【特集】参議院選挙と改憲問題を問う

ウクライナ情勢に便乗、「憲法とは何か」を無視した改憲策動

足立昌勝

2月24日、突如、ロシア軍がウクライナを攻撃した。その行為はどこにも正当性がなく、侵略そのものだ。このロシアによるウクライナ侵攻は、本稿執筆の3月末時点でいまだ決着がつかず、現在も続けられている。

Ukrainian flag in the wind. Blue Yellow flag in the city of Kharkov.

 

アメリカを筆頭としたNATO加盟諸国は、ロシアに対する経済封鎖を実施している。日本もこれに加担し、ロシア資金の凍結や取引の一部停止等の措置をとっている。

また、政府はウクライナを支援するため、防弾チョッキやヘルメットなど自衛隊の装備品を供与した。しかし、現に武力攻撃を受けている国への防衛装備品提供は、一部の国に加担する行為であり、戦争行為を助長するものだといわれかねないほどの異例のものである。

このウクライナ侵攻と時を同じくして、ロシアはオホーツク海で大規模な海上演習を実施するとともに、3月14日には北海道宗谷岬の南東約130キロの海域で潜水艦や駆逐艦など計6隻を航行。15・16日にかけては軍用車両などを載せた揚陸艦、あわせて4隻が津軽海峡を通過したという。

津軽海峡は国際的な航行に利用されていて通過は認められているが、防衛省は、ロシア軍が兵士や軍用車両をウクライナ方面に移動させる可能性があるとみているという。津軽海峡では3月10日にも、ロシア海軍の艦艇10隻が通過していて、防衛省は警戒を強めている。

松野博一官房長官は3月15日午前の記者会見で、「ウクライナ情勢の中でロシア軍がわが国周辺で活動を活発化させている。重大な懸念をもって注視している旨を、ロシア側に申し入れた」と述べた。

・核兵器共有論の台頭

2月27日のフジテレビ系「日曜報道 THE PRIME」に出演した安倍晋三元首相は、ロシアがウクライナに軍事侵攻したことに関連し、NATO加盟国の一部が採用している「核共有(核シェアリングともいい、米国の核兵器を非核保有国が自国領土内に配備して運用する協定)」について、日本でも議論をすべきだという考えを示し、「世界はどのように安全が守られているかという現実の議論をタブー視してはならない。国民の命、国をどうすれば守れるか、さまざまな選択肢を視野に入れて議論するべきだ」と主張した。

番組レギュラーコメンテーターの橋下徹元大阪府知事も「核は絶対に使ってはいけないが、核共有の議論は絶対に必要だ」と同調。非核三原則については「持ち込ませず」の部分を見直すよう求め、7月の参議院選挙の争点にすべきだと主張した。

これに対し、岸田文雄首相は「政府として議論は考えていない」と強調し、3月3日の記者会見では「絶えず何が求められるかを検討し続けることは大事だ」としながらも、「非核三原則を守りながら、自らの防衛力と日米同盟の抑止力で国民を守れると信じている」と述べた。
この核共有論について、各党の見解は分かれている。

自民党の福田達夫総務会長は「国民や国家を守るのなら、どんな議論も避けてはいけない」と言い、安倍氏に同調。日本維新の会は、「ロシアが核による威嚇という暴挙に出た事態を直視し、核共有の議論を開始する」と明記した提言をまとめた。国民民主党の玉木雄一郎代表は、非核三原則のうち「持ち込ませず」の定義が不明確だと指摘し、見直しも含めた検討を求めた。

一方、立憲民主党は「唯一の戦争被爆国として非核三原則の堅持が日本の立場だ」とする談話を発表し、日本共産党は「非核三原則は国是だ」と反発した。連立与党の公明党も現行の政策変更には否定的だという。

日本は唯一の被爆国として、非核三原則を定め、それを堅持してきたが、安倍・橋下両氏のような主張は国内に核の存在を認めるもので、非核三原則を真っ向から否定するものである。

日本には130カ所の米軍基地があるが、基地内での様子は私たちには全く見えてこない。しかし、米軍基地であっても、非核三原則が適用されていることは大前提とされてきた。この非核三原則を否定するためには、それなりの合理的理由がなければならない。

「国民の命を守る、国を守る」では、理由になっていないのだ。

非核三原則の背景には、15年戦争がある。議論をするためには、戦争責任に関する言及が不可欠である。

安倍氏は首相時代の2017年12月1日、北朝鮮からのミサイル発射をとらえ、「Jアラートによる弾道ミサイル情報が発令されることを想定した避難訓練」を政令指定都市では初めて、福岡市で行なった。これは、「北朝鮮のミサイル発射実験は危険なものである。そのような危険な事態に対処するためには、事前にそれに対応するシステムを構築しなければならない」という主張に基づいている。こうして安倍政権が戦争法の制定にまい進したことは、記憶に新しいであろう。

北朝鮮のミサイル発射実験はその後も続いているが、Jアラートによる避難訓練は行なわれていない。

このように、外圧の発生を想定し、それに対応する手段を定めようとする手法は、自民党政権ではしばしば用いられてきたところである。

このやり方は、そのまま繰り返し続けられている。核共有論の言い出しっぺは、安倍元首相である。国民の危機をあおるのは、彼の常とう手段なのかもしれない。

しかし、今回は様子が異なる点がある。安倍氏の核共有論に同調する輩が増加してきたことだ。

これは、非常に危険な兆候だ。核共有とは、敵基地攻撃能力の獲得であり、自衛隊の攻撃範囲を拡大するものである。前号では警察組織について、サイバー重大事案を口実とした「サイバー警察局」や「サイバー特別捜査隊」の創設を解説したが、これらは警察権力の海外活動を容認するものである。

Military Surveillance Officer Working on a City Tracking Operation in a Central Office Hub for Cyber Control and Monitoring for Managing National Security, Technology and Army Communications.

 

国家の実力部隊の海外展開について、まともな議論もせずに国会を通してしまうのが、今の日本である。野党の体たらく、批判しないマスコミ、それを受け入れる民衆。それらが相まって、現在の日本の社会が構成されている。

なぜこのような現状肯定主義の人が増加したのであろうか。これでは正しい進歩や発展は見込めない。時流や時の権力の意向に流されるだけだ。それを進歩と呼んでいいのか。今一度立ち止まり、現在の立ち位置を真剣に考えるべき時が来ているのではないか。

 

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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