【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第5回 1991年の約束を踏みにじって東に拡大する一方のNATO

寺島隆吉

前回のブログでは、「1991年の約束を踏みにじって、東に拡大する一方のNATO」と題して、次頁の〈画像資料〉を紹介しました。

しかし、「画像の説明が英語でしかなされていないので非常に分かりにくい」との苦情が届きました。

そこで改めて画像の説明を付け加えながら、ネットで署名を呼びかけたSさんの「善意に基づく誤解」を解く努力もしてみたいと思います。

というわけで、前章の冒頭に掲げた地図を、改めてこの章で再掲します。

この地図はStrategic Culture Foundation というサイトに載せられている映像資料コーナーStrategic Infographics で見つけた、次頁のものです。

* Why Russia Wanted Security Guarantees From the West(なぜロシアは西側からの安全保障を求めたのか)

Why Russia Wanted Security Guarantees From the West — Strategic Culture (strategic-culture.org)
Strategic Infographics、February 27, 2022

 

このコーナーには他にもいろいろ有益な画像資料が載せられていて驚喜しました。前章の末尾に載せた「ウクライナ『ドンバス2カ国』の現状」という地図も、同じコーナーに載せられていたものです。

それはともかく、前述のように、この地図の最初に、Why Russia Wanted Security Guarantees From the West(なぜロシアは西側に安全保障を求めたか)という題名があり、その下に次のような説明がついていました。

Despite promises made to Gorbachev at the end of the Cold War, NATO has incorporated almost all of former Soviet allies establishing its military facilities along Russia’s border.

NATO forces have encircled the Russian enclave of Kaliningrad, home to Russia’s only ice-free port on the Baltic Sea,in addition, the West has instigated “color revolutions” in the former Soviet republics targeting Russia-friendly regimes. Still, the West refuses to recognize Russia’s security concerns as legitimate.

これを和訳すると、およそ次のようなものになります。

冷戦終結時のゴルバチョフとの約束にもかかわらず、NATOは旧ソ連のほぼすべての同盟国を取り込んで、ロシアとの国境沿いに幾つもの軍事施設を設置した。

NATO軍は、バルト海に面したロシアの飛び地カリーニングラードを包囲している。ここはロシア唯一の不凍港である。

さらに、旧ソ連諸国では、ロシアに友好的な国々の政権転覆をねらった幾つものクーデター、いわゆる「カラー革命」を起こしている。それでも西側諸国は、ロシアの安全保障上の懸念を正当なものとして認めようとしない。

この冒頭に「冷戦終結時のゴルバチョフとの約束にもかかわらず」とあります。

しかし、アメリカを初めとするNATO諸国は、「そのような約束はしていない」と言い張っています。しかし実際そのような約束があったことが最近、暴露されました。それを私は第2章で次のように紹介しました。

ソ連が崩壊する直前、モスクワが東ドイツと西ドイツの統一に合意したとき、アメリカを初めとする欧米勢力は「NATOをこれ以上、東に拡大しない」ことを約束しました。

それを反故にし続けていることが、今日のウクライナの悲劇を生み出す遠因になっています。

もちろんアメリカやEUは、そんな約束はなかったと否定し続けていますが、最近その約束があったことを暴露する事実を2つ見つけました。それは以下の2つです。

(1)West promised not to expand NATO Der -Spiegel(西側はNATOを拡大しないことを約束した— ドイツ『シュピーゲル』).

(2)NATO did promise Moscow it wouldn’t expand, former German defense official tells RT(「NATOは拡大しない」とモスクワに約束した、と元ドイツ国防省高官がRTで語った).

そもそもNATO(北大西洋条約機構)は、冷戦時代に、旧ソ連を仮想敵国とする軍事同盟でした。ですからソ連が崩壊した後は、設立目的が消えたのですから、解体されるべきものでした。

実際、トランプ氏が大統領に立候補したときは「使命を終えたNATOは金喰らい虫だから解体すべきだ」と言っていたくらいです。ところがトランプ氏は大統領になっても公約であったNATOもCIAも解体できないまま大統領の座を去りました。

アメリカを裏で支配する勢力(いわゆる「Deep State」)の力が、それほど強かったということでしょう。

こうしてNATOはいまだに存在しているどころか、いわゆる「共産主義国家」と言われるソ連が解体してロシアという資本主義国家が誕生したにもかかわらず、それを封じ込めて自分の言う通りに行動する従属国家を作り上げるために、ロシア包囲網を着実に狭め強化しようとしているわけです。

先の枠で囲んだ「地図の説明」の次の段落では、「NATO軍は、バルト海に面したロシアの飛び地カリーニングラードを包囲している。ここはロシア唯一の不凍港である」と書かれていました。

この「カリーニングラード」( 旧名「ケーニヒスベルク」)は、ヒトラーが指導するナチスドイツの大軍を、ソ連軍が1,450万人もの戦死者を出しながら撃退した後、ソ連邦への帰属が決定されたものです(日本の北方領土と同じで、ドイツの戦後処理が話し合われたポツダム会談において決められたものです)。

ところが冷戦終結後に、リトアニアがソ連から独立した結果、カリーニングラード州はソ連・ロシア連邦の飛び地となってしまいました。

ただし、旧名「ケーニヒスベルク」が「カリーニングラード」に変更されたのには理由がありました。

つまり、1946年7月4日、ソ連領となった「ケーニヒスベルク」は、1カ月前に死去した先のソビエト連邦最高会議幹部会議長ミハイル・カリーニンにちなんで「カリーニングラード市」、区域全体は「カリーニングラード州」と、ロシア語名に改称されたのです。

ここは「ロシア唯一の不凍港」なのですから、ここを包囲されるとロシア海軍は身動きならなくなります。

このような事情を考えると、NATOが東に拡大し、「カリーニングラード州」がNATOの軍事基地で包囲されることになれば、ロシアが感じることになるであろう軍事的脅威は、容易に理解できるのではないでしょうか。

その証拠に、51頁に掲げた地図では、北欧の国ノルウェーの上方に枠で囲んだ英文の説明があり、そこから折れ線が下にまで伸びていて、その下端がロシアの飛び地である「カリーニングラード」につながっています。そして、その枠の中には次のような英文の説明があります。

NATO planners see the tiny Russian exclave of Kaliningrad as a threat to the alliance’s eastern members.

In 2019, a top U.S. commander said the Pentagon has a plan for destroying the defences of Kaliningrad with a non-nuclear missile strike that would match the profile of a nuclear one.

この和訳は、およそ次のようになるでしょう。

NATOの設立者たちは、ロシアの小さな領土である飛び地カリーニングラードを、NATOの東側メンバーに対する脅威と見なしている。

米軍最高司令官は2019年、国防総省がカリーニングラードの防衛基地を非核ミサイル攻撃で破壊する計画を持っていると述べた。その基地が核ミサイルを装備していると認められれば。

しかし、カリーニングラードを包囲されて脅威を感じるのはロシアであってNATOではありません。つまりNATOは「白を黒と言いくるめ」ようとしているわけです。

その証拠に、この地図でAとB地域がNATO加盟国ですが、Aの国は古くからのNATO諸国で、Bの国はソ連崩壊後にNATOに加盟した新しいNATO諸国です。しかも、この旧ソ連圏の国々にさまざまな軍事施設が配備されているのです。

つまりカリーニングラードどころか、ロシアそのものが、さまざまな軍事施設を持つNATO諸国に包囲されているのです。これで脅威を感じない方が不思議でしょう。

アメリカはキューバにミサイル基地ができただけでパニックに陥り、あわや核戦争になるかという瀬戸際まで精神的に追い詰められたというのに、ロシアをどれだけの軍事基地やミサイル基地で包囲しても平気なのです。

何度も繰りかえすことになりますが、これが自称「神に許された国」の精神構造なのです。

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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