【特集】終わらない占領との決別

占領管理法体系から安保法体系+密約体系へ(前)

吉田敏浩

4.占領後も継続する米軍特権

1951年9月8日にサンフランシコで対日講和条約・日米安保条約が調印され、翌年2月28日には日米行政協定(現:地位協定)も結ばれた。それらは52年4月28日に発効し、日本はひとまず主権、独立を回復することになった。

占領が終われば、「占領管理法体系」はなくなり、前出の「指令第2号」や「日本に於ける物資調達に関する覚書」など米軍の特権を保障した数々の連合国最高司令官の命令も、緊急勅令「ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件」も、それにもとづく「土地工作物使用令」などの勅令・政令なども効力を失う。

しかし、占領軍から安保条約にもとづく駐留軍へと国際法上の地位を変えて日本に居すわる米軍にとって、基地の継続使用、拡張や新設のための土地収用、日本への自由な出入りなどは絶対に必要だった。

そのためには、占領時代の米軍の特権を保障した「占領管理法体系」に代わって、同様の特権を保障する仕組みが必要となる。それが安保条約─行政協定─安保特例法・特別法という「安保法体系」なのである。

なお安保特例法・特別法とは、国有地を無償で米軍基地用に提供する国有財産管理法、米軍基地用に民有地を一定の手続きをへて強制使用・収用できる土地等使用特別措置法(駐留軍用地特措法)、米軍には最低安全高度・飛行禁止区域の遵守・夜間飛行の灯火義務・騒音基準適合証明の義務などを適用除外とする航空法特例法、米軍には保安技術基準や乗車定員や積載量の遵守・整備工場への立ち入り検査などを適用除外とする道路運送法等特例法、米軍の公用品や軍人用販売機関による輸入品などの関税を免除する関税法等臨時特例法、米軍の軍事機密の探知や基地への許可なしの立ち入りなどを禁じた刑事特別法など、行政協定(現:地位協定)の実施に伴い米軍の特権を保障する一連の特例法・特別法(計17)を指す。

日本における米軍の権利・法的地位を定めた行政協定の第25条では、日本政府はアメリカ政府に負担をかけずに、基地を提供し、土地の所有者や提供者に対し補償をするとされた。

それを受けて、国有地を無償で米軍基地用に提供する国有財産管理法が制定された。占領時代、国有地や国有財産の建物は「調達要求書」により米軍に無償で提供されていた。この占領下の特権の既成事実を、「占領法管理体系」から「安保法体系」への切り替えに合わせて継続するとともに、基地の拡張や新設のための国有地利用にも備えた法的措置がとられたのだ。

民有地の場合は占領時代と同様に、日本政府が所有者と賃貸借や売買の契約を通じて使用権を取得し、米軍に提供する方式をとることになった。占領時代に契約できない場合の強制使用に備えて制定されていた「土地工作物使用令」に代わる国内法上の措置が必要となった。それが土地等使用特別措置法である。

同法は、その土地を米軍基地にすることが「適正かつ合理的」であると総理大臣が認めれば、一定の手続きをへて強制的に使用・収用できる仕組みを定めた。やはり米軍特権の既成事実を、「占領法体系」から「安保法体系」への切り替えに合わせて維持し、基地の拡張や新設にも備えた法的措置だった。

この土地等使用特別措置法は米軍立川基地の滑走路拡張計画において、旧砂川町の農民の土地を強制収用しようとした日本政府により発動され、大規模な反対闘争(「砂川闘争」)が起きるなど、米軍用地の確保のために使われた。沖縄でも米軍用地の契約に応じない反戦地主の土地の強制使用のために使われている。

こうしてみると、連合国最高司令官の「命令」である「指令第2号」と「日本に於ける物資調達に関する覚書」、日本政府の勅令「土地工作物使用令」、行政協定第25条、行政協定(現:地位協定)の実施に伴う国有財産管理法と土地等使用特別措置法は、一連となって占領時代と占領後を結び、実質的に変わらぬ米軍特権を保障している。

※「占領管理法体系から安保法体系+密約体系へ(後)」は5月6日に掲載します。

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吉田敏浩 吉田敏浩

1957年生まれ。ジャーナリスト。著書に『「日米合同委員会」の研究』『追跡!謎の日米合同委員会』『横田空域』『密約・日米地位協定と米兵犯罪』『日米戦争同盟』『日米安保と砂川判決の黒い霧』など。

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