【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第31回 次第にテロ国家に移行しつつある ウクライナ「欧州最大の原発ザポリージャをロシア軍が攻撃」という報道の怪!!③

寺島隆吉

「ザポリージャ原発を攻撃!?」の続きを一刻も早く書きたいと思っていたのですが、私が高校教師をしていた頃の教え子が2人、「久しぶりに先生に会いたい」というので、8月末に拙宅で会うことにしました。

しかし、この間、 『コロナ騒ぎ謎解き物語1~3』 『ウクライナ問題の正体1・2』と、5冊も連続で本を出し続けたために、 荒れ放題の庭に手を入れる暇がなく、そのままになっていました。

せっかく神奈川から金と時間をかけて会いに来るのですから、少しは見られる庭にしておかないとと考え2日間かけて手入れをしました。そして生い茂った雑草を引き抜いていたら、あちこちに繁茂していた茗荷の根に思わぬ収穫物がいくつも見つかり驚喜しました。

「今晩の味噌汁になる!」というわけで、 教え子2人が(彼女たちは両方とも現在は公立小学校の非常勤講師)帰った今、やっと続きを書く時間ができたというわけです。連れ合いの教え子からも「早く続きを書け」と催促されているので、初めに一言お詫びの弁を書きたくなった次第です。

前回のブログでは、「欧州最大の原発ザポリージャをロシア軍が攻撃」という大手メディアの報道が、いかに非論理的であるかをみてきました。

そして、ロシアがIAEA(国際原子力機関)に「現地調査をしてゼレンスキーの主張が正しいかどうかを検証するよう」呼びかけても、国連事務総長がIAEAの調査を阻止する行動に出ていることも、紹介しました。

これはある意味、当然のことで、ザポリージャ原発の現地を調査すれば、そこがキエフ軍に反撃するための軍事基地になっていないことは、 一目瞭然になるからです。だからバイデン政権は国連事務総長に圧力をかけているのでしょう。

しかし、そのような無理押しは長続きしません。 「なぜIAEAは現地調査をしないのか」という声は大きくなっても小さくなることはありえないからです。

そこで遂に国連もそのような声に抗しきれず、現地調査を認めることにしたようです。

それを示すのがNYタイムズ(2022/08/29)による次の記事です。

UN assembles team for Zaporozhye nuclear plant – NYT(国連は、 ザポリージャ原発施設の調査隊を編制―NYタイムズ)

(副題)The mission to the Ukrainian power station comprises 14 experts “from mostly neutral countries,”according to the paper.(同紙によると、 ウクライナの発電所への派遣団は、 「ほとんどが中立国からの」14人の専門家で構成されている)
https://www.rt.com/russia/561665-un-zaporozhye-nuclear-ukraine/ Aug 28, 2022

この記事によれば、「14人の専門家」は次の各国から派遣された専門家だそうです。

①ポーランドやリトアニアといったウクライナ支援国
②セルビアや中国など、ロシアとより温かい関係にある国
③アルバニア、フランス、イタリア、ヨルダン、メキシコ、北マケドニアなどの中立国

しかし、どういう経路でザポリージャ原発施設に入るかについては論争があり、プーチン大統領はロシア経由で、ゼレンスキー大統領はウクライナ経由を主張しました。が、結局はキエフから入ることになりました。

プーチン大統領としては、ウクライナ経由だと途中でどんな妨害があるかも分かりませんからロシア経由を主張したのでしょうが、結局、そんな論争で時間を無駄にするよりも、一刻も早く現地を見てもらったほうがよい、ということで妥協したのだと思います。

とはいえ、現地を見てもらったら困るのはキエフ政権ですから、途中でどんな妨害があるか、いまだに予断を許さない状況が続いています。

追記:昨日(8月30日)の報道では、やっと国連の調査団がキエフ入りをしたようです。

すでに何度も述べていることですが、キエフ政権が原発攻撃に乗りだしたのは、それだけゼレンスキー大統領が追い詰められている証拠でしょう。

一つ間違えば、ドンバス2カ国を制圧しつつあるロシア軍だけでなく、ウクライナどころかロシアを含めた欧州全体が死の灰におおわれる可能性があるからです。

キエフ政権にしてみれば、ロシア軍およびプーチン大統領をこのような恐怖に追い込めば、自分たちの主張するように、原発周辺を非武装地帯にしてロシア軍をそこから撤退させることが可能になると思っているのかも知れません。

このように、自分を「何をしでかすかわからない国や人物だと思わせる」戦術を、「狂人理論」「狂犬戦術」と言うそうですが、これを櫻井ジャーナル(2016.10.22)は次のように説明しています。

リチャード・ニクソン米大統領は、他国を従属させるため、「アメリカは何をしでかすかわからない国だ」と思わせるべきだと考えた。

「触らぬ神にまた、イスラエルのモシェ・ダヤン将軍は狂犬のように行動しなければならないと語っている。祟りなし」だと思わせるという手口だが、それをロシアや中国に対しても使っ
ていることが全面核戦争の危険性を高めている。

ゼレンスキー大統領が正規戦で戦えば敗北することは目に見えていますから、原発攻撃という危険極まりない戦術を使っているのでしょうが、そのような戦術をキエフ政権に伝授しているアメリカは、一歩間違ってロシアや欧州全体が死の灰に覆われることになっても、一向に平気でしょう。

なぜなら、その場合でも、アメリカ本土にまで死の灰が回ってくるとは考えていないからです。それどころか、第2次世界大戦が終わる直前から、当時のソ連領土を原発で攻撃し、全土を破壊するという計画をもっていたのですから。

私はそのことを『ウクライナ問題の正体1』(193~200頁)で詳述しました。

1945年8月に行われた「米国のソ連に対する戦争準備」の記録によれば、「ソ連を地図から消す」ために、204個の原爆を66の主要都市に投下する計画だったのです。

幸いにも、この計画は実行に移されませんでしたが、このアメリカの恐ろしい姿勢は、66都市に留まりませんでした。何と当初計画の66都市は1956年に更新され、ソ連を含む東欧のソ連圏諸国の約1,200もの都市が含まれる計画に拡大されたのです。

2015年に初めて暴露された核攻撃の対象都市

 

この詳細は前掲書『ウクライナ問題の正体1』を見ていただきたいのですが、 2015年に機密解除された文書をもとに書かれた論文では、 上図のような地図すらも載せられていました。

このようなことを考えると、アメリカがウクライナという国と国民を「Cannon fodder(砲弾の餌食」として使って、大国アメリカの覇権を脅かす存在として復興しつつあるロシアを弱体化し、あわよくば殲滅したいと思っているのではないか、という邪推すら浮かんでくるのです。

かつてソ連が健在だったとき、ソ連軍をアフガニスタンに誘き出し、10年間も泥沼の戦いに引きずり込んでソ連を崩壊させたのと同じ構図です。

(このとき女性すら無料で大学に行けるという理想的国家を作りつつあったアフガニスタンも同時に崩壊し、イスラム原理主義勢力が跋扈する内戦状態に移行しました。 )

こうして1990年に崩壊したソ連は四分五裂しましたが、ロシアだけはプーチン大統領の指導の下に再び大国として甦ろうとしているのですから、これを絶対に許してはならないとアメリカが考えたとしても、十分に納得できます。ましてロシアが中国と手をつないで新しい世界秩序をつくろうとする動きがあるのですから、なおさらのことです。

それはともかく、今や敗戦を免れないと考えたキエフ政権が、「狂人理論」「狂犬戦術」に転じたのも、このような流れからすると当然の成り行きかも知れません。今やウクライナは「テロ国家」へと移行しつつあると言ってよいかもしれません。

今までは病院 ・ 学校 ・ 劇場などの公共施設を占拠して、そこに民間人を強制連行して「人間の盾」として戦う戦術をとっていたのに、今ではなりふり構わず民間人が集まる市場やジャーナリストが泊まっているホテルを平気で爆撃するようになっているからです。次の記事は、そのことをよく示しています。

Ukraine shells shopping mall in Donetsk – DPR officials(ウクライ軍はドネツク共和国の商店街を砲撃、と共和国政府幹部)
https://www.rt.com/russia/561440-ukraine-shells-shopping-mall-donetsk/ Aug 24, 2022

Today, Ukraine bombed a Donetsk hotel full of journalists – here’s what it felt like to be there(今日、ウクライナはジャーナリストで一杯だったドネツクホテルを爆撃、以下はその場に居合わせた私の報告です)
https://www.rt.com/russia/560241-ukraine-bombed-donetskhotel-journalists/ Aug 4, 2022、by Eva Bartlett

 

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寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

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