【連載】無声記者のメディア批評(浅野健一)

高市早苗「放送法解釈変更」を追及せよ 安倍言論統制を放置 小西洋之議員叩きの異常

浅野健一

総務省の放送法行政文書を入手し、8年前の安倍晋三首相・高市早苗総務相と自民党によるNHKと民放キー局への言論弾圧を究明してきた小西洋之参院議員(立憲民主党)は、キシャクラブ社員記者の取材での「サル発言」とメディア批判が非難され、参院憲法審査会野党筆頭幹事、党の政調会長代理と参院政審会長の役職辞任に追い込まれた(役職は当時、以下同)。

立民の岡田克也幹事長は4月11日の会見で、小西氏の発言は党の名誉や信頼を傷つける行為で「申し開きできない」と断じ、注意措置とした。小西氏は同日、〈党幹事長からの注意措置を重く受け止め、深い反省の基に努めて参ります。失礼かつ不適切な発言について、改めて、衆院憲法審査会の先生方を始めとする皆様に深くお詫びを申し上げます〉とツイートした。維新・国民が立民に小西氏への処分を求め、御用新聞・ネトウヨによる批判を受けての党役職の辞任だ。

日本の企業メディアの大本営発表報道とネトウヨの無責任な言論は同根だと思ってきたが、自民党と安倍官邸が2014年から16年にかけて、テレビに言論統制を行なった経緯を示す文書が出てきて、高市早苗経済安全保障担当相の「捏造文書」発言もあったのに、文書を公表した小西氏を袋叩きにしているのだ。

こういう事態こそ、この国のキシャクラブメディアの大政翼賛化を示している。特に当事者であるテレビ局が、8年半前の自民党からの威圧文書に関し調査報道を一切行なわず、当時の言論弾圧をなかったことにしている。

一方、安倍官邸の命令で「放送法の公平性を1つの番組で判断」「違反のテレビ局の電波の停止」を国会で答弁し、総務省も公表した文書を「怪文書」「捏造」と強弁する高市氏は閣僚辞任・議員辞職もせず言いたい放題を続けている。

「紙の爆弾」5月号で書いたように、立民内で法の支配と護憲の立場を鮮明にして、安倍・菅義偉・岸田文雄各政権による特定秘密保護法・集団的自衛権の行使容認・戦争法など違憲の軍拡政策を理論的に批判してきたのが小西氏だった。

小西氏は参院憲法審の野党代表として、自民・公明・維新・国民・有志の会の5党派による「緊急時の議員任期延長」を名目にした“お試し壊憲”に抵抗し、衆参の憲法審では憲法改定より、自公政権の臨時国会招集権拒否・同性婚否定・入管法案などの「違憲調査」をすべきだと主張してきた。

壊憲党派と右派メディアは、小西氏が報道機関を威嚇・恫喝したと主張するが、小西氏が怖い存在であれば、これほど叩けるはずがない。逆に、テレビ各局は自公権力を恐れるからこそ、報道統制の実態を伝えないのである。

共同通信の中嶋啓明記者は「小西氏バッシングについては、小西氏のその後の言動も含めて、何が問題なのか、私はまったくわからない。何を大騒ぎしているのか、バカらしいという言葉以外、思いつかない」と述べている。

小西氏に議員辞職を求める常軌を逸した報道が続くなか、小西氏は発言・発信を自粛しているようだ。本来、千葉県選出の参院議員として統一地方選で立民候補者を応援するはずだったが、その活動にも影響が出た。特に政治資金規正法違反事件で昨年末に辞職した自民党の三浦健太郎議員(安倍内閣で総理補佐官・元読売新聞記者)の衆院千葉5区補選で十分に動けなかった。小西氏バッシング報道は、民主主義の根幹をなす選挙に対する妨害だった。

火をつけたのは共同通信配信記事だった
3月29日、参院憲法審査会の幹事懇談会後、国会内で「野党記者クラブ」の記者たちとの懇談(小西氏はオフレコ取材と認識)で、週1回の開催が定着している衆院憲法審査会について、「毎週開催は憲法のことなんか考えないサルがやることだ」「憲法学者でも毎週議論なんてできない。何にも考えてない人たち、蛮族の行為だ。野蛮だ」などと述べた。

正論だと思うが、小西氏は発言直後に記者団に対し、「サルは差別に当たる」として発言を撤回し、修正の意思表示をした。

これを、共同通信が同日午後5時45分、「衆院憲法審の毎週開催批判立民小西氏、サルに例え」(石井俊也記者)という見出しで速報した。

〈小西氏は憲法審について「憲法を真面目に議論しようとしたら毎週開催なんてできるわけがない。私は憲法学者だが、毎週議論はできない」と持論を展開。「いつ最高裁判決や外国の事例を研究するのか。衆院なんて誰かに書いてもらった原稿を読んでいるだけだ」と主張した。〉

産経新聞と日本経済新聞が共同通信の配信記事を電子版に掲載し、フジテレビ「FNNプライムオンライン」も報道。NHK、読売新聞も続いた。

これに対し、小西氏は同日に自身のツイッターで〈(発言は)オフレコで、特に『人にサルはいけないですね』と撤回していた〉と説明。また、産経新聞とフジテレビが憲法審査会の暴走状態に触れることもないままに「サル」発言を切り取って報じたことに対し、〈今後一切の取材を拒否する〉と宣言。

特にフジテレビに対しては、“第2のフジ”による被害を防ぐための抗議も含め、同局の〈昭和47政府見解の「外国の武力攻撃」の曲解という集団的自衛権行使が違憲か合憲かの国会審議の核心論点を放送してない〉という問題を採り上げ、これが放送法第4条の多角的論点報道に抵触しており、〈BPO(放送倫理・番組向上機構)等に告発することが出来ます〉とツイートした。加えて、NHKの同様の報道姿勢についても、〈受信料を徴収する法的資格がない〉と批判している。これらが報道機関への威圧・介入として報じられた。

さらに、総務省出身の小西氏がツイートで〈元放送政策課課長補佐に喧嘩を売るとはいい度胸だと思うが。。〉と半ば呆れ口調で書いたことを、「いい度胸だ」と、フジを脅すかに切り取り報道された。

これを受け、高市応援団・ネトウヨ・右派政治家が「小西は議員辞職しろ!」などと騒ぎ始めた。小西氏の憲法審への批判については、翌30日の同審で壊憲派である維新の三木圭恵衆院議員が「衆院憲法審に対する侮辱だ。憲法審として謝罪を求めるべき」と発言。国民民主党の玉木雄一郎代表も「与野党合意で真摯な議論を重ねてきた衆院憲法審への冒涜だ」。与党筆頭幹事の新藤義孝氏(自民党)も記者団に「憲法審は、お互いに尊重しながら国民の代表として議論する場だ。極めて遺憾」と述べた。

小西氏は30日、国会内で会見し、「サル」発言について、「発言の直後に息つく暇もなく撤回・修正の意思表示をしたが、発言の一部を切り取られた」と主張しつつ、「不快な思いをした方にはおわびしたい」と釈明した。また、自身の投稿について「私は名誉毀損を受けたという認識。非常に偏った報道で、一個人として対抗措置をとらないといけない」「顧問弁護士と相談している」とし、政治的圧力にはあたらないと強調した。ところが、記者会見での発言も“記者恫喝会見”と再び非難された。

小西氏は、自身の憲法審批判を報じた産経新聞に対し、〈昨年の衆院憲法審のオンライン出席の取りまとめは衆参の憲法審に招致した4名の憲法学者全員から議院自律権の濫用、つまり、憲法違反行為と批判されている〉という発言内容の記載や、「いつ最高裁判決や外国の事例を研究するのか」という発言になぜか「憲法の基本書」という大切な部分が抜けていたため、その冒頭にこれの追記も求めていた。その理由について、〈基本書とは大学の教科書等であり、憲法審の発言は1つの論点で複数の学者の基本書を読んで臨むべきものです〉〈私が産経記者にラインで求めたネット記事の追記修正は、名誉棄損等と認識する記事にせめてその被害を軽減するための緊急対応を求めたものであり、編集権の介入ではありません。なお、この記者とはこの数日前に別の記事の修正をラインで求め、社として真摯な対応を受けております〉と説明している。

小西氏を攻撃しているメディアは、小西氏が「取扱厳重注意」と記された文書を入手・公表したことを不当と非難した者と重なる。その勢力は、同性婚差別発言をした荒井勝喜首相補佐官(当時)について、毎日新聞の「オフレコ破り」を批判している媒体でもある。

小西氏を批判する各紙の記事に署名がない。産経新聞広報部は4月18日、私の質問にファクスで「最初に報じた記事は共同通信の配信だ。4月1日付以降、適時、紙面・画面で独自を含めた記事を掲載している。(小西氏と記者団とのやりとりは)『オンレコ』だった。(小西氏から修正要求を受けた)記者の名前は答えていない」と答えた。

朝日新聞が「メディア威圧」報道を引っ張った
小西氏が追い詰められたのは「サル発言」ではなく、朝日新聞が繰り返し「放送局を威圧する発言を繰り返した」と報道したことが原因になっている。

3月29日の「サル」発言の場に自社の記者がいなかったこともあり、朝日新聞はこの発言を当日には報じなかった。一方で31日、〈小西議員「放送法違反フジをBPO告発できる」憲法審めぐる発言報道「審議の核心論点放送せず」〉(筒井竜平記者)との見出しで、〈小西参院議員が、自身の発言を放送したフジテレビに対し、「放送法違反でBPO(放送倫理・番組向上機構)等に告発することが出来ます」などとツイッターで発信。内容は放送局への圧力ともとられかねず、妥当性が問われそうだ〉と報じた。

朝日新聞は4月12日付で、小西氏の「サル発言」を紹介し、立民の処分を報じたが、この発言と同時に、衆院憲法審でお試し改憲が進行していることに警告を発したことは伝えていない。

国会議員にも、違法不当な誹謗中傷報道に法的に対抗する権利がある。朝日新聞も安倍晋三記念小學院事件をめぐり作家などを提訴し勝訴した。三月二十八日には元朝日記者がガーシー元参院議員について書いた書籍(講談社)に対し、著作権侵害で抗議している。

小西氏はツイッターでこうも述べた。
〈フジの集団的自衛権の国会審議の核心論点の未報道について、偏向報道問題のため放送界自ら設置したBPOに提起可能と示したことを威圧や介入とするのは放送界などマスコミの自己否定にもなりかねないと心配します。〉

〈私の言論の自由を断固守る信条は一切変わりません。この度、私が(偏向報道を疑う1被害者としてやむなく)社会に示した放送界の自主機関であるBPOの活用は(私自身ではやりませんが)、その制度の本質の理解の基に、政治とマスコミの関係に最大限の配慮の上で行ったものです。〉

小西氏のフジテレビや産経新聞への抗議や追記・修正要求は、彼が認識する名誉毀損等への対応を求めたもので、メディアへの「威圧」や「介入」とはいえない。メディア側の総務省問題への対応との差をみても明らかだ。

自民党と官邸が内閣法制局にも諮らず、放送法第4条の公平性の解釈を変更した言論弾圧の問題と、政権反対党の議員がキシャクラブのメンバーに対し、正確な報道を要請するのは全く次元が違う。ところが朝日新聞などは、あたかも「サル」発言を報じたことの意趣返しとしてフジを放送法違反でBPOに告発できると述べたかのようにミスリードを誘った。

小西氏の「サル」発言の真意は、衆院憲法審で「議員の任期延長」の改憲を企図した毎週開催が、①昨年の衆参憲法審の4名の学者の衆院報告への「議院自律権の濫用批判等」にもある法の支配・立憲主義に違背、②憲法違反問題の国会法上の調査義務に違背する―ことなどを指摘するものだった。

3月30日、衆院憲法審の維新・国民・有志の会の代表3人が会見したが、これこそサルもやらない茶番劇だ。壊憲派の本丸は9条改憲だ。衆参の憲法審査会でやるべきは岸田政権の軍事3文書・原発活用などの違憲審査だ。

朝日新聞は5月1日から、毎月の購読料を500円値上げし、朝夕刊セットで4900円になった。前回の値上げからわずか2年余で2割アップ。社告では「本紙購読料改定のお知らせ」として、「民主主義の基盤となる正確な情報を伝える使命を果たし、よりよい紙面作りに全力を尽くします」と弁明。到底信用できるものではない。

維新議員は頻繁に「サル発言」
維新の馬場伸幸代表は4月13日の記者会見で、立民との国会での共闘凍結を継続する方針を示した。また、「立憲民主党は小西洋之さんを追及するチームを作ったほうがいい」と発言。小西氏を衆院憲法審に招致し、謝罪させるべきだとまで主張している。小西氏に代わって参院憲法審の野党筆頭幹事に就任した杉尾秀哉議員は、「なんで維新の人にそう言われなければいけないのか。ちょっとわからない」と苦言を呈した。

3月28日の馬場代表の「24時間選挙のことを考え、実行できる女性は少ない」といった発言こそ批判されるべきではないか。

日刊ゲンダイは4月13日号で、〈小西議員を批判できる? 国会で「サル芝居」を連発しまくる維新の面々〉と題し、維新議員がしょっちゅう「サル発言」していると報じた。馬場氏は2020年1月23日の衆院本会議で、「維新以外の野党は、政府のスキャンダル追及に余念がない。かれこれ4年近くにわたり、国民はできの悪い茶番劇、サル芝居を見せ続けられてきた」と発言。足立康史衆院議員に至っては国会で口癖のように「サル芝居」発言を多用してきた。

そんななか、文春オンラインが4月5日にアップし、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんの遺族と弁護団が翌6日に記者会見で公開した監視カメラ映像について、齋藤健法相は「国が証拠として提出し、これから裁判所で取り調べる映像の一部を原告側が勝手に編集し、マスコミに提供した」として問題視した。

遺族と弁護団が提供したのが問題だというのだが、これこそ法相によるメディアへの威圧、編集権への露骨な介入ではないか。国が裁判所に出した約5時間分(元は295時間)の映像は、名古屋地裁で閲覧手続きをすれば誰でも視聴できる。遺族側は18日、「姉の死後も真相を隠すあなた方に言われたくない」とする声明を出した。

映像は、人民の知る権利の対象だ。日本国に殺されたとしか言いようのないサンダマリさんの遺族と弁護士が自分たちの責任で公表したことを、「勝手に編集しメディアに提供」と非難するのは言語道断だ。虐げられる人の気持ちなどわからないのだろう。齋藤氏は即刻、法相を辞任すべきだ。

高市氏を公務員職権濫用罪違反で告発
私は仲間とともに4月6日、高市氏を刑法第193条の公務員職権濫用罪で東京地検特捜部に告発し、東京地裁の2階にある司法記者会で会見した。検察庁法改正に反対する会の共同代表である岩田薫・元軽井沢町議が中心になって作成した告発状を特捜部直告係の事務官に提出した。権力犯罪を監視する実行委員会の武内暁・田中正道両共同代表ら14人が告発人となった。

放送法の解釈の変更にからむ行政文書を「捏造」と言い切った高市氏が、行政文書の作成にかかわる公務員の職権を将来にわたり妨害した容疑だ。

〈刑法第193条は、「公務員がその職務を濫用して、人に義務のないことを行わせ、又は権利の義務を妨害したときは、2年以下の懲役又は禁錮に処する」と定めている。総務省職員が公文書として作成した全78枚の文書のうち、自身に関係した4枚について「事実ではない」と発言し、公文書作成という公務員の適正な義務を妨害したもので、同法により処罰されるべきだ。被告発人の一連の国会答弁は、この公務員の権利の行使を完全に妨害しており、同罪が成立する。検察官の厳正な処罰を期待する〉(告発状より)

司法クラブでの記者会見で岩田氏は「公務員が大臣へのレクチャーなどの記録行政文書としてまとめる行為はまさに職権に基づくもの。高市氏の一連の国会答弁は、この公務員の権利の行使を完全に妨害しており、公務員職権乱用罪が成立する。地検は告発を受理し、捜査してほしい」と話した。

私は(下咽頭がんで喉頭・咽頭を全摘したため電気式人工喉頭を使って)文書を公表した小西氏に対する「メディアへの“恫喝”」「編集権侵害」などという批判は不当だと強調。「テレビ各局は、8年半前の自民党からの威圧文書の現物も報道せず、当時の言論弾圧をなかったことにしている」と話した。

また「問題は安倍官邸・自民党による戦争法報道を巡る言論弾圧だ」と題した次のコメントを配った(抜粋)。

〈私は2002年から03年までロンドンで在外研究をしたが、英国ではエリザベス女王やブレア首相らが虚偽報道で被害を受けたとして報道苦情処理委員会(PCC)に申し立てをしていた。〉

〈英語圏では、「取材報道従事者は権力を監視するWatchDog(番犬)でなければならず、LapDog(愛玩犬)であってはならない」とされている。公務員が国会議員や報道記者に公文書を提供する行為を犯罪と攻撃する日本の御用新聞や保守系文化人はまさに「権力の犬」(れいわ新選組の議員が国会質疑で常用)と言うしかない。小西氏の発言の真意である、「議員の任期延長」のお試し改憲を企図した毎週開催が以下の点などで深刻な事態を生じていることの説明発言については報道されていない。報道各社は、小西氏への個人攻撃を止め、衆院憲法審査会の壊憲への危険な動きをきちんと伝えてほしい。〉

共同通信は午後5時、〈高市氏への告発状提出「捏造」発言で市民団体〉という見出しの記事(浅田佳奈子記者)を加盟社に配信した。記事に、〈高市氏の事務所は「告発を把握していないので、コメントのしようがありません」としている〉とあった。

岩田氏は「地検は4月11日、容疑の犯罪構成要件について具体的な特定をするよう書面で求めてきた。告発状を補正する。地検は職権濫用が特定でき次第に受理の運びだが、妨害を具体的に証明する必要がある。告発を報じたのは共同通信だけだ。公務員職権濫用罪は判断が難しいので、地検の動きを見ているようだ」と話した。告発を報じたテレビ局はゼロだった。

検証せず「影響ない」とTBS・テレ朝両社長
私は前号で、テレビ各局は8年前からの自民党と官邸による言論統制について検証すべきだと提唱したが、放送界は総務省文書で明らかになった自分たちへの弾圧に抗議もしていない。

行政文書にはテレビ朝日系「報道ステーション」の番組名が何度も出ているが、当時報道局長だったテレビ朝日の篠塚浩・現社長は3月28日の定例記者会見で、文書の内容についての評価を避けたうえで、「これまでも常に放送法に基づいて公平・公正な報道に努めてきたし、今後も同じように公平・公正な報道に努めたい。当時、何かがあったかというと一切ないし、現場への影響もない」と強調した。

礒崎陽輔首相補佐官(当時)らはTBS系「サンデーモーニング」を偏向番組と批判したが、TBSの佐々木卓社長は3月29日の定例記者会見で、「文書の中身の真偽は関係者の認識が分かれており、それを(正しいと)前提にしては答えられない。ただ、TBSは当時も今も自律的に、公平公正な放送に努めている。私たちの受け止めは、それに尽きる」と述べた。

TBS系「NEWS23」は3月29日、アナウンサーが23年度予算の参院通過を報じるなかで、「今国会のMVPは高市氏かもしれない」という仮名の自民幹部の発言を読み上げた。国会審議が高市氏の「捏造文書」発言問題に集中し、「岸田文雄総理はやりやすかったうえ、高市氏は逃げ切った」というのだ。もしそうなら、総務省行政文書が明らかにした安倍政権と自民党による言論弾圧を、TBSなどテレビ各局・キシャクラブメディアがきちんと報じなかったからだ。

小西氏の3月17日の参院外交防衛委員会での質問に、総務省の山碕良志審議官は「極端な(番組の)場合でも、1つの番組ではなく、それを含む放送事業者の番組全体を見て判断する」と答えた。

礒崎氏の「けしからん番組は取り締まる」という号令で始まった高市氏らの放送法解釈改変答弁(2015年)を全面撤回したのだ。

このことを朝日新聞は24日付の社説で書いたのみ。政治面では1度も書いていない。小西氏のメディア・バッシングは、放送法の公平性に関する違法解釈を撤回させた「言論の自由の救世主」を寄ってたかって誹謗中傷しているという異常な状況にあるのだ。

日本のテレビ各局に自公野合政権を鋭く批判するコメンテーター・文化人が出演しなくなったのは、安倍政権下での、高市総務相の国会での「電波停止」威嚇発言と、「1つの番組でも公平性を反対」という閣議決定からだった。テレビ界は総務省行政文書を再読し、文書に登場する人たちを取材し、安倍官邸による言論弾圧の犯罪を一刻も早く調査報道すべきだ。

(月刊「紙の爆弾」2023年6月号より)

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浅野健一 浅野健一

1948年、香川県高松市に生まれる。1972年、慶應義塾大学経済学部を卒業、共同通信社入社。1984年『犯罪報道の犯罪』を出版。89~92年、ジャカルタ支局長、スハルト政権を批判したため国外追放された。94年退社し、同年から同志社大学大学院メディア学専攻博士課程教授。2014年3月に定年退職。「人権と報道・連絡会」代表世話人。主著として、『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、講談社文庫)、『客観報道』(筑摩書房)、『出国命令』(日本評論社)、『天皇の記者たち』、『戦争報道の犯罪』、『記者クラブ解体新書』、『冤罪とジャーナリズムの危機 浅野健一ゼミin西宮』、『安倍政権・言論弾圧の犯罪』がある。

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