によれば、ロシアは10月にインドに日量94万6000バレルの原油を供給し、1カ月間で過去最高となった。

abstract 3d illustration of cracekd Russia flag and oil barrels

 

インドの総原油輸入量の22%を占め、イラクの20.5%、サウジアラビアの16%を上回ったのである。エネルギー関連会社のVortexaによると、10月の原油輸入量は9月と比較して全体で5%、ロシアからの輸入量は8%増加したという。ウクライナ戦争に対するインドの中立的外交政策がロシア産原油の輸出先の受け皿として利用されているのである。

インドはロシアからの武器輸出に依存してきたという過去もある。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の情報(https://www.sipri.org/media/press-release/2021/international-arms-transfers-level-after-years-sharp-growth-middle-eastern-arms-imports-grow-most)によると、2016~20年の主要武器輸出の20%を占めていたロシアによる武器輸出は、22%減少した(2006~10年とほぼ同じ水準になった)が、この減少の大部分約90%は、インドへの武器輸出が53%減少したことに起因していたという。

さらに、インドによる武器輸入は、2011-15年から2016-20年の間に33%減少した。ロシアがもっとも影響を受けたサプライヤーであったが、インドの米国製武器の輸入も46%減少している。

インドの武器輸入の減少は、主にその複雑な調達プロセスに加え、「ロシアの武器への依存度を下げようとしたことが原因であると思われる」と書かれている。それでも、インドとロシアとの武器をめぐる協力関係は堅固であり、モディ首相はプーチン大統領と直接話せる人物なのだ。

モディ首相は9月16日、ウズベキスタンのサマルカンドで開催された上海協力機構(SCO)首脳会議終了後、プーチン大統領と会談し、「今は戦争の時代ではないことは分かっている。とくに電話での会話では、何度も話している。民主主義、外交、対話、これらは私たちが解決策を見出すための重要な手段である。将来的には平和が必要であり、そのための話し合いの場があると確信している」と、明確に述べたとされている(http://kremlin.ru/events/president/news/69362)。

こうしたことから、モディ首相がウクライナ戦争終結に向けた和平協議の橋渡し役を果たせる可能性が浮上している。ただし、毎年恒例のロシアとインドの首脳会談は2022年内には予定されていない。

2000年の「戦略的パートナーシップに関する宣言」締結以降、ロシアとインドで交互に年次首脳会談を開催することになっているのだが、この規定に基づく首脳会談が今年は開催されないとみられている。

プーチン大統領が2021年12月6日にインドを訪問したのが最後となっている。おそらく2023年に早期に首脳会談がモスクワで実現できるような機会があれば、和平に向けた道筋が見えてくるだろう。だが、その兆しは現段階ではまったくない。

具体的な和平交渉に向けて

具体的な和平交渉では、ドネツィク(ドネツク)、ルハーンシク(ルハンスク)人民共和国(DNRおよびLNR)とウクライナのヘルソン、ザポリージャ両州の取り扱いが問題になる。もちろん、クリミア半島の取り扱いも問題だが、これは2014年にロシアに併合済みであり、2022年2月以降の問題ではない。

Detailed crimea road and major cities vector map

 

DNRとLNRについては、ロシアはその独立を2月21日に承認していた。前述した4州では、9月23日から27日まで住民投票が実施され、DNRとLNRでは、そのロシアへの併合だけが住民投票で問われたのに対して、ヘルソンとザポリージャでは、ウクライナからの分離独立、独立国家の形成、ロシアの一部となることの三つの質問が用意されていた。

その結果、ロシア側の情報によれば、DNRでは、99.23%が統合に賛成し、LNRでは98.42%、ザポロージャ州では93.11%、ヘルソン州では87.05%がロシアへの加盟に賛成した(もちろん、この住民投票は「茶番劇」にすぎない。

そもそも、各州の有権者数すらはっきりしない。投票開始当初、DNR中央選挙管理委員会は、同共和国の有権者数を155万8000人と発表していたが、9月26日、DNR中央選挙管理委員会のウラジミール・ビソツキー委員長は、有権者数が170万4000人に増加したと発表するなど、めちゃくちゃだった)。

9月29日、プーチン大統領はヘルソン州とザポリージャ州の独立を承認した。さらに、9月30日、4州のロシア加盟に関する条約に署名し、条約批准を経て、4州のロシア併合が決定的段階を迎えた。

こうした経緯を踏まえたうえで、これらの地域について、ロシアとウクライナの両政府がどう妥協するのかという大きな課題が突きつけられていることになる。

2022年12月12日のG7

2022年12月12日に開催されたG7の声明(https://www.whitehouse.gov/briefing-room/statements-releases/2022/12/12/g7-leaders-statement-4/)では、ウクライナの修復、復旧、復興を支援する観点から、ウクライナや国際パートナーとともに、関連する国際機関や国際金融機関と緊密に連携し、複数機関にわたる「ドナー調整プラットフォーム」を設立することになった。

このプラットフォームを通じて、継続的な短期・長期支援(とくに短期資金支援についてはファイナンス・トラックの責任において行う)を提供するための既存のメカニズムを調整し、さらなる国際資金や専門知識を調整し、ウクライナの改革課題および民間部門主導の成長を奨励するのだという。プラットフォームのための事務局設置が決まり、「2023年1月のできるだけ早い時期に招集するよう要請する」とされた。

なお、「ファイナンス・トラックの責任において行う」というのは、汚職によって資金が吸い上げられることを防止または制限する試みとして、いわゆる「ファイナンストラッカー」を創設することを意味している。

いわば「財務追跡者」を置き、支援金の流用を防止するというわけだ。拙著『ウクライナ3.0』や『プーチン3.0』で指摘したように、ウクライナは少なくとも戦争勃発前まで腐敗が蔓延していた国だから、G7加盟国としても支援に慎重を期すということなのだろう(米国政府は支援した武器に対する監視体制の強化もはかっている)。

声明の8項目において、「現在までのところ、ロシアが持続可能な和平努力に取り組んでいるという証拠は見受けられない」として指摘されている。

「ロシアがウクライナに対する攻撃を停止し、ウクライナの領土から完全かつ無条件に軍を撤退させることによって、この戦争を直ちに終わらせることができる」との認識のもとで、「私たちは、ゼレンスキー大統領の公正な和平のためのイニシアチブを歓迎し、支持する」としている。

おそらく、このイニシアチブは前述した10の提案を指しているのであろう。これでは、和平実現は困難な状況にあると言わなければならない。

「時間稼ぎ」という悪夢

こうなると、「時間稼ぎ」という悪夢が現実味を帯びてくる。それは、いわゆる「ミンスク合意」の繰り返しになりかねない。この論点については、2022年12月7日、ドイツの『ツァイト』誌に掲載された、アンゲラ・メルケル前首相のインタビューが関係している(この点については、「メルケル発言の真意」[https://isfweb.org/post-12515/]を参照)。

たとえ和平が実現しても、それは時間稼ぎでしかなく、再び戦争の惨劇が繰り返される可能性が高いことになる。

 

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。ウクライナについては、『復讐としてのウクライナ戦争』を2022年11月に社会評論社から刊行予定。ほかに、『ウクライナ3.0:米国・NATOの代理戦争の裏側』(社会評論社、2022)、『ウクライナ 2.0:地政学・通貨・ロビイスト』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート:「ネオコン」の情報操作と野望』(同、 2014)、ロシアについては、『プーチン3.0 殺戮と破壊への衝動:ウクライナ戦争はなぜ勃発したか』(同、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち:私が「KGB」に拉致された背景』(同、2016)、『プーチン2.0:岐路に立つ権力と腐敗』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオKGB 帝国: ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、 2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。エネルギーに関連して、『核なき世界論』 (東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)がある。権力分析として、『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)などがある。サイバー空間の分析として、『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』 (社会評論社、2019)がある。

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