【連載】沖縄の戦場化を断固拒否する(山城博治)

沖縄・再びの戦場化を拒否する運動の構築を

山城博治

②デービッドソン証言の計略
このデービッドソン元司令官証言には、もう一つとんでもない陰謀が秘められています。それはいざ中国と戦火を交える事態が発生したら米国は参戦するどころか、真っ先に沖縄から日本から逃げ出し、自らは太平洋はるか彼方に身を置いて、そこから自衛隊を指揮、具体的な戦闘を担わせる計画であることです。何故か。言い古されたことですが、米国は旧ソ連と1987年に締結した「中距離核戦力全廃条約」(19年失効)のため、射程500~5000㎞の中距離ミサイルを保有していないと言われ、片やその条約の枠外にあった中国が大量の中距離ミサイルを保有(一説に1200発以上)していると言われます。

しかも単に品数を揃えているだけでなく、中国大陸から1000㎞以内の沖縄のみならず4000㎞も離れたグアム島まで直接ピンポイントで攻撃ができ、さらに中国や米国双方が敵艦船阻止ラインと位置付ける第1列島線(九州最南端から琉球弧を通って台湾、フィリピン、東南アジアに至るライン)やその外側の第2列島線(伊豆諸島を起点に、小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニアに至るライン)の範囲にある米国海軍艦船を、たとえそれが航海中のものであれピンポイントで攻撃できる態勢にあるとされます。米国は中国のそのミサイル戦略を「接近阻止・領域拒否(Anti-Access/Area-Denial、A2/AD)戦略」と呼称していることからも、いかにそのミサイル網を恐れているかが窺えます。

米国は世界に冠たる空母打撃群を有事の際に中国に近づけることができない。そうであれば嘉手納や岩国の米空軍・航空隊基地に駐在する航空機戦力を動員しようにも、そのように航空兵力を稼働させればそれら航空基地もすべてミサイル攻撃の餌食にされてしまう、それが実情のようです。

そこでこのデービッドソン司令官が打ち出した大芝居が「中国の6年以内の台湾侵攻」です。中国や台湾双方が「侵攻」や「独立」の意図がないと再三にわたって表明しているのに、なぜ米国がありもしない脅威を煽り立てるのか。それは同司令官証言が米上院軍事委員会で行われたことからも推察されるように、新たに大掛かりな軍事戦略の立ち上げとそれに伴う予算獲得が目的だったことは明白で、当の米国の識者からも指摘されるとおりです。

インド太平洋軍は2022会計年度(21年10月~22年9月)で、前年度予算の21億ドルから一挙に倍額の45億ドルを予算要求しただけでなく、向こう6年間(2022~2027会計年度)で270億ドル、日本円換算で2兆9000億円の予算を獲得したと報じられています。その膨大な予算の大半は中国のミサイル網に対抗するために、立ち遅れた米軍の対中国ミサイルの開発・配備に向けられます。昨年10月3日に「新中距離弾道配備・米計画2年内にも」(琉球新報)と報道された計画はそのことを指します。

その配備先は言うまでもなく「南西」諸島40島です。しかもその実質的な運用は自衛隊がやることになっています。米軍の発表では、ごく限られた少数の兵員で島々間を移動しながら攻撃を繰り返し、反撃を回避するため島々に滞在することはせず、ミサイル発射に必要な弾薬搬送、ミサイル発射車両の配置・移動・隠匿・燃料補給などの後方支援はすべて自衛隊が担うことになっています。米軍はこの戦闘方法を「遠征前方基地作戦」(EABO)と呼ぶようですが、島々に張り付いて戦う自衛隊員はそれこそ中国の高性能ミサイルの餌食にされます。しかも逃げ場を失う住民は逃げ隠れする場所もなく戦場をさまようことになります(21年12月24日共同通信配信)。

「中国脅威」を煽り、これまで軍事基地がなかった「南西」諸島の島々に自衛隊基地・ミサイル配備基地を建設させ、そこを「共同使用」と称して、開発を進めるミサイルを配備し攻撃拠点とする米国の恐るべき対中国ミサイル戦略(同上共同通信配信)。しかもいざ「有事」が起きたら、米軍の本隊は沖縄から日本全土から逃げ出し、太平洋はるか彼方から自衛隊を指揮して戦争を継続する作戦と言われます。当然のことですが攻撃ミサイルが発射されたらその時点で反撃は避けられないでしょう。「先島」の島々のみならず沖縄本島のあらゆる米軍基地、自衛隊基地は総攻撃を食らって壊滅するでしょう。住民の犠牲は底知れないものとなるでしょう。

さらに驚愕することは、この米軍の対中国ミサイル網は上述したように6年後に完成する計画になっています。2027年度会計(26年10月~27年9月)のことです。これから判ることは、同司令官が証言する「中国が6年以内に台湾に侵攻する」事態とは、実は米軍が劣勢に置かれているミサイル開発とその配備が完了する時と言うことになり、対中国戦争を起こすことが可能となる時だと言うことです。デービッドソン証言の「6年以内」の本当の意味は、米国の対中国ミサイル網が完成し、中国のA2/AD戦略に対抗する戦略が完成する時です。すなわち27年秋以降、局面は一段と緊迫し「台湾有事」勃発の可能性が高くなる時と警戒しなくてはなりません。

知れば知るほど沖縄・「南西」諸島全域いや日本列島全体を対中国戦争の盾に仕立てようとする米軍戦略に腹が立ちます。さらに米国の計略を当然に知っているはずの日本政府・自衛隊当局者が何ら異を挟むことなくその陰謀にくみしていくことこそ、まさに「亡国の安保・防衛論」と批判・弾劾されかねません。米国からの自立を。さもなければ骨の髄までしゃぶられるだけでなく破滅をもたらす戦争に巻き込まれます。止めていかなくてはなりません。

 

1 2 3 4
山城博治 山城博治

1952年具志川市(現うるま市)生まれ。2004年沖縄平和運動センター事務局長就任。その後同議長、昨年9月から顧問となり現在にいたる。今年1月に設立された「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」共同代表就任。沖縄を「南西」諸島を戦場にさせないために全県全国を駆けまわって、政府の無謀を止めるため訴えを続けている。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ