【連載】データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々(梶山天)

第14回 DNA鑑定導入の黒歴史

梶山天

何か裏があると思い、再鑑定で残った資料がチューブにあるものをHLADQα法を得意とする知人に依頼して鑑定してもらった。予想は大当たり。一致していないことが判明した。これで明らかになったのは、科警研はこの鑑定をやり、菅家さんのDNA型が女児の肌着から検出されたDNA型と一致しなかったことは初めから鑑定結果が分かっていながら逮捕したということだ。しかもその鑑定を行った科警研技官の1人は、定年を待たずして急に退職したのも腑に落ちなかったが、やっと理解できた。

この足利事件では当初、栃木県警はある別の人物を容疑者とみて追いかけていた。しかも科警研が行ったDNA型鑑定は、実は栃木県警科捜研からの鑑定依頼を2度も頑なに「長い間水に使っている」などの理由で断っていて、急に鑑定実施に変更になったのは、予算獲得のチャンスの時期があってのものだったことはここでもわかる。

ただ、この足利事件を挟んで、79年8月から96年7月までに渡良瀬川をはさんで栃木、群馬両県境で発生した女児対象の計5県の殺人と行方不明事件が未解決のままだ。

ただし、96年の行方不明事件を除く、殺人事件4事件はすでに時効が成立している。2011年3月に中野寛成(かんせい)・国家公安委員長(当時)は、参議院予算委員会で有田芳生参院議員(民主党)から一連の事件について質問され、「一般的には同一犯による犯行の可能性が否定できないものというふうに警察としても認識しております」と答えた。この冤罪で同一犯と見られる一連の事件な解決のチャンスを逃した可能性もぬぐえない。

今年春、足利事件の菅家さんに連絡を取った。菅家さんは「自分の人生がDNA型鑑定導入の犠牲になったと思うとたまらない」と吐き捨てるように言った。新聞が「DNA型が一致」と書き飛ばし、早朝から栃木県警の捜査員が「菅家はいるか」と借家の玄関度を荒々しくたたき家の中に上がり込んで来た。

この日午後からは、かつて足利市内の保育園児の送迎するバス運転手として働いていたときの親しかった同僚女性の結婚披露宴に招かれていたのだ。任意同行のことは鮮明に覚えている。県警機動捜査隊の芳村武夫警視が菅家さんを居間の座卓前に正座させ、「お前、子供を殺しただろう」と凄んだ。「いや、自分は何もやっていません」。菅家さんが小さな声で答えた時だった。

隣にいた捜査1課の橋本文夫警部が、いきなり菅家さんの右胸にひじ鉄を食らわせた。不意を突かれてひっくり返った菅家さんが身を起こすと、芳村警視が胸ポケットから1枚のカラー写真を取り出して「謝れっ」と目の前に突き付けた。状況が全く理解できなかった菅家さんは、写真の少女をニュースや立て看板で見たことがあり、混乱しながらも手を合わせた。

まだ逮捕状もなく、任意で出頭要請の前の段階で既に暴力を振るっている。しかも取り調べて自供を引き出す寸前にも取調官が菅家さんの足を膝蹴りして泣かせるなど恐怖におびえて自供させているのだ。まるで戦時下の特高警察を彷彿させる映画を見ているようだ。なぜか、今市事件で勝又拓哉受刑者を殴ってけがをさせ、取り調べ官を後退させられた刑事を想像させる。

菅家さんは自分がやってもいない自供したことについて「最初から暴力を受けて、怖かった。取り調べの時間は地獄に思えたから、その時間は怒られないように取り調べ官が喜ぶように何でもいいからうそをつくしかなかった」と語った。それを聞いて、今千葉刑務所にいる勝又受刑者の取り調べと同じような気がする。菅家さんは「一番悔しいのは、晴れて無罪になって出てきたときには両親はすでに亡くなっていた。冤罪だったこと知らずに両親を死なせてしまったのが一番の心残りだよ」と突然声がかすれた。

全国の皆さん。私は法医学者2人の協力を受けて、ついに栃木県警がDNA型鑑定の改ざんともとれるデータの隠ぺいの証拠を見つけました。無実の人が刑務所にいます。その母親は思い病気を患っています。自分の無実の報告を両親に伝えられなかった菅家さんの二の前を二度とさせないためにも早く、再審できるよう協力していただけませんか。名もなき人々が力を結集すれば国は動く。私はその言葉を信じています。どうか、力を貸してください。

連載「データの隠ぺい、映像に魂を奪われた法廷の人々」(毎週月曜、金曜日掲載)

https://isfweb.org/series/【連載】今市事件/

(梶山天)

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梶山天 梶山天

独立言論フォーラム(ISF)副編集長(国内問題担当)。1956年、長崎県五島市生まれ。1978年朝日新聞社入社。西部本社報道センター次長、鹿児島総局長、東京本社特別報道部長代理などを経て2021年に退職。鹿児島総局長時代の「鹿児島県警による03年県議選公職選挙法違反『でっちあげ事件』をめぐるスクープと一連のキャンペーン」で鹿児島総局が2007年11月に石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞などを受賞。著書に『「違法」捜査 志布志事件「でっちあげ」の真実』(角川学芸出版)などがある。

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