【特集】ウクライナ危機の本質と背景

米欧の国際プロパガンダを超克する「クリミア友人会議」

木村三浩

 

10月23日・24日にモスクワのプレジデントホテルで「ヤルタ国際フォーラム」が開催され、私も出席した。私がロシアを訪れるのは4年ぶりのことだ。
フォーラムには60カ国以上から約150人が参加、ロシア国内の参加者を含め約200人が一堂に会した。

3部会に分かれ、内政・グローバルサウスとの協調・新世代の育成等について、細かな議論がなされた。私も、日本を含む西側諸国によるロシアへの経済制裁反対を表明するとともに、各国の参加者と意見交換を行なった。
このフォーラムのプログラムである「クリミア友人会議」には、ヨーロッパやアフリカ・アラブ・アジア各国のほかイスラエルや、ガザ地区出身のパレスチナ代表も参加。
会議の共同声明では、「米国の覇権を前提とした一極集中の世界はもう通用しない」と主張した。

私も日本の現状を伝えるとともに、ロシアへの帰属を決定した2014年3月16日の住民投票によるクリミア人の自己決定を全面的に尊重する旨を発言。
ロシアが武力で奪ったとする国際プロパガンダを批判した。
このプロパガンダに乗って、ウクライナのゼレンスキー政権は現在も「クリミア奪還」を掲げ、住民の忠誠度を測っている。
世界はクリミアの人々の自己決定と投票結果を改めて評価し、停戦への道を考えるべきだ。

フォーラム終了後にはガルージン外務次官、ジョストキ・アジア第3局次長と再会し、意見交換した。27日には約25年の交流を持った反共政党・ロシア自民党のジリノフスキー元党首の墓参に国立ノボデビィーチ墓地を訪れ、二礼二拍手一礼をもってお参りした。
2022年2月24日のロシアの軍事行動開始以来、日本政府は経済制裁を課すとともに、「渡航中止勧告(レベル3)」を発している。

モスクワのシェレメチェヴォ国際空港はヨーロッパに向かうトランジットで利用されてきたが、長らく日本からの直行便は停止。
今回、私はアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビを経由してロシアに入った。
日本を含めた西側諸国の経済制裁の効果は、現地では感じられなかった。
モスクワでは人々が当たり前の生活を送っている。スーパーでは十分な量の物が売られ、皆がレストランや食堂で食事し、酒を飲んでいる。日本人にとって少し物価が高いのは、ロシアに限ったことではないだろう。

他方、ここにきて、NATOを主導する米国のロシア解体策謀が露見しつつある。
11月11日には、ロシアとヨーロッパをつなぐ海底パイプライン「ノルドストリーム」が2022年9月に爆破された事件について、米ワシントン・ポストがウクライナ軍幹部の関与を報じた。
同紙は2023年6月にも、バイデン政権がウクライナ軍による攻撃計画を事前に把握していたと、米国政府の機密文書をもとに報じていた。
こうして実態が明らかになっていくことは、停戦を現実化に向かわせる上で、大きなプラスとなる。

「停戦交渉」を阻むウクライナの大統領令

2024年3月にはロシアとウクライナの双方で大統領選挙が予定されている。自国の大統領選挙について、ゼレンスキー大統領は出馬に意欲を示しつつ、実施するかどうかはまだ不透明とする。
米国やNATOは選挙の実施で民主主義を示せと求めているものの、ウクライナ国民は1千万人ほどが、すでに国外脱出。その意志をどのように測るのか、技術的な問題が立ちはだかる。ドンバス地域の人々の扱いをどうするかという難問も抱えている。

ゼレンスキー大統領は11月、戒厳令と総動員令を2024年2月まで延長した。18~60歳の男性の出国を原則禁止する措置も維持されている。戒厳令下で選挙はできない。
現職の対抗馬として出馬の意向を示しているのがアレクセイ・アレストビッチ元大統領府長官顧問で、選挙の実施を主張するとともに、「領土回復は軍事的手段ではなく、政治的手段によって目指すべきだ」と主張している。

しかし問題は、2022年10月にウクライナで「プーチン大統領との停戦交渉は不可能」とする大統領令が決議されていることだ。
実は、同年9月にトルコでロシアとウクライナの非公開協議が行なわれ、停戦を目指すことで大筋が決まっていた。
ところが米国の横やりでウクライナが署名できずに、この大統領令が発令されることとなった。

1956年の日ソ共同宣言において、当時のダレス国務長官が日本政府に圧力をかけた「ダレスの恫喝」の現代版だ。
ロシアが交渉に応じようとしても、ウクライナ側がそれを認められない。停戦交渉に入るには、まずウクライナ大統領令の解除が先決なのだ。
ヤヌコビッチ政権を倒した2014年のウクライナ・マイダン革命の仕掛人の1人、ビクトリア・ヌーランド国務次官は、2023年2月の記者会見で「戦争目的はクリミア半島の奪回とロシアのレジーム・チェンジ」と発言した。

すなわち、プーチン体制を解体することが米国の目的であり、それをゼレンスキー大統領が代行しているということだ。ヌーランド氏は、現在のロ・ウ間の紛争が米国主導であることを堂々と述べたのである。
西側諸国の主張する「ロシアの侵略」がプロパガンダにすぎないことも、この発言は明かしている。私が当初から、ルッソフォビア(嫌露主義)というべき圧倒的な批判と同調圧力の中で指摘してきたことでもある。

2014年のクリミアのロシアへの帰属、あるいはソビエト連邦崩壊以降の情勢、もっと以前の歴史から見ても、クリミアやドンバスの帰属に関する問題は従来から存在しているのであり、2022年2月24日に突然ロシアが軍事行動を起こしたのではないと本誌でも指摘してきた。
30年前のイラク戦争において、米国はイラク国内に大量破壊兵器が存在するというプロパガンダを仕掛けて自らの侵略行為を正当化した。

それが全くの嘘だったことは、周知の通り。2008年、ロシアとグルジア(現ジョージア)の間の南オセチア紛争も同じ。
リビア・イラン・シリア、そして北朝鮮も、米国の「ならず者国家」認定を受けている。
米国がこの種の国際プロパガンダによって仕掛けるグローバリゼーションの尻馬に乗るだけでなく、自立国家・万邦共栄を目指していくべきだ。
そして我々は自国の歴史・伝統・文化・共同体を守らなければならない。

ジリノフスキー元党首はかつて「日本が北方領土返還を要求したら、東京に原爆を落としてやる」などと発言していた。
日露関係悪化を狙う勢力から格好の材料とされないために、私はモスクワに赴き、彼と膝を突き合わせて議論した。
それ以降は、その種の発言をしていない。
彼はスターリンを批判する反共の闘士でありつつ、そしてロシア人としての民族性を保守する一方で、ソビエトに対しての一定の評価を持っていた人でもあった。
2002年に『SAPIO』でインタビューした時には、「日ソ中立条約の破棄は必要なかった」と、はっきりと述べている。

現在のロシアには、ウクライナに核を使えと主張する政治政策集団のセルゲイ・カルガノフ代表ら強硬派がいる。
しかし、プーチン大統領は、ロシアには核を使用する際のドクトリン(基本原則)があり、現段階ではそれを満たしていない、と発言。
我が国に対しても、日本側が対話を求めるならば話し合いにはいつでも応じると述べている。プーチン大統領の言動は、論理と倫理に基づいている。

一方、バイデン政権は2024年11月に大統領選を控え、自国ができない戦争をウクライナにさせている。国際秩序を掲げてウクライナのゼレンスキー政権を支援しながら、同時にガザの人々を殺戮するイスラエルも正当化する矛盾は、すでに国務省の内部からも指摘され、米国覇権の衰退は、ここに顕在化しつつある。
プーチン大統領と、どちらが理性的な態度かは明らかだ。

自主外交あっての安全保障

安全保障は「DIME」だという。D=ディプロマシー(外交)、I=インテリジェンス、M=ミリタリー、E=エコノミック。しかし、自主外交あってのインテリジェンス、情報だ。
日本のミリタリーは本当に自国のためのものなのか。
エコノミックに至っては、失われた30年を脱する道のりはいまだ見えない。確かにDIMEは重要でも、その前提となる日本の国家としての理念や指針があるかどうかが、まず問われる。

クリミア友人会議では、各国の参加者から、「日本は原爆を落とした米国になぜ付き従うのか」「サムライ精神はどこに行ったのか」といった素朴な疑問を投げかけられた。
自国の国益を考えるべきで、「このままではロシアと北方領土返還の交渉などできないでしょう」とも言われた。

「日本にはもう期待しない」という率直な意見もあったが、それは違う。私が会議に参加したように、状況を正しく理解する民間人や、少ないが国会議員もいることを説明した。
イラク戦争を当時の小泉純一郎首相がいち早く支持した背景に、英国が最初に支持を表明するのを避けるため、ブレア首相が日本に先に支持するよう仕向けたことが明らかになった。

そして現在、東欧とアラブの二正面作戦でいずれも形勢不利を強いられる米国により、日本は台湾とともに、アジア・ユーラシアにおける米覇権保持の役割を肩代わりさせられている。
ダレスの恫喝は続いている。米国の不公平な国際覇権もまだ続いている。
その策謀が明らかになるなかで、我が国がとるべき政策は、アジア・ユーラシアを基調にした万邦共栄の国家理性である。その第一歩が対米従属の戦後体制の脱却であるのは明らかだ。

(月刊「紙の爆弾」2024年1月号より。最新号の情報はこちら→https://kaminobakudan.com/

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木村三浩 木村三浩

民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。

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