「ピースボート世界一周の船旅」③ 「台湾有事」を巡る国際交流

与那覇恵子

知る人ぞ知る「ピースボート」だが、その真髄は他国を知ることで自国への理解を深め、平和についての学びを通して日本の平和に貢献できる1人になることにあるかと思う。
前述したように、1400人の乗船者の大半は日本人だが、中国、台湾、シンガポール、韓国、マレーシアとアジアからも150人近くが乗船した。
下船が近づいて気づいたのは、彼らとの交流を殆ど持っていないことだった。
そこで、日本人対象の日本語での「台湾有事」で戦場となる沖縄の危機を訴える自主企画講演を、遅ればせながら英語で行った後、中国、台湾、韓国、沖縄の14-5人で交流の機会を持った。

各自が「台湾有事」について「個人的見解だ」として話してくれたが、台湾の人は「将来、中国による台湾統一があるだろうと聞かされてきたし、あるとは思うが、殆どの台湾人は中国の武力による台湾侵攻があるとは考えてはおらず、危機感も無い。」と言う。
ただ、ペロシ氏に続く米国高官の訪問や米中からの軍機の飛来など、状況は緊張し始めていてまわりに挑発されぬよう自戒しているとのこと。
沖縄も台湾も戦争になれば共に犠牲となる。
「陸続きのウクライナはラッキーだ。島の住民の我々に逃げ場はない。」との話に沖縄の私達も頷くばかりだった。
「台湾有事」で起こる戦争を米国の代理戦争とした上で、台湾も沖縄も犠牲にならぬよう平和外交をと主張した私の講演を喜んでくれたことから、彼ら台湾の若いカップルも「台湾有事」について同様なとらえ方をしていると思えた。

言論統一や監視社会の厳しさゆえか、中国の人達は概して口が重い。
中国の台湾統一は将来あるだろうが、今、自分達に問題として見えているのは「台湾有事」より「米中対立」だと言う。
「台湾有事」を台湾と中国の対立ではなく、中国と米国の対立と捉えている点が日本と異なる。中国からの留学生が「台湾有事」について「ウクライナ戦争の顛末を見ているので、今、中国は米国の挑発に乗らぬよう気をつけている。」と言ったことを思い出す。
韓国の人の「韓国は米国隷属国家なので」との言い出しに驚いたのは、韓国は自立した国との印象があったからだ。日本同様に米国の圧力があり独自政治が難しいという事情があることを知った。
米国追随の現状に不満を持つリベラル派より米国に好意的な保守派が多いのは、リベラル派は首都ソウルやその近くの西部に多く、人口のより多い東部に保守派が多いからと言う。
彼は「台湾有事」で戦争となれば韓国が巻き込まれるのは必至と警戒した。

戦争は絶対避けたいと皆で言い合った。
互いを理解し合う一歩はまず対話だと実感した小さな国際交流だった。

今回は、沖縄の乗船者と中国、韓国、台湾の人達との交流であった。
他県からの乗船者はどうかというと、前述したように、多くの人達が「沖縄の現状も含め日本は何も知らない人が多いし、メディアが報道しない。」と嘆く。
しかし、日本人として何をすべきかがわからない人が多いとの感じを受けた。
少なくとも「沖縄の状況が理解できた。
これから沖縄について何ができるか考えたい」という人達は、前向きな善意の人達であり、今後に期待したい思いだ。

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与那覇恵子 与那覇恵子

独立言論フォーラム・理事。沖縄県那覇市生まれ。2019年に名桜大学(語学教育専攻)を退官、専門は英語科教育。現在は非常勤講師の傍ら通訳・翻訳を副業とする。著書は「沖縄の怒り」(評論集)井上摩耶詩集「Small World」(英訳本)など。「沖縄から見えるもの」(詩集)で第33回「福田正夫賞」受賞。日本ペンクラブ会員。文芸誌「南瞑」会員。東アジア共同体琉球・沖縄研究会共同代表。

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