浮かび上がる〝巨大地震〞の実態 なぜ能登半島地震の名称は「大震災」でないのか

青木泰

取材・文◉青木泰

崖崩れで道路が寸断(提供:川渕映子さん=草の根NGO「アジア子どもの夢」代表/東日本震災支援ボランティア「東北AID」代表)

元日に起きた能登半島地震は、これまで内陸型で最大級とされてきた1891年の濃尾地震以来、最大規模の地震である。
その規模はM7.6、震度7。同じく内陸型の阪神・淡路大震災(1995年)、熊本地震(2016年)のM7.3を上回った。

マグニチュードは1増えると地震のエネルギーが32倍となり、M7.3とM7.6では倍の差がある。
しかし、「令和6年能登半島地震」という命名の下、“巨大地震”という認識は、ごくわずかな専門家以外持たなかったのではないかと考えられる。
当初は被害状況も伝わらず、道路の崩壊で救援にてこずっているという程度の話が聞こえてくるのみだったことも、その傾向に拍車をかけた。
心配された北陸電力志賀原発への影響も、津波被害や電源喪失はないことが早々と発表された。
しかし道路が寸断されていただけに、もし稼働中で原発事故が起きていれば、住民が避難すらできないこと、また安定ヨウ素剤の備蓄保管が自治体任せだったことが判明している。
そして“72時間の壁”が過ぎ、報道やれいわ新選組・山本太郎代表の視察などによって、徐々に実態が報道されるようになってきた。

そうした中で、石川県防災会議の室崎益輝震災対策部長(神戸大学名誉教授)は、朝日新聞の取材を受けて、「これまでの大震災では、発災から2、3日後まで、自衛隊が暖かい食事やお風呂を被災された方に提供してきました」「でも今回は、遅れた緊急消防援助隊の投入も小出しで、救命ニーズに追いついていない」「国や県のトップが、『道路が渋滞するから控えて』でなく『公の活動を補完するために万難を排して来てください』というべきでした」(1月14日付)と語った。
実際にボランティアの受け入れを県が組織的に開始したのは2月10日であり、人員不足による救難活動の遅れが訴えられている。
室崎氏は発災直後に2度、現地調査し、「被害の残酷さは、阪神大震災以上だ。立派な邸宅や重要文化財の寺社が軒並み壊れ、輪島市の火災も大きかった。
いち早く空から被害状況を把握し、国のトップに情報を与えねばいけなかった」(時事通信1月30日配信)と述べた。
県の対策部長が、県や国の防災対策の現状に異議を申し立てている。
能登半島地震の“真相”を探る。

「巨大地震」だった能登半島地震の規模

発生から2カ月が経過し、わかってきた地震の実像を列挙してみる。

・石川県では初の震度7(震度は最高が7)、発生から1カ月で震度1以上の余震は1500回以上。活断層が150キロにわたって動いた(阪神・淡路は50キロで3倍)。
・揺れの大きさは阪神.淡路大震災に匹敵。木造家屋に大きなダメージを与える周期1~2秒。
・2つの地震が発生していた。13秒差でM7.3相当の2つの地震が続き、M7.6規模の地震となった。
・地殻変動。珠洲市で地盤が4キロにわたって2メートル隆起、崖が出来上がる。輪島市で防潮堤や岩礁が4メートル隆起。関東大震災の2倍規模。専門家は「4メートルの隆起は数千年に1回の現象」。阪神・淡路では50センチ。陸域が最大240メートル海側に拡大、面積にして約4・4平方キロ。沖合で海底が3メートル隆起し、漁港が使えなくなったところもある。
・内灘町他で液状化。新潟市でも液状化が見られた。河道閉塞は6つの河川の14カ所。盛り土が崩壊。土砂災害警戒区域の8割で土砂崩れ発生。
・珠洲市や能登町で4メートルの津波発生。
・内陸型地震としては、濃尾地震(M8.0)以来の巨大地震。(以上、NHKほかより)

これほどの被害が発生しながら、なぜ「能登半島大震災」ではないのか。
今回の震源は、政府の有識者検討会が2014年に公表した調査データ(以下「14年データ」)で指摘していた活断層だった。
海底地形から「F42」「F43」という断層モデルを作り、地震が起きればM7.6になるという想定までしていた。その想定通りの地震が発生したといえる。
しかし政府の地震調査研究推進本部(地震本部。文科大臣が本部長)では長期予測の対象外となり、同本部が発表した「全国地震予測地図」では、震度6弱以上の地震発生について「石川県の大部分でその可能性は0.1~3%」として、対象地域から外していた。
政府が「14年データ」で公表していた活断層であり、これを地震本部が予測に入れていれば、適切な対策がとられ、失われた命も救うことができたのではないか。

公表されていた科学的事実になぜフタをしたのか?

M7.6の巨大地震の可能性を無視しただけでなく、「全国地震予測地図」で地震発生の可能性を低く見積もり、石川県はそれに基づき安全情報を流し企業誘致までしていた。
予測機関である地震本部が、事実と逆の情報を流布していたことになる。
しかも、能登半島では2007年にM6.9の地震が起こり、20年以降は群発地震が活発化。21年に最大で震度5弱、22年に震度6弱、昨年5月には震度6強(M6.5)が記録されていた。
すでに「全国地震予測地図」は見直しを迫られるどころか、2022年以降の震度6弱以上の地震発生で、「0.1~3%」が「100%」となり、予測は打ち破られていたのだ。
ところが、実際に行なわれたのは2022年に「見直し決定」、23年8月には「見直しに着手した」ということである。

おかしくないだろうか。
2022年の時点で、見直しどころか①予測の誤りの確認②実際に起きた地震の要因分析③その対策の実行をすべきだったといえる。にもかかわらず、安全情報を流し続けていたのは論外だ。
地震本部の地震調査委員会・平田直委員長(東大名誉教授)は、1月2日の会見で「そうした危険は伝わってなかった」と答え、(伝えていなかったと言うべき)「もう少し早くに(海域の活断層)評価をやるべきだった」と反省や謝罪もなく、専門家の矜持を捨てた無責任な対応だった。
膨大な予算と専門家人員を国・地方自治体で使いながら、調査公表したデータまで闇に葬り、防げる災害を拡大した地震本部の盛山正仁本部長(文科大臣)と平田直委員長は、責任をとって辞任すべきであろう。

彼ら地震の専門家は、なぜ情報を歪めることに加担したのか?
この調査委員会が発表した南海トラフの発生確率80%は水増しだと指摘したのは、2020年に科学ジャーナリスト賞、23年に菊池寛賞を受賞した東京新聞の小沢慧一記者。
一方で地震リスクを煽り、他方でフタをしていた。そこにどんな理由があるのか?
国会での調査・検証が不可欠である。

安全神話に加え対策放棄

原発は絶対安全との「安全神話」の下で起きたのが、13年前の東京電力福島第1原発事故だった。原発を推進したのは自民党政権にもかかわらず、下野した間に事故が起きたために、原発推進の後始末は民主党政権が負った。
今回は、地震はないとの「安全神話」である。
自公政権の下、地震は来ない、活断層は動かないという虚偽の情報が振りまかれ、防災は放棄されてきた。
その上、自公政権と馳浩・石川県政は、責任逃れのためか、災害・被害実態の公表を規制している様子が伺える。
「事故の実態を隠したり、できるだけ小さく見せているのでは?」「その結果、とるべき対策をとらなかったのではないか?」「その方針が、現在の対策に表れているのではないか?」。
そう疑問を持つのは筆者だけだろうか。

・陸上自衛隊習志野演習場(千葉)で1月7日、第1空挺隊のイベントを米軍と合同で行なう一方、能登半島被災地への自衛隊の派遣を放棄。白井聡・京都精華大学准教授は「大規模災害への対応は、同部隊の本来業務に含まれる。かつ今次の震災においては、元々陸路によるアクセスが限られる半島地域で…ヘリコプターによる人員や物資の空輸が残された有力な救済手段だった」「その最有力の組織に動員が掛からず訓練の儀式を行っていた」(サンデー毎日2月4日号)と批判している。

・岸田首相の現地視察は1月14日、防災相は1月17日。
・馳知事は1月1日は東京の実家におり対策の指揮につかず、動向不明のまま初の記者会見が1月10日、岸田首相の現地視察に合わせて被災地初視察(?)。「馳せ参じない馳」と揶揄される。
・救援活動の邪魔になるからと議員やメディアの情報発信に歯止めをかけ、与野党6党が申し合わせて被災地視察を自粛。国の災害対策方針をチェックし、救援策を作るのは国会議員。現地を知らずできるはずはない。
・県がボランティアの受け入れを解禁したのは2月10日。その後になって、ボランティアが集まらないから災害救援が進まないと言う。もちろん専門ボランティアが市町村と連絡をとり自主的に救援に駆けつけたほか、民間団体や自治体が給水車やトイレを配備、医療救援組織などの団体が入って入る。

何らかの政治的都合によって災害予測を歪めた結果、防災上の瑕疵が発生、その瑕疵を隠すために、災害・被害の実態を過少に報告し、ボランティアの派遣にすら規制をかけた。
許されることではない。
東日本大震災では原発のメルトダウンを隠し、安定ヨウ素剤の配布についても指令を出さず、「動揺を抑えるため」と釈明した菅直人政権時の問題の反省が活かされていない。

原発反対の住民が原発事故を防ぐ

地震発生当初、志賀原発は、1号機で冷却ポンプが一時緊急停止、2号機で火災発生が報じられた。
それは後に訂正され、外部電源の一部喪失、変電器から油漏れ、とされた。
志賀原発は停止中だったこともあり事なきを得たとされるが、稼働中であればどうなっていたか。
また原子力規制基準は、原発直下に活断層等があれば運転を認めないとしている。志賀原発の下には複数の活断層があるが、廃炉となっていない。

北陸電力は、原発直下の活断層は13~12万年前以降は活動しておらず「活断層等」に当たらないと説明し、原子力安全規制委員会は、その説明を受け入れている。
しかし周辺の活断層の滑りの影響で動いたり、地下にある高温・高圧の水などの「流体」によって、今回の地震が誘発されたといった新事実が指摘されている。
「活断層等に当たらない」という見解の見直しは必至である。
外部電源の喪失や変圧器の油漏れは、原子力安全委員会が言うように「大きな異常はない」と片付けられるのか。

変圧器が機能しなくなる事態とは、地震動によってどのような負荷がそこにかかったのか。
要因分析が必要不可欠だ。
変圧器の中の、油を冷却するための送水ポンプが壊れたのではないか。
原子炉で加熱された水は発電機に送られタービンを回し、冷却された水が再び原子炉に送られる。
原子炉と発電機をつなぐ送水管は、建設基準法の耐震基準が適用されていない。

今回は稼動中でなかったため、送水はなく、送水管が破損しても事故として現れない。
しかし破損状況はどうだったのか、公開での点検・調査が必要である。
そして、能登半島の交通アクセスが寸断され、避難計画は現実には不可能であることがわかった。
避難計画のない原発の稼働は中止すべきだ。また、安定ヨウ素剤の備蓄はなされているのか。当然ながら原子力規制委員会は、「全国地震予測地図」の地震予測がデタラメだったことを踏まえ、事故時の対策を再検討すべきだ。
加えて、鎌田浩毅京大名誉教授が日本列島は「大地変動の時代」に入ったと指摘している。

東日本大震災後、内陸の活断層が活発化し、直下型地震が約5倍に増えた。
今後数十年はこうした頻度で続くという。
大地震が起きると大抵は「想定外」との情報が流され、原発事故につながっても、電力会社や国や自治体は責任を逃れてきた。福島原発事故でさえ、爆発事故によって放射能汚染物が周辺に振りまかれても、その責任を、原発稼働を進めた東京電力や国が問われることがなかった。
廃棄物処理法に、「放射性物質は廃棄物ではない」と規定し、もし事故になっても産廃事業者などが問われる「不法投棄」の罰則は免れるように画策していた。
筆者らの追及によって法改正したはずが、東日本大震災に伴い「問題があった時には」と付記、再び絶対安全を繰り返す為政者や事業者は、事故が起きても責任を問われない形にすり替えた。

防災省の設置とボランティア組織との有機的結合を

災害対策にまで政治を持ち込み、不都合な予測を削除した結果、実際に災害が起こると実態を隠し、メディアや議員が現地に入ることを規制する。
最初から最後まで国民の命が軽んじられている。
その結果として避難所の環境の悪さは先進国で最低レベルである。
阪神・淡路大震災で村山富市政権は、現地災害対策本部を設け、本部長に一切の指揮権を与え、首相は責任を担った。
国は一歩下がって予算や支援関連のバックアップを図った。

ところが岸田首相は首相官邸にいながら、自らが災害対策本部長となった。
ボトムアップ型の緻密な対策がとれるはずはなく、やってる感の宣伝しか考えていないことは、国民はすでにお見通しだ。
本稿で提起した日本の災害対策の見直しとともに、これまで各地で起きた災害の教訓を活かすこと。そして発生時には自治体と連携してすぐさま災害対策本部を現地に作り、被災者の救援や道路・水道・電気、そして街の復興に取り組む専門部隊を投入し、民間のボランティアと協力できる「防災省」の立ち上げが求められている。

最後に、この防災省のイメージをより明確にするイタリアでの事例を紹介する。
浜口和久拓殖大学特任教授(同大防災教育研究センター長)は、国際基準としての「スフィア基準」を守り、現状の被災者の避難所の改善を訴え、能登のような道路寸断状況でも救援の手が届く「病院船を準備するべき」と説得力のある主張をしている。
そして火山や地震、土砂災害が頻発する日本に似たイタリアで取り組んでいる災害対応システムを紹介している(正論3月号。一部要約)。

「イタリアでは、発災後政府からその日のうちに『緊急事態宣言』が発出されると州(自治体)が備蓄している『テント・簡易ベッド・トイレ』を1つのユニットとして大型トレーラーで運ぶ体制が整えられ、テント村(避難所)には簡易ベッドと冷暖房機が設置された家族単位のテントが展開され、トイレは衛生環境が保たれ、シャワールームも完備している」「周辺州からキッチンカーが急行し、翌日からパスタなどの食事を食べることができる」「災害ボランティアは、事前に研修や訓練を受け、災害ボランティア団体に災害派遣希望登録を済ませており、派遣されるときには日当、交通費、労災保険が補償される」
ボトムアップ型の対応ができるボランティア組織(地域の消防団のような)の結成を図ることが、求められている。
(月刊「紙の爆弾」2024年4月号より)

青木泰(あおきやすし)
環境ジャーナリスト。NPOごみ問題5市連絡会幹事。環境行政改革フォーラム、廃棄物資源循環学会会員。著書『引き裂かれた絆』(鹿砦社)など。

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青木泰 青木泰

環境ジャーナリスト。NPOごみ問題5市連絡会幹事。環境行政改革フォーラム、廃棄物資源循環学会会員。著書『引き裂かれた絆』(鹿砦社)など。

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