「台湾」を口実にした対米追随の軍備増強は亡国の道

労働新聞

20カ国・地域(G20)首脳会議や東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議、アジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会議など一連の国際会議が2022年11月初めから東南アジアを舞台に繰り広げられた。世界経済の中に占めるこの地域の地位が大きくなり、米欧などの各国もこの地域への関与を強めている。

また東南アジア諸国だけでなく、中国や米国など主要国の首脳が参加する国際会議を機会に、2国間の首脳会談なども活発に行われた。なかでも米中の首脳会談は、直前に中国共産党第20回党大会が開かれ、米国では中間選挙が行われ、アジアをめぐる両国の競争が激しくなっているなかでの首脳会談として注目された。日中国交正常化50周年を迎えるなかで冷え切っている日中関係の今後を見る上で日中の首脳会談も重要だった。

・台湾問題が最大のテーマ

バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は2022年11月14日、インドネシアのバリ島で会談した。対面での米中の首脳会談は3年5カ月ぶり、バイデン氏は政権発足後初の首脳会談となった。会談は3時間に及んだ。

同年8月のペロシ米下院議長の台湾訪問などを契機に米中関係はかつてなく険悪になっている。中国は台湾近海で大規模な軍事演習を行い、米側も8月末に米海軍のミサイル巡洋艦など2隻の台湾海峡通過、9月にもミサイル駆逐艦とカナダ海軍のフリゲート艦を台湾海峡を航行させるなど、挑発を繰り返している。軍当局者の対話をはじめ米中間の協議は停止している。

会談でバイデン氏は、同盟国や友好国と歩調を合わせて、中国と競争することを表明。最大のテーマである台湾問題を巡っては、いかなる一方的な現状変更にも反対すると述べ、中国の行動に異議を唱えた。同時に、偶発的な衝突を回避するための首脳や閣僚級の対話を続けると表明した。

習近平氏は、中米関係の現状は両国の根本的利益にも、国際社会の期待にも合致しない、中米関係は(片方が得をすれば他方が損をする)ゼロサムの関係であるべきではないなどと述べた。台湾問題では中国の核心的利益中の核心で、レッドライン(越えてはならない一線)だと警告した。また米国の対中貿易規制に対して「国際ルールの破壊」だと批判した。

米中ともに軍事衝突を避けるための「対話」の継続を確認したが、台湾問題をめぐる双方の主張は平行線をたどった。両首脳は、協議を継続するためブリンケン国務長官が近く訪中することで合意した。

直前の中間選挙でかろうじて上院での多数を確保したバイデン政権だが、下院では共和党に多数を握られる「ねじれ」状態となった。米国の社会も深刻な対立と分断を抱えているだけに、国内対策から対中政策ではいっそう強硬に出る可能性は強まっている。

覇権維持のためにも中国をなんとしても抑え込まねばならない。そのためにも日本など同盟国に頼らざるを得ない。これは米国の強さではなく、弱さの表れである。

・日中の力関係は逆転

3年ぶりとなる日中首脳の対面会談が2022年11月17日、タイで開かれた。

岸田首相はそれに先立つ 日、ASEANに日中韓や米国、ロシアなどを加えた東アジア首脳会議(EAS)に出席し、「東シナ海で中国による日本の主権を侵害する活動が継続・強化されている」と中国を名指しで批判した。岸田首相は「率直な発言が日中関係の安定のためにも重要だ」とも述べたが、中国への対抗を強く打ち出したものだった。

また岸田首相は同日、米中首脳会談を控えたバイデン大統領と首脳会談を行い、日米同盟の抑止力と対処力の一層の強化を確認、対中国で引き続き緊密に連携することなどを申し合わせ、米中首脳会談や日中首脳会談を前にして強固な日米同盟をアピールした。

11月17日に岸田首相は習近平中国国家主席との対面首脳会談を初めて行った。国交正常化50周年を節目に日本側が積極的に働きかけた会談となったが、会談はわずか45分間というものだった。

対話を通じて双方は「安定的な関係の構築をめざす」ということで一致したが、日本側は台湾有事で意図せぬ衝突を避けるということも狙いだった。これは米中首脳会談で米側が意図したものと同じだった。

習氏は冒頭「両国関係の重要性は変わっておらず、新しい時代に合致した関係をつくりたい」と述べた。

岸田首相は「建設的かつ安定的な関係を双方の努力で構築することが重要だ」と語ったが、東シナ海での中国の軍事活動などに「深刻な懸念」を表明、台湾海峡の平和と安定の重要性も強調した。

習氏は台湾問題について「内政干渉は受け入れない」と反発したが「海洋と領土の問題は意見の相違を適切に管理しなければならない」とも述べた。

会談では外務・防衛当局の高官による日中安保対話の開催や緊急時のホットラインの早期開設を申し合わせた。また閣僚級のハイレベル経済対話の早期再開も確認した。延期されたままの習氏の国賓待遇での来日は議題にならなかった。

わが国経済が停滞し、日中関係の打開を財界も含め国民各層が切望しているなかでの会談は、国交正常化以来最悪といわれている日中関係の現状打開に向けて、一歩前に進んだとは言える。だが、事前に日米間の会談で米側と調整するなど、日本の自主的な動きとはほど遠い動きと言わねばならない。

会談では台湾問題を口実に中国への対抗を強める米国に追随する岸田政権の本質とその限界も透けて見えた。共産党大会を終えて体制を整えた中国側には余裕が見られ、むしろ逆転した日中の力関係の変化が印象付けられた。

・中国敵視政策を転換せよ

米中首脳会談や日中首脳会談などで中国との対話が行われ、表面的には緊張緩和へ向けて動き出しているように見えるが、米中首脳会談に先立つ同年11月5日にも米海軍のミサイル駆逐艦が台湾海峡を航行した。会談前に対立が先鋭化しないよう当時は公表しなかったが、太平洋艦隊司令官は「われわれが台湾海峡通過について弱腰になっていることはない」と強調している。

衝突回避の対話を口にするのとは裏腹に、米軍による挑発行動が繰り返されているのが実際である。

日米の合同軍事演習をはじめ中国と対抗するための多国間の軍事演習も繰り返され、実戦に近い訓練に変わってきている。岸田政権は、中国との「建設的で安定的な関係」構築と言いながら、日米の軍事一体化を柱とした軍事大国化の道を突き進んでいる。

台湾有事を口実にした中国への干渉と挑発にわが国も先頭になって加担している。軍事衝突の危険性はますます高まり、沖縄をはじめ南西諸島や九州本土での戦争準備が着々と進められている。アジア諸国とともに平和と繁栄を望むなら、中国に対する敵対政策を直ちにやめるべきである。

夏の参院選以降、岸田政権の内閣支持率は回復せず、相次ぐ閣僚の辞任などで崖っぷちに立たされている。臨時国会でも右往左往し、野党にも揺さぶられ、足元はふらついている。チャンスである。広範な国民運動で声を大にして岸田政権に対中敵視政策の転換を迫ろう。(H)

(『労働新聞』第1685号(2022年11月25日)からの転載)

 

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