第6回 あとがき(完)
政治末尾になって恐縮だが、南十字星が輝くニュージーランドから、「序文」を書いて送って下さった、中世の宗教史を専門にする、オタゴ大学の将基面博士に、厚い感謝の言葉を書いて置きたい。「Ockham’s razor(オッカムの剃刀)」で知られたWilliam of Ockhcum (1285-1347)は、スコラ神学で知られたフランシスコ会の哲人で、「余計なことは言わないで、無精髭のような雑物は見苦しいから、総て剃り落としてしまえ」と言ったことで有名だ。
将基面さんはこの人の思想を研究し、英国で博士号を取った碩学で、こんな誰もやらないような学問に挑み、世界を舞台に活躍する点では、日本における変わり種である。宗教問題が専門だから、彼ならば私の偏見に対して、批判して貰えると考えたので、一家言あると思ったのに、カルトは無精髭だと考えたらしく、髭には全く触れていない。
それ以上に驚いたのは、杉山茂丸の『俗戦国史』や三浦梅園の『玄語』について、言及していた教養の深さに対し、「thaumazein」というギリシア語で、精神的な高揚を表すしかない。私はモンテーニュの『随想録』と堀田善衛の『ミッシェルの館』が好きで、プルタコスの『英雄伝』はモンテーニュを通じて学び、ギリシア哲学の要諦について、『西洋思想史辞典』のお世話になった。
著者の松浪信三郎先生は、フランス語とギリシア語に堪能で、キリシア語が全くダメな私は、松浪先生経由でギリシア精神を学び、辛うじてギリシア思想に近づき、馬齢を重ねて現在に至っている。それに対して将基面博士は、ギリシア語もラテン語もこなし、西洋思想の根幹に迫っているが、杉山茂丸や三浦梅園の名が、序文に登場したので驚愕し、私は思わず息を詰めた。
実は杉山の『俗戦国策』は、80歳になってやっと読破し、100年近くも昔の本の中に、今の日本のことが書いてあり、感動して『Unmasking the Zombie』の最後の頁を使い、私はそれを次のように引用した。
『・・・日本は日本人が潰すのである。…決して外国人が潰すのではないと、今や上下官民、私利私功にふけり、非利を掴んで利益と心得、非功をなして名誉と思い、やがては手を翻すの間もなく、惨敗醜辱の虜になり、るいせつに次ぐ桎梏を以てし、ついには一身の置きどころのないような者が、頻々として現出して来るのは、もとより利の利たるを知らず、功の功たるを解せざる、痴漢の行為に相違ないのである。・・・』
これはまさに今の日本で、世襲議員が過半数を占め、無知蒙昧をさらけ出して、大臣が汚職で次々と辞任し、国会は売国奴の巣窟になり、毛虫の正体は蛆虫であった。だが、一度どん底に落ち地獄を味わい、そこから再生する時に、蛆虫は押し流されて一掃され、蝶の代わりに蛍が飛べば、自主独立の邦国連合の形で、日本は平和共存をする国として蘇る。
杉山茂丸の名を知る人は日本人に少なく、三浦梅園を知る人はほとんどいないが、ユーロ通貨を発行に三浦梅園の思想が影響したから、ヨーロッパには研究者がいる。そんな話を耳にしたので、それを『Yanagimushi Conspiracy』に対談の形で収録したが、相手は皇室に関係する人だから、相手の名前はTとして伏せ、参考までに引用して見る。
「T: 1921年(大正10) 3月3日に皇太子が初渡欧の旅に出て、帰国後の11月25日に摂政の宮になり、これで宮廷外交の基礎が出来上がったわけです。戦後になってこのルートが宮廷外交の基盤になり、欧州の王室との間で、EUの母体に相当しているユーロの発足に関係して、20世紀に大影響を与えた。
藤原 : 皇室がユーロと関わり、皇室外交の背後には通貨が関係していて、それを誰も知らないとは、実に興味深い謎ですね。
T : そこに誰も知らない国体と政体の秘密がある。ユーロが出来た陰に日本の皇太子の友人でベルギーの皇太子がいて、それを豊後の三浦梅園が結んでいるというのは、実に興味深い縁ですよ。
藤原 : 三浦梅園と皇太子ですか。
T : ユーロの発行の思想に三浦梅園の経済観が反映していまして、国民国家の通貨は不足し有効量が足りないので、社会の生命力までが衰え、人々の幸せが損なわれています。浩宮の家庭教師のKは三浦梅園が出た國東市で、研究生活をしており、1952(S27)年生まれだが若く優秀な人材でして、真の意味での国師です。だから、欧州の統合通貨を発行し、米ドルの横暴と共に急激な没落を防いで、自由社会を護ることが何にも増して重要だから、ヨーロッパを統一したのです。
藤原 : 独自通貨としての試験にユーロを出したのですか。
T : 1932年に発行された小規模な自由通貨は、オーストリアの山村で絶大な威力を発揮したが、これはスタンプに似た新種の地域通貨でした。この成功は信用を確立し住民の支持を得たので、本格的なものを出す前につなぎの通貨の役割を与え、テストをする目的としてユーロを出して見ました。
藤原 : それはゲゼルの思想による地域通貨として出した、時間によって目減りする、時間の消却に見合った生きた通貨システムですね。溜めるのではなく流通し血液のように働くことで、経済を活性化させて投機や溜め込みを防ぐ、本来的な通貨ですね。
T : 真の通貨と言えるかは今のところ未知数ですが、発想としては面白い。
藤原 : R,グーデンホフ伯爵はパンヨーロッパ主義を掲げ、青山光子の息子のリヒヤルトが推進した思想にも結ぶ、ハプスブルグの構想ですね。
T : そう考えても良いでしょう。要するに、英米型の投機経済でなく、健全な経済圏を支えるために必要な通貨であるし、社会民主的な通貨です。今の日本においては、「さわやか福祉財団」が中心になって推進し、慶応の石川塾長をトップに据え、日本の経済界も巻き込み、なんとかチップを出してやろうとしているのです。
藤原 : それはミヒャエル・エンデが、『エンデの遺言』に書いた、新しい地域通貨のことですね。
T : 中央銀行の法定通貨は一部の金融資本家により、恣意的に利用されるので、庶民の生活向上のために使われることは少なく、環境やモラルを損なうだけです。政体を支配しているので、政治家や役人によって人民の富は収奪されているし、それに法定通貨が使われ、金融資本家だけが潤い民が貧しくなっているのです。
藤原 : シルビオ・ゲゼルの思想は社会秩序と結びついた、自由貨幣を使うことで、共産主義や資本主義が持つ悪魔性を克服できると思い、交換と言う古くても貴重な経済システムを考え出した。・・・」
この対話に刺激されて、三浦梅園を調査した時に、大分を訪ねたベルギー人がおり、Lietaer教授と分かったので、彼の『Das Geld der Zukunft』を読み、思想的な背景を考察した。Bernard Lietaerは通貨問題の権威で、ルーベン大学で国際金融を教え、ベルギー中央銀行でECU通貨の設計責任者だし、電子決済システム総裁をやり、トレーダには世界的に知られた人だ。
こんな人物が強い関心を持つ、三浦梅園の思想を結集した、『玄語』に描かれた興味深い図は、多くのメッセージを伝えて、それを読み取るためには、優れた直観力が必要だ。
高度に抽象化された三浦梅園の思想は、21世紀の経済活動にとって、極めて重要な示唆を提供しており、その理解は人類の未来に対し、決定的な意味を持っている。その理解は次の世代の仕事で、ブロックチェーンやロングテールが、新時代を作るネットワークとして、地平の彼方に姿を現しており、所有や蓄積よりも与え合う、互酬的な世界網が広がって行く。
この問題についての考察は、1987年の『LEADERS』誌のVol.10のNo.3に、「Exergy–A New Monetary Standard」の題名で、論考として公開したから、ここでは繰り返さないでおく。これは米国の雑誌だが、図書館や書店にはなくて、むこうが勝手に読者を選び、三万人だけに送ってくるし、執筆を依頼する奇妙な組織で、革命的な提言が欲しいと言われ、寄稿したら最初はボツだった。
そこで礼儀知らずだと抗議したら、次号に圧縮の形で掲載されたが、初稿が革命的に過ぎたのが原因らしく、”Letters to the Editor”欄に、手紙を出している顔ぶれには、次のような名前があり成程と思った。
Chief of the Household of His Majesty the King of Spain, Special Assistant of the Honorable B. Mulroney, Prime Minister of Canada, Khalifa Bin Salman al-Khalifa, Prime Minister, State of Bahrain, Jaime L. Cardinal Sin, Archbishop of Manila, etc.
私は通貨の問題を論じて、問題点を指摘したのだが、「王様が裸だ」と言った子供と同じで、タブーに触れていたらしく 、3年後には雑誌は届かず、3万人から除外されたようだ。私の提案は35年も昔であり、その頃は投機経済が盛んで、詐欺商売も目立ったが,未だ資本主義は狂い切らずに、インフレが目立っただけだが、「王様は裸だ」は禁句らしかった。
投機に使う通貨の氾濫は、世界経済の健康を損ない、変革の徹底変革が必要だのに、グローバリストの逆鱗に触れ、危険人物と思われたらしく、私は追放されたということだ。だが、これは新時代の帝網であり、その基本構造はフラクタルだし、地球の水の循環や体液の流れが、全貌を描き上げているが、紐宇宙の構成要素として、ヒボナッチ数列が躍動している。
それが分かったのだから、あのツァラトゥストラのように、「・・・これは私の朝だ。私の昼が始まろうとしている。さあ来い。来い。大いなる正午よ !!!。・・・」と、自らに向けて私は檄の声を飛ばしたい。真昼の天空に輝く星を見上げ、アルプスの山巓に挑んだ、若き日のアルピニスト時代を思い、ヒマラヤの方角を見つめながら、私はゆっくりペンを置くことにする。
長らくお付き合いして頂いたが、幹に相当する大枠は論じたから、もはやこれ以上書く必要はなく、枝葉に関わる細事については、若い記者の仕事に期待して、私は「真昼の星」を見る生活に戻.りたい。それではご機嫌ようということで、これから毛虫が蝶に変態する、生みの苦しみを通じて、大空に雄飛する試練に挑む、より若い世代に向け声援を送りたい。
(藤原肇著『安倍晋三の射殺と三代の腐れ縁』のあとがきより転載 )
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フリーランス・ジャーナリスト。『皇室の秘密を食い荒らしたゾンビ政体』『日本に巣食う疫病神たちの正体』など著書多数。海外を舞台に活躍する。