【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ロシアからの新たな脅威? NATOこそが現実の脅威だ(3)

アラン・マッキノン(Alan Mackinnon)

NATOとその新たな戦略的任務の拡大、すなわち安定化計画や国際的危機の管理、「人道的」介入、エネルギーの安全保障および災害救援活動は、NATOが拡大する地域における米国の力の隠れた行使にとって理想的な口実を提供する。

カーター大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官だったズビグニュー・ブレジンスキーは、NATOが「米国のユーラシア大陸での政治的影響力と軍事力を固める」と主張し、さらに「欧州の政治的な範囲の拡大は自動的に米国の影響力の拡大でもある」と述べた(注1)。

そしてユーラシア大陸でのNATOの拡大は、めざましいほどに急速に展開した。冷戦期の安定した16ヶ国の同盟であったNATOは今日、旧ワルシャワ条約機構の諸国の多くや旧ユーゴスラビア、旧ソ連の多くの国を内包する28の加盟国の同盟へと成長した(注=現在30ヶ国)。そして、さらなる拡張が計画されている。

ブリュッセルのNATO本部に集まった、加盟国首脳ら(2021年6月)。彼らは、米国の支配下に置かれているのは自明だ。

 

そのカギとなるのが、NATOの「パートナーシップ」という組織だ。22加盟国との「平和のためのパートナーシップ」は、選ばれた「パートナー」をNATOの完全なメンバーシップにするための手段である。

「地中海対話」は、北アフリカと地中海東部の諸国―モロッコ、モーリタニア、アルジェリア、チュニジア、エジプト、ヨルダン、イスラエル―を引き入れる。

「イスタンブール協力イニシアチブ」は、バーレーン、クウェート、カタール、アラブ首長国連邦といった、主要な湾岸諸国を引き込む。さらにNATOの「グローバル・パートナーズ」あるいは「コンタクト諸国」に含まれるのは、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、日本、モンゴル、パキスタン、コロンビアのように欧州から遠く離れた諸国である。

さらにNATOの新たな欧州ミサイル防衛システムは、米国の核の優位を得るためのあからさまな試みである。同システムの構成要素は、幾つかの欧州諸国に設置されている。スペインはイージス・ミサイル防衛艦のための基地を提供する。

トルコは新たなXバンドレーダーの設置場所であり、米国のミサイル防衛用SM-3迎撃ミサイルはポーランドとルーマニアに置かれている。公式な説明では、ミサイル防衛はイランから発射される可能性があるミサイルの脅威に対抗するために必要ということであった。

しかしイランは何の核兵器も所有しておらず、実際に使える運搬システムを欠いている。誰でも、とりわけロシア人たちはその本当のターゲットがロシアであることを知っていた。

ミサイル防衛は米軍が核の先制攻撃に踏み切っても、相手からの反撃の被害を受けないようにする潜在能力を米国とその同盟諸国に与える、核という「刀」を補う「盾」である。

NATOは米国が世界を支配するための道具

このような兵器の展開に、ロシアが脅威を感じるのはもっともだ。さらに2014年のウクライナ政権の転覆で、ロシアの堪忍袋の緒が切れた。それは、まったく予想通りの反応を引き起こした。ロシアのクリミアの併合と、ウクライナ東部における内戦でのロシア系住民の支援であった。

NATOは現在、ロシアへの対応として、新たな5,000人強の緊急即応部隊である「先鋒部隊」(Spearhead Force)、そしてそれを支援してロシアに1ヶ月以内で通常戦を展開する能力がある2万5000人強の緊急介入軍や、東欧6ヶ国(ラトビア、エストニア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、ブルガリア)への新たな長期のNATO軍派遣を計画している。

NATOは、より広範なひとつの事業の軍事的一翼だ。クリントン政権時の商務省国際貿易局次官だったデイヴィッド・ロスコフは、こう述べた。

「パックス・アメリカーナは、米国の安全保障の傘に入った諸国に暗黙の値段表を付ける。ある国が米国の安全保障上に依存するのであれば、それは貿易と商業問題に関して米国と取引をしたのだ」(注2)。

NATOの空爆にさらされたセルビアのベオグラード(1999年)。この空爆は、NATOが米国の世界支配の危険な道具である事実を示した。

 

今日のNATOの真の目的は世界中で米国の政策を実行することにあり、NATOは最終的に世界を米国企業のビジネスに解放するため存在する。これはまず手始めに欧州において、新旧を問わずNATO加盟諸国が自由貿易、民営化、開かれた経済のような米国の価値と政策を確実に支援することから始まる。

実際、NATOが行う大半のことは、そのような政策に対する国内および海外での抵抗を減らすことである。そのためNATOは、欧州連合(EU)と密接に働く。

NATOとEUの成長が、どのように一歩ずつ並んで達成されてきたかは目覚ましいものがある。その二つの同盟はそれぞれに28の加盟国(注=2015年当時)を持ち、そのうちの22ヵ国が両方に所属する。その経済的な推進は、軍事的な推進を伴う。

EUは、以前「ワシントン合意」と呼ばれていたものの諸政策をヨーロッパ大陸において実施する。サッチャーリズムの新自由主義経済が「欧州憲法」の中に書き込まれており、それはあらゆる加盟国と、実質上あらゆる経済の部門において施行されている。

EUは、全欧州において多額の負債を抱える南欧においてだけでなく、英国(注=2020年1月にEUから正式離脱)を含む他のあらゆる加盟国のほとんどにおいても、野蛮でデフレ圧力となる緊縮財政を推進している。

 

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アラン・マッキノン(Alan Mackinnon) アラン・マッキノン(Alan Mackinnon)

アラン・マッキノンはグラスゴー大学で医学士の学位を取り、同時に政治活動に参加し、そこで身につけた反帝国主義、平和的共存という理念に生涯を捧げた。結婚後、夫婦でタンザニアでの医療活動に従事。帰国後は平和運動の指導的役割を担いながらリバプール大学で熱帯医学を学び、その後は「国境なき医師団」の一員として再びアフリカに向かい、シエラレオネで医療活動にあたった。その際の経験から、現代の帝国主義、軍拡競争とアジア・アフリカへのNATOの拡大といった課題についてさらに理解を深める。 1990年代の湾岸戦争では、「スコットランド核軍縮キャンペーン」の議長として抗議運動を取りまとめ、2011年の「9.11事件」を契機とした「対テロ戦争」に反対し、「戦争ではなく正義を求めるスコット連合」を結成。英国の政党や労働組合、宗教団体、平和運動グループの代表を集め、アフガニスタンとイラクに対する米英の戦争に抗議活動を続けた。また、スコットランドへの潜水艦発射型大陸間弾道核ミサイル「トライデント」の配備に反対し、先頭に立って闘った。晩年はがんで片足を失いながらも、最後まで平和実現のための歩みを止めることはなかった。

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