【連載】福島第一原発事故とは何であったのか(小出裕章)

第2回 福島原発事故の経緯

小出裕章

原子炉格納容器は、万一の場合に放射能の漏出を防ぐ最後の砦として設計された容器であり、どんなに過酷な事故が起きても決して壊れないはずの容器であった。そして原子炉が運転中には、その内部には窒素ガスが封入されていた。

何故なら、空気中には酸素が含まれており、万一の事故で、水素が格納容器内に漏れてくれば、爆発してしまうからである。そのため、原子力を推進する人たちは、事故が起きて水素が格納容器内に漏れ出てきても、水素爆発など決して起きないと考えてきた。

しかし、原子炉格納容器は、過酷な事故の進展によって損傷し、放射能も水素も可燃性ガスも原子炉建屋内に漏出した。原子炉建屋は原子炉が運転中も作業員が出入りするため、当然のこととして窒素ではなく、空気が充満している。格納容器から漏洩した水素と可燃性ガスはそこで爆発し、建屋を吹き飛ばした。もちろん建屋内に充満していた放射能も環境に撒き散らされた(図4参照)。

・原子炉建屋・タービン建屋の地下の損傷

原子炉建屋・タービン建屋は放射線管理区域である。その区域は外界と隔離されていなければならない。もちろん、地震に襲われても建屋は健全性を維持すると東京電力は言い、国も安全審査をしてお墨付きを与えていた。しかし、東北地方太平洋沖地震は、福島原発1号機から4号機の原子炉建屋、タービン建屋の地下を破壊した。

もともと大地を削って造成した敷地は事故前から大量の地下水が流れていた。そのため、東京電力は建屋周辺に井戸を掘り、そこから地下水をくみ上げていた。しかし、建屋が破壊されてしまったため、毎日400トンもの地下水が原子炉建屋・タービン建屋に流れ込んでくるようになった。

熔け落ちた炉心は、事故から11年経った今も、どこにどのような状態であるのか分からない。しかし、それを冷やし続けなければ、炉心は熔けてしまい、さらなる放射能放出が起きる。そのため、東京電力は事故後ずっと、もともと炉心があった場所めがけて水を送ってきた。その水は当然放射能で汚れた汚染水になる。

その汚染水はすでに損傷している格納容器から原子炉建屋に流出する状態になっており、そこに流れ込んでくる地下水と一体となって放射能汚染水がどんどんと増加してきた。東京電力は貯蔵用タンクを次々と建てることで、その汚染水を貯めてきた。2022年1月時点で、その量は130万トンに達している。

本来であれば、放射線管理区域である原子炉建屋やタービン建屋に地下水が流入することを許してはいけない。一刻も早く、地下に遮水壁を作るなどして、地下水の流入を止めるべきだったが、東京電力は凍土壁という壁を作ったが、その効果は限定的でいまだに一日当たり140トンもの地下水が建屋に流入している。どうしようなくなり、国と東京電力は放射能汚染水を海に棄てると言い出した。

人間に放射能を無毒化する力がないように、環境にも放射能を浄化する力はない。自分にできないからと言って毒物のお守りを環境におしつけることは間違っている。

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小出裕章 小出裕章

1949年生まれで、京都大学原子炉実験所助教を2015年に定年退職。その後、信州松本市に移住。主著書は、『原発のウソ』(扶桑社新書)、『原発はいらない』『この国は原発事故から何を学んだのか』『原発ゼロ』(いずれも幻冬舎ルネッサンス新書)、『騙されたあなたにも責任がある』『脱原発の真実』(幻冬舎)、『原発と戦争を推し進める愚かな国、日本』(毎日新聞出版)、『原発事故は終わっていない』(毎日新聞出版)など多数。

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