繰り返される「政治資金不記載」「選挙違反」 政治家はなぜ法を守らないのか

足立昌勝

「法の支配」の空虚

昨年末に問題化した自民党の政治資金パーティ“裏金事件”が大詰めを迎えている。
東京地検特捜部のメインターゲットは“安倍派”のようでも、問題は安倍派に限ったことではない。本誌発売時には、岸田政権の存続を含め、どのような政治状況になっているかはわからない。

そして、このパーティ券収入不記載事件も、最近起きた1つの事例にすぎない。代議制民主主義の国家では、議員は主権者たる国民に代わり、その代表者として政治に参画し、国会での議論を通じて立法過程に携わっている。しかし政治家は、選挙活動や政治活動を通して、公職選挙法や政治資金規正法に違反し、違法な活動をしばしば行ない、悪質な場合には立件され、有罪とされている。

その背景には、国家全体を見るのではなく、自己利益のみを優先させる政治家たちの自己中心主義が存在するのだろう。そもそも政治家は、国権の最高機関である国会での議員活動により、立法に加わっている。そこで制定された法律には、彼らを選んだ国民も従わなければならない。立法に参画した政治家自身も従わなければならないことは、当然である。特に、彼らの活動を規制する政治資金規正法や公職選挙法に従うことは当然の義務である。

ところで、岸田文雄首相は、外国に行っては「法の支配」の必要性を訴えている。念仏のように唱えるその主張の必要性は、彼の国内政策にブーメランのように降り注いでいる。

岸田首相にとって、今一番大切なことは、彼自身が法に支配されることである。彼は、「法の支配」という言葉の意味を理解しているとは思われない。国内では憲法9条を無視した安保3文書の改訂を行ない、軍備をますます増強させている。さらには、外国との軍事協力を拡大し、武器輸出の緩和が模索されている。その際、「国の安全は守らなければならない」と掲げるものの、それ以前の大前提であるべき憲法、特に9条を完全に蔑ろにしているのだ。

現下の安全保障政策なるものは、憲法9条による「法の支配」を貫徹していないどころか、全く無視している。こんな政策を推し進めている岸田首相に、「法の支配」を語る資格はない。

 

政治資金規正法が定める「犯罪行為」

政治には金がかかるという。広い選挙区で選挙民に政策を訴え、理解を得ようとすれば、それなりの金が必要だろう。しかし、勝手気ままに金を集め、利用することはしてはいけない。政治資金の一部は税金で賄われ、その使途の公明性が問われるからである。

したがって、政治家の政治活動は、政治資金規正法に従わなければならない。
政治活動の公明と公正を確保し、民主政治の健全な発達に寄与することを目的として制定された「政治資金規正法」について、総務省は次のように説明している。

議会制民主政治の下で果たすべき政治団体の機能の重要性・公職の候補者の責務の重要性にかんがみ、政治団体や公職の候補者により行なわれる政治活動は、国民の不断の監視と批判の下に行われなければならない。そのために、①政治団体の届出②政治団体に係る政治資金の収支の公開③政治団体及び公職の候補者に係る政治資金の授受の規正等が行なわれている。

この政治資金規正法では、すべての政治団体に収支報告書の提出を義務付けている。収支報告書は国民に公開することが前提なので、事実に即した記載が要求されている。
収支報告書の訂正については同法に規定はないが、総務省では、「収支報告書の内容が事実に反することが判明し、政治団体から訂正の申出があった場合においては、国民に対し正しい収支の状況を明らかにする観点から、見消しで収支報告書の訂正」を認める取扱いがなされている。しかし、このように収支報告書の訂正を広範に認めてしまえば、最初の報告書に、本当に事実に基づく記載がなされていたのかが疑わしくなる。

政治資金規正法には、違反した場合の罰則が設けられている。その主なものは、次のとおりである。
▼無届団体の寄附の受領・支出の禁止違反⇒5年以下の禁錮又は100万円以下の罰金
▼会計帳簿の備付け違反・不記載・虚偽記載⇒3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金
▼明細書の不提出・不記載・虚偽記載⇒3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金
▼領収書等の不徴収・不送付・虚偽記載⇒3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金
▼会計帳簿・明細書・領収書等及び振込明細書・支出目的書の保存義務違反・虚偽記載⇒3年以下の禁錮又は50万円以下の罰金
▼収支報告書・添付文書・政治資金監査報告書の不提出⇒5年以下の禁錮又は100万円以下の罰金
▼収支報告書・添付文書の不記載・虚偽記載⇒5年以下の禁錮又は100万円以下の罰金
▼政治資金監査報告書の虚偽記載⇒30万円以下の罰金

ここからも明らかなように、書類への不記載や虚偽記載がほとんどの場合で禁止され、犯罪とされている。一連のパーティ券収入の一部が収支報告書に記載されていなかった事実は、ここに明記された「犯罪行為」なのだ。

通常であれば、総務省が認める訂正で済ませていたであろう。しかし、その一部が議員にキックバックされ、その金額がどこにも記載されていなかった。

ならば、その収入はどのように取り扱われているのだろうか。安倍派では数十人の議員がどこにも記載せず、裏金化していたと報じられ、内閣からは派閥の事務総長だった松野博一官房長官と西村康稔経済産業相、党役員でも萩生田光一政調会長ら安倍派幹部が一斉更迭された。

自分の裏金にしたら、その人の収入となり、税務申告しなければならない。申告していなければ、脱税の疑いがかけられるだろう。

「訂正」を許す総務省の不作為

裏金事件について、岸田自民党総裁は、派閥パーティの自粛を呼びかけた。しかし、問題の根深さを考えれば、このような小手先の手段では足りないのは明らかだ。

今問題なのは、政治家が遵法精神を持っているかどうかである。選挙区という慣れ親しんだ土壌の中で何をしても変わらない。自民党には、一度すべての議員が辞職するほどの解党的改革が必要である。

本誌「紙の爆弾」昨年12月号で採り上げたとおり、自見英子地方創生大臣は11月27日、自分が支払った165万円の家賃収入を政治団体の収入に記載しなかったとして、収支報告書を訂正、さらに12月1日には、寄付金50万円を記載しなかったとして訂正した。このように安易に訂正を認めていたら、不記載や虚偽記載を禁止した意味が失われ、政治資金規正法はザル法となってしまう(すでにザル法かもしれない)。議員自らが法に従わなくても済んでしまう、従わなくてもよいという意識が生まれるだろう。

そこには遵法精神の欠片すら見当たらない。公明正大な政治活動を行なっているならば、国民に恥じることはない。正々堂々と事実を記載し、どのような活動をしたのかをはっきりと示したらよいだろう。

繰り返すが、議員自らが作成にかかわった法律は、当然のように守らなければならない。それが議員たる者の、国民に示すべき態度である。政治家自らが法に違反しても、訂正したから良しとすることなど、国民は誰一人として納得しない。

総務省は、「国民に対し正しい収支の状況を明らかにする観点」から訂正を認めている。しかし、事実に基づかない、正しくない記載については、ただ訂正で済ませているというのが実際のところであり、ここに大きな問題があるのだろう。なぜなら、多くの議員の側に、規範意識や遵法精神の欠如が明らかだからだ。

最初の収支報告書に、事実に基づく正しい記載をしていればいいだけのことである。それを指導するのが、総務省の役割ではないのか。

この点について、集英社オンライン編集部ニュース班の宮原健太氏は、昨年12月2日付記事で、次のように主張している。

〈自民党派閥の政治資金問題は疑獄事件に発展することとなるのか。裏金作りに利用されていたのはパーティ券収入のキックバックだが、「キックバック」という言葉は、チェーンソーを使用した際に使用者に向かって刃が跳ね返る、極めて危険な現象の名称でもある。遵法精神をないがしろにし、都合よく政治資金を記録から葬り去ってきたことへの、あるいは、検察の人事に不当に介入しようとしてしまったことへのキックバックが、近く自民党を襲うことになるかもしれない。〉

自らが立法にかかわる議員が法に従わなければ、彼らに立法をゆだねた国民は、何をすればよいのか。ただ地検の捜査を眺めるのではなく、規範意識も遵法精神もない議員を、議会から追い出すことが、少なくとも必要だ。

公職選挙法が定める「犯罪行為」

議員になるためには、選挙で当選しなければならない。そのためには、選挙人に政策を訴え、人となりを知ってもらう必要がある。その選挙活動を規制しているのが、公職選挙法である。

最近では、昨年4月に行なわれた東京・江東区長選で当選した木村弥生前区長が有料のインターネット広告をユーチューブに掲載したことで、公職選挙法違反に問われ辞任した。その捜査の過程で、自民党の候補者を支援せず、独自に木村弥生候補を支援していた柿沢未途衆院議員が区議に現金を渡していたことが判明し、事務所や自宅等が家宅捜査された。木村前区長の行為は有料広告の禁止に該当し、柿沢議員の行為は(配布した意図にもよるが)買収に当たるおそれがある。

また、11月19日投開票の千葉県我孫子市議会議員選挙では、当選した候補者の1人が投票日の当日に、読売新聞に折り込みチラシとして自分の選挙用ビラを入れて選挙民に配布した。選挙活動は投票日の前日までの選挙期間以外は禁じられている。さらに同29日に仮釈放された河井克行元法相が2019年参院選広島選挙区で行なった大規模買収事件は、記憶に新しいものであろう。

公職選挙法では、買収罪・利益誘導罪・選挙妨害罪および投票に関する罪が規定されている。それらを行為として具体的に見れば、次のようなものが該当する。
1 飲食物を提供する行為
2 あいさつ状を出す行為
3 戸別訪問
4 寄付
5 有料広告を出すこと
6 選挙の自由を妨害する行為

候補者になろうとする者は、選挙管理委員会から選挙の仕組みを説明される。その際、具体的な違反行為も指摘されているだろう。にもかかわらず、少なくない候補者が違反行為をする。

候補者は、当選したあかつきには、議会で法律や条例等の立法過程に参画する資格を得る。法を作成する側に位置する者が、法に違反する行為をすることは絶対に許されない。選挙民も、自身が民主主義の重要な担い手であることを認識し、選挙違反行為は絶対に許さないとの意識が必要である。それは、投票に際しての大きな基準になるはずだ。

遵法精神欠如の政治家が順守する「アメリカの意向」

これらを総合的に概観すると、共通するのは「遵法精神の欠如」である。議員一人一人が立候補に際し、法に従った選挙活動を行ない、議員としても法に従った政治活動を行なっていれば、何の問題も起きないはずである。

ところが、選挙になれば違反者が次々と摘発され、政治資金報告書が公開されれば不記載や虚偽記載が指摘され、訂正申告するのが通例となっている。

なぜ、日本の政治家にまっとうな規範意識が欠如しているのか。それは、代々続いてきた自民党政権の悪しき政策の現れ・反映ではないのか。党や派閥のトップが行なっていれば、そこに所属する議員は理念を忘れ、それでも良しとしているのだ。

安倍・菅・岸田と続く自公政権では、束ね法案に代表されるように国会での議論が軽視され、国家の未来を決定するような重要な法律が多数の暴力により制定されてきた。そこでは、従来の国会が持っていた少数意見の尊重という理念は忘れ去られている。

自民党政権の延命に協力し、平和の党から戦争是認の党へと変質した公明党の責任も重大である。
聞く耳を持つことを自慢していた岸田首相は、他人の不祥事では説明責任を果たすべきだと言いながら、自己の身に降りかかってきた火の粉には、説明すらしようとしなかった。12月4日に報道された、2019年、政調会長時代の旧統一教会系トップとの面会については、「多数の人と会っているので具体的にはわからない」と苦しい釈明をしている。

それでも、言い訳が通用しない段階にきている。共同通信によれば、旧統一教会関係者がすでに事実を認めているのだ。まさにブーメランというほかない。岸田首相はまず範を垂れ、自ら説明責任を果たさなければならない。

このような人物を総裁に仰ぎ、反旗を掲げることすらできないのが今の自民党だ。この首相あっての自民党であり、派閥である。それぞれが法を守らず、違反行為を繰り返しつつ、いつも訂正で済ませてきた。だから国民からの信頼を失うのである。

しかし、そのような政治を許しているのは政治家のみならず、選挙民たる国民の、民主主義的意識の未成熟も一因ではないか。政治家は自らの地位にあぐらをかき、国民は安易な方法で投票する。それが、今の日本の状況を作り出しているのは明らかだ。

結果、どうなっているか。最も重要な「平和」をめぐる動きを見れば、憲法9条の解釈や防衛力整備、自衛隊の海外展開等には憲法9条は意味を持たず、その精神すら存在しない。代わって鎮座するのが、日米安全保障条約であるようだ。

といってもそれは、「安保条約」そのものではないような気がする。すでに条約の枠を超え、アメリカの意向そのものによって、日本の政治は動かされているのではないか。

こんな形にもならない「アメリカの意向」にとらわれ、軍備拡張を図っている日本は、すでに狂っているのだ。今後、70年安保以降の日米関係を振り返りつつ、日米安保ではなく、アメリカの意向で動かされている日本の防衛政策を、憲法9条を堅持する観点から考えてみる必要があるだろう。

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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