【連載】ウクライナ問題の正体(寺島隆吉)

第34回 キエフからの激しい攻撃の下、恐怖にもめげず住民投票に向かうドンバス市民

寺島隆吉

*Donbass referendums will change security reality–Moscow(ドンバスの住民投票は安全保障の現実を変える-モスクワ)

(副題)Russia will respond to attacks as an assault on its territory if they vote to come under its control(ドンバス住民がロシア編入に同意した場合、 ロシアは、 ドンバスへの攻撃は自国領土への攻撃として対応することになる)
https://www.rt.com/russia/563417-donbass-referenda-security-game-changer/ Sep 23, 2022

ロシアは有人宇宙船を打ち上げるロケ ット・エンジン技術をもっているのに、アメリカはいまだにそのエンジンをロシアから借用しているという状態なのですから、いざ全面戦争になった場合、どちらが有利か歴然としているのではないでしょうか。

メドベージェフ前大統領の言を受けて、日本の大手メディアは、「ロシアが核兵器を使う」と言ったかのように宣伝しています。

が、「核兵器の先制的使用もありうる」と一貫して言い続けてきたのはNATOを支配するアメリカでした。ワシントンポスト紙(WaPo)の次の記事は、そのことをよく示しています。

今回もホワイトハウスは、それとはなしに核兵器の使用を暗示して「最悪の場合を考えろ」とクレムリンを脅迫したと報じているのです。

*US privately warned Russia about nuclear weapons –WaPo(米国はロシアに核兵器について内々に警告していた-ワシントンポスト紙)
https://www.rt.com/news/563393-us-nuclear-warning-russia/ Sep 23, 2022

それに対してロシアは、「そちらが核兵器を使うというのであれば、こちらも使う権利がある」と言っただけなのですが、それを「逆に描く」「白を黒と言いくるめる」のは西側メディアの一貫して変わらない報道姿勢です。

これまでロシアは、「いざとなったら核兵器を使うぞ」とアメリカに脅されると腰が引けていたので、元アメリカ財務次官ポール・クレイグ・ロバーツは、ロシアを「腰抜けのプーチン、お人好しのロシア人」と揶揄してきました( 『ウクライナ問題の正体1』159頁)。

そのように半分、馬鹿にされてきたロシアが、ここでやっと毅然と反撃する姿勢を示したのですから、ロバーツ氏もホッとしているかも知れません。

というのは、この間一貫して、ウクライナ側がアメリカの指導を受けて、ロシアを不安定化し、NATOをモスクワとの全面戦争に引き込むことを企んできたことが、流出した文書で暴露されているからです。

*Leaked Documents Expose Ukrainian Attempts to Destabilize Russia and Draw NATO into a Full-Scale War with Moscow
「流出した文書は暴露する―ウクライナはロシアを不安定化し、NATOをモスクワとの全面戦争に引き込むことを企んだ」( 『翻訳NEWS』2022/09/26)
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1058.html

ですから、ロシアでプーチンに対する反対運動が広がっているというニュースが、大手メディアでしばしば流されていますが、その反対運動は、CIAやキエフ政権の諜報機関による不安定化工作の結果ではないかとも疑われるのです。

このようにロシアの不安定化工作に邁進してきたアメリカとキエフ政権が、このまま無事に住民投票を成功させるとは考えられません。

その証拠に、つい先日、欧州最大の原発があるザポリージャで爆発事件があったばかりです。ヘルソン州でもジャーナリストが宿泊していたホテルがミサイルで爆破されましたが、幸いにも狙われたジャーナリストとカメラマンは奇跡的に無傷で逃れました。

が、アメリカがクーデターでつくりあげたファシスト政権と決別して、そこに同宿していた元ウクライナ中央評議会(Rada)委員は死亡しました。

これを報じているのが次の記事です。

*Kiev’s NATO-Backed Terrorist Attack in Kherson Was a Strike Against Democracy & Journalism(キエフのNATO支援によるヘルソンでのテロ攻撃は、民主主義とジャーナリズムに対する攻撃であった)
https://libya360.wordpress.com/2022/09/25/kievs-nato-backed-terrorist-attack-in-kherson-was-a-strike-against-democracy-journalism/ September 25, 2022、Internationalist 360°

この記事は、事件の性格を次のように論評していました。

 

皮肉なことに、西側諸国とその代理人たちは、 「民主主義と報道の自由を支持する」 と主張す
ると同時に、地政学上の敵である 「ロシアがそれに反対している」 と主張している。

が、キエフの最新のNATO支援によるテロ攻撃は、 この言説の裏にある悲惨な真実を露呈している。

現実には、 民主主義とジャーナリズムが自分たちの利益に反する形で行使されるたびに、それを憎み、住民投票の取材中にジャーナリストが宿泊しているホテルへの攻撃を実行するのは、西側諸国とその代理人たちなのである。

ドンバスで取材していたジ ャーナリストが狙われたのは今回が初めてではありませんでした。それを報じたのが次の記事です。

*Today, Ukraine bombed a Donetsk hotel full of journalists – here’s what it felt like to be there
「今日(8月4日)、 ウクライナは多くの記者が滞在していたホテルを砲撃。現地からの報告」
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-1019. html(『 翻訳NEWS 』2022/09/10)

これを報じたのが先にも紹介したカナダ人の有名な若い女性記者エバ・バ ートレ ッ トですが、この記事の副題は次のようになっていました。

*Another attack from Kiev has hit central Donetsk, targeting a funeral and a hotel where numerous reporters stay and work(多くの記者が滞在し活動していたホテルと葬式を標的に、キエフ当局はドネツクの中心地に更なる攻撃を加えた)

カナダ人ジャーナリスト、エバ・バートレット

 

エバ・バートレ ットはキエフ政権が暗黙で公認している「暗殺リスト」に載せられている人物ですから、CIAが情報を与えて、このホテルを攻撃させた可能性があります。

あるいは、それ以前に、ウクライナ軍もあらかじめ、このホテルに目を付けていたとも言えます。

ちなみに、この「暗殺リスト」はウクライナ語でMirotvorets(ミロトウォレッツ)すなわち
カナダ人ジャーナリスト、エバ・バートレット「Peacemaker(平和の創造者)」というふざけた名前が付けられています。

確かにキエフ政権の腐敗堕落・戦争犯罪を追及する記者を抹殺すれば、ゼレンスキー大統領の心も「安心」と「平和」を取り戻すでしょう。実に見事な命名だと感心します。

それはともかく、バートレット記者は、この事件を次のように報告しています。少し長くなりますがお許しください。これくらい引用しないと現場の臨場感が伝わらないと思うからです(和訳は寺島)。

 

砲撃が開始されたとき、私は自分の部屋で前日に撮った映像の編集作業をしていました。ドネツク地方での別の砲撃後の映像の編集作業です。

ほとんどの西側メディアが報じていないので、ご存知ないでしょうが、ここでは爆発は日常的に起こっています。ですから私は、砲撃の騒音がいつもより大きいことと、車からの警告音が鳴り響いたこと以外はあまり気になりませんでした。

その7分後、 もうひとつの爆発が起きましたが、 それは前のものよりもずっと大きな音がし、ずっと近くで起こったものでした。窓から見ると、煙が北側に向かって上がっていました。そ
れはおそらく200m先でした。

爆発したのはオペラハウスのすぐ近くのようでしたが、そこでは、昨日戦死したドネツク人民共和国(DPR)のオルガ・カチュラ(Olga Kachura)大佐の葬儀が開始されようとしていました。

 

御覧の通り、何と、この攻撃は葬儀がおこなわれているところを狙ったのですから、それだけでも戦争犯罪ですが、もうひとつは「報道の自由」を抹殺しようとしたのですから、二重の意味で「人道に対する罪」と言えるでしょう。

バートレ ット記者は更に続けて砲撃された現場について次のような分析を加えています。
ある記者は撮影に行く準備をしていたとき最後の砲撃があった地点から約10m離れたところにいました。

「奴らは葬儀を狙っていたと思うよ。それと記者たちもね」とその記者は話し、さらに、「脚を失くした女性を外で見たが、おそらくその女性はもう亡くなってしまっただろう」とも言っていました。

ウクライナ軍はカチュラ大佐の葬儀だけを標的にしようとしていたと考える人もいるかもしれません。そうすることでDPR軍やDPR軍を支持する市民たちに警告を発する目的だったと。

それだけでも非道な行為ですが、記者たちが滞在していたホテルも、ただ「巻き込まれただけ」だとは思えません。

というのも、ウクライナは常に、メディア関係者を迫害し、検閲を加え、投獄し、虐待し、標的にしているからです。そうするために、私たちを「殺害すべき人物リスト」にリストアップすることまでしています。

 

さらにバートレット記者は、無人機ドローンを使って空からバラ捲かれている「蝶型」の「対人地雷」についてもまた、次のように説明していました。

 

街の中心地に位置しWiFi環境も安定して整っているので、このホテルにたくさんの記者たちが滞在しているのを、ウクライナ軍は把握しています。

さらにここに滞在している記者たちは、ドネツク近辺の他の都市に滞在している記者たちと多くの記者がホテルの外でライブ配信をすることも頻繁にあります。

同様に、ウクライナ側が国際的に使用が禁じられている「蝶型」対人地雷という卑劣な地雷を
ドネツクに投下していることを大きく報じています。

その地雷が投下されたのは、ほんの少し前のことです。ごく最近です。今日も行われています。これもウクライナ側が犯している戦争犯罪のうちのひとつです。

これらの地雷は人間の手足を吹き飛ばすために作られたもので、ウクライナは繰り返しこの地雷を搭載したロケットを発射し、意図的にドネツク市内やその他のドンバス人民共和国内の一般市民の居住地に投下しています。

地雷はすでに「対人地雷禁止条約(オタワ条約、1999年)」という国際法で禁じられているはずなのに、アメリカもNATOも、このようなキエフ政権の非道な攻撃ぶりに、目をつむっていますし、大手メデ ィアもいっさい報じてきませんでした。

バートレット記者の記事は最後を次のように結んでありました。

 

ウクライナが今日の攻撃で使用したのは、 NATO基準の155ミリ口径の武器だと言われています。それが本当であれば、 ウクライナが西側の供給した武器を使って、ドネツク人民共和国およびルガンスク人民共和国の市民たちを殺害し、負傷させた、もうひとつの新たな事例になります。

記者たちがたくさん滞在していたホテルを砲撃することで、ウクライナ当局がウクライナによる戦争犯罪を報じている記者たちの活動を遮りたいと考えているのであれば、それは無駄なことです。

ほとんどの記者たちにとって、現地でそのような活動に従事している理由は、現地の人たちの生命を真剣に気遣っているからです。

自分たちのほうで戦争の原因を作っておいて、戦争の被害を受けた人々を見て 「鰐の涙」(嘘
泣きの涙)を流している西側陣営とは違うのです。

 

ロシアを悪魔化するのに熱心な日本の大手メディアは、なぜ現地に特派員を派遣しないのでしょうか。

あるいは大手メディアにそんなことを期待するのが無理だとすれば、独立ジャーナリストで何故ドンバスに行こうとする人物が出てこないのでしょうか。

かつてのイラク戦争と現在のウクライナ戦争と、どこが違うというのでしょうか。何が独立ジャーナリストを縛っているのでしょうか。

ドンバスにはバートレット記者だけでなく、多くの若い女性ジャーナリストが、世界各地から、命をかけて出かけてきているのに、日本人記者の姿が全く見えません。不思議なことです。

いずれにしても、ドンバスの住民投票が成功することを願ってやみません。

(寺島隆吉著『ウクライナ問題の正体3—8年後にやっと叶えられたドンバス住民の願い—』の第8章から転載)

 

ISF主催トーク茶話会:八木啓代さんを囲んでのトーク茶話会のご案内 

ISF主催公開シンポジウム:東アジアの危機と日本・沖縄の平和

 

※ウクライナ問題関連の注目サイトのご紹介です。

https://isfweb.org/recommended/page-4879/

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。

ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」の動画を作成しました!

1 2
寺島隆吉 寺島隆吉

国際教育総合文化研究所所長、元岐阜大学教授

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ