【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第5回 1991年の約束を踏みにじって東に拡大する一方のNATO

寺島隆吉

この地図には、どこにどのような軍事施設があるかが、記号で示されています。その記号の意味は、地図のロシア領土のところに置かれた白い枠のなかに示されています。それを上から順に説明すると次のようになります。

これらの記号を見ると、旧ソ連領の北端であるエストニア、ラトビア、リトアニアに軍事施設が集中していることが分かります。

そして飛び地のカリーニングラードがその南に位置し、その下にポーランドがあり、ここにも軍事施設が密集し、カリーニングラードは上と下から挟み撃ちになっていることが分かります。

これでロシアが恐怖を感じないとすれば、どこか頭がおかしいとしか言いようがない状況です。

しかし、このような状況は一朝一夕にして生まれたものではありません。アメリカは次々と親露国だった国々を、武力で、あるいはクーデターで、あるいは民衆革命に見せかけた、いわゆる「カラー革命」で、親米国に変えてきました。

それを時系列に並べたものが、軍事施設の記号の上に置いてあるCの内容です。英語では「Year of NATO accession(NATO加入年)」となっているものです。それは次のようになっていました。

1999 Poland, Czechia, Hungary
2004 Bulgaria, Estonia, Latvia, Lithuania, Romania, Slovakia, Sloven ia
2009 Albania, Croatia
2017 Montenegro
2020 North Macedonia

これを和訳すると次のようになります。

1999年 ポーランド、チェコ、ハンガリー
2004年 ブルガリア、エストニア、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スロベニア
2009年 アルバニア、クロアチア
2017年 モンテネグロ
2020年 北マケドニア

いかにアメリカが着々とロシア包囲網を強化させてきたのかがよく分かるはずです。

第2章で、アメリカがマッキンダーの「ハートランド理論」に従って、ロシアを包囲する政策を続けてきたことを紹介しました。

それを具体化したのが悪名高い1992年の「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」でした。

しかし、その全ての試みが成功したわけではありません。それを、51頁の地図では一番下の横軸で、右から左へと時系列で示しています。

英語ではPro-western regime change attempts(親欧米にするための政権転覆の試み)となっていて、次のように色分けされています。

U:政権転覆が不成功だった国(unsuccessful)

S:政権転覆が成功した国(successful)

これが一番下の横軸の図では時系列で右から左へと並べられているのですが、ここでは縦軸でしか示すことができません。それは次のようになっていました。

Pro-we stern r eg ime c hange at tempt s( 親欧米にするための政権転覆の企み)

2003  Georgia successful グルジア  成功  S
2005  Ukraine successful   ウクライナ 成功 S
2009  Moldova unsuccessful  モルドバ 不成功 U
2014   Ukraine successful   ウクライナ 成功 S
2018  Armenia successful  ルメニア 成功  S
2020  Belarus unsuccessful  ベラルーシ 不成功  U

また、この地図では、NATOの境界線は破線(… ) で国境が示されています。

この破線(… ) がロシアの手前の、ベラルーシ U、ウクライナ S、モルドバ Uで停止していて、この中で政権転覆が成功したのはウクライナ Sだけだということが分かります。

現地ウクライナで2014年の血なまぐさいクーデターを指揮したヌーランド女史(当時には国務次官補)が、アメリカにおける講演で「これを成功させるために50億ドルかけた」と誇らしげに講演したことの意味が、これでよく分かるのではないでしょうか。

この地図を見ていたら、もうひとつ興味深いことに気づきました。それは、ICELANDおよび枠で囲んだ「カリーニングラード」の説明文の下に、次のような色分けした国境の説明があることです。

破線(… )NATO’s eastern flank in 2022(NATOの東端、2022年時点)
実線(― )NATO’s eastern flank in 1989(NATOの東端、1989年時点)

この視点で冒頭の地図を見ると、実線(― )の内側でも、まだアイルランドはNATOに加盟していません。

また実線(― )の外側かつ破線(… )の内側でも、スイス、オーストリア、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビアのような国がNATOに加盟していないのです。

もっと面白いことは、実線(― )の向こう側の国であるスウェーデンやフィンランドもNATOに加盟していません。つまり、BのNATO諸国にも入っていないのです。

これを見れば、プーチン大統領がウクライナのゼレンスキー政権に対して、「NATOに加盟しないこと」「ウクライナ軍からネオナチの武装集団を除隊させること」を停戦の条件として提示していることが、決して無謀な条件でないことが、よく分かります。

それどころか、それが、今度のウクライナ紛争を「核戦争」「第3次世界大戦」に導かないための、最も簡単で容易な解決法ではないでょうか。何故そうなのか。それを今後のブログでゆっくり説明していくつもりです。

(日本語字幕付き、約90分)

(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体1—アメリカとの情報戦に打ち克つために—』の第4章から転載)

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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