【連載】モハンティ三智江の第3の眼

第3回 物価高の昨今、インドのインフレと比べてみたー日印食品比較も

モハンティ三智江

昨春コロナ下帰国を奇跡的に果たし、1年が過ぎた。

インド在住の私が石川県金沢市にベースを持ったのは7年前で、コロナ前までは、春と秋、年に2度帰国、滞在期間はそれぞれ2カ月くらいだった。つまり、移住後は、1年通じて母国に長期滞在したことはなかったのである。

思いがけない疫病の世界的流行(パンデミック)で、この日印半々リズムが崩れた。2020年3月に息子を伴って帰国するつもりでチケットをとっていたが、25日にインド全土がロックダウンに入り(我が居住州オディシャは3日早く封鎖)、キャンセルを余儀なくされた。

以後2年3カ月現地に縛られ、悶々と隔離生活に甘んじたわけだが、日本領事館の助けもあって(フリーの在宅検査提供で帰国のネックとなっていた72時間前陰性証明を取得できた)、2022年3月11日に成田着、まさに奇跡としかいいようのない顛末で、2年3カ月ぶりに母国の土を踏めたというわけだった。

現実に1年を通して祖国に暮らしてみたウラシマタロウが感じたことはいろいろあるが、ここでは、物価高の昨今の日本と、インフレが続くインドとの比較を、食比べも混じえながら試みてみたい。

まず、両国の物価についてだが、インドのそれは、日本の3~4分の1、物にもより一概には言えないが、食品は総じて安い(ただし、衣類や家電は日本より高め)。私が移住した1987年は、1インドルピーは約10円、まだルピーの価値は高かったが、年々下落、今は1ルピー=1.6円になってしまった。

しかし、初期はとにかくなんでも格安で、日本の10分の1で買えたものだ。が、電化製品は当時から、目玉が飛び出る程高かった。ホテルの使用人のお給料が500ルピーの時代だったから、テレビや冷蔵庫は、庶民には手の届かぬ高級品だったわけだ。

インドのインフレ率は5、6%(高いときで8%)で推移しており、パンデミックの悪影響で諸外国同様値上がりし続けているが、昨今は日本も近年にない高騰ぶりだ。

去年だったか、玉ねぎが異常に高騰したことがあって、1個125円の値札をスーパーで見たときはさすがに驚いた。インドだったら、バナナ15本は買える値段である。もちろん、インドとてインフレでじわじわと物価は上がっているが、食品、特に野菜やフルーツは日本より安く買え、量も豊富だ。

私の移住地である、東インド・オディシャ(Odisha)州プリー(Puri)には、歩いて40分のところにスーパーが1軒あるだけで、大抵の食料はバザールの露天商か小売店から量り売りで買うのだが、値切ればスーパーより安く買える(もっとも、外人顔の私はぼられるので、買い物は使用人任せだが)。

インドのバザールでは、亜熱帯ならではの色鮮やかなフルーツが山盛りになった果物屋台が目を惹く(2017年3月南のハイデラバードにて)。

 

じゃがいもなどの野菜は、形も不格好でときたま腐ったものも混じっているが、味はおいしい。現地ではサラダに使う赤カブを、私はりんごやオレンジ、ざくろ、ぶどう、にんじん、大根とともにミックスジュースにして、朝食の定番としていたが、赤カブを入れると、赤みがついてきれいなジュースになり、栄養も満点だ。

インドならではのざくろは、体にとてもよく、美味で、そのままかじって赤い小さな粒が口中で弾ける甘酸っぱさを楽しんでもいいが、ジュースにすると、カスも無駄なく使え、栄養満点だ。

亜熱帯国ならではのエキゾチックな椰子汁も、ほのかな甘みとこくのある、天然のスポーツドリンクともいうべき滋養があり、胃腸にもよい飲みものだ。

浜では、ココナッツをいくつも腰にぶら下げた行商か行き交い、なたで青い実の先端にパカりと穴を開け、ストローを差し込んで、手渡してくれる。

私が1988年から経営する現地宿(Hotel Love & Life, Odisha, Puri)には、たくさんの椰子の木が植わっており、飲み放題た。熟して茶色い固い実になると、中はココナッツミルクになり、白くて香ばしい実はお菓子にも使え、ココナッツ餡入り丸ドーナツは、オディシャ地方特有のローカルスイーツとして名高い。

インドの夏(4~5月)の味覚はなんといっても、マンゴー、亜熱帯のキングフルーツ、酷暑の中マンゴーのひと切れを口の端からねっとりと甘い果汁を滴らせながら、貪る醍醐味は筆舌に尽くし難い。果物に関しては、熱帯地だけに、インドに軍配が上がる。バナナもおいしい。昔、うちでは、バナナを自家栽培していて、穫れたてのバナナの陽のぬくみがほのかにこもる馥郁(ふくいく)たる香りと甘味は天下一品だった。

私はゴーヤも毎日、ジュースにして飲んでいたが、自然の青汁は苦味があって、お世辞にもうまいとは言えないが、現地のヨガの大家がゴーヤジュースを毎日飲めば、無病と太鼓判を押していたので、積極的に摂っていた。

夏野菜といえば、トマト、きゅうりも現地は安くて瑞々しい。ナスは青くて塾しておらず、切ると薄い種がびっしり詰まっておりいまいちだが、トマトは、昔日本にあったひなたの匂いのする懐かしい味で、かぶりつくとジューシーでおいしい。

きゅうりは日本のように細長い品種でなく、加賀きゅうりに似た野太いものだが、こちらに慣れてしまうと、細きゅうりは、食べ応えがなく、いまひとつ食った気がしない。

インドで培ったよい習慣が日本では、食種が入手困難、もしくは高価で中断せざるを得ないのが残念だが、ひとつだけ、青菜や白菜、大根、ねぎに関しては、日本の方が断然いい。冬野菜ということもあるのだろう。インドでは、北の山間地を除いて、レタス(都会のスーパーでは手に入ることも)や白菜は入手不可だ。

特にほうれん草は日本のものがおいしい。現地製は貧弱で葉が小さく、混ぜ物、他の臭い葉がたくさん混じっており、より分けるのが大変だし、よく洗ったつもりでも、まだ泥が残っていて、噛むと砂利が歯に当たることがある(砂利といえば、インドはお米に混じっていることもある)。

 

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モハンティ三智江 モハンティ三智江

作家・エッセイスト、俳人。1987年インド移住、現地男性と結婚後ホテルオープン、文筆業の傍ら宿経営。著書には「お気をつけてよい旅を!」、「車の荒木鬼」、「インド人にはご用心!」、「涅槃ホテル」等。

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