[講演]小出裕章(元京都大学原子炉実験所助教) 放射能汚染水はなぜ流してはならないか(下)
核・原発問題水を汚すことは究極の汚染
地球は水の惑星と呼ばれています。その水を汚してしまうことは究極の環境汚染になってしまいます。ただし、細かく説明できませんが、この地球にももともとトリチウムは、ごくわずかですが存在していました。宇宙線という、宇宙を飛びかっている放射線から、トリチウムが生み出され、地球に存在していました。でも、人間はその一〇〇倍というようなトリチウムを、過去の大気圏核実験で生み出し、地球全体を汚染させたんです。大気圏核実験をやったのは五、六〇年前ですから、現在そのトリチウムはほぼ一〇〇分の一くらいに減って、もともと自然界にあったトリチウムと同じくらいになっています。
いま、福島原発の汚染水でまたトリチウムを海へ流そうとしている。あとで聞いていただきますが、青森県の六ヶ所再処理工場を動かせば、毎年毎年トリチウムを海に流すことになります。そしていま、自民党は核融合をやろうと言い出しています。核融合をやろうとすれば、膨大なトリチウムを燃料として使うことになってしまって、どうしようもない環境汚染を引き起こすだろうと私は思っています。
東京電力は、トリチウム汚染水を海へ流すという、一番簡単な方法を実施しようとしています。ただし、トリチウムの濃度が基準を大幅に超えていますので、そのままでは流せません。薄めながら流そうという計画になっています。タンクの中の汚染水には、トリチウムがその寿命でだんだん減ってきて、いま、一九二〇兆ベクレルあり、その半分くらいがタンクにあると東京電力が言っています。それを少しずつ薄めながら海に流そうとしているのです。いまタンクにある汚染水だけでも、東電の思惑通りに海に流せたとしても、二〇四六年までかかります。それでもまたさらに汚染水がたまってくるわけですから、それをまた海へ流そうとするなら、結局五〇年かかります。会場の皆さんも、東京電力の関係者も、国の官僚、安全だとお墨付きを与えた学者もみんな死んでいるでしょう。そんなに大変なことなんです。東京電力が一番簡単だと思ったやり方を採ったとしても大変なんです。
忘れさせようとする策謀
福島原発事故では誰一人責任をとりません。これまで五七基の原発を、自民党が「安全だ」と言って造ってきました。その周囲に、電力会社、原子力産業、ゼネコンをはじめとする土建屋、マスコミなどすべてがグルになって原子力を進めてきました。福島原発は安全だったはずなのに、事故を起こしてしまった。安全と言った彼らに責任があるんです。でも誰一人、責任をとらない。私は彼らを犯罪者集団と思っています。一人残らず処罰しなければいけないと思っています。
逆に、彼らはなんとか事故を忘れさせようということを積極的にやっています。教育とマスコミを支配して、次々と福島原発事故のことを忘れさせようとしてきている。子どもたちに被ばくは怖くないというようなことを教え込もうとしています。福島の食べ物は安全だから、子どもたちに食べさせよう、それを「食育」などといって進めています。そしていま止まっている原発を動かすとき、これまで四〇年しか動かしてはいけなかったのを、六〇年動かしていいよと、そしてそれをさらに延長しようとしている。そして核融合を開発したり、どんどん原子力をまたやろうとしています。何十億、何百億円の宣伝費をばらまいてやっています。彼らは究極的な目標としては、長崎原爆で使われたプルトニウムを懐にいれたいと考えています。そのためには再処理という作業をやらないといけないので、青森県の六ヶ所再処理工場を何としても稼働させようと画策しているところです。
原子力にしがみつく日本は放射能汚染水を海に流す外ない
最初に見ていただきましたが、福島原発事故は、残念ながら起きてしまった。なすすべがなかったのです。最初から原発を動かさなければよかったのですが、動かしてきた。挙句の果てに事故を起こしてしまった。そして放射能が出てしまった。でも、いま問題になっている汚染水はタンクにたまっていて、これからどうするんだという中、選択肢がたくさんあるのに、簡単に海に流してしまおうとしている。私はもちろん反対です。でも原子力を進めようとしている人たちは、海に流す以外に選択肢はないのです。
なぜかというと、六ヶ所再処理工場をなんとしても動かしたいからです。福島原発事故で、熔け落ちた燃料は二五〇㌧でした。二五〇㌧の燃料が熔けてしまって、その中のセシウムが大気中に流れてしまった。そしてトリチウムの一部がタンクの中にあるという状態になっています。
でも、もし福島原発事故がなかったら、炉心にあった燃料はどうなるはずだったでしょう? 事故がなければ、燃料は使用済み燃料となって、六ヶ所再処理工場に送られ、そこで再処理をしてプルトニウムを取り出すという計画になっていたんです。再処理工場でもトリチウムを捕まえることはできないので、再処理工場ではトリチウムは全部海に流す予定になっていました。六ヶ所再処理工場は一年間に八〇〇㌧の使用済み燃料を処理します。その中に入っているトリチウムは全部海に流す計画で、それでも安全だと国は再処理工場にお墨付きを与えてきました。
もし、福島原発のトリチウム水を海に流してはいけないということになれば、六ヶ所再処理工場も動かすことができません。プルトニウムを取り出すことはできないことになってしまって、日本の原子力開発の根幹が崩壊してしまうんです。だから、福島の人たち、漁師のみなさんがどんなに頑張って反対しようが、世界のあちこちの国がどんなに抗議しようと、日本というこの国は、放射能汚染水を海に流すという、それ以外の選択はないのです。
もちろん、私がそれでいいと言っているのではありませんが、国はそれしか選択肢がないのです。福島の汚染水の話は、福島原発事故だけの問題ではないんです。日本の原子力開発の根幹の問題と絡んだことで、大変重要な闘いが、行われようとしています。
フクシマの汚染水を流させてはいけない
最後に再び、袖木さんのイラスト[図14]を紹介して、私の話を終えようと思います。私は原子力の旗は決して振りませんでした。でも、原子力の場にいました。フクシマ事故に対して皆さんと比較できないほどの責任があると思います。でも、日本というこの国で、原子力発電所を五七基も造ってきてしまった、特別な注意も払わずに福島原発事故を起こさせてしまった、その責任はこの会場に集まってらっしゃる皆さんにもいくらかあると思っています。でも子どもたちに責任はありません。そして子どもたちは、放射能にものすごく敏感なんです。守るべき存在なのです。仮に自分が多少被ばくしても、子どもたちは守らないといけないというのが、私たち大人の責任だろうと思います。それともう一つ大切なことは、もう原子力なんてやめさせるということだと思います。原子力マフィアは、どんどん原子力を進めようとしていますが、それを阻止する責任が私たちにあるだろうと、私は思います。皆さんの力をぜひ貸していただきたいと思います。ありがとうございました。
[二〇二三年一月二十一日、福島県田村郡三春町にて]
(「季節2023春」より)転載
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新潟県出身。大学時代に日雇い労働者の町・山谷に支援で関わる。80年代末より大阪に移り住み、釜ケ崎に関わる。フリースペースを兼ねた居酒屋「集い処はな」を経営。3.11後仲間と福島県飯舘村の支援や被ばく労働問題を考える講演会などを「西成青い空カンパ」として主催。自身は福島に通い、福島の実態を訴え続けている。