【連載】鑑定漂流ーDNA型鑑定独占は冤罪の罠ー(梶山天)

第13回 録音テープで学ぶ無実の人の「無知の暴露」

梶山天

足利事件で公になった菅家利和さんの取り調べの様子が録音されたカセットテープの内容を前回から活字で紹介している。足利事件の12年ほど前(1979年)に起きた福島万弥ちゃん殺害を自供させられた直後の取り調べの様子だが、自供させられる彼の口調には、犯人ではない、と思わせる言葉が所々に出てくる。

Old reel to reel tape-recorder. 3D rendering.

 

万弥ちゃんを連れ出したのはどこなのだ、と取調官から聞かれると、彼は「神社ですか。」というふうに、「……ですか」と取調官に問いかけて答えを引き出しているのだ。菅家さんは事件の概要をまったく知らないからである。

菅家さんは2010年3月の再審で無罪判決を言い渡された。ではなぜ、当初容疑を認めてしまったのか。実は任意同行から、殺害を自供させられた取り調べの時も全て取調官が栃木県警本部機動捜査隊の芳村武夫警視と同本部捜査第1課の橋本文夫警部(録音担当は同捜査一課の茂串清警部補)だった。なかでも橋本警部の暴行には任意同行の時から震え上がっていたのだ。

前回の録音は、菅家さんが福島万弥ちゃんに話しかけて、自転車に乗せて神社に入ったところまでを紹介した。今回はその続きを見てみよう。

橋本:「うん。神社に入ったと。自転車で。それで」。
菅家:「それで、あのー……自転車を端置きまして」。
橋本:「うん。自転車を端に置いたと」。
菅家「神社の……中ですか、中に入って行きまして…で……神社の裏ですか」。
橋本:「神社の裏。うん」。
菅家:「裏へ、行きました」。
橋本:「神社の裏って何があるんだい」。
菅家:「うーん、あの裏は木だとかそういう」。
橋本:「神社。の裏に木が生えてんか。そんで、木が生えているところで何かしたの」。
菅家:「そこで、なんていうんですか、いたずら……」。
(中略)
橋本:「抱くような格好したっつんかい、いたずらっつうのは」。
菅家:「はい」。
(中略)
橋本:「うん、で、それからどうしたの」。
菅家:「それで……声をちょっと、あのー、あのー、上げるっていいますか」。
橋本:「うん。声を出したんか。いたずらしたら。真実ちゃん、んー万弥ちゃんが」。
菅家:「はい」。
(中略)

菅家:「あの、危ない……危ないと思いまして」。
芳村:「危ないっちゅうのは」。
菅家:「あの……聞こえるっていいますか」。
橋本:「誰かに見付かるっつうのか。声出したっつうことか」。
菅家:「はい」。
(中略)
橋本:「うん。それで」。
菅家:「自分で………あの……あの、首ですか……」。
(中略)

橋本:「首をどうした」。
菅家:「し、しめ、絞めたってうんですか」。
橋本:「どんな風に絞める。絞めるっていうのは」。
菅家:「やはり、あの、こういう風な……感じですか」。
橋本「それは、こないだの、話聞いたんべな。あの、真実ちゃんで」。
菅家:「はい」。
橋本:「あれとおんなじような事をやったの」。
菅家:「はい。そうです」。
(中略)

橋本:「見付かっちゃ大変だと思って、あの、首を絞めちって、やっちったっつんか」。
菅家:「はい」。

橋本:「その頃は、ほら、明るいんかこら。その時間は」。
菅家:「その時間も……暗かったと思うんですけど」。
橋本:「この頃は暗かったの。それで、それでその後どうしたっつんだい。ここへ、んだから一端横にしたっつんでしょ死んじゃった真実ちゃんを。……んでそ、真実ちゃんじゃねえ、万弥ちゃんよ。それから」。
(中略)
橋本:「ここで何かしたの。真実、あのー万弥ちゃんに。いたずらか何かを。しねえんか」。
菅家:「そん時、自分は……いたずら……」。
橋本:「こうにして首やった」。
芳村:「死んだ後さ」。
橋本:「死んだ後、ここでは」。
(中略)
菅家:「あのー……ちょっと、何ていうんですか、舐めたっていうんですか」。
橋本:「何処なんだ、何処らへん」。
菅家:「やっぱり、あのー、頬といいます、頬……」。
橋本:「頬、ほっぺたか」。
菅家:「はい」。
(中略)

 

1 2
梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ