【連載】木村朗"時代の奔流"を読む

自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(下)

木村朗ISF編集長

自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(上)はこちら

3.なぜ政治倫理委員会なのか~「政治とカネ」問題の深い闇

そもそもなぜ今回の裏金疑惑を扱う場として偽証罪が問われる証人喚問や参考人招致ではなく政治倫理委員会(以下、政倫審)なのか。これまで述べてきたように今回の自民党の裏金問題は汚職・脱税につながる犯罪行為を犯したのではないかという重大な疑惑が問題として浮上しているのである。

まさに「自民党全体が組織ぐるみでシステマチックに裏金づくりをしていたというものだ。極めて重大であり、戦後最悪の金権、腐敗事件だ」(日本共産党の小池幹事長)というものである。こうした政治家の重大疑惑の真相解明と責任追及の場として政倫審はふさわしくない。このような重大な疑惑を持たれた政治家の場合、いま最も適切なのは衆議院予算委員会の場での喚問喚問であり、最低でも参考人招致が必要である。この点を前提として押さえたうえで次に政倫審の問題を述べていきたい。

政倫審は、田中角栄元首相がロッキード事件で1審有罪判決を受けたのを機に、1985年に衆参両院に設置された機関であり、衆院では25人、参院では15人の委員が与野党国会議員から選出される。これまで衆院では過去に9回開催され、8人の議員が審査を受けた。参院は今回2月27日に初めて開催された。

過去の衆院政倫審では出席した議員の発言は証人喚問と異なり偽証罪に問われず、真相解明に至ったとは言い難いだけでなく、疑惑の幕引きに利用されたケースも少なくない。報道への完全公開を認めたのは自ら疑惑を晴らそうとして衆院政倫審に出席し議員辞職に追い込まれた田中真紀子氏(元外相)1人だけだ。公設秘書給与の流用は一切ないと疑惑を否定しながら「細かいことは分からない」として、弁護士と公認会計士が代わりに弁明したが、世論の批判は収まらず、結局、出席の翌月に議員辞職した。

初開催は1996年。自民党の加藤紘一幹事長が鉄骨加工会社からの闇献金疑惑を巡り出席を申し出た。衆院解散を2日後に控え一区切りを付ける狙いもあり、野党は反発。議員も記者も入れず、完全非公開で行われた。

議員傍聴のみ認められたのは、1998年の山崎拓自民政調会長、2001年の額賀福志郎前経済財政担当相(現衆院議長)、2004年の橋本龍太郎元首相の3人。橋本氏は、日本歯科医師連盟からの献金隠し事件で、1億円受領の事実は認めたものの、詳細は「知らない」「指示をしていない」と繰り返した。

この政倫審は疑惑を持たれた政治家に弁明の機会を与える場であり、徹底した真相解明と責任追及を行う場でも、再発防止を論じる機関でもない。なぜなら政倫審への参加は本人からの申し出・同意を前提しており、そこでの審議は原則として非公開でかつ議事録は非開示、また偽証が明らかになった場合も除名・辞職などの拘束力・強制力のある処分・罰則がないというルールとなっているからである。それであれば政倫審では、嘘はつき放題となり、質疑をする意味をなさないことになる。

 

その政倫審誕生の経緯と本質を熟知している平野貞夫元参議院議員はテレビ放送の中で次のように語っている(以下は、BS-TBS『報道1930』2月26日放送での平野氏の発言の要約、ISF独立言論フォーラム編集長・木村による平野氏へのインタビュー動画も参照)。

《政倫審の立法過程で厳しい罰則を設けようとする動きがあったという。例えば自民党内の懲罰では一番重いのは除名だが、国会でも著しく倫理に反した議員は懲罰対象にしようという意見も出たという。

そこで、当時議院運営委員長だった小沢一郎氏が、立ち上げの座長としてロッキード事件で起訴されたとはいえ、まだ大きな権力を持っていた田中元総理の元素案を持って行ったら凄く怒られて帰ってくるという。結局“厳しい案”は持ち帰られたが、この時の野党の錦の御旗は“田中元総理のような金権政治は許さない“田中元総理の政治的影響力を下げる”というもので、断固厳しい規則を求める姿勢をくずさなかったという。

自民党が予算審議と引き換えに野党案を飲んだ結果、強い権限を持った政倫審が誕生する方向で話が決まったはずだった。ところが、1985年2月27日の午後に中元総理が脳梗塞で倒れた。すると野党の方から、「逆にいつ我が身になるか…」ということで素案が骨抜きになった、という。

結局、「除名勧告」など厳しい規則は設けられず、「行動規範の順守の勧告」など甘い罰則権限しか持たない機関として今日に至っている。》

ここから、本題である今回行われたい政倫審の話しに移る。当初2月28日開催予定の衆議院政倫審に参加することになっていたのは、安倍派4人(安倍派の事務総長を務めた西村・前経済産業大臣、松野・前官房長官、塩谷・元文部科学大臣、高木・前国会対策委員長)と二階派人(武田元総務大臣)の計5人であった。それが審議の完全(全面)公開を求める野党とそれを制限しようとする自民党との折り合いがつかず延期された。

その後、予算案の年度内成立を危ぶんだ岸田首相が自ら政倫審に参加するという奇手を新たに放つことによってようやく翌29日に岸田首相と武田元総務大臣の2人、3月1日に残りの人名(西村・前経済産業大臣、松野・前官房長官、塩谷・元文部科学大臣、高木・前国会対策委員長)らの出席し、議員の傍聴と報道機関への公開を認めるかたちで実施された。

この2日間わたる政倫審でも与野党間でひと悶着があり、国会が空転したしたことはきわめて異常であった。ここで政倫審での審議内容・やり取りを詳述することは省くが、もはや国会がまともに機能していない、まさに議会制民主主義の危機であることは間違いない。

また政倫審へ出席した疑惑を持たれた政治家6名は予想されたように基本的にこれまでも述べていた同じ内容を繰り返すのみであった(かたちだけの陳謝の上で“会計に関与せず”、安倍派内において故安倍元首相主導でパーティー券販売収入の還流がいったん廃止の方向となり、その後継続となった経緯についても、“派内でどのような検討がなされたか全く認識していない”“検討の場に出席したことはなく、一切関与していない”などの発言をみよ)。

今回の政倫審をもって国民への説明責任を果たしたことにはならないのは言うまでもない。もともと与野党の議員からなる政倫審のメンバーも、今回の場合、疑惑を持たれた自民党の、とりわけ安倍派の議員で多数を占められていること自体も問題ありであった点も付言しておく。

ここで結論としてあらためて言えることは、この節で最初に触れたように、重大な疑惑を持たれた政治家の場合、最も適切な対応は衆議院予算委員会の場での偽証罪が問われる喚問喚問であり、最低でも参考人招致が必要である。また今後は今回に自ら名乗り出て参加することをなかった多くの議員にも喚問喚問や参考人招致を求めていくことも必要であろう。特に二階俊博元幹事長や萩生田光一・前政調会長、そして森喜朗元首相の証人喚問・参考人招致は必須であろう。特に二階元幹事長は裏金(不記載額)が3526万円と最も多かっただけでなく、幹事長時代の2016年から5年間にわたって約50億円もの巨額な政策活動費を党から受け取っていたこと、自分が代表を務める政治団体が、3年間で書籍代約3500万円を支出していたことも判明しているだけになおさらだ。

そして、予算案の年度内成立、とりわけ能登半島地震の被災者への対策費(本来ならばっと早い時期に予備費・暫定予算などで対応できたもの)を人質に取って野党との十分な合意を得ないまま審議を拙速に進めようとする自民党の対応は批判されてしかるべきである。

 

4.今後の日本政治の課題と展望―政権交代無くして真の政治改革は不可能!

今回の自民党の裏金問題を派閥の会計責任者や政治家の秘書だけに責任を課し、派閥の解消や政治資金規正報告書の修正、そして見せかけだけの政治倫理審査会の開催だけで終わらせてならない。

ここでこの問題をこれ以上詳しく論じることはできないが、この問題の根本的解決には、連座制の導入や現金での還付金・寄付金のやり取りの禁止、企業・団体からの個人・派閥だけでなく政党(本部・支部)への献金・寄付の禁止、独立の第三者委員会の設置などの措置が必要である。検察(東京特捜部)当局や国税当局にも疑惑のさらなる真相解明と責任追及をあらためて求めたい。

さて、いまは確定申告の時期だが、国民・納税者の怒りと政治不信も頂点に達しようとしている。長年政権の座にいて裏金・汚職問題にどっぷりとつかってきた与党・自民党に自浄能力が欠けているのは明白だ。政府もまたしかりである。

「収支報告書が訂正されれば、個別の議員たちも告発していく」という考えを上脇教授も表明しており、他の市民団体も検察審査会への告発を準備していると伝えられている。

最後に注目していだきたいのは、平野貞夫氏の「しかし、今度のパーティー・キックバック裏金問題というのは政治資金規正法の倫理、政治とカネの倫理に違反している部分もありますが、それだけじゃないわけでしょ。明確な法律違反、犯罪という部分がありますから、岸田さんも与党も政倫審で政治資金規正法の問題をやるということは、政治責任の問題にしようということでしょ。法的な違反の問題についてそれを決めるのは司直ですから…しかしそれをさせなくするために、あるいはそれを柔らかくするために政治倫理審査会を悪用するという企みがあるんじゃないかという問題が私はあると思う」」という重要な証言である(前述の同番組、ISF独立言論フォーラム編集長・木村による平野氏へのインタビュー動画を参照)。

政倫審は単なるスタート・突破口でしかない。もし「政倫審が終われば一件落着」という政治家(与野党を問わず)側の思惑があるとするならば、それはとんだ思い違いである。これ以上、国民をなめてはならない。

そのような意識があるならば近いうちに手痛いしっぺ返しが待っていることは違いない。
すでに岸田内閣の支持率は2月半ばの時点で支持率14%、不支持率は82%となっていたわけ(2012年12月の自公政権復帰後で初めて:「毎日新聞」が2月16、17日に行った世論調査)。今回の国会でのドタバタの茶番劇(異例の土曜日の予算案の集中審議と予算案の強行採決など自民党の往生際の悪さと一部の野党の迎合が際立った)で岸田内閣の支持率がさらに低下するのは必至である。こうした状況は鳩山政権が誕生する前の政治状況とある意味で酷似しており、まさに政権交代のチャンス到来と思われる。

いまの日本は、法治国家でも民主主義国家でもない。政治・司法・メディが劣化して三権分立もまともに機能していないからだ。「政治とカネ」の問題での再発防止を含む真の政治改革や日本が直面する重要課題を解決するためには、やはり1993年の細川政権、2009年の鳩山政権に次ぐ3度目の政権交代を実現するほか道はない。

いまの日本は戦争と災害、疾病、食料などあらゆる点で深刻な危機に直面しており、もし次の総選挙で選択を誤るならば日本の崩壊・没落が決定的となると考えるのは決して杞憂ではないはずだ。

そうした危機を根本的に打開し最悪の事態を避けるためにも有権者・納税者であると同時に主権者でもある国民が、その自覚をもっていまの日本の政治状況を直視して問題の所在と責任がどこにあるかを見極めた上で、来るべき総選挙において正しい選択を行うことが求められている。

2024年3月5日
木村 朗(鹿児島大学名誉教授/ISF独立言論フォーラム編集長)

【主な参考資料(記事・動画など)】
☆「しんぶん赤旗日曜版」のスクープ記事
・「しんぶん赤旗日曜版」(2024年2月14日)
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2024-02-14/2024021402_01_0.html

・「しんぶん赤旗日曜版」(2024年1月月11日号)
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik23/2024-01-11/2024011102_02_0.html

・「しんぶん赤旗日曜版」(2023年11月26)
https://www.jcp.or.jp/akahata/web_weekly/2023/11/26-week/

・「しんぶん赤旗日曜版」(2022年11月06号)
https://www.jcp.or.jp/akahata/web_weekly/2022/11/06-week/

※BS―TBSの番組「報道1930」(2024年1月9日放送)「“パー券疑惑”をスクープした新聞“赤旗”を取材してみた」【BS NEWS DIG】|
https://www.youtube.com/watch?v=s-ts-9lRb_k

☆「ISF独立言論フォーラム」HP(URL:https://isfweb.org/)の記事・動画
・2024.02.28 「裏金問題の本質は犯罪である~政倫審は序の口だ!」【前半】
平野貞夫(元参議院議員):木村朗(ISF独立言論フォーラム編集長)
https://isfweb.org/post-34207/

・2024.02.29「裏金問題の本質は犯罪である~政倫審は序の口だ!」【後半】
平野貞夫(元参議院議員):木村朗(ISF独立言論フォーラム編集長)
https://isfweb.org/post-34212/

※BS―TBSの番組「報道1930」(2024年2月26日放送) 「政倫審設置の裏側証言 闇将軍が影響?/議員に“ザル法”を正せるのか 専門家の提言は?【TBS NEWS DIG】 https://www.youtube.com/watch?v=wNtViPzDbYI

・足立昌勝「繰り返される「政治資金不記載」「選挙違反」 政治家はなぜ法を守らないのか」(月刊「紙の爆弾」2024年2月号)
https://isfweb.org/post-33475/

☆その他の関連情報
・「日本経済新聞」(2024年1月24日)「自民裏金事件で池田議員を起訴 安倍派7幹部らは不起訴」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE232DL0T20C24A1000000/

・「東京新聞」(2024年1月19日)「上脇博之教授「捜査尽くしたのか」事務方だけの
判断で「裏金」できますか? 別の告発者も「納得いかない」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/303941

・「東京新聞」(2023年12月7日)「自民党への政治献金は本当に「社会貢献」で「問題ない」のか 経団連会長発言、実は全然唐突じゃなかった」
https://www.tokyo-np.co.jp/article/294451
・YAHOO!JAPANニュース(2024年2月28日)

「政倫審が甘い“ワケ” 作った人に聞いてみた【報道1930】」 https://news.yahoo.co.jp/articles/327f15584314ffb6e08e3ffee2673181951e82e1?page=3

 

※なお、本稿はデーター・マックス社NETIB-NEWS(https://www.data-max.co.jp/)の下記の記事からの転載です。

・自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(3)
https://www.data-max.co.jp/article/69853

・自民党の政治資金パーティー“裏金事件”の本質と背景を考える(4)
https://www.data-max.co.jp/article/69900#google_vignette


 

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木村朗ISF編集長 木村朗ISF編集長

独立言論フォーラム・代表理事、ISF編集長。1954年北九州市小倉生まれ。元鹿児島大学教員、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。九州大学博士課程在学中に旧ユーゴスラヴィアのベオグラード大学に留学。主な著作は、共著『誰がこの国を動かしているのか』『核の戦後史』『もう一つの日米戦後史』、共編著『20人の識者がみた「小沢事件」の真実』『昭和・平成 戦後政治の謀略史」『沖縄自立と東アジア共同体』『終わらない占領』『終わらない占領との決別』他。

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