権力者たちのバトルロイヤル:第54回 高まる「第5次中東戦争」

西本頑司

拡大BRICS
 このまま「中東戦争」へと発展するのではないか……。

2023年10月7日、パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム武装組織ハマスが、イスラエルに対して大規模な無差別ロケット弾攻撃を敢行。これに対してベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ハマスに異例の宣戦布告。徹底した反撃を行ない、1週間足らずで双方に4000人前後の死者が出るという異常事態に陥っている。

1973年以降、第5次中東戦争が勃発しなかったのは、イスラエルが中東唯一の「核保有国」となり、他の中東諸国の核保有をアメリカが防いできたからといっていい。しかし、その前提は覆った。

8月、中国が主導してきたBRICSにおいて新たにサウジアラビア・エジプト・イラン・UAEというイスラム圏のリージョナルパワーが参加した(ほかにエチオピア・アルゼンチン)。実は、この拡大BRICS、新たな「核クラブ」と目されている。核開発の協力のみならず加盟国が核攻撃を受けた場合、「報復用核」を供与する“密約”があったと囁かれているのだ。

これが事実ならばBRICS加盟のイスラム4カ国は相互確証破壊によりイスラエルの「核カード」を無効化、50年ぶりの本格的な軍事侵攻が可能になったことを意味する。4カ国の加盟は、“対イスラエル同盟”という可能性すらあるのだ。

このままガザ地区でイスラエル軍によるパレスチナ人「虐殺」が続けば、イスラム世論が沸騰し、各国からイスラム義勇兵が相次いで参加、戦線が拡大しても不思議はなくなる。本来ならばアメリカが出張って力尽くで「休戦」させるところだが、アメリカはウクライナ問題に加えて来年の大統領選もあってか、ジョー・バイデン政権は積極的な行動がとれない状態だ。今のアメリカでは、もはや「止める力はない」と国際社会に露呈したようなものだろう。

考えてみれば、コロナ禍に続き、ロシアによるウクライナ侵攻が起こったよう、世界の「常識」は、すでにひっくり返っている。この争いがきっかけとなって中東戦争へ発展する可能性は決して低くはない。

1947年の建国以来、なぜ、「イスラエル問題」は、ここまでこじれたのか。改めて分析していきたい。

 

「ユダヤ人」とは何者か
イスラエル問題は、その重大さにもかかわらず、複雑な歴史や宗教を背景とするだけに、理解から遠のきやすい。そこで多くの人々が感じているであろう「素朴な疑問」からはじめたい。

まずは「なぜ、アメリカや欧州各国はイスラエルを支持し、支援するのか」。歴史的にいえばキリスト教圏の欧米諸国は、ユダヤ人を迫害・弾圧してきた側だ。イスラム圏よりはるかにユダヤ人を嫌っていたと言っていい。それが建国後、一転してイスラエルを擁護するようになったのは、なぜか。

次に「なぜ『ユダヤ人』なのか」。イスラエルの人口の80%を占めるユダヤ教徒は「ユダヤ人」であって、欧米諸国を中心に各地に散らばっている800万人のユダヤ教徒を含めて「民族」としてのユダヤ人を構成する。あえて「イスラエル人」と言うときは、イスラエル国籍を持つ非ユダヤ教徒(アラブ人、全体の2割)を指すといっても過言ではない。

さらにユダヤ教徒を母親に持つ子どももユダヤ人に自動認定する。これが何を意味するのか。たとえば移民によってアメリカという国家に忠誠を誓い、国籍を取得した人は人種・民族問わず「アメリカ人」となる。この視点でユダヤ教を見ると、国境と領土を持たない「疑似国家」として成り立っていることがわかる。教徒とは「ユダヤ」の国籍と同義なのである。なぜ、宗教組織がこんな疑似国家となっているのか。

そして最後の疑問が、「なぜ、ユダヤ人には優秀な人材が多いのか」。現在のアメリカのスーパーパワーを支えるGAFAMを筆頭とした米系ITテックは、ユダヤ閥によって誕生している。マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ、「シリコンバレーのドン」オラクル創業者のラリー・エリソン、グーグル創業者のセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジ、ペイパルマフィアの異名を持つIT業界の「裏ボス」ピーター・ティール。フェイスブックを立ち上げた現メタのマーク・ザッカーバーグ、チャットGPTを世に出したOpenAI創業者のサム・アルトマン。すべて「ユダヤ人」なのだ。あまりにも“異常”ではないか。

「ユダヤ金融資本」という言葉があるよう、ウォール街の重要ポストにも現財務長官のジャネット・イエレンを筆頭に山ほど「ユダヤ人」がいる。最多ノーベル賞受賞“民族”もまた「ユダヤ人」である。なぜ、これほどの人材が輩出されるのか。

この3つの疑問を解きながらイスラエル問題に迫っていくとしよう。

ユダヤネットワーク
先にユダヤ教とは疑似国家と指摘した。教徒は「国民」であり、教義は「憲法」。そして「国是」となるのが、弱者の救済だ。虐げられた貧困層や下流層たちの互助会という側面が極めて強い組織といっていい。

先のIT長者たちも恵まれた名門の出身ではない。ピーター・ティールを事例として説明すれば、近所でも有名な神童だったが、ネグレクト状態で生活もままならなくなる。そこでユダヤ人のスカウトが、彼の親族にいたユダヤ人家庭へ養子として送り込み、「ユダヤ人」としてスカラシップなど手厚い学資支援を行なった。さらにITベンチャーに乗り出したときは、資金援助もした。こうして投資家として大成功を収めたティールもまた、周囲の優秀なユダヤ人学生を支援、彼らが立ち上げたITベンチャーのスタートアップを手助けしてきた。優秀な人材をユダヤ人として囲い込み、手厚い支援により成功者へと導き、成功者は次代の才能を支援するというシステムができあがっているのだ。

またユダヤ人の母親を持つ子どもが自動的に認定されるのも、彼女たちが非常に教育熱心で、徹底的にユダヤの価値観を幼いころから叩き込むからだといわれる。「ジューイッシュ・マザー(ユダヤの母)」が教育ママを意味するほどで、子どもに才能があるとみれば、シナゴーグ(ユダヤ礼拝所)に申告、そうすればユダヤネットワークを通じて高度な教育の支援を受けられる。ユダヤ教における教育熱は、紀元前の時代から無料の公共学校があったほど。これは中近世も同様であり、ユダヤコミュニティでは、読み書きや算数といった基礎知識のみならず、実用的な技術なども徒弟制度など関係なく、しっかりと教えていたという。

庶民の識字率が低い時代、ユダヤ人は基礎学力や実学を持っていた。それを武器に迫害を受けながら成り上がることも可能だった。中近世のヨーロッパでは、支配階層以外の庶民の多くは収奪の対象として固定されている。そこから抜け出すための方法が「ユダヤ教」への改宗となっていたのだ。

その結果、貧困層のなかで才がある人物や自分の子の立身を望む親たちは、こぞってユダヤ教への改宗か、ユダヤ教徒の女性との婚姻を求める。だが互助会の色の強いユダヤ教は、その改宗条件は厳しい。現在でも最低限で440時間の“信者教育”が求められるほどで、ユダヤの価値観・行動原理を叩き込み、人種や国籍にかかわらず「ユダヤ人」へと作り替わるまで徹底する。所属する国家や集団(キリスト教会)の枠から抜け出し、「疑似国家ユダヤ」の国民へと所属を変えるまでユダヤ人とは認めないわけだ。

ユダヤの国
ここで問題なのは、ユダヤ教の持つ教義である。

ただのユダヤ教徒ではなく「ユダヤ人」となり、救世主(メシア)の到来を信じるならば、当然、故国は「パレスチナの地」となる。いわば生まれ育った国を事実上、捨てさせるのだ。

統治者からすれば、とんでもない話だろう。有能な才を持つユダヤ人は、能吏や商人、技術者として社会基盤で活躍しやすい。そんな社会を支える人材が、王権やキリスト教会から逸脱して忠誠心を持たなくなるのだ。

自国内でユダヤ人勢力が増大していけば、統治に問題が出てくる。現近代までユダヤ人が「ゲットー」で隔離されていたのは、それが理由といっていい。

しかも彼らは「追放」できない。対立する異教徒や異民族、キリスト教の宗派争いにせよ、反体制を強めて社会不安を煽れば、為政者たちは「出て行け」と自国や勢力内から追い出す。ところがユダヤ人は「流浪の民」なのだ。しかも自国で生まれ育った人間も少なくない。追い出そうにも、どこに追い出すのか、という問題が生じる。

それだけでなく、貧困に喘ぐキリスト教徒にすれば、同じ下流層にいたユダヤ人たちが、学力や技術で出世し、自分たちより良い暮らしをすれば、腹だたしくなる。実際、ロシア帝国に併呑されたウクライナでは、ウクライナの富を収奪する役割をユダヤ人に担わせてきた。過酷な税を取り立てる徴税官や生活に不可欠な商人としてウクライナ庶民のなけなしの富を奪っていくために、ウクライナなどの東欧ではポグロムと呼ばれる地元住民による「ユダヤ虐殺」と「ユダヤ弾圧」が繰り返されてきた。

国家への忠誠心が低く、有能なユダヤ人は、為政者にすれば、この手の「汚れ役」に打ってつけの人材だ。国民(庶民)の不満が溜まれば、そのガス抜きに「ユダヤ人虐殺」を黙認、こうして使い捨てにしてきたという背景がある。

18世紀以降、欧州列強の植民地における収奪もまた、ユダヤ人の手に委ねられてきた。ところが、汚れ役の見返りとして財力を蓄え続けた結果、ユダヤ閥が台頭、とくに広大な版図を持つ大英帝国では無視できない勢力へと育ってしまう。なんとしても国内のユダヤ勢力を「排除」し、その影響力を削ぎたい。それが「イスラエル」だったのではないか。

ユダヤ人が切望する「故郷」を与えることで追い出すに追い出せなかったユダヤ人勢力をコントロールする。その目的でパレスチナの割譲が決まるわけだが、このスキームはナチスドイツによって破綻する。徹底した弾圧と迫害で「殺されたくなければ出て行け」とナチス勢力圏内からのユダヤ人排除に動いたために、イギリス、とくにアメリカにコントロール不可能なほどの亡命ユダヤ人が殺到する。

ナチスによるホロコーストの反動もあってか、亡命ユダヤ人の多くは過激なシオニストとして「ユダヤ至上主義」を掲げるようになる。アメリカに同化してきたユダヤ人とは違って、アメリカ人として同化するどころか、アメリカ社会の不安要因になりかねない危険分子が少なくなかったのだ。

こうしてイギリスとアメリカが、自国内の狂信的なユダヤ人たちの「排除」を迫られた結果、1948年の強引なイスラエル建国へとつながる。その後、中東戦争が起こるたびに、自国内のユダヤ人たちは次々に出て行く。自国内のユダヤ人をコントロールする便利なツール「イスラエル」は、欧米諸国に不可欠な存在となった。だから支援してきたのだ。

一方、アラブとイスラム圏からイスラエルを見れば、入植してくるユダヤ人は、アラブやイスラムの文化や価値観を理解せず、欧米の価値観を共有した「欧米人」でしかない。自分たちのテリトリーに勝手に侵入してきた「異物」なのだから、激しい拒絶反応が出るのは当然だ。

アラブや中近東には長年、培ってきた独自の文化圏があり、この地に住まう人々は強い誇りを持っている。そこに土足で踏み込んで彼らの誇りを傷つけてきた以上、解決方法は1つではないか。そう、イスラエルが「アラブやイスラム圏諸国」の一員として、彼らの文化や価値観を受け入れればいいのだ。

しかしネタニヤフ政権は、真逆な行為を繰り返している。歴史もまた繰り返すこととなろう。50年ぶり5回目の歴史を、である。

(月刊「紙の爆弾」2023年12月号より)

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西本頑司 西本頑司

1968年、広島県出身。フリージャーナリスト。

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