【連載】知られざる地政学(塩原俊彦)

「知られざる地政学」連載(17) 市民殺害を顧みない覇権国アメリカの実態:ユダヤ系富豪の抜きがたい影響力(上)

塩原俊彦

 

 

米国政府は2023年12月8日、ガザでの即時人道的停戦を求める国連安全保障理事会の決議案に拒否権を発動した。国連事務総長のアントニオ・グテーレスは12月6日、安保理に宛てた書簡で、国際平和と安全保障を脅かすと思われる状況について事務総長が安保理の注意を喚起できると定めた国連憲章第99条に基づいて人道的停戦を宣言するよう促した。イスラエルとハマスの戦争でガザ地区への人道支援体制が崩壊の危機に瀕しており、これが地域の国際平和と安全保障に重大な危険な状況をもたらしていると判断したからだ。しかし、これまで5回しか発動されていない重大な人道的停戦宣言に対して、米国は拒否権行使した。パレスチナ人の生命などどうでもいいというわけである。

10月18日、「人道的一時停止」を求める決議案についても、米国は拒否権を使った。理事会を構成する15カ国のうち12カ国がブラジル主導の文書に賛成票を投じたが、1カ国(米国)が反対票を投じ、2カ国(ロシア、英国)が棄権した。

10月25日、今度は米国が提出した決議案に対して、賛成したのは10カ国、反対は3カ国(中国、ロシア、UAE)で、棄権は2カ国(ブラジルとモザンビーク)だった。そして、上記の12月8日、アラブ首長国連邦が提出した、即時人道的停戦を求める決議案に対して、賛成票は13票で、英国は棄権した。米国は拒否権を発動したのである。

民主国家を標榜する米国政府は、ガザで失われている尊い人命に対して、これを停止せよという決議案さえ受け入れようとしていない。イスラエルの過剰な自衛権行使に対して、無視を決め込み、イスラエルによる一般市民への攻撃を黙認している。こんな国のどこが民主国家なのだろうか。ユダヤ系アメリカ人のご機嫌取りに傾いて、パレスチナ人の人命をまったく無視するというのが米国全体の有権者の考えではないだろう。しかし、現実を冷静にながめると、米国の外交はユダヤ系アメリカ人、大富豪の利害に誘導されてきた感がぬぐえない。

 

ウクライナでも人命を軽視する覇権国アメリカ

覇権国アメリカはウクライナについても人命を軽視しつづけている。そこには、同じくユダヤ系アメリカ人へのご機嫌取りがあるのではないか。そこに根強くあるのは、「ロシア嫌い」の感情だ。こうしたユダヤ系アメリカ人のなかには、大富豪が複数存在し、彼らはロシアを痛めつけることで「復讐」しようとしてきた。こうしたユダヤ系アメリカ人に接近して、大富豪の庇護下で権力を握り、ユダヤ系アメリカ人の意向に沿った外交を実際に行った大統領こそ、バラク・オバマであり、ジョー・バイデンだ。もちろん、ドナルド・トランプもそうである。覇権国アメリカの外交はユダヤ系アメリカ人、それも大富豪の掌のなかにあるかのようにみえる。まるで、異端(heterodoxy)ゆえに迫害されたユダヤ人を憎むように、ロシアを異端として阻害しているようにみえる。

 

2014年2月のクーデターの影にオバマ

私は、拙著『ウクライナ2.0』において、つぎのように書いた。

「たとえヌーランドがネオコンであったとしても、オバマがヌーランドの武装クーデター計画に待ったをかければ、ウクライナ危機は起きなかったかもしれない。その意味で、オバマはウクライナへの「先制攻撃」の最高責任者と言える。だが、なぜオバマはヌーランドのような露骨なネオコンの計画に賛成したのだろうか。その背後には、イリノイ州議会議員や同州選出の上院議員であったオバマの政治基盤が関係している。実は、ウクライナ移民が多く住む「ウクライナ・ヴィレッジ」が州都、シカゴのダウンタウン近くにあり、ウクライナ系住民が比較的多くいるのである。ウクライナから米国に移住した人々のうち、ニューヨーク市に住む人がもっとも多いが、フィラデルフィア、シカゴの順に多くのウクライナからの移民が住んでいる。4万~5万人くらいのウクライナ系住民を多いとみるか、少ないとみるかは微妙だが、少なくともこうした人々がオバマの政策に影響を与えているのはたしかであり、それが「ウクライナをロシアから解放する」クーデターの容認につながった可能性はある。あるいは、ポーランド系住民なら90万人以上がイリノイ州に住んでいるとの情報もあるから、彼らのオバマへの影響力は絶大とみなすことができる。かつてポーランドの支配下にあった、ポーランド人によってルヴォフ(Lwów)、ウクライナ人によってリヴィウ(Львів)、ロシア人によってリヴォフ(Львов)と呼ばれるウクライナ西部の都市の奪回といった野望が米国に住むポーランド系移民の心の奥底にあるのかもしれない。こう推測すると、ウクライナのナショナリストをけしかけて、ウクライナの「ロシア離れ」を引き起こし、事実上、米国の影響力下に置こうとする、ヌーランドらネオコンの目論見にオバマが賛同したのも頷ける。」

 

腐敗したオバマ政権

日本では、オバマがいかに腐敗した政治家であるかについて知る人は少ない。高学歴のミシェル・ロビンソン(当時バラク・オバマと婚約中)を雇い入れたのは、数々の汚職スキャンダルで悪名高いシカゴ市長リチャード・デイリーの次席補佐官を務めていたヴァレリー・ジャレットである。両親はアフリカ系とヨーロッパ系のアフリカ系アメリカ人だが、ジャレットの父親はかつて彼女に、彼女の曽祖父はユダヤ人であるといったという。

ヴァレリーは、バラクとミシェルを「シカゴで最も裕福で影響力のある人々に紹介する」と約束する。ジャレットは、欠陥住宅の建設で一儲けするなどの手法でのし上がり、その後もスキャンダルの渦中にありながら、逃げ切った。オバマが大統領に選出されると、2009年から2017年までバラク・オバマ米大統領の上級顧問、大統領補佐官(公共関与・政府間問題担当)を務めた。2021年からオバマ財団の最高経営責任者を務めている。

リチャード・デイリーは1989年から2011年までイリノイ州シカゴ市長を務めた。在任期間22年は、同じくシカゴ市長だった父リチャードの在任期間21年を上回った。「権力は腐敗する」から、この世襲政治家もまた腐敗にまみれていた。そうした人物の側にオバマは立ち、権力の階段を昇ったのである。つまり、「悪」まみれのなかでこそ、権力を握ることができたのだ。

リチャードの弟であるウィリアムは、1990年代にシカゴで弁護士としてのキャリアを積む。メイヤーブラウン&プラット法律事務所でパートナーになった彼は、ヴァレリー・ジャレットの関与のもと、当時単発の法律業務で食いつないでいたバラク・オバマと知り合う。そして、2011年1月、オバマ大統領はウィリアム・デイリーをホワイトハウス首席補佐官に任命した。初代のラーム・エマニュエルに次ぐシカゴ代表の首席補佐官となった。

なお、エマニュエルはその後、シカゴ市長になった。その後、2021年12月、駐日米国大使就任の宣誓をした。彼はユダヤ人であり、腐敗することで巨大化したデイリー・ファミリーだけでなく、多くの金蔓や権力者との伝手をもっていたようだ。ビル・クリントンの政策に関する大統領顧問であったこともある。つまり、クリントンもユダヤ系アメリカ人の影響を強く受けていたといえよう。

 

「知られざる地政学」連載(17)
市民殺害を顧みない覇権国アメリカの実態:ユダヤ系富豪の抜きがたい影響力(下)に続く

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塩原俊彦 塩原俊彦

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士。評論家。 著書:(2023年9~10月に社会評論社から『知られざる地政学』(上下巻)を刊行する) 【ウクライナ】 『ウクライナ戦争をどうみるか』(花伝社、2023)、『復讐としてのウクライナ戦争』(社会評論社、2022)『ウクライナ3.0』(同、2022)、『ウクライナ2.0』(同、2015)、『ウクライナ・ゲート』(同、2014) 【ロシア】 『プーチン3.0』(社会評論社、2022)、『プーチン露大統領とその仲間たち』(同、2016)、『プーチン2.0』(東洋書店、2012)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(岩波書店、2009)、『ネオ KGB 帝国:ロシアの闇に迫る』(東洋書店、2008)、『ロシア経済の真実』(東洋経済新報社、2005)、『現代ロシアの経済構造』(慶應義塾大学出版会、2004)、『ロシアの軍需産業』(岩波新書、2003)などがある。 【エネルギー】 『核なき世界論』(東洋書店、2010)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局、2007)などがある。 【権力】 『なぜ「官僚」は腐敗するのか』(潮出版社、2018)、『官僚の世界史:腐敗の構造』(社会評論社、2016)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社、2016)、Anti-Corruption Policies(Maruzen Planet、2013)などがある。 【サイバー空間】 『サイバー空間における覇権争奪:個人・国家・産業・法規制のゆくえ』(社会評論社、2019)がある。

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