【特集】ウクライナ危機の本質と背景

ウクライナに平和をもたらすために、米国はどのような貢献ができるのか?

ニコラス・J・S・デイヴィス(Nicolas J.S.Davis)

4月21日、ジョー・バイデン大統領は、米国の納税者に8億ドルを負担させ、ウクライナに新たな武器を供与することを発表した。4月25日には、アントニー・ブリンケン国務長官とロイド・オースティン国防長官が3億ドル以上の追加軍事支援を発表した。

米国はこれで、ロシアの侵攻以来、ウクライナ向けの武器に37億ドルを支出し、2014年以降の米国のウクライナへの軍事援助総額は約64億ドルに達した。

ウクライナにおけるロシアの空爆は、これらの兵器が戦争の前線に到達する前にできるだけ多く破壊することを最優先しており、これらの大量の兵器輸送が実際にどれ程の軍事的効果を持つかは不明である。米国のウクライナ「支援」のもう一つの柱は、ロシアに対する経済・金融制裁であるが、その効果も極めて不透明である。

アントニオ・グテーレス国連事務総長がモスクワとキーウを訪問し、停戦と和平合意のための交渉開始を試みている。ベラルーシやトルコで先に行われた和平交渉への希望が、軍事的エスカレーション、敵対的レトリック、政治的な戦争犯罪の告発といった流れに押し流されたため、グテーレス事務総長のミッションは、今やウクライナの平和にとって最高の希望となり得るだろう。

外交的解決に向けた初期の希望が、戦争心理によってたちまち打ち砕かれるというこのパターンは、珍しいことではない。1946年以降武力紛争についての情報を収集している、スェーデンのウプサラ大学のデータ収集プロジェクトである「ウプサラ紛争データプログラム」(UCDP)の戦争終結に関するデータを見ると、交渉による和平合意の可能性が最も高いのは戦争開始後1カ月間であることが明らかである。ウクライナでは今、交渉の窓が閉まっている。

・求められる早急な解決

米国シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)がUCDPのデータを分析したところ、1ヶ月以内に終わる戦争の44%はどちらかの側が決定的な敗北をするのではなく、停戦と和平合意で終わるのに対して、1ヶ月から1年の間に終わる戦争では24%に減少していることがわかった。戦争が2年目に突入するとさらに難航し、通常10年以上続く。

UCDPのデータを分析したCSISフェローのベンジャミン・ジェンセンは、「今こそ外交の時だ。両当事者が譲歩しないまま戦争が長引けば長引くほど、紛争がエスカレートする可能性が高くなる。処罰に加えて、ロシア当局は全ての当事者の懸念に対処する実行可能な外交的出口戦略(diplomatic off-ramp)を必要としている」、と結論づけた。

平和協定に至る外交が成功するためには、5つの基本的な条件を満たさなければならない。

まず第一に、和平合意によって、全ての当事者が、戦争で得られると考えられる以上の利益を得なければならない。つまり、米国と同盟国の当局者は、ロシアは戦争に負けることになり、ウクライナは軍事的にロシアを打ち負かせるとの考えを広めるために情報戦を展開しているが、それには5、6年かかると認めている当局者もいる。

現実には、何カ月、何年も続くような長期化する戦争で双方が利益を得ることはない。何百万人ものウクライナ人の命が失われ、ウクライナの町は廃墟になるし、ロシアも、米ソ両国がアフガニスタンで既に経験し、最近の米国の戦争がほとんどそうなっているように、軍事的泥沼にはまり込むことになるのである。

ウクライナでは、和平協定の基本的枠組みは既に存在している。それは、ロシア軍の撤退、NATOとロシアの間でウクライナが中立を保つこと、(クリミアとドンバスを含む)全てのウクライナ人の自決、そして、全ての人を守り、新たな戦争を防止するための地域安全保障協定の締結である。

両国は基本的に、最終的な合意に向けて自らの立場を強化するために戦っているのである。では、ウクライナの町や都市の瓦礫の上ではなく、交渉のテーブルの上で詳細を詰めるまでに、一体何人の人が死ななければならないのだろうか。

・交渉に求められている諸条件

第二に、仲介者は公平であり、双方から信頼される存在でなければならない。

米国は何十年にも渡り、イスラエル・パレスチナ危機の調停役を独占してきた。しかも、一方の側を公然と支援し武装させ、国連の拒否権を乱用して国際的な行動を阻んできた。これは、終わりのない戦争の透明なモデルであった。

トルコはこれまでロシアとウクライナの主要な仲介役を務めてきたが、ウクライナに無人機や武器、軍事訓練を供与してきたNATO加盟国である。双方はトルコの仲介を受け入れているが、トルコは本当に誠実な仲介者になれるのだろうか。

国連は、両陣営が2カ月間の停戦をようやく守っているイエメンで行っているように、正当な役割を果たすことができるだろう。しかし、国連の最善の努力をもってしても、この不安定な戦争の一時的停止を交渉するのに何年もかかっている。

第三に、協定は戦争の全当事者の主要な懸念に対処するものでなければならない。

14年、米国が支援したクーデターとオデッサでの反クーデターデモ参加者の虐殺により、ドネツク人民共和国とルハンスク人民共和国が独立宣言をした。14年9月の第1次ミンスク議定書合意は、その後の東ウクライナの内戦を終結させることができなかった。15年2月のミンスク第2次合意では、DPRとLPRの代表が交渉に加わったことが決定的な違いであり、最悪の戦闘を終わらせ、7年間、大規模な新たな戦争の勃発を防ぐことに成功したのである。

ベラルーシとトルコでの交渉にほとんど参加しなかったもう一つの当事者がいる。それは、ロシアとウクライナの人口の半分を占める人々、つまり両国の女性たちである。彼女たちの中には戦っている人もいるが、それ以上に多くの人が、主に男性によって始められた戦争の被害者、民間人の犠牲者、難民として語ることができる。女性たちの声は、戦争がもたらす犠牲と、危機に瀕している女性や子供たちの命を交渉のテーブルで常に思い起こさせるだろう。

一方が軍事的に勝利しても、敗者の不満や未解決の政治的・戦略的問題が、将来の新たな戦争勃発の種となることが多い。CSISのベンジャミン・ジェンセンが示唆しているように、ロシアを罰し、戦略的優位に立ちたいという米欧の政治家の欲望が、全ての側の懸念に対処し、恒久的な平和を確保する包括的解決を阻むことを許してはならないのである。

 

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ニコラス・J・S・デイヴィス(Nicolas J.S.Davis) ニコラス・J・S・デイヴィス(Nicolas J.S.Davis)

独立系ジャーナリストで、女性を中心とした反戦団体「コードピンク(CODEPINK)」と協力しているリサーチャーであり、『我々の手にこびりつく血: アメリカのイラク侵攻と破壊』(Blood on Our Hands: The American Invasion and Destruction of Iraq)の著者である。また、グローバル・リサーチへの定期的な寄稿者でもある。 

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