【特集】沖縄の日本復帰50周年を問い直す

日本復帰50年、沖縄問題は人権問題─今も続く日米の植民地主義と沖縄の自己決定権─(後)

新垣毅

4.有事の基地負担

ところで沖縄にとっての基地負担は、有事と平時に分けられる。

有事の場合は、米軍基地が集中しているがゆえに「敵国」から核攻撃の標的にされ、いざというとき島嶼地域のため住民は逃げられず、多大な犠牲を強いられる。

自衛隊を含めて沖縄の基地機能が強化されればされるほど、「敵」にとって脅威となり、狙われる可能性が大きくなる。有事を考えると機能強化は負担増となる。米軍普天間飛行場の辺野古移設計画では、現在の普天間飛行場にない機能である弾薬庫と軍港が新設される。これは基地機能強化であり、負担増である。

一方、政府はこの機能の面はひた隠しにし、うそをついてまでぎりぎりまで公表しなかった。垂直離着陸輸送機オスプレイの配備計画でもそうだった。政府の沖縄への負担軽減策は、海兵隊のグアム移転計画はあるものの、主に面積を減らす内容ばかりだ。

しかしその面積でさえ、ほとんど負担軽減は進まない。当時の翁長知事が、当時の小野寺五典防衛相に、普天間が辺野古に移って、嘉手納以南のキャンプキンザーや、那覇軍港、キャンプ瑞慶覧とかが返されてどれだけ減るかを尋ねたところ、全国の米軍専用施設が沖縄に集中する割合73.8%(当時)から73.1%、つまり0.7%しか減らないことが判明した。

なぜなら普天間の辺野古移設を含め、その大部分が県内移設だからだ。政府がやっている沖縄の基地負担軽減は、面積を減らす面でもほぼ軽減になっていない。

これまでの首相らが国会答弁で「沖縄の基地負担軽減に取り組む」と何度も述べてきたのはまやかしだ。内実は、「抑止力維持」を理由に、古い基地を沖縄県内で整理・統合して基地機能を高めること、すなわち再開発というリニューアルだ。こうして見ると、辺野古新基地建設や自衛隊の配備が進む沖縄では、基地機能が強化されているため、有事では「敵」から標的にされる主要な軍事拠点にされていることから、基地負担が増えているといえる。

5.平時の基地負担

次に平時の基地負担である。それは、殺人やレイプ、放火、ひき逃げなど米兵や軍属らによる民間地での事件事故、米軍機の墜落、部品落下、騒音、基地建設による自然環境破壊にまで及ぶ。

こうした事件・事故、出来事が起きると、すぐに問題となるのが日米地位協定の壁だ。地位協定は、日本の対米従属を示す象徴といえる。地位協定により、米軍に特権を与え、基地外の民間人の命や人権、自然環境よりも、米軍の運用を優先させることを認める内容になっているからだ。

例えば、米兵・軍属が事件を起こしたとしよう。地位協定は、米軍関係者の容疑者の身柄が米側にある場合、その身柄は起訴されるまでは米側が拘禁すると定めている。そのため日本の警察が身柄の引き渡しを米側に求めても拒否される例が後を絶たない。容疑者が訴追されないまま米本国に逃げる例もあり、公正に裁かれていないとの批判が根強い。

一方の米軍関係者には地位協定で自分らは守られているという自覚があり、それが犯罪の動機となっている側面がある。地位協定による特権は、米軍関係者の犯罪の温床になっている。米軍の中ではこんな言説が流布しているという。

「何かを犯してしまったら、基地のフェンスの中に逃げよ」。

日米地位協定により、米軍基地内には、日本の第一次逮捕権が及ばないことを熟知しているのである。

沖縄県の歴代知事は、日米地位協定の抜本改定を求めてきた。犯罪の動機を促す地位協定の特権こそ、沖縄側が「変えよ」と要求している側面なのである。

ところが、日本政府の対応はどうだろう。2016年4月28日に沖縄県うるま市であった米軍属女性暴行殺害事件をきっかけに、日米両政府は2017年1月、日米地位協定で身分が保障される軍属の範囲を明確化する「補足協定」を締結した。政府は締結を「画期的」として、犯罪抑止効果が全軍人に及ぶとの主張も展開してきた。

軍属の対象明確化で軍属の人数が「減る」ことも前面に打ち出していた。しかし次第に内容はトーンダウン。締結から4年後の4月、外務省は日米地位協定で守られる国内の米軍属の総数が1月13日時点で1万2631人だったと明らかにした。

このうち、米政府が直接雇用していない請負業者(コントラクター)の従業員は3183人。軍属の総数は前回発表した2019年9月12日時点に比べ1351人増、業者の従業員は同687人増加した。米政府が責任を負うべき地位協定上の特権を得られる軍属の人数削減を当て込んだものだったが、軍属の増加が続いている実態が浮き彫りになった。

沖縄側からの要求と比べれば、日米地位協定の抜本改定に取り組まない政府の議論は、枝葉の葉先のように映る。というよりも、やる気がないとしか思えない。対米従属を自ら選んでいるようにさえ見える。

一方の沖縄県による日米地位協定の改定案は米兵の刑事裁判手続きの変更や基地内の環境汚染対策の徹底など11項目でつくる。

2016年の名護市安部沿岸へのオスプレイ墜落事故で日本側が捜査できなかったことなどを踏まえ、米軍機の事故時に日本側が捜査し、財産を差し押さえられることや、現場統制を主導できるようにする内容も盛り込んだ。2017年10月に東村高江で米軍ヘリが不時着、炎上した事故でも日本側の捜査権が及ばない状態だった。事故の検証ができないのである。

事故原因を解明し、その原因を取り除く対策を打ってこそ、再発防止が可能となる。ところが、日本側は原因すら検証できないまま、同型機の飛行強行を追認してきた。かなり時間がたってから米軍側は事故原因などを報告するが、それはまるで、事故を起こした犯罪者自らの報告をうのみにするかのようである。地位協定はこうした従属関係を生んでいる。日本は本当に主権を有する独立国家なのだろうかという疑問さえ湧く。

沖縄側からすれば、すぐに基地が減らないのなら、まずは地位協定の抜本改定に取り組むことが、沖縄の基地負担軽減だという認識だが、改定をやる気のない政府の姿勢は、頻繁に口にする「負担軽減」がいかに欺瞞かを物語る。

本来ならば、県が要請するまでもなく、政府が地位協定の改定案を国民に示すべきだ。しかし1960年の地位協定締結以来、一度も改定されていない。政府の対米追従姿勢の結果と言うほかない。北朝鮮のミサイル実験や中国の軍事的台頭は、対米従属関係の一層の深化をもたらしている。その犠牲を強いられているのが沖縄だ。

中国や北朝鮮対策の一環で、沖縄での在沖米軍や自衛隊、海外の軍隊による訓練が激化しているのだ。うるま市や嘉手納基地などで、地元の反対を無視し、パラシュート降下訓練や、ヘリによるつり下げ訓練が強行されている。

US Marine Corps heavy-lift cargo helicopter.

 

地元自治体や沖縄県に対し、事前連絡がなかったり、直前に通告されたりするなど、米軍の横暴が繰り返されている。読谷村では1965年、パラシュート訓練で投下されたトレーラーに小学5年の女児が押しつぶされて命を落とした。

日本の対米従属を示す最近の問題を挙げると、泡消化剤に含まれる有機フッ素化合物(PFAS)の垂れ流し事故が挙げられる。

沖縄では国の暫定基準値を大幅に超えるPFASが米軍施設から流出する事故が相次いでいる。PFASは発がん性など健康へのリスクが指摘されており、国際条約で製造、使用、輸出入が制限されている。しかし、米軍の意向で、調査結果を公表されない、あるいは公表が大幅に遅れる事態が起きている。

例えば、2021年6月、うるま市の米陸軍貯油施設から有機フッ素化合物を含む汚染水が流出した事故で、国、県、米軍の3者が、約4か月前に出ていた調査結果を、いまだに公表していない(2022年1月時点)。結果は、貯水槽から採取した水から国の暫定指針値の約1600倍に上るPFASが検出されたにもかかわらずにだ。

県によると、公表について米側の同意が得られていないのが理由だ。日米地位協定を補う環境補足協定に基づく協議書では、立ち入り調査の条件として日米の合意に基づいて結果を公表することになっている。政府は米側の意向で公表を控えた事実はないとするが、理由を明確にしていない。

流出した水が高濃度で汚染しているにもかかわらず、公表しないのは明らかに人命軽視だ。立ち入り調査を含め、いちいち米軍に許可を求めなければならないのは、日米地位協定が米軍の排他的管理権を規定しているからである。本来なら、米軍の同意がなくても立ち入り調査をし、速やかに結果を公表できるよう地位協定を抜本的に改定すべきである。

2020年4月には、米軍普天間飛行場でPFASを含む大量の泡消火剤が基地外に流出した。この時も調査結果が出てから公表まで約5か月要した。2019年8月と20年1月には同飛行場で、非公表の泡消火剤流出事故が2件起きていたことも琉球新報による米国への情報公開請求で判明している。

日米は2015年に環境に関する補足協定を締結している。事故を防止したり、人身への影響を回避したりするための対策には、基地内への立ち入り調査と速やかな公表が欠かせない。しかし環境補足協定に基づく立ち入り調査は米軍の許可が前提で、調査結果の公表も米側の同意が必要とされるため、県は「環境補足協定が足かせ」との認識だ。

補足協定締結の際、当時の安倍晋三首相は「事実上の地位協定の改定だ」と自画自賛した。しかし補足協定の限界が既に鮮明だ。事故の原因者でありながら調査結果の公表に同意しない米軍は、傲慢極まりない。その米軍に立ち入り調査や公表について裁量権を与えている日本政府も問題である。一方の県も「合意を破ると、次回から立ち入りができなくなるかもしれない」と弱腰だ。これでは政府も県も住民の命や健康を守れない。無責任である。

ドイツでは自治体が駐留米軍に予告なしで立ち入る調査権を持つ。国や県が米軍の顔色をうかがい、主体的に対応できないのは極めて異常である。政府や県が国民の命や健康を守る責任を果たすには、地位協定を抜本的に改め、従属関係を解消するほかない。

新型コロナウイルスの感染拡大を巡っては、米軍由来とみられる感染が相次ぎ、沖縄県内で爆発的に増える事態が起きている。しかし、日本政府は検疫を免除している地位協定を変えて国内の検疫制度を適用することをせず、外出禁止の対応もできない。

これでは、県民がいくら頑張ってコロナを封じ込めようとしても、米軍基地のゲートがぽっかり空いている限り、感染流入は防げず、県民の命や健康が危険にさらされる。これは平時における新たな基地負担と言えよう。過度な基地集中によるリスクなのだが、米軍に気遣う日本政府の弱腰姿勢が際立っている。沖縄が犠牲を強いられている一面と言える。

平時の沖縄では、こうした不条理が後を絶たない。沖縄からは「日米同盟の深化」の危うさがよく見える。日本国民であるはずの沖縄県民の命や人権、豊かな自然などを犠牲にし、さらに民意を無視した「同盟」など、砂上の楼閣にすぎない。「同盟」という名の従属のつけを払わされ続けている沖縄は植民地の光景を呈している。

 

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新垣毅 新垣毅

琉球新報社編集局次長兼報道本部長兼論説副委員長。沖縄県生まれ。琉球大学卒、法政大学大学院修了。沖縄の自己決定権を問う一連のキャンペーン報道で2015年に「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」を受賞。

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