“ゆ党”化する立憲民主党、立民・維新連携強化で「大政翼賛国会」の危機
政治・政権監視の本業を忘れた職務怠慢ぶり
立民の弱みに付け込んだ“維新2股作戦(ただし本命は自民)”は、さっそく1月23日召集の通常国会前から成果をあげている。
茂木幹事長万博視察の2日後の1月20日、立民の岡田克也幹事長と安住淳国対委員長も万博会場を視察。野党第1党幹部が政府与党と維新が進める国家的事業の現場を「賛成の立場」(安住氏)で訪れた。しかし自民党との対応とは雲泥の差があり、醜態をさらしたのだ。
先の読売記事にある通り、茂木幹事長への案内役は、維新共同代表の吉村・大阪府知事と前代表の松井一郎・大阪市長が買って出て、夕食もともにした(松井市長は体調不良で欠席)。それに比べて大阪入りした立民幹部には“維新ツートップ”は面会せず、視察現場の滞在時間は1時間足らずだった。
恋愛ドラマの一場面が思い浮かぶ。本命(自民)がいるのに2股が得意な女性(維新)を追いかけたモテない男が、冷たくあしらわれたようなものだ。
政権監視の本業を忘れた職務怠慢ぶりも、立民はさらけ出した。視察後の囲みで私が「軟弱地盤を問題にしている反対派、市民団体とは会わないのか」と質問すると、岡田氏が「特に予定はない」と答えたので、「権力追及姿勢に欠けるのではないか。維新との連携強化、いわゆる“ゆ党化路線”が支持率半減を招く一因とは思わないのか」「事業者側だけから聞くのは、野党としての役割を果たしていないのでは」とも聞いたが、「万博会場として問題があるとは理解していない」と回答するだけで、隣のカジノ用地の問題はスルー。
司会者が質問の打ち切りを告げたので、「支持率半減の理由は何だと思うのか」と再質問したが、「それはハッキリしていないから」と岡田幹事長は答えるだけ。「維新との連携強化がマイナスになっているのではないか。今回の視察は、維新との連携強化の一環ではないか。維新へのゴマすりではないか」と声掛けを続けたが、これ以上は何も答えないまま、視察現場を後にした。
万博会場とカジノ(IR)の予定地は隣接、ともに軟弱地盤が問題視されている大阪湾の人工島「夢洲」にある。大地震で液状化して建物が使い物にならなくなる恐れがあると市民団体は懸念、国会の内閣委員会でもれいわ新選組の大石晃子衆院議員が(政府のIR審査委員会の)「審査委員に専門家はいない」などと軟弱地盤問題への軽視を追及していた。それなのに立民両幹部は、維新がツートップの大阪府・市の事業者側の話だけを聞いて事足りるとした。
政府与党や維新がタッグを組んで進める国家的事業を十分にチェックせず、迎合するような“ゆ党的視察”であったのだ。
・自民党安倍派にも同調
真っ当な野党だった頃の視察と並べると、立民の変節ぶりを実感できる。辻元国対委員長時代の2019年4月10日、第2次安倍晋三政権が強行していた辺野古新基地予定地(埋立現場)を野党国対委員長が合同で視察。事業者の沖縄防衛局に軟弱地盤問題などを問い質すと同時に、埋立反対の沖縄県との意見交換も行ない、沖縄県民の民意を無視する安倍政権追及も明言していた。
通常国会召集前に立民が使い始めた「防衛増税反対」のうたい文句も、茂木幹事長の“維新2股・立民ゆ党化作戦”の成果といえる。防衛費倍増や敵基地攻撃能力などの安保3文書を国会審議抜きで決めた岸田政権に対して、本来なら「防衛費倍増(岸田軍拡)反対」とまず訴えるのが明瞭簡潔なのに、枕詞をすっ飛ばして「防衛増税反対」と財源論に矮小化、維新や自民党安倍派に同調した格好となったのだ。
維新の馬場代表は昨年12月15日、櫻井よしこ氏基調講演の「防衛力の抜本的強化を求める緊急集会」に参加すると、国債償還期間の見直しで防衛費倍増に対応することを提案した。萩生田光一政調会長や高市早苗大臣ら自民党安倍派も、防衛費倍増には賛成だが増税には反対する主張をしていたが、国債財源論の維新に続いて立民も枕詞なしで「防衛増税反対」を言い出した。
野党第1党のゆ党化は、国会が大政翼賛会に近い危機的状況に陥ったことを意味するものだ。
軍拡賛成の安倍派にも同調したように見えてしまう立民の“ゆ党化”は、1月18日の維新との党首会談で合意した「対策チーム」設置でも浮き彫りになった。テーマの1つが「防衛費増額の財源確保に向けた行財政改革の推進」であり、米国兵器爆買いなどの防衛費増額にメスを入れることをすっと飛ばして、その財源確保方法を議論しようとしているのだ。
この維新と立民の連携継続(強化)は、1月12日の両国対委員長会談で具体化。「立憲と維新、防衛費増税や通常国会の『共闘』継続で一致」(毎日新聞1月12日付)などと報道されたが、これも時事通信の世論調査で立民支持率半減の一因となった可能性がある。
・山梨県知事選で“自主投票”の立民
泉代表の発信力不足や維新「共闘」強化の弊害は、保守分裂となった「山梨県知事選(1月22日投開票)」でも見て取れた。野党統一候補を支援すれば、2期目を目指す長崎幸太郎知事に勝利する可能性は十分にあったのに、立民は自主投票を決定、共産・れいわ・社民が推す倉嶋清次候補(元笛吹市長)夢洲を支援しなかった。
1月5日の告示日には、自公推薦の長崎幸太郎知事の応援に菅義偉前首相らが駆け付け、与野党激突のムードも高まったのに、肝心要の野党第1党が今年初の大型地方選挙をリードする役割を放棄したのだ。
ここでも職務怠慢が露呈した立民執行部は、岸田政権の安保3文書改定を批判するチャンスを逃したともいえる。
倉嶋候補の応援でいち早く山梨入りをしたのは、社民党の福島みずほ党首(参院議員)。1月12日にJR甲府駅前で次のように訴えたのだ。
「23日から国会が始まります。その前になんでアメリカの大統領に、国民や国会に報告する前に報告に行くのでしょうか。『どこの国の総理大臣だと言いたい』と思いますが、皆さん、どうですか。まず国民に報告をすべきではないですか。国会で議論するべきだと思います」。
「防衛予算が来年度は6兆8,000億円。5年間で43兆円。いやローンを入れると50兆円、60兆円になるかもしれないと言われています。異次元の少子化対策でも消費税を上げるのではないかという声が出ています。莫大な軍事費、世界第3位の軍事大国になるのではなくて、貴重な税金がもっと教育予算・介護・医療などに使われるべきだと思いますが、皆さん、どうですか」。
日本共産党の山添拓参院議員もラストサンデーの1月15日、山梨市での倉嶋候補の個人演説会で「(県知事選は)岸田政権の審判も兼ねる」「異次元でやろうとしているものの最たるものが大軍拡と大増税だ」と強調、参加者の「許せない!」という声を受けて、こう続けた。
「安保3文書を改定して敵基地攻撃能力を大量に保有していく。『攻撃的兵器を持たない』としてきた専守防衛を投げ捨てて、トマホーク500発持っていく。アメリカがイラクであれアフガニスタンであれ先制攻撃で使ってきた兵器だ。それを日本が大量に購入して『いや専守防衛だ。先制攻撃には使いません』と言うのは勝手だが、相手の国にも脅威と映って、きりのない軍拡競争につながってしまう」。
「いま岸田首相はアメリカに行ってバイデン大統領と会談をして、誇らしげに安保3文書の改定を報告している。国民に対して、国会で説明をするのが先ではないか。軍事費を増やしていく道で本当にいいのかが問われている」。
集会参加者もマイクを握った。
「すごく怖い世界に子どもたちを連れてきてしまったという気持ちがする。戦争の恐怖を味わうために生まれてきたのではない。それを『山梨から国を変える』と言ってくれている倉嶋さんを私は誰よりも応援したいと思っている」(子育て中の母親)。
農水官僚OBで笛吹市長も1期務めた倉嶋氏は、山梨県知事選は長崎幸太郎県政への審判と同時に岸田軍拡に「ノー」を突きつける選挙戦でもあると訴えていた。富裕層向けの観光開発や全国2位の土木関連予算など現知事の県政を批判すると同時に「もっとトンでもないことをやっているのが岸田首相」とも切り出し、岸田軍拡を厳しく批判してもいたのだ。
「軍事費を倍にする。敵基地を先制攻撃する。専守防衛をポーンと投げ捨てて、こんなやり方は絶対に許せない。日本の平和を守る。9条に基づく平和外交をやれ。岸田軍拡反対の声を大きくあげていきます」。
「この知事選挙、今年初めて行なわれている大型地方選挙です。全国の注目が集まっている。軍拡に大きなダメージを与えることができます」。
1月20日にはれいわの櫛渕万里衆院議員も応援に駆け付けたが、結局、立民幹部が倉嶋候補の応援演説をすることはなかった。「自主投票」なのだから「岸田軍拡批判の絶好のチャンス」と捉えて自主的に山梨入りをしても不思議ではなかったので、1月8日、自民党の三浦健太郎衆院議員辞職に伴う補選のある千葉5区内の街宣を終えた泉代表に、保守分裂の山梨県知事選について聞いたが、「県連からの要請はない」と山梨入りを否定した。
なぜ、山梨県知事選を岸田軍拡批判の場にしながら現職知事敗北を狙わなかったのか。野党系知事誕生なら“山梨ショック”で永田町に激震が走り、通常国会での岸田政権追及に弾みをつけたはずなのに、そんな天下分け目の決戦をリードしなかったのはなぜなのか。
これも、維新「共闘」強化の弊害であり、先月号で紹介した、共産党との選挙協力を極力避ける泉代表の致命的欠陥の産物としか見えないのだ。
維新への急接近で支持率半減を招いた立民執行部が、岸田政権アシストの“ゆ党化”路線を軌道修正するのか、そのまま突き進んで泉代表降ろしや党分裂を招くことになるのか。野党第1党の振る舞いは、国会が“大政翼賛化”するのかを左右する政治的重要ポイントなのだ。
(月刊「紙の爆弾」2023年3月号より)
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1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。