【連載】インタヴュー:時代を紡ぐ人々(前田朗)

第10回 原発事故の責任解明を求めて走り続ける―福島原発刑事訴訟支援団事務局長・地脇美和さんへのインタヴュー―

前田朗

・国策という命の軽視

――国の姿勢をどう見ていますか。

地脇――本当に呆れることばかりです。国策で推進してきた原発が事故を起こしたにもかかわらず、責任を認めない、調査をしない、調査を拒否する、事故の被害と放射能影響について過小評価する。嘘をつく。当事者抜きに、加害者が勝手に施策を決め、従えと強権的に迫ってくる。

何回、交渉、要請をしても当事者の意見を無視する。被害者への賠償は極力支払わずに済ませようと、巨額の税金を湯水のように使い、電通などを通して、世論を誘導し、自分たちに責任や非難が向かないように被害者を様々に分断してきました。被害者同士が傷つけ合う方向に向かわせ、声を上げる力、団結する力を奪っている。国って何なのかと、いつも考え込んでしまいます。

国連特別報告者の勧告や自由権規約委員会の勧告に対して、国連の場で「きちんと対応しています」と堂々と嘘をついてばかりです。全く改善しない態度は、国際法から見たらあり得ないことです。憲法も国際法も法律も人権もないがしろにされています。自分のこととして声を上げなければ、状況は変えられません。

――裁判所も、たまに良い判決が出ますが、住民や被害者の方を向かずに、国や企業に忖度する判決が多いですね。

地脇――福島原発事故前より、原発差し止め裁判の勝利判決が少し増えました。大飯原発差し止め訴訟の樋口判決、東電株主代表訴訟の判決も前進です。原発事故被害者の損害賠償裁判で、国の責任を認める判決が出ています。

「司法は生きていた」と思える判決もありますが、「裁判官は、被害の過酷さに真摯に向き合わず、国策に従い、原子力行政に忖度している」と思うことの方が、まだ多いです。福島原発事故の責任は裁判所にもあると思います。

――原発裁判を共に闘う全国の皆さんとのネットワークが形成されました。

 

地脇――ネットワークができ、裁判の証拠の情報交換や共有、弁論活動の経験交流や原告同士の交流、相互に傍聴の応援などが行われています。助け合い、支え合い、ともに勝利しようという雰囲気です。

・闘って得られた経験

――原発裁判に多く関わってこられて、一番、忘れられないことは。

 

地脇――忘れられないことは山のようにあります。悔しくて、悔しくて泣いたこともあれば、嬉しくてみんなで喜び合ったこともあります。大飯原発差止め訴訟の福井地裁判決(樋口英明裁判長)を、東京からの帰りの飛行機で読んだ時は大泣きしてしまいました。特にここです。

「当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている。

このコストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や喪失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている。

また、被告は、原子力発電所の稼動がCO2排出削減に資するもので環境面で優れている旨主張するが、原子力発電所でひとたび深刻事故が起こった場合の環境汚染はすさまじいものであって、福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害、環境汚染であることに照らすと、環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである」(樋口判決)。

判決というものは難しくて、無味乾燥なものと思っていたのに、人を感動させる力を持っていることにも驚きました。原告でしたが、一審は傍聴する機会がなく、控訴審で意見陳述したので、法廷で樋口裁判長には、会えませんでした。

2022年、東電株主代表訴訟の東京地裁判決を聞いた時もみんな沸き返りました。ほぼ同じ証拠に基づいて、刑事裁判は全員無罪判決でしたが、株主代表訴訟では原告勝利判決が出された。忖度なく、素直に考えたら、こうなるのが当然だと思うのですが、今の司法の現状では奇跡だと思ってしまいます。

――奇跡を手繰り寄せる運動を見事に構築した。

地脇――本当にみんな必死ですし、懸命に頑張っています。被害者・被災者だけでなく、支援の方たちも弁護士さんも、自分の問題として大変な努力を続けてきました。

――脱原発運動は、一方で足元の暮らしを見つめ直す運動であり、他方で国家のエネルギー政策という大きな話にもなります。さらに国際的な人権問題にも発展しています。多様な運動に取り組んできたことは、地脇さんの人生にとってどういう意味を持ったでしょうか。

地脇――この12年はめまぐるしく、怒濤の日々で、倍の長さを生きたように感じます。出会うことがなかっただろう様々な方々との貴重な出会いがたくさんありました。

細い糸ですが、みんなで、歴史の布を織っているように感じています。

・岸田政権の方針転換

――岸田文雄首相は政府の方針を大転換して、原発推進政策を打ち出しました。どのように受け止めましたか。

地脇――ありえないことです。福島原発事故の反省も教訓もなく、相変わらず「今だけ、金だけ、自分だけ」です。

核燃料サイクルや新型炉など、完成する見込みのない事業に際限なく税金を投入し、ごく一部の企業や人だけ利益を得られれば、人権侵害や命をおびやかす環境破壊をなんとも思わないシステムの維持に汲々とするあさましさを感じます。

――2023年も脱原発の運動が続きます。地脇さんの当面の課題を教えてください。

地脇――福島原発事故の被害は多岐にわたり、不可視化され、人権侵害が続いています。原発事故の責任追及と新たな被害を発生させないため汚染水の海洋放出を止めることが必要です。311子ども甲状腺がん裁判を大人の責任として、しっかり支援を続けます。

昨年、国連特別報告者の「暫定報告書」が出されましたので、学んだ国際人権法も活用しつつ、モグラたたきのように次々と現れる課題に、諦めずに取り組んでいきたいです。

 

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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