【特集】ウクライナ危機の本質と背景

来るべき「中国との戦争」とCNASの役割(下)―バイデン政権と最も近い関係にあるシンクタンクの内幕―

成澤宗男

最新鋭ステルス爆撃機B‐21の「利益相反」

そしてCNASは18年8月、「米国の隙間を埋める 遠距離貫通打撃」(注9)と題する、B-21に触れた長い論文を発表した。
著者はCNSASの元上級研究員で、CNASの「国防戦略と評価プログラム」の責任者だったヘンリー・ヘンドリックス。
原子力空母の勤務も経験した海軍将校出身で、現在の空母を中核とした海軍戦略に関する代表的な論客の一人だ。
この論文については、前出の『軍産シンクタンク複合体 CNASの利益相反』で、下のような問題が指摘されている。

「空軍は今のところ、B-21の100機購入を計画しているが、ヘンドリックスは『これらの投資では到底十分とは言えない』と論じ、他の兵器を新たに購入することと合わせ、軍が『購入計画を50機から75機追加する』ことから利益を得るだろうと提言した。
この論文のどこにも、B-21の製造メーカーが、当時のCNASの最高献金者であるノースロップ・グラマンである事実は明らかにされてはいないが、実際は2010年代の同社のシンクタンクへの献金額の大半がCNASに流れた」

「2019年に、空軍はB-21の一機当たりのコストが約6億5600万ドルになるだろうと計画していた。もし空軍がCNASの購入にあたり50~75機を追加するようにとの提言を採用したら、CNASの最大の献金者にとって328億ドルから4920億ドルの増収になるのを意味する。

……CNASの報告書が、空軍にB-21の購入を少し拡大させるよう説得するのにいささかでも役立つのなら、ノースロップ・グラマンはCNASへの献金からうまく利益を得るはずだ」

前項で触れた今年の連邦議会でのTTXを総括したCNASの文書「敵意 米国と中国共産党(CCP)の戦略的競争に関する下院特別委員会のTTX」でも、そこから導かれた24年度の国防権限法(NDAA)案に盛り込むべき要求項目の筆頭に、「爆撃機の機数維持」として「B-21の生産数を最大化し、急増する可能性のある(B-21の戦闘能力の)オプション評価を義務付ける」とある。

これで利益相反が指摘されなければおかしいが、ただ現在のところ空軍が当初のB-21購入機数を増大させる予定はない。
しかもヘンドリックスの論文全体では、B-21に関連する記述が占める割合は微々たるものだ。論文の趣旨は、「米国が超大国として留まりたかったら、進化した敵の防衛力を前にして突破と長距離打撃任務を実行する能力の再増強が必要になるだろう」として、主要には空母打撃群を中心とした海・空の戦力増強を提言している。

CNASが2018年6月に開催したシンポジウム。右側が、当時のCNASのスタッフで、現国防長官室コスト・プログラム評価(CAPE) ディレクターのスザンナ・ブルーム。その左隣が、世界一の軍事企業であるロッキード・マーチン取締役副社長(当時)のロバート・ウェィ。CNASは常に巨大軍事企業のために動く。

 

CNASが2018年6月に開催したシンポジウム。右側が、当時のCNASのスタッフで、現国防長官室コスト・プログラム評価(CAPE) ディレクターのスザンナ・ブルーム。その左隣が、世界一の軍事企業であるロッキード・マーチン取締役副社長(当時)のロバート・ウェィ。CNASは常に巨大軍事企業のために動く。

 

CNASは「政治腐敗」の元凶

ヘンドリックスによればここ20年間、中国やロシア、イランといった「敵」が「国境から米軍を押し戻し、米軍の戦闘力を限定化させるのを追求して接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力に投資している」ため、米軍の「支配を確立」するのが容易ではなくなったからだという。
そこにおいてB-21の購入増は、米軍の「再増強」において一部を占めているに過ぎない。

それでもノースロップ・グラマンは、かつて米国最大の軍艦メーカーであり、11年に造船部門を分離して誕生した現在のハンティントン・インガルス・インダストリーズは、ノースロップ・グラマン時代から引き継いだものも含め最新鋭のジェラルド・フォード級空母やアメリカ級強襲揚陸艦、バージニア級攻撃型原子力潜水艦等を筆頭に米海軍の艦艇の約7割も建造するという圧倒的シェアを誇り、ノースロップ・グラマンと資本提携している。

そのためノースロップ・グラマンにとっては、ヘンドリックスのような海軍力拡張の主張は大歓迎すべきであるに違いない。
また、CNASのサイトに掲示されている20年10月1日から21年9月30日までの支援者リスト(CNAS Supporters)には、ハンティントン・インガルス・インダストリーズが、10万ドルから24万9999ドルまでの額を献金した31の企業や公的機関、個人らの中に含まれている。

無論、「米国の公共政策を決定する上で決定的な役割を果たし」、「国民の世論を形成する上で広範な役割を演じている」(注10)シンクタンクの利益相反の問題は、CNASだけに限るのではない。
それでも政権の密着度と影響力、メディアに登場する頻度でとりわけCNASは「政治腐敗に対する深刻な懸念をさらに浮き彫りにしている」のも事実だ。

さらにオーストラリアの国際的なコラムニストで、歯に衣を着せない辛辣な米国とその主流メディアの批判で知られるケイトリン・ジョンストンは、次のように批判する。
「CNASは中国とロシアに関するあらゆることで、頻繁に権威ある情報源としてマスメディアに引き合いに出されるが、この組織が戦争マシーンからの資金供与で利益相反が生じていることについては何も触れられていない。
……CNASの利益相反を明らかにせず、戦争マシーンに資金供与されているシンクタンクを専門的な分析のように引用するのは、ジャーナリズムの不正な行為だ」(注11)

ジョンストンは「中国との戦争を大衆に当たり前のこととして吹き込むため、マスメディアはいまや公然と戦争マシーンのシンクタンクと手を組んだ」とも主張しているが、それほどCNASのメディアに登場する頻度は多い。
フロノイの新国防長官就任に猛反対した反戦団体コード・ピンクの共同設立者であるメディア・ベンジャミン(右から2人目)。米国の反戦派を代表する論客でもある。

 

フロノイの新国防長官就任に猛反対した反戦団体コード・ピンクの共同設立者であるメディア・ベンジャミン(右から2人目)。米国の反戦派を代表する論客でもある。

 

「バカげた議論」が支配的に

恐らく現在は、1961年1月17日の大統領退任演説で、「軍産複合体」の危険性を指摘したドワイド・D・アイゼンハワーの警告は時代遅れになったのかもしれない。
CIAの分析官出身で、政策立案者向けの機密文書である国家情報推定(National Intelligence Estimates)の作成にも携わりながら退職後、反戦運動の活動家に転じたレイ・マクガバンは、2016年から「軍・産・議会・情報機関・メディア・学界・シンクタンク複合体」(Military-Industrial-Congressional-Intelligence-Media-Academia-Think-Tank complex、MICIMATT)という用語を発案している。
(注12)今や官民の国家安全保障に関連するすべての機構・勢力が無比の巨大な「戦争マシーン」として一体化し、総力で「中国との戦争」に邁進しつつあるようだ。

その主要目的が、黄昏が見え始めた米国の世界一極支配の生死を賭けた維持であるのは疑いないだろう。
だがCNASが今やTTXを全米三大TVネットワークの一つを使って公開したり、下院議員に手ほどきするまでに存在感を高め、マスメディアでも露出度を高めながら専門家然として戦争が避け難いかのように「中国の脅威」を扇動する裏で、そうした所業に、戦争(あるいは戦争の準備)から巨万の利益を得るビジネスの意向に沿うことによって可能となる金銭的インセンティブが絡んでいるとしたら、実におぞましい光景ではないか。

CNASの創立者の一人であるミシェル・フロノイは、2020年の大統領選挙でジョー・バイデンが当選した前後から次期政権の新国防長官として最有力視され、結局ロイド・オースチンがその地位に就く寸前まで「初の女性国防長官」の誕生が期待されていた。
同時に、全米の反戦団体やリベラルな市民団体を中心に、同職に指名するのを止めるよう求める声が異例の規模で広がったのは記憶に新しい。

その代表格ともいえたのが、女性を中心とする反戦団体「Code Pink」の共同創立者であるメディア・ベンジャミンがパートナーのジャーナリストであるニコラス・デイビスと共に発した「ミシェル・フロノイは米帝国の死の天使になるのか」と題したメッセージであったろう。
そこでは、次のようにその「China hawks」としての言説が懸念されている。

「フロノイは、中国周辺の海や空における米国の軍事プレゼンスがさらに攻撃的になれば、中国を威嚇してその軍事プレゼンスを制限させることにより、戦争の可能性が高まるどころかむしろ低くなるなどというバカげた議論(absurd argument)を振りまいた。
彼女の主張は、米国のあらゆる軍事行動を『抑止力』とし、敵のあらゆる行動を『侵略』とする使い古された標語を再利用しているだけなのだ」(注13)

この指摘は、即CNASにも当てはまる。だが中国への「抑止力」と称しあらゆる戦争準備を正当化する「主張」は、現在の米国においてabsurdと見なされている形跡はごく乏しい。
むしろ「権威あるシンクタンク」の正論として議会に浸透し、メディアによって流布されているのみならず、敵愾心が助長された国民にも受け入れられているようだ。
そこでは、利益相反の問題など常に考慮外となる。

これもMICIMATTが、「終わりのない戦争のイデオロギー」(メディア・ベンジャミン)を盤石なものとしている、米国の今日的状況を象徴しているのかもしれない。

 

(注1)June 2022「Dangerous Straits:Wargaming a Future Conflict over Taiwan」

(注2)February 22, 2023「Avoiding the Brink:Escalation Management in a War to Defend Taiwan」

(注3)「U.S. GOVERNMENT AND DEFENSE CONTRACTOR FUNDING OF AMERICA’S TOP 50 THINK TANKS」

(注4)(注3)と同。

(注5)『The Military-Industrial-Think Tank Complex:Conflicts of Interest at the Center for a New American Security』

(注6)February 22, 2021「American primacy on the menu for big industry donors at CNAS」

(注7)(注3)と同。

(注8)January 28, 2022「How the B-21 Raider Would be Critical in a War with China」

(注9)September 10, 2018「Filling the Seams in U.S. Long-Range Penetrating Strike」

(注10)(注3)と同。

(注11)May 16, 2022「Pentagon-Funded Think Tank Simulates War With China On NBC」

(注12)「MICIMATT (Military-Industrial-Congressional-Intelligence-Media-Academia-Think-Tank complex)」

(注13)「Will Michele Flournoy Be the Angel of Death for the American Empire?」

 

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

ISF主催トーク茶話会:川内博史さんを囲んでのトーク茶話会のご案内

ISF主催公開シンポジウム:「9.11事件」の検証〜隠された不都合な真実を問う

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

1 2
成澤宗男 成澤宗男

1953年7月生まれ。中央大学大学院法学研究科修士課程修了。政党機紙記者を経て、パリでジャーナリスト活動。帰国後、経済誌の副編集長等を歴任。著書に『統一協会の犯罪』(八月書館)、『ミッテランとロカール』(社会新報ブックレット)、『9・11の謎』(金曜日)、『オバマの危険』(同)など。共著に『見えざる日本の支配者フリーメーソン』(徳間書店)、『終わらない占領』(法律文化社)、『日本会議と神社本庁』(同)など多数。

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ