【連載】塩原俊彦の国際情勢を読む

ノルドストリーム爆破は「親ウクライナ派」の仕業か、あるいは、目くらましか

塩原俊彦

2023年3月7日、ドイツ公共放送連盟(ADR)の政治雑誌『コントラステ』、南西ドイツ放送、全国紙「ディー・ツァイト」などの共同調査から、2022年9月26日夜、バルト海の海底で、ガスパイプライン「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」の4本のルートのうち3本が爆破された事件に関連して、「捜査当局は秘密作戦に使われたと思われるボートを特定することに成功した」と、「ディー・ツァイト」が伝えた。

2022年9月6日にドイツ北部のロストックからポーランドにある会社からレンタルしたヨット(2人のウクライナ人が所有していた模様)を出航させて、爆薬を仕掛けたというのだ。調査によると、海上での秘密作戦は、船長、潜水士2名、潜水助手2名、女医1名で構成される6人のチームによって行われた。犯人の国籍は不明で、偽造されたパスポートを使用し、ボートのレンタルなどに使用したと言われている。

このヨットは爆破事件後、ボーンホルム島の北東にあるデンマークのクリスチャンソ島で発見され、その後、ヨットは清掃されていない状態で所有者に戻されたという。捜査当局は、船室のテーブルの上に爆薬の痕跡を発見したと、記事は報じている。

NYTの報道

同じ日、「ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、「親ウクライナ派がパイプラインを妨害したことを示唆する情報、米政府関係者が述べる」とする記事を公表した。

前述したドイツでの報道に触れることなく、ただ米国政府の当局者による匿名情報として、「妨害工作員はウクライナ人またはロシア人、あるいはその組み合わせである可能性が高いと考えていると述べた」と記している。さらに、「米国当局によれば、米国人や英国人は関与していないとのことだ」としている。

さらに記事は、「新たに収集された情報のレビューでは、彼らがロシアのプーチン大統領の反対派であることが示唆されているが、グループのメンバーや、作戦の指示や支払いを行った人物は特定されていない」と記している。

ノルドストリーム1、ノルドストリーム2の爆発場所
(出所)https://www.washingtonpost.com/world/2022/09/27/nord-stream-gas-pipelines-damage-russia/

 

どう読み解くか

この二つの情報をどう読み解けば良いのだろうか。まず、すでに拙稿「ノルドストリームを爆破させたのはバイデン大統領!?」で紹介したように、米海軍の「熟練深海ダイバー」が2022年6月の訓練中にC-4爆薬を仕掛け、その3カ月後に遠隔操作で爆発させたとのシーモア・ハーシュ氏の暴露記事を思い出してほしい(その翻訳はこのサイトで紹介されている)。

ここで紹介した2つの記事は、バイデン大統領がノルドストリーム爆破を命じたとするハーシュ氏の主張を否定することを目的にしているようにみえる。その意味で、「米国当局によれば、米国人や英国人は関与していないとのことだ」とNYTがわざわざ書いているのは、どうにも怪しい。不確定な情報が多いなかで、なぜそんなことが断定できるのか。NYTは何の説明もしていない。

私の憶測

私の憶測では、この二つの情報は当初から仕組まれた「陽動作戦」であると思う。米国政府はノルドストリーム爆破にあたって、その犯人捜しが行われることを最初から想定していた。その場合に備えて、怪しまれるであろう6人組を用意して、しかも、爆薬の残留物も検査でわかるようにしておいたのだ。ただ、6人組の正体だけは決してバレないように細心の注意を払った。

バルト海のガスパイプライン「ノルドストリーム」のガス漏れを示す衛星写真
(出所)https://www.zeit.de/politik/ausland/2023-03/nordstream-2-ukraine-anschlag

 

爆破事件の捜査は、デンマーク、ドイツ、スウェーデンの政府当局が行っている。2月の段階では、調査はまだ終了していないとされている。おそらく近く発表される内容は、この6人組の犯行とし、結局、「その正体は判明できず」といったものになるのではなかろうか。

ここまでは、バイデン政権にとって、爆破作戦を実行する前から、すべて織り込み済み、つまり想定の範囲内ということになるだろう。「米国政府の関与」がバレないようにしながら、爆破させる必要があったと考えれば、こうした展開になることを最初から準備していたとみるのが至極当然ということになるだろう。

スノーデン氏の的確なツイート

ここで、米国政府による不法な個人情報取得を暴いたエドワード・スノーデン氏が2023年2月9日、実に的確なツイートをしていたことを紹介したい。

「歴史上、ホワイトハウスが担当し、強く否定された秘密作戦の例を思いつくか?あの「大量監視」騒ぎの他にね」というのがそれである。これは、米国政府が未確認飛行体としての気球を取り上げて、中国政府が「大量監視」のために米国領土を気球によって監視しているかのような騒ぎを巻き起こしていることへの皮肉を意味している。

有体にいえば、米国政府は気球騒ぎを起こすことで、バイデン大統領によるノルドストリーム破壊命令の話をなかったことにしようとした。そして、今度は、あらかじめ仕組んでおいた6人話でバイデン大統領の「潔白」を示そうとしているように思われる。

 

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。 著書:(2024年6月に社会評論社から『帝国主義アメリカの野望:リベラルデモクラシーの仮面を剥ぐ』を刊行) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。 【地政学】 『知られざる地政学』〈上下巻〉(社会評論社、2023)がある。

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