第34回 キエフからの激しい攻撃の下、恐怖にもめげず住民投票に向かうドンバス市民
国際ウクライナのドンバス地域(ドネツク・ルガンスク人民共和国)と、ヘ ルソン州、ザポリージャ州では、9月23日からロシアへの編入の是非を問う住民投票が開始します。
これについてオンライン紙『Sputnik日本』(9月20日)は次のように報じていました。
ドネツク・ルガンスク人民共和国の投票用紙には、「(自身の)共和国が連邦の構成要素とし
てロシアに編入されることを支持するか」という質問が書かれている。
ヘルソン州とザポリージャ州では、「ウクライナから離脱するか、独立国家を作るか、ロシ
アに編入することを望むか」という3つの質問が書かれている。
ドネツク・ルガンスク人民共和国とヘルソン州とザポリージャ州で質問が違うのは、前者は、2014年にキエフにクーデター政権ができた時点で、 住民投票を行い、すでに独立国家として歩みを始めていたからです。
それを2014年2月の時点でロシアが国家として承認していますから、今度はそれらの国の国民がロシアへの編入を望むかどうかだけの国民投票になるというわけです。
他方、後者の方は、まずウクライナから離脱し「特別自治区」になるか、それとも「独立国家」になるか、それとも「ロシア連邦の一員になるか」の選択から始めなければならないというわけでしょう。
このように住民の意思を尊重する民主主義的手続きを踏んでいることに注目したいと思います。EUやアメリカは、「茶番だ」 「ごまかしだ」と言って批判していますが、アメリカとNATOがユーゴスラビアを爆撃し、セルビアからコソボを力尽くで「独立」させたやり方と比べてください。どちらが民主的かは歴然としています。
また『Sputnik 日本』は同じ記事で次のようにも書いています。(太字は寺島)
ドネツク、ルガンスク人民共和国は9月19日、ロシア連邦への編入を望むとの考えを示した。そして同日、 ヘルソン州とザポリージャ州で編入の是非を問う住民投票が実施されることが発表された。
これらの領土の一部はウクライナの支配下にあるが、パスポートを見せるだけで誰でも投票できる予定だという。また、現地からロシアに避難してきた人々も、用意された投票所での投票が可能。
投票は27日まで行われる。ドネツク人民共和国では150万人、ザポリージャ州では50万人以上、ヘルソン州では75万人以上が投票するとみられている。
投票所では、外国人を含むオブザーバーが投票のプロセスを監視する。投票結果は投票後の
5日以内に発表される予定。
これを読めば、この住民投票が国際監視団の下でおこなわれていることが分かります。
この点でも、この住民投票がいかに世界に開かれた公明正大な手続きの下で行われているかが分かるはずです。
そこで調べてみると、次の記事でその詳しい状況が報告されていることを発見しました。
*Kiev’s Bloody Attempts to Disrupt the Referenda (キエフは住民投票を破産させるために血なまぐさい攻撃を試みている)September 24, 2022 by Internationalist 360°
https://libya360.wordpress.com/2022/09/24/kievs-bloody-attempts-to-disrupt-the-referenda/
この記事には国際監視団にインタビューした動画がツイッターに載せられていて、現地で取材した女性記者フィオレラ・イザベル(Fiorella Isabel)による次のような解説が付いていました。
フランス、 カメルーン、 カザフスタン、ラトビアの外国人監視員7名がDPR(ドネツク人民共和国)の投票プロセスを視察。フランス人道協会の会長は、「私はザポリージャ原発地区で爆発を聞いた…ドンバス地域の人々の苦しみをこの眼で見た。まさにドンバスの人たちはウクライナ武装勢力の犠牲者である」と語った。
これはイザベル記者がドネツク人民共和国の大使館が投票所になっている場所でインタビューしたものです。
ですから、監視員は「フランス、カメルーン、カザフスタン、ラトビアの外国人監視員7名」になっていましたが、他の地区では別の国から来た監視員が入っています。このような実状を欧米や日本の大手メデ ィアは、全く知らないのではないでしょうか。
それはともかく、前頁と上の動画は、イザベル記者が、監視団の一員すなわちフランス人道協会の会長およびカメルーン大使館随行員にインタビューしたものです。カメルーンからの女性監視員は次のように語っていました(上の動画)。
私の専門は外交と政治です。だから私の任務は非常に重要です。私の仕事は、ここで行われている全てのことが民主的手続きと国際法にしたがっておこなわれているかを確認することです。 そして、まさにそれが事実であることを自分の眼で確認しました。
この動画の下にインタビューのURLを付けてあります。 1分たらずのものですから、ぜひ見てください。英語字幕ですが一時停止すれば容易に理解できる英語ですから。
また先述の記事では、カナダ人女性ジャーナリストとして有名なエバ・バートレット記者がさらに様々なひとたちにインタビューした動画も解説付きで載せられています。
これを見ると、欧米のメディアが「軍隊や警察を使って住民に強制的に住民投票に行かせている」と言っていることが、全くの嘘であることが分かります。それどころか参加者のほとんどは口々に「8年半も私たちはこの日を待ち望んでいた。やっと毎日、砲撃されて脅えながら地下生活をする日々から解放される」と言っています。
上の動画もやはりエバー・バートレットがインタビューしたものです。
この女性は「日常生活はどうですか」と聞かれて、「毎日が恐怖です。聞こえますか、この砲撃の音が。回りの市民が殺されると胸が悪くなります。私たちを銃撃・砲撃しているのは、かつての同胞ですよ」と答えています。
また次の動画は、 砲撃の中で投票に行くのが怖いので自宅に籠もっている人を自家用車で投票所まで送る活動をボランティアでおこなっている男性です。
怖くないですかと尋ねられて、 「今は慣れました。しかしドローンで空からバラ撒かれる蝶型地雷には参りますね」と答えています(上の動画を参照)。
また、なぜこのような活動をしているのかと聞かれて、 「一刻も早くロシアに加わりたいから。ウクライナ国粋主義の連中(the Ukrops )にはうんざりしているからね」と答えていました。
アメリカが裏で画策したクーデター政権を認めないとしてドンバス2カ国が、 2014年に独立宣言をしたわけですが、これは国家の主権を守るという意味では当然の行動でした。が、それに対するキエフからの攻撃は凄まじいものでした。
その時の大統領だったポロシェンコが次のように演説したことは『ウクライナ問題の正体1』(100頁)で紹介したとおりで、本書42頁にも再掲しました。
私たちの子どもは毎日、学校や保育園に通う。
だが彼らの子どもは地下室や洞窟で暮らすことになる。
(この動画は左記URLで見ることができます。25秒程度ですからぜひ見てください)
https://www.youtube.com/watch?v=sNgZAu4QFOY
つまり、2014年からドンバスの人々は、このような生活を強いられてきたのです。
このようにドンバスへの攻撃は2014年から続いているのです。
ところが大手メディアは、これまでも繰り返し述べてきたように、「ウクライナ危機」は2022年2月にロシア軍がウクライナに進攻した時から始まったかのように描いてきました。
今やドンバスで住民投票が始まったのですから、キエフ政権によるドンバスへ の攻撃は強まることはあっても弱まることはないでしょう。
最近でもザポリージャ州で爆発事故が起きたように、いつどんな形でキエフ政権による妨害行動が起きるか分かりません。なぜなら、この住民投票が成功するかどうかは、今後の戦況に大きく影響するだけでなく、世界の地政学を揺るがす状況をつくり出すからです。
今まではキエフ政権がドンバス地区を攻撃しても、それは一種の「内戦」と見做されてきました。しかし住民投票でロシア編入が決まれば、それらの国への攻撃はロシアへの攻撃と見做されます。
つまりロシア軍は、「特別軍事作戦」 「限定的戦争」として、自らの軍事行動を縛ってきましたが、今後はそのような縛りから解放されることになります。
その証拠に、アメリカは今まで、キエフ政権に長距離のミサイルを提供しても、「そのミサイルでロシア領土内の標的を攻撃してはならない」と、強く釘をさしてきました。
そんなことをすれば、ロシアがアメリカ領土の標的を攻撃してもよいことになるからです。それは今まで一度もアメリカ国内を外国軍から攻撃されたことのないアメリカにとっては大きな恐怖になるでしょう。バイデン大統領にとっても、それは一大事です。
事実、ロシアのメドベージェフ前大統領は22日、「住民投票でロシア編入が認められれば、ドンバスへの攻撃はロシア本土への攻撃と見做し、あらゆる手段を使う」と警告しました。
国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授