【連載】インタヴュー:時代を紡ぐ人々(前田朗)

第2回 また叱られた!日本政府 日の丸君が代強制問題で国際勧告を勝ち取った渡辺厚子さんに聞く

前田朗

・CEARTって何?

――日の丸君が代強制問題でCEARTから日本政府に2度目の改善勧告が出ました。渡辺さんはジュネーヴ(スイス)の国際人権機関に通って、国際自由権委員会に日の丸君が代強制は人権侵害であると訴えてきました。

渡辺――自由権委員会には、2013年10月の事前審査と14年の本審査の2回参加しました。13年に初めてジュネーヴに行きました。観光で有名な素敵な町でした。

ジュネーヴの噴水

 

事前審査の結果、委員会から日の丸君が代問題について日本政府に質問が出ました。だから本審査にも出なくてはいけないと決めました。14年7月の自由権委員会に行く時に、せっかくだからCEARTに申立てをしたいと考えました。ILO駐日事務所に行って手続きを教えてもらい、ILOジュネーヴの担当者に会いに行きました。日の丸君が代強制に従わなかったために処分されたことを話して、申立書を出しました。

自由権委員会が開かれた国連欧州本部

 

――今回はCEARTから2度目の勧告を勝ち取りました。CEARTと言っても、ほとんど誰も知りません。

渡辺――そうですね。3年前に初めて勧告が出た時、ジャーナリストや弁護士さんに報告したのですが、みなさん、CEARTを知りませんでした。CEARTはILO/ユネスコ教職員勧告適用合同専門家委員会の略称です。国際労働機関(ILO)と国連教育科学文化機関(UNESCO)の合同委員会で、1966年の「教員の地位に関する勧告」及び97年の「高等教育教員の地位に関する勧告」の遵守状況を監視するために設置されました。

ILO本部にて

 

UNESCO

 

――以前から「指導力不足教員」を認定する手続きが恣意的で反論の機会を保障していないという勧告を出すなど、労働者である教員の地位や身分に関して専門的調査をしてきました。

渡辺――そうです。2019年にCEARTが日本政府に勧告を出しました。入学式や卒業式で国旗掲揚や国歌斉唱に従わない教員が懲戒処分された問題で、日本政府に対して「教員団体と対話し、両者が合意できる規則を検討するよう」に勧告しました。正確に言うと、CEARTはまずILOとユネスコに「日本政府に勧告する」ことを勧告します。それを受けて、ILOとユネスコが日本政府への勧告を承認し公表します。

日本政府に対して、①国旗掲揚や国歌斉唱に参加したくない教員の義務について合意できるよう、対話する機会をつくること、②消極的で混乱をもたらさない不服従への懲罰を避ける目的で、懲戒の仕組みについても教育団体と対話する機会をつくることを勧告しました。

・開かれた社会の対話を実体験した

――勧告をご覧になってどう感じましたか。

渡辺――ジュネーヴに行った時に「なんて違うんだろう」と驚きました。国際機関の職員は私たちと会ってくれるし、話をちゃんと聞いてくれます。対等の立場で対話してくれます。日本のお役人とは天と地の違いです。とてもフレンドリーでした。

18年10月の第13会期が終わって、最終報告書(勧告)が出たことはわかりました。市民的自由とは何かをきちんと踏まえてくれる。個人の生き方や信念を否定する強制は認めないと、当たり前のことを言ってくれることを期待しながら、新聞社に連絡して記事を書いてもらう準備をしました。公表された勧告は期待以上の内容でした。

国際人権法は、偉い人が決めたり、誰かがどこかでやってくれるのではなく、私たちもその一員としてかかわることに意味がある。私たちも国際社会の一員だと実感できました。CEARTは素晴らしい勧告を出してくれたのですけど、それを私たちが自らの手で勝ち取ったことに感激しています。

――今回(22年の第14会期)の勧告の要点はどうでしょうか。

渡辺――日本政府はまた叱られたんです。CEARTは、①日本政府が勧告の日本語版を作っていないことに疑義を呈し、②そもそも1966年勧告は教員の権利と責任に関する国際基準であり、加盟国の全会一致で採択され、日本もILO及びユネスコに加盟していたことに注意を喚起しています。その上で、③政府及び地方のレベルで、教員団体との対話に資する環境を作ること、④1966年勧告を適用するために適切な指導をすること、さらに、⑤前回の勧告に十分に配慮するよう求めました。

――CEARTに申立てしたきっかけは何でしょうか。

渡辺――アイム89教育労働者組合という独立教員組合として申立てました。東京都が特にひどいのですが、各地で日の丸君が代処分が強行されました。裁判を闘ってもたまに良い判決が出ますが、なかなか勝てません。国内で頑張っても難しいので、藁をもつかむ心境で自由権委員会やCEARTに行きました。たくさん資料を持って説明に行きましたが、最初はなかなか伝わらなかったんです。日の丸君が代強制のようなことは世界では珍しいというか、こんな強制をして、従わないと処分する愚かな人権条約加盟国は日本と中国くらいかもしれません。

・国際人権勧告を活かすために

――2019年には日比谷コンベンションホールで勧告報告集会を開きました。

3.1報告集会

 

渡辺――勧告が出ても、国内で活かさないと意味がないので、文科省に要請し、ジャーナリストに説明して報道してもらい、報告集会を開いて皆さんに知ってもらう必要があります。外圧ではなく、私たちが抱えている問題は国際社会の関心事でもあり、申立てて勧告をもらうことを繰り返すことで、私たちが国際人権法を実践していくことが大切です。今回も報告集会を準備しています(記者会見22年6月16日参議院議員会館、報告集会7月24日日比谷コンベンションホール)。

――日本政府の対応はどうですか。

渡辺――叱られたので不貞腐れている感じで、日本政府(文科省)は後ろ向きです。勧告を受け入れようとしません。勧告の日本語訳・公式訳をつくっていません。文科省から東京と大阪の教育委員会に送付しましたが、これに従うようにという説明もない。英文を右から左へ送っただけです。日の丸君が代問題は地方自治体の問題であって、政府の問題ではないかのように言い逃れをします。

――今回の勧告を受けて再度、文科省に要請行動ですね。

渡辺――はい。逃しません。CEARTが判断基準にしている1966年勧告は、日本も含めて全会一致で採択したのに、今になって日本政府は「勧告は日本の国内法に合致しない」などと勝手な主張をしています。恥を知る官僚や政治家が一人でもいると良いのですが。

欧米諸国が立派だなどと思いませんが、国際社会の協力で作った人権基準を守る努力をしています。日本政府には国際人権基準を守る姿勢が見られません。開き直ったり、やりすごせば何とかなると思っているのかもしれません。社会の風潮も、大勢に流される傾向が強まっています。押し流されて大政翼賛会にならないように、声を上げていきたいと思います。

前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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