【連載】知られざる地政学(塩原俊彦)

「知られざる地政学」連載(4) ウクライナ政府のなかにテロ組織:核発電所攻撃もねらう!?

塩原俊彦

 

拙著『知られざる地政学』〈下巻〉の「あとがき」で、以下のように書いておいた。

「私は本書において、日本のマスメディア、政治家、官僚、学者をあえて批判した。右も左もぶっ飛ばしたといえるかもしれない。なぜそうしたかというと、少しでも誠実でありたいからだ。日本の狭量でさもしい政治家、官僚、学者、マスコミ人は批判されると、無視を決め込むか、陰で批判する。何も知らないことを知らない政治家、EU や米国の制度をマネするだけの官僚、肩書だけの蛸壺に生きる学者、はったりだけのマスコミ人。彼らに誠実さを感じることはできない。」

ウクライナに「法の支配」はあるか
今回は、ウクライナの不誠実について、書いておきたい。
米国が主導して武器を支援したり、資金を助成したりしているウクライナは「法の支配」(rule of law)が徹底している国家なのだろうか。その答えは「否」である。理由は簡単だ。ウクライナ国内には、米国に支援されてきた「跳ね返り者」が複数存在し、超法規的な殺人を繰り返してきたし、いまでも繰り返しているからである。

残念ながら、米国政府に加担している米国のマスメディアはもちろん、「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」の報道だけを後生大事にオウム返ししているだけの日本国内のマスメディアは、ウクライナという国家の無軌道ぶりを決して報道しようとしない。拙著『知られざる地政学』で説明したように、政権とマスメディアの結託によってディスインフォメーション(意図的で不正確な情報)を垂れ流すことで「とまどえる群れ」を誘導し、民主主義だと言い続けている覇権国アメリカの罠に落ちているのである。

ウクライナ当局のなかの「跳ね返り者」
拙著『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社)において、2022年8月20日、ロシアにおける陰謀論の理論的支柱アレクサンドル・ドゥーギンの娘ダリアの運転するトヨタ・ランドクルーザーが爆発し、死亡した事件について説明しておいた。同年8月22日までの情報では、ロシア当局はウクライナ女性ナターリヤ・ヴォフク(旧姓シャバン)を容疑者と特定、この女が娘ダリアの住む建物内に住居を借り、彼女の動向を監視していたとした。女はウクライナの超過激なナショナリストが主導するアゾフ連隊に属し、過激派組織「ライトセクター」とも関係があったとロシア側はみている。女はすでにエストニアに出国した。

この事件について、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はBBCが行ったインタビューのなかで、聞き手が「米国は、最近のロシア人ジャーナリスト(ダリア・ドゥーギナ)の殺害の背後に、あなたかウクライナがいると考えています。本当なのかどうか教えてください」と率直に尋ねると、「我々はこのケースに関係がない」と答えている。

しかし、彼は明らかに嘘をついている。ゼレンスキーの「嘘」というのは、「我々」といった点にある。「私はこのケースに関係ない」と答えていれば、ウクライナ当局のなかの「跳ね返り者」が事件を起こしたという可能性を残したことになる。しかし、「我々」とのべたことで、ゼレンスキーが命じて暗殺させた可能性すら出てくる。ウクライナ当局が仕組んだ可能性がかぎりなく確実な事件に対して、「ゼレンスキーを含むウクライナ当局者=我々」は関係ないというのは「嘘」そのものだろう。

NYTは、事件後、ウクライナ側から事件の真相を聞いた米国政府高官は「この暗殺についてウクライナ政府関係者を諭した」と報じている。さらに、ゼレンスキーが殺害に関与していたかは不明だが、ウクライナ当局の無鉄砲な残虐行為がロシアをより復讐にかりたて、核戦争に至ることを米国政府は恐れていると伝えている。

「跳ね返り者」の正体
この「跳ね返り者」が属しているのは、ウクライナ保安局(SBU)の第五総局である。The Economistの報道では、第5総局は対ロシア作戦で中心的な役割を果たしており、もともとは破壊工作部隊として2015年に発足した。その後、婉曲的に「ウェット・ワーク」と呼ばれるもの、すなわち暗殺に重点を置くようになる。

彼らは、ロケット弾攻撃によって、ミハイル・トルシュティク・ドネツク人民共和国の軍司令官を殺害した。アルセン・パヴロフ同共和国対戦車特殊部隊指揮官はエレベーターの爆破によって殺された。アレクサンドル・ザハルチェンコ同共和国最高司令官はカフェ爆発で暗殺された。

なぜこんな非合法組織が公然と活動しているかというと、第五総局の活動がゼレンスキー大統領のような既存の権力者の権力を支えてきたからだ。だれであっても、権力者にとって邪魔であれば消すという組織があってこそのウクライナ政権ということになる。これは、ロシア連邦保安局(FSB)あってのウラジーミル・プーチン大統領という構図と瓜二つだ。

超過激なナショナリストをのさばらせた米国政府
拙著『復讐としてのウクライナ戦争』のなかで、「2014年5月2日にオデーサで起きた、公式発表で42人もの人々が労組会館で殺害された事件への復讐という想いがプーチンの心にあるはずだ(ほかに、路上で6人が射殺された)」と書いておいた。
この本のなかで書いたことをもう少し紹介してみよう。

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実は、ウクライナへの「特別軍事作戦」を宣言した2022年2月24日のテレビ演説の直前の2月21日、プーチンはウクライナとの関係をめぐって長いメッセージを国民に披露した。そのなかで、興味深いことを言っている。

「(2014年のクーデターで)権力を掌握した過激派は、反憲法的な行動に反対する人々に対して、まさに恐怖の弾圧を組織したのである。政治家、ジャーナリスト、有名人が嘲笑され、公然と恥をかかされた。ウクライナの都市は、ポグロムと暴力の波に飲み込まれ、注目されながら罰せられない殺人事件が続発している。オデッサでは、平和的なデモ参加者が労働組合会館で残忍に殺害され、生きたまま焼き殺されるという恐ろしい悲劇が起きた。しかし、我々は彼らの名前を知っており、彼らを罰し、見つけ、裁判にかけるためにできる限りのことをするつもりだ。」

ここにあるのは、オデッサ(オデーサ)で起きた事件に対する断固たる復讐の決意である。

オデーサ事件
まず、2019年5月に公表された「国連ウクライナ人権監視団ブリーフィングノート:2014年5月2日オデーサでの殺害と暴力的な死に対する説明責任」をもとに、2014年5月2日、オデーサ(オデッサ)において何が起きたかを説明しよう。

2014年5月2日の出来事は、二つの事件に分けることができる。①6人の男性が射殺された市街地での騒動、②クリコヴェ・ポール広場での騒動とそれに続く「労組会館」での火災で42人の命が奪われた――というものだ。衝突は市街地ではじまり、「ウクライナ統一のための行進」に集まった約2000人の人々(いわゆる「統一支持派」)が、ウクライナ連邦化の考えを支持する約300人のグループ(いわゆる「連邦主義支持派」)に襲われた。前者は、いわば親欧米のウクライナ派であり、後者は親ロシアの分離独立派を意味している。

クリコヴェ・ポール広場では、約300人の「連邦制支持者」が労組会館に立てこもり、「統一支持者」が彼らを攻撃し、彼らが広場に建てたテントを焼いたため、騒乱が続いて42人(男性34人、女性7人、少年1人)が死亡した。両グループが互いに投げつけた火炎瓶によって建物に火がつき、連邦制支持者32人がそのなかで死亡した。さらに10人が、火災から逃れるために窓から飛び降りたり落ちたりして、致命傷を負い死亡した。

報告書には、「5年経った今でも、6人の殺害と42人の暴力的な死に対する説明責任は果たされていない。悲惨な事件の後に開始された刑事訴訟のなかには、公判前の捜査段階で行き詰まったものもあれば、公判段階で行き詰まったものもある。このことは、被害者のための正義と加害者のための説明責任を確保するための当局の真の関心の欠如を示唆している」と指摘されている。

プーチンからみると、ウクライナ政権は親ロシア派の32人を殺害した犯人を逮捕・起訴し、裁判を通じて極刑に処するという当たり前のことをしないまま、いわば犯人を野放しにしているということになる。だからこそ、犯人を自ら逮捕し、復讐するとプーチンは息巻いているのだ。
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この事件はその後、大統領に就任したペトロ・ポロシェンコによって蓋をされ、ゼレンスキー大統領になってもまったく無視されつづけてきた。その理由は簡単だ。親米の彼ら、すなわち米国政府の意向に逆らえない彼らは、犯人を見つけ出す努力そのものを止められていた可能性が高い。なぜなら、米国政府にとって、犯人グループのような、超過激なナショナリストを手なずけ、必要なときに利用できるからである。

テロリストが巣くうゼレンスキー政権:核発電所攻撃も!?
こうした勢力が政権内部に一定数いるという現実を忘れてはならない。2023年9月12日、東方経済フォーラム全体会議の質疑応答のなかで、プーチン大統領が話したことをそのまま翻訳して紹介してみよう。

「ごく最近、連邦保安局(FSB)が軍事衝突の際にわが領土で数人を殺害し、残りは捕虜になった。彼らはウクライナの特殊部隊の破壊工作グループだったことが判明した。現在、尋問が行われている。その結果は?彼らの任務は、核発電所を損傷させ、送電線(高圧送電線)を弱体化させ、最終的に発電所の運転を妨害することだった。このような試みはこれが初めてではない。同時に彼らは、英国の指導者の指導の下で準備していたと尋問で証言している。彼らは自分たちが何をしているのかわかっているのだろうか?ウクライナの核施設や核発電所に対する報復のために、我々を挑発しているのだろうか?」

もちろん、プーチンがどこまで真実を語っているのかはわからない。ただ、日ごろ、ウクライナ寄りの報道しか耳にしていない者は、現実に起きていることはそうした報道とまったく異なっていることを知るべきだ。
そのうえで、ウクライナ保安局(SBU)の第五総局メンバーが核発電所攻撃を仕出かしても何ら不思議ではない状況にあることを肝に銘じるべきであろう。

無知蒙昧な日本の経営者
あえてだれとは書かないが、能天気で無知蒙昧な日本の企業経営者のなかには、ウクライナ復興の際には支援しようと思っている人が少なからずいる。しかし、人殺しさえ厭わないテロリストのような人物が政府機関に属しているという現実を忘れてはならない。米国政府が支援していれば「いい国」だというわけでは決してないのだ。

いまのゼレンスキー政権には、「法の支配」などまったく存在しないといってもいい。そんな国を米国政府が2000年代のはじめからずっと支援しつづけてきたのである。もっと正確にいえば、米国が超過激なナショナリストを焚きつけたからこそ、いまの「法の支配」のないウクライナが生まれてしまったのだ。そこにあるのは、覇権国アメリカの身勝手な政治干渉であることをどうか知ってほしい。

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。 著書:(2023年9~10月に社会評論社から『知られざる地政学』(上下巻)を刊行する) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。

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