【連載】モハンティ三智江の第3の眼

インド、第2波新規8万人台、イベルメクチンが効果も使用中止に

モハンティ三智江

2022年6月13日、蒸し暑かったミッドサマーが終わって、例年通りモンスーン(雨季)に入った。朝から、じとじとした小雨が降って、太陽の隠れた空はどんより灰色だ。冷房フル回転から打って変わって、最速にダイヤルを合わせた扇風機が肌寒く感ぜられるほどだ。

雨雲の垂れ込めるベンガル湾(2016年7月)。当オディシャ州は6月17日から封鎖の段階的解除で、散歩も解禁されるので、42日後のモンスーンに入った雨季特有の曇海が見れるはずだ。

 

インド全土の新規感染者は、同年6月8日に8万人台と、第1波のピーク時の10万人弱を下回ったのを皮切りに、9万人台が4日続き、本日は8万0834人と減って(累計2940万人、実質140万人、死者37万人)、各州とも、段階的解除措置に踏み切り出した。

ただし、既に秋(9月から10月)の第3波が予測されているため、全土リバウンドを警戒し、状勢を睨みながら、少しずつといった慎重姿勢だ。また、新規死者数は記載漏れがあったようで、過日7000人台と世界最多記録を更新、昨日は4000人超、本日は3000人余である。

当オディシャ州(Odisha)は新規感染者4852人とピーク時から半減したが、地方州では依然多い方だ(累計84万7000人、実質5万8000人、死者3257人、新規死者47人と第1波より多め)。

ワーストのマハラシュトラ州(Maharashtra、人口約1億1200万人)も、新規1万0697人で、回復者数が1万4910人と上回り(累計590万人、実質270万人、死者10万8000人)、以下カルナータカ(Karnataka)、ケララ(Kerala)、タミルナドゥ(Tamil Nadu)、アンドラプラデシュ(Andhra Pradesh)とトップ5州の新規は6000人台から1万人台と、軒並み回復者数がはるかに上回る。

特筆すべきは首都デリー準州(Delhi、人口約2000万人)で、新規がたったの213人、実質3万人(累計143万人、死者2万4800人)で、ひと月半前に酸素不足で人が倒れ死に、地獄と化していたとは信じられない鎮静ぶりだ。

一方、1回のみのワクチン接種回数は2億回を突破したが、ペースは依然落ちており、中央政府は州任せにしていた方針を転換し、陣頭指揮を取り戻した。州単位だと、接種の足並みが揃わず、互いに出し抜こうとしたり、外国企業がワクチン売却を渋る弊害が懸念されていたのだ。

中央主導の、6月21日からの18歳以上の国民への無料接種を加速化すべく、諸外国からのワクチン買い付け(8月までの4億4000万回分を入手)と、本格的な接種再開に乗り出した。

第2波時治療薬としては目覚しい効果を発揮したイベルメクチン(ivermectin)は、保健省の使用薬リストから突如として外され、ワクチン一辺倒のWHO(World Health Organization、世界保健機関)の方針に則った形である。

実は、インドの弁護士連合会はWHOを訴えており、訴状内容は、インド側のイベルメクチン使用可否の打診に対して、未承認姿勢を貫いたせいで、助かるはずの命が多数犠牲になった、その責任を追及するというものだ。

確かに、西部ゴア州(Goa)政府はいち早くイベルメクチンを使用したことで死者数急減、しかし、南部タミルナドゥ州はWHOの指針に従って中止したため、他州に比べて、新規数もなかなか減らず、死者も多かったのである。

第2波の短期における驚異的な回復率は、1波時も使われていたイベルメクチンのおかげともいわれるため、残念だ。前の記事でも触れたが、同抗寄生虫薬は、日本の北里大学栄誉教授、大村智博士が発明し、2015年にノーベル生理学・医学賞に輝いたもので、アフリカで寄生虫による失明病(オンコセルカ症=河川盲目症)を治療するのに多大な貢献を果たしてきた。

一説には、アフリカで新型コロナ流行が予想をはるかに下回ったのは、日頃この虫下しを飲んでいるせいとも言われる。未だ有効な治療薬が開発されない現状では、ワクチンが進まない途上国ではミラクル既存薬ともいえ、副作用もないし、もっと推奨されてしかるべきと私見では思う。発明者の大村博士も、日本国内で治験を進め、一刻も早い承認を目指しているとも聞く。

なお、日本ほか諸外国で「インド株」で通用していた名称は、インド政府の抗議で「デルタ株」と改称され(WHOは5月31日、特定の国への差別的扱いを防ぐため、主な変異ウイルスをギリシア文字を用いた呼称に変えることを奨励)、イギリス株はアルファ株、ブラジル株はガンマ株、南ア株はベータ株と改称された。

さて、インド株改め、デルタ株(B1.617、B1.617・2、B1.617・3で、中でも2型が増加、日本でも市中感染例が懸念されている)の感染力は確かに強く(従来型の1.78倍)、あっというまに蔓延したものの、目を見張るような回復力(現在95%)を見ると、回復速度がやけにのろかった第1波に比べ、人々が脅威に思う程の毒性は有してないように個人的には思われる。

とにかく、第2波は最速で大爆発、が、TSUNAMI(ツナミ)は3週間でしぼみ始め、50日後の今や凪(なぎ)と化してしまった。B1.617という変異株の性質か、大々パニックに陥った魔の5月は、過ぎてみれば何だったのかと、素人の私は首を傾げるばかり、大騒ぎしたことの結果がこれで、唖然とさせられる。

もちろん、大勢の命が犠牲になった事実は消しがたく、甘く見て準備を怠った中央政府の責任ばかりか、殺到する患者に対処し切れなかった医療の不備による人災死は、汚点としてインド史に残るだろう。

パンデミック(世界的大流行)は一体、いつまで続くのか。あと、いくつの波を超えると、元通りの平和な世界に戻るのか。空恐ろしいことに、アメリカ筋の情報では、終息せずに続く、長期戦で下手すると10年単位との説もあり、終息を信じてインドの隔離に耐えている当方をひどく失望させた。ワクチンによる集団免疫幻想説、60%では無理で、90%説も出ており、ワクチン否定論者も少なくないことを見ると、この数字は不可能に等しい。

その一方で、2022年末終息宣言説(ビル・ゲイツ=William Henry “Bill” Gates Ⅲ)もあり、かすかな望みを繋ぐ昨今だ。ちなみに、パンデミックを予言し、変異株の出現も言い当てた、インドの天才少年占星術師・アビギャ君(Abhigya Anand)は、終息せず、ずっと続くと予言している。

神のみぞ知る、希望を捨てずに、帰国を夢見て、ヨガで免疫強化、目の前の仕事を淡々とこなすのみだ。

 

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モハンティ三智江 モハンティ三智江

作家・エッセイスト、俳人。1987年インド移住、現地男性と結婚後ホテルオープン、文筆業の傍ら宿経営。著書には「お気をつけてよい旅を!」、「車の荒木鬼」、「インド人にはご用心!」、「涅槃ホテル」等。

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