【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第3回 きょう世界は変わった!!帝国アメリカの「終わりの始まり」か

寺島隆吉

ここで、「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」という用語が出てきますが、それを『櫻井ジャーナル』は次のように説明しています。少し長くなりますが、非常に重要な概念なのでお許しください。

 

アメリカの支配層は1991年12月のソ連消滅によって自国が唯一の超大国になり、世界の覇権を手中に収める寸前だと信じた。そして新しい新秩序を確立するため、1992年2月にネオコン(新保守主義派)は国防総省のDPG草案(Defense Planning Guidance)という形で「世界制覇プラン」を作成している。

当時のアメリカ大統領はジョージ・H・W・ブッシュ、国防長官がディック・チェイニー、国防次官がポール・ウォルフォウィッツ。

リチャード・ニクソンがウォーターゲート事件で失脚した後、副大統領から昇格したジェラルド・フォード大統領の下でこの3名は重要なポストに就いている。

このニクソン政権ではデタント派(厭戦派)が粛清され、ブッシュはCIA長官へ、チェイニーは大統領首席補佐官へそれぞれ就任。

ウォルフォウィッツは、ブッシュCIA長官が指導するCIA内の反ソ連プロパガンダ集団チームBのメンバーに選ばれた。ジミー・カーター政権では国防副次官補だった。

DPG草案はウォルフォウィッツを中心に書き上げられたことから「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれる。このドクトリンに基づいてネオコン系シンクタンクのPNACが2000年に「アメリカ国防の再構築」という報告書を出した。

この年におこなわれた大統領選挙で大統領に選ばれたジョージ・W・ブッシュはこの報告書に基づいて国際問題に関する政策を決めた。

(中略)

ウォルフォウィッツ・ドクトリンの第1の目的は「新たなライバルの出現を阻止すること」。「敵対勢力が資源を支配することも防がなければならない」としている。

ウェズリー・クラーク元欧州連合軍(現在のNATO作戦連合軍)最高司令官によると、このドクトリンが作成される直前、ウォルフォウィッツは「イラク、シリア、イランを殲滅する」と語っていた。

https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201902030000/ (櫻井ジャーナル2019.02.03)。

 

要するに、「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」は、アメリカによる世界制覇を実現するために、その前に立ちはだかる邪魔者はすべて叩
潰し、世界の資源を独占するという原則でした。

そして、その後の政策は、このシナリオのとおりに動いていることが分かります。大統領が民主党であろうが共和党であろうが、この政策は基本的に変わっていません。

つまり、ウォルフォウィッツは「イラク、シリア、イランを殲滅する」と語っていたそうですが、すべて、この通りの方向で進行しているのです。

しかし残念ながら、シリアやイランの殲滅はロシアの登場で成功しませんでした。だとすれば、次の目標は、世界制覇の妨害者であるロシアを潰つぶさねばなりません。

そのためには旧ソ連圏の国々をNATOに加盟させ、そこに米軍基地を作り、ウクライナをロシアへの進撃基地として確保しなければなりません。

というわけで、ウクライナにクーデター政権を打ち立てなければならなくなったわけでした。

話が少し横に逸れたので、もう一度、ドイツの週刊誌『シュピーゲル』によって暴露された事実と、欧州安全保障協力機構(OSCE)元副総裁ウィリー・ウィマー氏のRTインタビューに戻ります。

先述の記事(2)は、「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」およびNATO拡大について、ウィマー氏が次のように語ったことを、紹介しています。

 

この「ドクトリン」は、実は1994年から1999年の国防計画指針で、当時ニューヨークタイムズにリークされ、米国内でも批判が巻き起こった。

その内容は、潜在的な脅威の出現を抑え、超大国になるための単独行動主義、先制的な軍事行動の方針を示したものであった。

それ以来、アメリカとその同盟国は「間違った方向」に進んでいると、ウィマー氏は指摘している。なぜなら、西側諸国が「ロシアをヨーロッパから追い出し、バルト海と黒海の間に新たな壁を築く」ことを目指して、事実上あらゆることをしてきたのだから。

これは、NATO諸国はロシアと協力するのではなく「破壊」しようとしているという、かなり「正当」な印象を、最終的にはモスクワに与えることになった。

ウィマー氏によれば、現在のヨーロッパの安全保障問題の根源は、アメリカがロシアと敵対し続ける政策にあるという。

我々が対処しているすべての不幸が、「この20年、あるいは30年近く、アメリカがロシアをヨーロッパから追い出すことを目的とした政策を行ってきたことから、始まったのだ」と彼は言った。

アメリカがNATOや二国間協定を通じて「この目標を達成するためにあらゆることを行う」限り、欧州の安全保障問題はほとんど解決できない、とウィマー氏は警告し、アメリカこそが根本的にやり方を変えるべきだと付け加えた。

過去を振り返ると、事態はアメリカの描いたとおりの軌跡を歩んできました。たとえばNATOは、1999年3月、ポーランド、ハンガリー、チェコを加盟させました。

これは、国連安保理の許可なくユーゴスラビアにたいする空爆を開始する直前でした。これによって、NATOは初めてロシア国境の国々に直接、足を踏み入れることになりました。

さらにNATOは、2004年には、旧ソ連邦のエストニア、ラトビア、リトアニアにも拡大し、サンクトペテルブルクからわずか135キロのところにNATOの東部防衛線が置かれることになったのです。

 

ロシアが「一体どこまで侵入する気だ⁉」と危機感を募らせる理由が、これでよく分かるのではないでしょうか。

かつて、キューバにソ連のミサイル基地が置かれるようになっただけでアメリカは恐怖に襲われ、いわゆる「キューバ危機」が叫ばれて、核戦争や世界大戦の恐れすら語られるほどでした。

ところが自分たちがロシアと国境を接する東欧諸国、とりわけロシアの海軍基地があるウクライナにすら親米政権やミサイル基地を作り、そこに武器や特殊部隊を送り込んでも、一向に平気なのです。

これほど傲慢な国がどこにあるでしょうか。これが自称「神に許された国」の振る舞いかたなのです。

(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体1—アメリカとの情報戦に打ち克つために—』の第2章から転載)

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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