【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第19回 ゼレンスキーとは誰かーウクライナにはなぜナチスが多いのか?ー

寺島隆吉

県外に出かけなければならないことがあって連載が中断してしまい、読者には申し訳なく思っています。先月末(4月29日)に岐阜に帰ってきて、やっとパソコンに向かう時間を作ることができました。

そこで、いよいよ「ゼレンスキーとは誰か」を書くことができます。この人物の分析なしには、 「ウクライナ問題の正体」は見えてこないと思ってきたのですが、今に至るまでその時間がとれず、私自身がストレスの塊になっていました。

というのは、現在の「ウクライナ問題」は、2014年のクーデターから始まっていますが、ゼレンスキーが大統領になってから全く新しい段階に達したと思うからです。

彼がユダヤ人であることを売り物にして世界のメディアに登場したがゆえに、 「ユダヤ人が大統領であるキエフ政権はネオナチの政権であるはずがない」という声が、大手をふるって一人歩きするようになったからです。

さて、そこでゼレンスキーという人物をどのように紹介し解剖したらよいかですが、そのための格好の出発点になる論考を見つけました。それはビガノ大司教が書いた次の論考です。

(1)Msgr. Carlo Maria Viganò on the Russia-Ukraine Crisis. “Pluralism and Freedom of Speech Disavowed by Censorship and Intolerance”「ビガノ大司教が語るゼレンスキー政権の正体:ユダヤ人大統領がネオナチと手を組む不思議」( 『翻訳NEWS』2022/04/01)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-861.html

ビガノ大司教につ いては、 『コロ ナ騒ぎ謎解き物語』で次の論考があることを紹介しました。

(2)Archbishop Viganò’s Open Letter Regarding the Covid-19 Vaccine’Open Letter to America’s Bishops「ビガノ大司教のCovid-19ワクチンに関する公開書簡」( 『翻訳NEWS』2021/11/13)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-711.html

この論考を通じて、 「コロナウイルスに対する現在の実験的ワクチンが極めて危険であることを鋭く警告してきた人物が、キリスト教会の指導者にも存在する」ことに驚愕させられたのですが、その同じ人物がウクライナ問題についても発言していることを知って、二度ビックリでした。

考えてみれば、コロナウイルスや実験的ワクチンは、 「医療倫理」に関わること、 「人間の生命」に関わることですから、教会の司教や司祭が発言しても、ある意味で当然のことで驚くほどのことではなかったのかも知れません。

が、 今度は「ウクライナ問題」という政治に関わる発言ですから、大司教にたいする驚きと関心は2倍になったのでした。

ではビガノ大司教は、この論考で「ウクライナ問題」について何をどのように述べていたのでしょうか。実は英語の原文は極めて長いものですが、私がここで論じたいことについては、幸いにもその抄訳が出されています。

それが先述の論考(2)なのですが、これは次のような目次になっていました。

1. ウクライナのカラー革命と、クリミア、ドネツク、ルガンスクの独立
2. ウクライナのネオナチと極右過激派の運動
3. ウクライナ大統領、ヴォロディミル・ゼレンスキー
4. ゼレンスキーとIMF、WEFの関係
5. バイデン親子のウクライナにおける利益相反関係
6. ゼレンスキー、核兵器の開発・拡散・使用を禁止した「ブダペスト覚書」の破棄を表明

ここで先ず驚くべきことは、ビガノ大司教自身が今回のウクライナ問題が2014年のクーデター、すなわち「カラー革命」に起因していることをはっきりと認めていることです。

それを目次「1.ウクライナのカラー革命と、クリミア、ドネツク、ルガンスクの独立」がはっきり示しています。

ご覧のとおり、大手メディアは、今回の「ウクライナ危機」が「プーチン大統領によるウクライナ侵略」に起因しているとする論調が主流ですが、大司教の主張はそれとはっきり異なっているのです。

日本では左翼・リベラルのひとたちでさえ、今回の「ウクライナ危機」が「プーチン大統領によるウクライナ侵略」に起因しているとする論陣を張っているのですから、これは特筆すべきことではないでしょうか。

宗教界の人でさえ認識できることを、新聞界や左翼・リベラルの人たちが認識できないとすれば、彼らの言う社会科学とは何なのでしょうか。

これは、 「ウクライナのネオナチ問題」についても同じことが言えます。

というのは目次 「2.ウクライナのネオナチと極右過激派の運動」を見れば分かるように、ウクライナがネオナチに支配されていることを大司教もハッキリ認めているのです。

この見解は、ゼレンスキー大統領がユダヤ人であることを売り物にして世界のメディアに登場したがゆえに「ユダヤ人が大統領であるキエフ政権はネオナチの政権であるはずがない」という声が大手をふるって一人歩きしている現状と、大きく異なっています。

つまり、政界はもちろんのこと、欧米の言論界も日本の言論界も、今のウクライナの現状が全く見えていないのです。宗教界の人に見えていることを、新聞界や左翼・リベラルの人たちが認識できないとすれば、彼らは大学で社会科学の何を学んできたのでしょうか。

さて前置きはこれくらいにして、ではビガノ大司教は、「3.ウクライナ大統領、ヴォロディミル・ゼレンスキー」で何を述べていたのでしょうか。

大司教はまず「多くの関係者が指摘しているように、ゼレンスキー大統領の立候補と当選は、近年始まった喜劇俳優や芸能人の政治家への起用という決まり文句に対応するものである」と述べ、コメディアンだったゼレンスキーが大統領になった経緯を次のように述べています。

エリートコースに乗っていなければ政治の頂点に登れないと信じてはならない。それどころか 「政治の世界に縁のなかった人物」 であればあるほど、 その人物の成功は権力をもつ者によって決定されると考えるべきなのだ。

ゼレンスキーの女装パフォーマンスは、LGBTQのイデオロギーと完全に一致する。それは、ヨーロッパの政界スポンサーがすべての国の受け入れるべき「改革」課題の必須条件と考えるものそのものであり、男女平等、中絶、グリーンエコノミーと一致するものである。

WEF(世界経済フォーラム)の一員であるゼレンスキーが、WEF会長クラウス・シュワブやその同盟者たちの支援という恩恵を受けて政権を取り、ウクライナでもグレート・リセットが実行されるようになったのも不思議はない。

〈訳註〉LGBTQ とは、レズビアン(女性同性愛者) 、ゲイ(男性同性愛者) 、バイセクシ ュアル(両性愛者) 、トランスジェンダー(生まれた時の性別と自認する性別が一致しない人)、クエスチョニング(自分自身のセクシ ュアリテ ィを決められない、 分からない、または決めない人)などの、性的マイノリティを指す。

恥ずかしながら私は、ウクライナ危機が大きな話題になるまで、ゼレンスキーが俳優でありコメディアンだったことを知らなかったのです。

しかし考えてみれば、日本でも「そのまんま東」といったお笑い芸人が政界に出ることがあったのですから、ゼレンスキーもそのような流れの中で登場したことが、大司教の説明で分かりました。

その説明で特に興味深かったことは、 「政治の世界に縁のなかった人物」であればあるほど、その人物の成功は権力をもつ者によって決定されると大司教が指摘していることでした。

つまり、次の大統領を誰にするかは政界・財界の「奥の院」があらかじめ人選し、その意向を受けた人物がいわば「操り人形」として担ぎ出されていることです。今後の政治的経済的課題を忠実に実行してくれる人物が選ばれるということです。

大司教によれば、ゼレンスキーは世界の支配者たちの総本山であるWEF(世界経済フォーラム)の会長クラウス・シュワブやその同盟者たちによって選ばれ、その支援を受けてウクライナ大統領に当選したのです。

ウクライナ大統領ゼレンスキーとカナダ首相トルドーhttps://twitter.com/ZelenskyyUa/status/1146121659117686787/photo/1

 

調べてみると確かに、ゼレンスキーは、カナダのトルドー首相と同じく、WEFの設けた学校「シュワブ・スクール」の卒業生であり、自分が政界を目指すことになったのも、トルドー首相をモデルにしたからだったと語っていました。

だからこそ、トルドー首相と同じように、コロナ騒ぎで厳しいロックダウンを国民に課し、WEF会長クラウス・シュワブの目指す「グレート・リセット(世界の初期化)」を強力に実施しようとしたのも、なるほどと納得しました。

また今度のコロナ危機に際して、 世界のなかでも真っ先に「カナダ軍をウクライナに派遣する用意がある」と宣言したのも、トルドー首相だったことを、この大司教の説明で、初めて「さもありなん」と納得したのでした。

ではWEF会長シュワブやその仲間たちは、ゼレンスキーを大統領にするために、どのような選挙戦術を彼に伝授したのでしょうか。それを大司教は次のように述べています。

ゼレンスキーが製作・主演した57回にわたるテレビシリーズは、メディアが彼のウクライナ
大統領選への立候補と選挙戦を計画したことを示している。

ゼレンスキーはテレビドラマ 『Servant of the People: 人民の僕』 で高校教師の役を演じ、思いがけず共和国大統領に就任した教師が、政治の腐敗と戦うことになる。

二流ドラマだったこのシリーズが、それでも「ワールドフェスト・レミ賞」 (アメリカ、2016年)を受賞し、 「ソウル国際ドラマ賞」 (韓国) のコメディ映画部門で最終候補のトップ4に入り、ハンブルクの「ワールドメディア映画祭」でエンターテインメントTVシリー部門の「インターメディアグローブ銀賞」 を受賞したのも、偶然ではないだろう。

ゼレンスキーがテレビシリーズで得たメディア上の反響は、彼のインスタグラムのフォロワーを1,000万人以上にし、同名の政党「人民の僕」を設立する土台になった。

つまり、 ゼレンスキーのイメージは人為的な産物であり、 メディアのフィクションであり、ウ
クライナの集団想像的空間のなかで何とか政治的人物を作り出そうとした 「合意の捏造」作戦だったのだ。そしてフィクションではなく、実際に権力を獲得した。

これを読むと、ゼレンスキーを大統領として売り出すために、世界の芸能界・メディア界が総力を挙げてて協力したことが分かります。

WEF会長シュワブとその仲間たちの力は、アメリカだけでなくソウルやハンブルクに至るまで、世界の隅々にまで及んでいたのです。これはまさにチョムスキーの名著『合意の捏造』が描いた世界の通りだったわけです。

コロナ騒ぎで世界が一斉にロックダウンに走り出したことも、WEFとその仲間、たとえばビル・ゲイツ財団などの手がWHOや巨大メディアを動かし、世界中の隅々にまで及んでいたからに違いありません。

次の記事は、そのことをよく示しています。

Billionaires’ Media: The Smearing of Robert F. Kennedy Jr.「億万長者ビル・ゲイツのメディア支配:ロバート・F・ケネディ・ジュニアを徹底的に誹謗中傷」( 『翻訳NEWS』2021/01/07)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-476.html

ところでゼレンスキーは映画俳優としての才能を、選挙前のテレビドラマだけでなく、
大統領選挙中にも遺憾なく発揮したのでした。

というのは、彼は選挙キャンペーンで、 「2丁の機関銃を持ち、ロシアへの従属(や汚職)を指摘された国会議員に銃を乱射する」という、どう考えても大統領選挙の政策宣伝としては極めて不穏なCMを流していたからです。

この不穏かつ過激な動画は、画像下のURLをクリックしてみてください。このような動画を選
挙中に流したということそのものが彼の品性を示すものです。

大統領選挙戦で流した不穏なCM「親露派議員に銃を乱射するゼレンスキー」
https://twitter.com/i/status/1497895823962636290(動画40秒)

 

が、同時に、これは大統領に当選したあと、ドンバス地区の住民・住宅や公共の施設を無差別に爆撃しても平気だった彼の、未来を象徴するCMではなかったかと今になって思い当たるのです。

彼にしてみれば「ロシア人は人間ではなく、一種のゴキブリ」だったのですから。

ヒトラー・ナチスにとっては「アーリア人以外」は下等な人種でしたが、キエフ政権にとっては「ウクライナ人以外」は下等な人種であり、したがってロシア語話者のようなスラブ人は下等人種と見なされていました。

上の動画でゼレンスキーは「ロシアへの従属を指摘された国会議員に銃を乱射」していましたが、この背景には、上記のような人種観があったのです。

しかし皮肉なのは、ヒトラー・ドイツにとってウクライナ人は「アーリア人」ではないのですから、当然ながら下等人種です。にもかかわらずドイツ軍がソ連に侵攻したとき、それを大歓迎したのが、ウクライナのナチ信奉者だったという事実です。

とりわけステパ ン・バ ンデラという人物は、極右組織OUN‐B 「ウクライナ民族主義組織バンデラ派」の指導者でしたが、ナチスドイツが1941年6月、ポーランドに侵攻したとき、ナチスと協力して開始したのが、ユダヤ人とポーランド人にたいする大量虐殺「ポグロム」でした。

そして現在のキエフ政権は、このステパン・バンデラを正式に「国家の英雄」と認めているのですが、欧米のメディアで、このことを指摘しているものは皆無に近いのです。それをユダヤ人大統領のゼレンスキーも引き継いでいるのですから、皮肉の極致です。なぜ、このような不思議なことが起きるのか。

それについては、後日あらためて詳述する予定です。

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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