【特集】参議院選挙と改憲問題を問う

フランス大統領選から考える、「野党共闘」とは何か

広岡裕児

・弱体化するフランスの「左」

新型コロナにウクライナ侵略と世情不安のなか、2022年4月、5年に1度のフランス大統領選が行なわれ、現職エマニュエル・マクロン氏が再選された。

Presidential election France 2022 – Vote of April 10 and 24, 2022

 

立候補には国・州・県会議員や市町村長の500名の推薦署名が必要で、順次憲法院に提出され承認を得る。3月4日がその締め切りで、正式な立候補者が決まった。

候補者発表直後の同7日の情勢調査(C-news調査会社Opinionway)では、現職のエマニュエル・マクロン大統領への投票予定が30%で、RN(国民連合)のマリーヌ・ルペン氏17%、LR(共和党)のヴァレリー・ペクレス氏13%、REC(ルコンケット!)のエリック・ゼムール氏12%と続いている。

Gréoux-les-Bains, France – April 24, 2022: Torn France presidential election posters showing politicians Emmanuel Macron and Marine Le Pen.

 

国民連合は国民戦線(FN)が改称した、現在の日本でいう「保守」、極右政党である。ルコンケット!は再征服、回復といった意味で、同じく日本式「保守」で「辛口評論家」のゼムール氏の出馬のためにつくられたもの。ルペン氏の穏健路線に飽き足らず、国民連合を離れた有力政治家が何人も入っている。共和党は、日本のマスコミではそのまま呼ばれているが、直訳すると「共和主義者たち」、ドゴールからシラク・サルコジと続く本来の意味の保守政党である。英国の保守党などと異なり、名称は次々に変わり、現在のものは7年前からである。

フランスでは「保守」「革新」ではなく、「右」「左」というが、これらの党派はすべて「右」である。「左」はどうなったのだろうか?
今回の大統領選、「左」からは6人が立候補している。

先の情勢調査では、辛うじてLFI(フランス不服従)のジャン=リュック・メランション氏が10%で4位争いをしているだけである。このほか、EELV(ヨーロッパ・エコロジー緑)のヤニック・ジャドー氏が6%、PCF(共産党)のファビアン・ルセル氏4%、PS(社会党)アンヌ・イダルゴ氏2%、LO(労働者闘争)のナタリー・アルトー氏1%、NPA(反資本主義新党)のフィリップ・プトゥー氏1%。

終戦直後から1950年代までフランスの二大政党はドゴール派と共産党だったが、徐々に社会党がとって代わった。フランス不服従は、元社会党左派のメランション氏が党を飛び出して前々回の大統領選立候補のためにつくったもので、前回選挙でこの名に改称した。国民連合が極右ならばフランス不服従は極左だという意見もあるが、通常、極左というと反共産党マルクス主義者を指し、労働者闘争と反資本主義新党がそれにあたる。

Charles De Gaulle on a postage stamp in the Ajman “world peace” series. DSLR with 100mm macro; no sharpening.

 

エコロジストは、「右」から「左」までいくつもの党派があり、このうち「左」の各党派が集まった連合体がヨーロッパ・エコロジー緑である。

前回2017年の選挙で決選投票に残ったのは、中道のマクロン候補と極右のルペン氏であった。

20年前にも、ルペン氏の父、ジャン=マリー・ルペン氏(当時国民戦線FN)が決選に残ったことがある。当時大統領は「右」のジャック・シラクだったが、日本の衆議院にあたる国民議会で与党は少数で、社会党のジョスパン党首が首相であった。事前の情勢調査でも、シラク再選は危うかった。そのことが「左」に油断をもたらし、候補者が乱立して票が割れたのが、父ルペン氏が決選に残った原因である。あのとき「左」(極左を含む)の合計得票率は、42.24%。それが前回2017年の選挙では、極左を合わせても27.67%しかなかった。今では、さらにそれを下回っている。

・他人事ではないフランスの現状

グローバリゼーションと新自由主義の結果である格差の拡大を背景に、かつての「右」と「左」から、現在では「上」と「下」が対立の軸になった。

もともと「右」は資本家富裕層で、「左」は労働者庶民層だった。だから、「左」が「下」の受け皿になるのが自然なはずだが、様々な選挙の世論調査を見ると低所得者、労働者事務員など庶民層には棄権が多く、投票しても主に極右に流れている。

このフランスの現状は決して他人事ではない。日本においても格差は拡大し、庶民の暮らしは苦しくなっている。加えて政府の新型コロナ対策への不満は日本の方がはるかに大きく、実際、日本は無策だった。安倍・菅政権のスキャンダルもある。

それなのに、昨年の総選挙では自民・公明は安泰で、躍進したのは新自由主義かつ悪い意味のポピュリストの日本維新の会、「右」の圧勝であった。

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広岡裕児 広岡裕児

フランス在住ジャーナリストでシンクタンクメンバー。著書に『皇族』(中公文庫)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文春新書)他。

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