【特集】ウクライナ危機の本質と背景

NATOの戦略混迷に比例した破局への接近(4)―セイモア・ハーシュの暴露記事とウクライナ戦争の本質(中)―

成澤宗男

前項で紹介したセイモア・ハーシュ氏によるノルド・ストリーム爆破をめぐる暴露記事は、言うまでもなくバイデン政権の責任を明確に指摘した点に第一の功績がある。

同時にハーシュ氏がどこまで意識したかどうかは別にして、現在のウクライナ戦争を論じるにあたって決定的に欠かせない事実を明らかにしたのは疑いない。

それは繰り返すように「ロシアのいわれのない侵略」(Russia’s unprovoked invasion)という、同政権の常套句の根本的な欺瞞性を露呈させたということだ。

この記事はジョー・バイデン大統領以下、ジェイク・サリバン大統領補佐官、トニー・ブリンケン国務長官、ヴィクトリア・ヌーランド国務次官の4人の立案・計画者の実名と、海軍の深海潜水部隊という実行犯グループを特定した。のみならず、いつの時点でこの犯行が政権内で浮上したのかについて触れている次の記述も、特筆すべき重要性を持つ。

バイデン政権のロシア憎悪にこり固まった3人の閣僚。ヌーランド国務次官。

 

ブリンケン国務長官

 

サリバン大統領補佐官

 

「バイデン大統領がパイプラインを破壊するという決定を下したのは、その目的をうまく達成する方法に関し、ワシントンの国家安全保障を担当する一握りの人々(Washington’s national security community)の内部で9カ月以上にわたり、極秘に交わされた議論の後だった」。

「バイデン政権は2021年の後半から2022年の最初の数カ月にかけて計画された際、リークを避けるためにあらゆる手段を講じていた」(注1)。

ただこの既述は、明瞭さを欠くきらいがある。「2021年の後半から2022年の最初の数カ月にかけて計画された」のであれば、「9カ月以上」というスパンはどう考えても長すぎるからだ。

仮に前項で触れたように、バイデン大統領がドイツのオラフ・ショルツ首相が同席した記者会見でノルド・ストリームの破壊をほのめかした昨年2月7日の時点ですでに犯行を「決定」していたと想定するなら、その時期が「2022年の最初の数カ月」にあたるかどうか微妙だろう。

しかも2月7日の時点だとしても、それから「9カ月以上」前となるのは2021年5月に「計画」はスタートしていたと考えられる。だがこの時期を、「2021年の後半」とするのは無理がある。加えて極秘の「議論」(debate)とは、「計画」すること(planning)と同じなのかどうかも、今一つはっきりしない。

戦争前に爆破計画が浮上した意味

それでも重要なのは、少なくとも2022年2月24日のロシアのウクライナ侵攻前に、ロシアが共同所有権を持つパイプラインという重要なインフラを破壊するという、本来なら戦争に直結する計画が浮上し、議論されたという事実だ。

いかなる隠蔽工作が施されようが、米国の犯行はロシアへの宣戦布告に等しい以上、最初から代理戦争であれ直接的介入であれ、何らかの形で戦争状態に入るのを厭わず前提として、あるいは基本にして、ロシアへのすべての対応が構想されていたと考えられる。

もともと米国は、ロシアとドイツをはじめとした欧州を天然ガスで結ぶ既存のノルド・ストリーム1、及び新たに供給量を増大させるため2011年に建設が開始されたノルド・ストリーム2に異常な敵意を隠さなかった。

それは米国の優れた戦略アナリストであるマイク・ホイットニー氏が指摘するように、米国にとって「欧州とロシアの経済統合と、米国の支配を超えた巨大な共同体が創出されることにより、ダイレクトに挑戦を受ける」のみならず、「外野に追いやられる」(注2)という事態を避けがたくするからに他ならない。
そしてあえてバイデン政権が爆破に踏み切ったのは個別ノルド・ストリームのみならず、もはやロシアに対しては外交や国際関係上の規

に囚われないで、実力行使を含むいかなる手段を講じても自国の意思を貫徹させる意図が根本にある姿勢を如実に示したはずだ。

これについてハーシュ氏は、インターネットサイトConsortium News の動画でのインタビューに出演した際、サリバン大統領補佐官とブリンケン国務長官、ヌーランド国務次官の3人について「極端にタカ派」だと評価し、バイデン大統領にノルド・ストリームの爆破を「強く迫った」としながら、「彼らはプーチン大統領に長年にわたって信じられないほどの憎悪を抱いている。それは、ほとんど個人的なものだ」(注3)と指摘している。

 

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成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

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