[講演]小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教) 放射能汚染水はなぜ流してはならないか(下)

尾崎美代子

[講演]小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教) 放射能汚染水はなぜ流してはならないか(上)からの続き

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福島原発事故の最大の加害者は国

事故直後、日本政府は「緊急事態宣言」を発令し、緊急事態だから、法令を守らなくてもいいとしました。日本では一般の人たちは一年間に一ミリシーベルト以上の被曝をさせてはいけないという法律があります。また、いま、聞いていただいたように、放射線管理区域からものを持ち出す時には、一平方㍍当たり四万ベクレル超えていたら、どんなものでも持ち出してはいけないという法律もありました。でも、もうだめだと国が判断しました。

では、福島原発事故はいったい誰の責任なのですか? いまでも沢山の人たちが苦しみ続けています。誰が加害者なんですか? 直接的には、東京電力です。ものすごく重い責任があると、私は思っています。先日、東京高裁の裁判で、当時の東電幹部は無罪となりました。想定外の地震と津波だったため、予想出できなかったから仕方なかったとされました。本当に裁判所は腐っていると、私は思いました。誰も責任をとらない。でも、私は、東京電力以上に責任があるのは国だと思います。日本で原子力は、国策・民営といわれ、国がすべて決めてレールを敷いて、その上を電力会社に走らせたのです。「原発は安全だ」とお墨付きを与えたのは国なんです。私は最大の加害者は国だと思います。その国が何をしてきたか? 原子力緊急事態だから、普通の法律は守らなくていいと、特別措置法を乱発して、放射線管理区域に人々を棄てるということを、いまでも行っているわけです。

さきほど、セシウム137という放射性物質の半減期が三〇年と言いました。一〇〇年経ってセシウム137が一〇分の一に減っても、福島県はまだまだ放射線管理区域にしなくてはならない地域を広大に抱えていることになります。なので、この日本は一〇〇年経っても、原子力緊急事態宣言を解除できないと、私は考えています。

私も、会場の皆さんも、いま、赤ん坊の子どもも亡くなっているでしょう。そんな長い将来にわたって、日本は緊急事態宣言を続けるしかないという、それほど巨大な事故が起きたということです。

放射線管理区域で日常生活を送っている

被ばくというのは危険です。その歴史を少し見ていきます。[図7]は、被ばくの許容量を縦軸に描いています。一〇〇〇とあるのは一年間に一〇〇〇ミリシーベルトまで許すという基準です。つまり、一年間に一シーベルトまでの被曝を許すという基準です。放射線というものを人間が知ったのは一八九五年で、それまではあることも、被ばくについても知らなかった。一八九五年以降、多くの学者が研究を始めました。皆さんご存知のキュリー夫妻も、それまでは被ばくがどんなものかは知らなかった。当時は、一年間に何十シーベルトも被ばくしてよいという基準でした。

[図7]

 

でも、本当は、人間は八シーベルト被ばくすると死んでしまうんです。当時は被ばくの危険性がわからなかったので、こんな基準でした。キュリー夫妻も研究をしながら被ばくをしていって、身体がボロボロになってしまい、夫のピエール・キュリーは、あるとき倒れるように道路に出ていって、馬車に跳ねられ亡くなりました。マリー・キュリーの方は白血病で亡くなっています。その後、科学的知識が増えていくと、どんどん許容量は厳しくなっていきました。原爆被爆者についてのデータが蓄積してからは、職業人だけではなく、一般の人も被ばくから守らなければならないという基準が設定されるようになりました。

科学的な知見が増えれば増えるだけ、被ばくというのは危険なものだとわかり、許容量をどんどん厳しくして人々を守らなければならないとなっていきました。そして、職業人の基準が一年間に二〇ミリシーベルト、一般の人は一年間に一ミリシーベルトというのが、国際標準になっていきました。

しかし、福島原発事故の後、政府は一般の人たちも職業人と同じ量まで被ばくさせてよいとしてしまいました。先ほどお話した放射線管理区域は、三カ月で一・三ミリシーベルト、一年間で二・五ミリシーベルトを超えるような場所と決められています。一時間当たり〇・六マイクロシーベルトです。この数字にピンと来られる方もおられるでしょう。

皆さんの周囲で一時間当たり〇・六マイクロシーベルトを超えているような場所は沢山あります。本当は、そこは、私のような特殊な仕事をする人間以外は入ってはいけないと法律で決まっています。仕事で入る人も、そこでの飲食は禁じられますし、トイレもないし、そこで寝てもいけません。その場所は放射能で汚れているから、常に放射線量を測らなくてはいけないという義務が課せられています。

そこで働く人間は、放射線業務従事者と呼ばれています。かつての私もそうでした。危険な仕事をしているのだからと、京都大学から給料をちょっと上乗せしてもらっていました。その代わり、一年間で二〇ミリシーベルトの被ばくは我慢しなさいとなっているわけです。そして、常に被ばくを測定する器械を身に着けておけよと義務付けられ、一年間でどれだけ被ばくしたかを記録しておく被ばく手帳も持っています。定期的な健康診断を受ける義務を雇用者に負わせています。もし、一年平均で五ミリシーベルトを超えた被ばくをして白血病などになったら、労災が認定されます。これが、放射線業務従事者です。

では、福島の皆さんはどうなんですか? 放射線管理区域に指定しなければならない放射能汚染地に、普通の皆さんが棄てられているんです。子どもも含めて。そこで普通の日常生活を送っています。そこで食事をして、水を飲んで、トイレに行き、そこで寝て、子どもたちが学校に行って遊んでいます。そうするしかないようにさせられている。

でも皆さん、給料をもらうわけでもありません。なんの利益もありません。放射線に感受性の高い子どもたちも、放射線業務従事者と同じだけの被ばくをさせられている。被ばく手帳もありません。どれだけ被ばくしたか知ることすらできません。政府から定期的な健康診断もさせてもらえません。

いま、小児甲状腺がんが問題になっています。事故当時一八歳以下だった子どもたちは、希望すれば検査しますとなっているが、それすらどんどんなくそうと国は動いています。どんな病気になっても労災も認められません。いまやっている「3・11子ども甲状腺がん裁判」では、因果関係も否定され、到底認めないという態度です。これが、福島原発事故の被害者の皆さんの置かれている状態です。

図8は袖木ミサトさんのイラストで、私たちは「赤いつぶつぶのイラスト」と呼んでいます。つぶつぶは放射能です。日本の政府が作った地図でも、福島県は放射線管理区域にしなければならないほど汚れているんです。風評で汚れているのではなく、事実として汚れているのです。そこに子どもも含めて棄てられて、毎日被ばくしながら暮らすしかないとなっている。幸か不幸か放射線は五感で感じられません。感じられれば手当もできます。逃げようという気持ちも起きますが、感じられないまま、毎日被ばくしているという状態になっています。

[図8]

 

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尾崎美代子 尾崎美代子

新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3.11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。

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