沖縄「名護版モリカケ事件」と 米国下僕・トモダチ優遇政治
琉球・沖縄通信・選挙戦の争点に急浮上した日米地位協定改定
岸田政権の動きの鈍さとは対照的に岸本陣営は素早く対応した。12月23日の「岸本ようへい必勝事務所ニュース」(チラシ)には、「コロナから命を守る市政へチェンジ」と銘打って「米軍の外出禁止、米軍にも検疫法など、国内法を適用できるよう日米地位協定改定を強く求めていきます」と訴えた。「基地内のオミクロン株が従業員や住民へ拡大すれば、県民の心身を脅かす。絶対に看過できない」という玉城知事のコメントとともに、米本国から県内への軍人・軍属の移動禁止やキャンプハンセンの米兵の外出禁止も求めることで、知事と岸本氏が足並みをそろえていることも強調していた。
米軍基地発祥の感染拡大で日米地位協定の改定が名護市長選の争点として急浮上するなか、野党からも援護射撃があった。立民の泉健太代表は1月7日の会見で、地位協定改定を否定する岸田首相を次のように批判したのだ。
「これまた、総理の聞く力の限界を感じます。地位協定の改定は多くの国民が望んでいることではないでしょうか。そこに触れずに、要は国民の命よりも米軍の行動を最優先に考えるということであれば、残念ですし、私は先ほど話したように『2プラス2』(日米安全保障協議委員会)といった場でも真摯に地位協定の見直しを議題として挙げるべきだと考えています」。
日米地位協定改定を言い出せない岸田首相とイージス・アショアなど米国兵器爆買いを続けた安倍晋三元首相が二重写しになる。
「米国(米軍)ファースト・日本国民二の次」の両首相は瓜二つ。当時の安倍首相は「トランプ大統領の従属的助手」(ワシントンポスト)と酷評されたが、米軍基地由来の感染爆発から目を背けて米国にモノが言えない岸田政権(首相)も“米国下僕政治”を忠実に引き継いでいたのだ。
こうして与野党トップの日米地位協定改定に対する立場の違いが浮き彫りになった。このことが自公推薦の現職市長への逆風になる一方、野党系新人候補に追い風となったのは間違いない。安倍政権から続く自民党の“米国下僕政治”イエスかノーかが名護市長選で問われ、通常国会の論戦テーマにもなった。そして、七月に迫る参院選の大きな争点になることも確実なのだ。
・名護版モリカケ事件
再選された渡具知市政だが、「名護版モリカケ事件」と呼ぶのがぴったりの市有地売却問題(不正入札疑惑)も起きていた。
これに注目したのが、先の総選挙で甘利明幹事長(当時)の落選運動に成功した元検事の郷原信郎弁護士だ。タスキとのぼり旗も用意して、「市有地売却で新疑惑急浮上」「市長に新基地+近親者の影」などと記したチラシも作成、「全国国民が注目を!」と呼びかけたのである。
昨年12月に辺野古新基地予定地周辺の貴重なサンゴ群落をグラスボートで見た郷原氏は、防衛省が隠蔽していた軟弱地盤の大規模改良工事で、それらが壊滅の危機にあると実感。2兆円以上の巨費をかけても欠陥基地にしかならない可能性も指摘しつつ、「移設問題の議論には渡具知市長の落選しかない」と断言、環境破壊を伴う無駄な税金投入になりかねないとして、全国民(納税者)にも関係する重大な問題と呼びかけた。
そして、甘利氏の落選運動で「あっせん利得疑惑の説明責任を果たしていない」と指摘したのと同様、渡具知氏に対しても「義兄が執行役員を務める会社の『子会社』に優良市有地を売っていた」と問題視した。これが「名護版モリカケ事件」である。
森友事件では安倍元首相のお友だちだった籠池夫妻への優遇ぶりが国会で追及されたが、名護市でも市長の親族の関係会社が“特別扱い”をされたのではないかという不正入札疑惑が浮上、市議会に調査特別委員会(百条委員会)が昨年3月に設置されて、1年近く経った今も真相解明中なのだ。
この問題を追及する東恩納琢磨市議は、市の一等地にある旧消防庁舎跡地(約5000平方メートル)を指差しながら、次のような説明をしてくれた。
「2年半前の19年7月に市有地が売却されたのに、いまだに草がぼうぼうとはえている状態で、ホテル建設着工の見通しが立っていません。公募型プロポーザル(提案入札)で一億3000万円も高い買取価格をつけた地元業者『X社』(那覇市)が選ばれず、大和ハウス工業沖縄支店とアベストコーポレーションの共同企業体(JV)に売却されたあと、市長の義兄が執行役員の会社『(株)丸政工務店』(金武町)の子会社『(有)サーバント』に所得権が継承されたのです。何らかの政治的圧力が働いた可能性があります」。
実際、市長の後援会「とぐち武豊後援会」の会計責任者が市長の姉で、その夫(市長の義兄)が建設会社「丸政工務店」の執行役員だった。そして「丸政工務店」の代表取締役と「サーバント」の代表取締役が同一人物であることも登記簿で確認できた。
しかも子会社である「サーバント」は、丸政工務店社員の自宅を一部賃借した民家が所在地で、常勤者不在であることも、市議会での追及で明らかになっていた。現地を訪れると、民家にサーバントの看板が立てかけられているだけ。東恩納市議は「実態の乏しいペーパーカンパニーではないか」と首を傾げていたが、「こんな会社に優良市有地が1億円以上も安値で売却されていたのか」という疑問を抱いても不思議ではない質素な民家だった。
文書改ざんで赤木俊夫氏を自死に追い込んだ森友事件と重なることもあった。1月8日に名護市内で開かれた落選運動学習会では、郷原氏が東京からリモートで基調講演をしたが、冒頭で先の東恩納市議が二つのA4判文書を手に不正入札疑惑の核心部分を説明した。市有地売却の説明資料「事業スキーム(計画)説明書」が二種類存在していることが情報公開で明らかになり、市議会での承認に決定的な役割を果たしたことについて説明したのだ。
「一つが入札のプレゼンで実際に使用されたもので、もう一つが議会説明用に偽造されたと見られる文書。ここには名護市と大和ハウスJVが契約する事業スキーム図が示され、土地・建物を所有するのは『名護市を所在とする新設法人』としか書かれていなかった。市議たちは当然、JVが地元に新規法人を設立すると理解して承認をしましたが、実際には新規法人は設立されず、市長の親族関連会社『丸政工務店』の子会社『サーバント』が金武町から名護市に移転、市有地の所有権を継承したのです」。
これに対して、もう一つのプレゼン資料(情報公開で入手)には、「丸政工務店」の別の子会社である「ホクセイ」の名前が明記され、そこに名護市が土地を売却する事業スキーム図になっていた。「サーバント」と「ホクセイ」と会社が入れ替わっていたものの、市長の親族関連会社の子会社が土地・建物の所有者になる点は同じ。市議たちが「身内優遇策ではないか」と疑問視する重要事項を隠蔽し、虚偽文書を使って事実と異なる印象を与えて議会承認を得たとしか見えないのだ。
なお丸政工務店は、辺野古埋立用の土砂輸送業者で、子会社の「ホクセイ」も運搬船を所有して辺野古への土砂輸送で売上が急増。代表が同一人物の両社は、ともに辺野古埋立で恩恵を受ける業種であったが、市有地売却においても別の子会社「サーバント」が格安で一等地を所有することに成功していたようなのだ。
名護市が市長親族関連会社の存在を隠す議会用文書を作成した狙いは明白だ。「市と売買契約を結んだ大企業が地元新規企業を立ち上げ、地域住民を雇用するなどして地元にお金を落としてくれる」という近未来図を語って市議会を通すことである。東恩納市議が「市議会の承認を得た説明内容と、実際の事業スキームが食い違っていた。地方自治法には2000万円以上の不動産売買は議会の議決に付さなければならないと定めている。地方自治法上、『サーバント』への所有権継承について改めて議会にはかる必要がある」と主張しているのはこのためだ。
しかし市長側はこの要求を拒否。2種類の文書については「改ざんや偽造ではない。プレゼン内容に問題があったので議会承認前に修正してもらった」(担当者)と説明する。これに対して東恩納市議は「2つの文書の日付は同じで中身が違っている。偽造(改ざん)は明らかだ」と反論した。
1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。