辺野古の海を愛する船長として
琉球・沖縄通信私は2006年から沖縄の教会で牧師をしていますが、同時に辺野古新基地建設阻止行動に関わっており、海上行動の船長を務めてきました。
この行動では沖縄の偉大な二人の人物とその生き方を精神的な柱としてきました。
一人は伊江島土地闘争のリーダー・阿波根昌鴻さんとその「非暴力抵抗」の姿勢、もう一人は米軍統治下時代から民衆の側に立ち続けた政治家・瀬長亀次郎さんとその「不屈」の精神です。
2014年、私が勤務していた沖縄キリスト教平和研究所で全国募金をして辺野古の抗議船を購入しました。この船は「不屈」と命名され、瀬長亀次郎さんが書いた字体をそのまま使わせてもらっています。強大な力に対しても屈しない、小さな一人一人の思いと団結を乗せて「不屈」は日々、辺野古の大浦湾に出ています。
2007年の教科書問題で沖縄では10万人を越える県民大会が開かれました。その際に辺野古で座り込みを行っていたテントメンバーが、同県民大会にあわせて2万枚のビラを印刷し、会場で配りました。「辺野古に来てください」という内容のものです。
後日、このチラシを見てやって来た人はゼロでした。2万枚配ってゼロ。さすがに徒労感を覚えました。県内でも辺野古はこんなに知られていないのかと。
しかし、沖縄県民の意識は少しずつですが変わっていきました。それが明らかに表面化したのは2014年のオール沖縄の選挙、島ぐるみ会議の発足です。限界までたまっていたマグマがついに噴火したように、あるいは地殻変動が起こったかのように、この動きは広く、深いものでした。
島ぐるみ会議が用意した大型バスは毎日那覇から運行し、多くの人を辺野古に送り出しています。ほかにも宜野湾市、うるま市、沖縄市、名護市など週一回の運行をあわせるとその数はかなりのものになります。
いまや県民が続々と辺野古にやってくるのが日常の光景になりました。様々な人たちが各所で一見徒労に見えるような取り組みを積み重ねてきた結果が、この地殻変動となって現れたのでしょう。その時々には無駄に見えるような取り組みも、いつか必ず実を結ぶのだという希望を感じました。
沖縄県知事の工事中止指示にも従わず、辺野古での仮設護岸工事が進められてきました。政府は名護漁協が漁業権を放棄したことを理由に、知事による岩礁破砕許可は必要ないと強弁し、工事を強行しています。知事の許可を得ずに、漁業権の放棄だけを根拠に岩礁破砕を伴う工事を行うことは違法なのです。
そのような違法工事に抗議する市民を、ゲート前では警察が、海では海上保安庁が力ずくで規制しています。警察も海保も工事強行のためのガードマンをさせられているのです。
沖縄の海も冬は寒いです。そのような中、連日カヌーと船は工事エリアで抗議を続けています。カヌーメンバーは1日に何度も海に飛び込み、少しでも工事現場近くで抗議しようとしますが、ことごとく海保に拘束されます。しかし、それでも諦めない闘いが今も続けられています。
新型コロナウィルス感染により緊急事態宣言が出された間も辺野古新基地建設は止まりませんでした。しかも緊急事態だというのに政府はこのタイミングで2020年4月21日、広辞苑並みの厚さの設計概要変更申請を沖縄県に対して提出しました。
総工費9300億円、工期は12年といいます。これには明らかになった大浦湾の軟弱地盤改良工事も含まれていますが、報道もされている通り不完全な改良工事しかできません。
政府は普天間基地の危険性除去には辺野古が唯一だという姿勢を崩していません。しかし、変更申請通りに工事が行われたとしてもまだ12年も普天間の危険性は放置されるのです。土木の専門家に言わせれば12年どころか20年はかかるだろう、いやそもそも軟弱地盤改良工事は無理だとも。
政府が沖縄県に求めているのは新基地建設の設計変更の許可ともう一つあります。それは2019年4月と7月に出したサンゴ類の移植許可申請です。玉城デニー沖縄県知事は、世界自然遺産として登録されている知床や白神山地と比べても辺野古・大浦湾の生物多様性はそれらを上回っており、ここでのサンゴ採取は極めて特殊であることから、審査には多くの時間がかかり慎重に行わなければならないと説明しています。
ところがこうした沖縄県の姿勢に対して農林水産省が2020年1月31日に「早く許可を出せ」と勧告、さらに同年2月28日、サンゴ移植を許可するよう指示してきました。このような地方自治を揺るがすような農林水産省の指示に対して、沖縄県は同年3月6日にその指示の取り消しを求めましたが、農林水産省は受け入れず、同年3月30日に県は国地方係争処理委員会に行政不服審査を申し立てました。
沖縄県の主張は、農水省が防衛局と一体となって対応する異常な事態で、許可権限を持っている県が結論を出してもいないのに国が審査内容にまで踏み込んで指示を出すという、地方自治を危機にさらす行為だというものです。一方、農水省の言い分は埋め立て許可を出した仲井真弘多知事の承認は有効で、それを前提に事務処理をすべきで、県はいたずらに審査を遅らせているというものです。
このように国は一丸となって沖縄に攻勢をかけてきています。この数年、ますますあからさまになってきたのは首相官邸主導で様々な事柄が決められていく事態です。法律をねじ曲げてでも官邸の意を通す出来事が次々に起こっています。
辺野古の埋め立て土砂は琉球セメント安和鉱山で採取されています。2019年から平和市民連絡会が調査して、この鉱山の一部が違法に開発されていることを指摘してきました。森林法に基づく林地開発許可を得ないまま開発、土砂採取を行ってきたのです。この指摘を受けて県は立ち入り調査を実施し、違法開発であることを確認しました。
ところが沖縄県の行政指導は同年8月末までに開発申請をしなさいというにとどまっているのです。それまでは違法状態のまま土砂採取することに対して中止命令を出さないのです。違法であるならいったん中止させて、それから申請を審査して許可するしないを決めるのが行政だと思うのですが、違法状態を黙認したままあとで申請を出せばよいということですから、納得がいかない不可解な決定です。
このたび明らかになった埋め立て工事の設計変更申請書によると、埋め立て土砂は北部地域だけではなく、うるま市の宮城島や、糸満・八重瀬の南部地域、そして宮古島・石垣島・南大東島などからも採取することになっています。
沖縄の全域から辺野古の埋め立て土砂が採取されるのです。特に糸満は平和祈念公園周辺に採石鉱山が10か所近くもあり、ひとつひとつの規模はそれほど大きくなくても、全体としてはかなりの分量の土砂が運ばれることになります。沖縄戦で犠牲になった人たちの遺骨が混じった土砂を辺野古の埋め立てに使うという、人道的にも許せない開発が進められようとしています。
辺野古の抗議船・「不屈」船長。1954年北海道岩内町に生まれる、1973年道立札幌西高等学校卒業、1978年早稲田大学政治経済学部卒業、1979年東京神学大学3年次編入学、1983年東京神学大学大学院修士課程修了、1983年~1996年日本キリスト教団 富士見町教会副牧師、1996~2006年明治学院学院牧師・明治学院教会牧師、2006年~現在 日本キリスト教団佐敷教会牧師、著書『生き方としてのキリスト教』(1998年)日本キリスト教団出版局、『辺野古の抗議船・不屈からの便り』(2019年)みなも書房