【連載】紙の爆弾

政権交代に向け本格始動 泉房穂前明石市長の「救民内閣」構想

横田一

取材・文◉横田一

高市早苗「万博延期」発言と産経新聞の歪曲報道

裏金問題が直撃して内閣支持率が過去最低記録を更新中の岸田文雄政権は、いまや政権末期状態。そんな中、政権交代の牽引役として注目度が急上昇しているのが泉房穂・前兵庫県明石市長だ。
3期12年の任期中に子ども予算を倍増以上にして10年連続の人口増を達成、昨年4月の市長退任後も支援候補が連戦連勝を続けている。
初めて国政選挙に関わった参院徳島高知補選(10月22日投開票)でも岸田首相との応援演説対決を制すると、東京新聞11月26日付のインタビューで「救民内閣」を提唱、次期総選挙での政権交代も可能と述べた。
これからの政治は泉氏を中心に動くという予感を抱かせるほどの発信力を誇っているのだ。

オピニオンリーダーとしての存在感も抜群だ。
会場建設費が上振れし続ける「大阪・関西万博」に対しては「これ以上の国民負担を増やすべきではない」との立場から縮小や中止を訴える。
元日に能登半島地震が起きて「震災復興と万博開催の両立は可能なのか」といった見直しの声が強まる中、高市早苗経済安保担当大臣が万博延期を岸田首相に進言したことが報じられたとたん、泉氏は「これは新たな動きだ」と発信、次のような投稿をした。
「20年開幕予定だったドバイ万博も1年延期されている。政治家の決断次第だと思う」(1月27日のX)

高市大臣は1月27日、長野市での講演やユーチューブ「高市早苗チャンネル」で、1月16日に岸田首相と面談して万博縮小や延期を提言したと明らかにしていた。
能登半島地震からの復旧・復興を優先しようとしても「資材不足が起きている。
人手不足も起きている中で万博と両立できるのかどうか」「延期や縮小は総理決断でしかできない」(ネット番組)からだ。

しかし岸田政権の万博推進の姿勢に変わりはなかった。
林芳正官房長官も斉藤健経産大臣も「万博関連の資材調達などによって能登の復興に具体的な支障が生じるという情報に接していない」として延期の必要性を否定した。
この政権の姿勢に同調したのが産経新聞だ。1月30日の高市大臣会見で「『復興に支障が生じないのであれば、延期の必要はない』という考えなのか」などと質問、高市大臣から「総理からは『被災地復旧には支障が出ないように配慮する』とおっしゃっていただいている。
私からも『総理の決定には従います』という旨を伝えている」という答弁を引き出し、この発言を紹介する記事を同日にネット配信した。

ただし、高市大臣は会見で、岸田首相への提言の根拠となったゼネコンの声も詳しく紹介していた。
「私に対して入って来た声として、すでに万博の仕事を受注しているゼネコンで『新たに被災地の復旧復興の仕事を頼まれた』という社からは、『社内を万博班と能登班に分けて対応しているが、配電盤をはじめ資材不足、人手不足もあって大変な状況なので、万博は少し延期した方がいいのではないか』という声を伺った。
またハウスメーカーからも被災地の住宅などに対応する上で、やはり資材調達への不安の声を伺っていた」

しかし、産経記事はこの発言部分をそっくり削除した。万博開催に都合のいい部分だけを切り取った偏向歪曲報道であったのだ。
“万博協会広報誌”と呼ぶのがぴったりな産経の質疑後、私が「高市大臣が行なった(ゼネコンなどへの)聞き取り調査などを、政権を挙げて行なうべきだと考えていないのか」と聞くと、次のような回答が返ってきた。
「すでに総理が先週、斎藤大臣に対して指示をして『資材などについてもしっかりとチェックをしていくという態勢になっている』と伺ったので、そこは心配をしていない」

この楽観的すぎる回答に、私は東日本大震災の実態をもって再質問した。
「東日本大震災の時は5輪建設ラッシュと重なって、資材費が高騰して新しい住宅を建てようにも見積もりが2倍くらいになってしまったと聞いている。
能登半島地震でも同じことが起きるのではないか。
いま必要なのは、復旧復興の工事が増えた分をどこか減らす、そのために万博の延期・縮小は有力な案だと思うが、岸田政権をあげて公共事業の総量規制、被災地復興への集中投下を検討する考えはないのか」

しかし、この提案に対して、高市大臣は逃げの姿勢を保ったまま。
「私自身は所管外だから政務でアポをとって総理と話をし、最終的には総理の判断には従うという旨も伝えている。
総理からは被災地の復興に支障がないように配慮する旨も話をいただいているので、信頼して任せたいと思っている」と“お任せモード”に入ってしまったのだ。
納得がいかないので再々質問をしたが、それでも高市大臣の紋切型の回答に変わりはなかった。
「私が先々週まで聞き取った範囲で、そういった話が寄せられた。
それで総理に伝えて、その後、先週、総理から斎藤大臣に指示があった。
いま経産省の方でも資材不足が起こらないようにチェックをしていただいていると。
また石川県と連携体制を作っていただいたということを聞いている」

しかし問題は、斎藤大臣ら経産省のチェック体制で十分なのか否かということだ。
忘れてはならないのは、高市大臣がゼネコンから聞き取った資材不足の情報に接していないと経産大臣が国会答弁をしたことだ。
これは、経産省自身の情報収集能力の低さ、そして不都合な真実に目を向けない偏狭的姿勢を物語るものにほかならない。
万博開催ありきの欠陥組織体であるのは一目瞭然なのに、高市大臣は急に知らぬ存ぜぬの姿勢に変節したとしか見えないのだ。
そこで2月2日の高市大臣会見の終了宣言直後、指名されなかったので、次のような声掛け質問をした。
「大臣、万博関連発言について一言。岸田首相に情報が届いているではないか。万博の資材調達ですでに(能登復興に)支障が生じているのに昨日(1日)の国会答弁で岸田首相は『そういう情報に接していない』と言っていた。明らかにおかしいではないか」
高市大臣は足を止めて応じたものの、従来の答弁の繰返しだった。
「総理の指示に大変感謝をしている」

「一気に政治は変わる」

高市大臣の態度には冒頭の泉氏も期待を裏切られて呆れており、2月15日配信のユーチューブ「いずみチャンネル」でもこう総括した。
「(万博延期提言について)本当にそう思うのであれば(岸田首相を)説得するというか、場合によっては閣僚を辞しても『今はこうだ』というぐらいの覚悟を見せるのもひとつだったと思う」
次期自民党総裁選への意欲を隠さない高市大臣だが、リーダーの資質に疑問符がつくと批判したのだ。
泉氏はオピニオンリーダーとしての役割を果たすと同時に、政権交代の牽引車役としても注目を集めている。
私は昨年6月7日の立憲民主党・長妻昭政調会長の時局講演会で泉氏の講演を聞いて以降、昨年秋に実施された岩手県知事選や埼玉県所沢市長選、参院徳島高知補選などでの“追っかけ取材”を始めていたが、繰り返し主張するのは「市民(有権者)が動けば、政治は変えられる」というメッセージだった。

小選挙区制中心の選挙制度であることから「一気に政治は変わる」とも強調、次期総選挙での政権交代が可能であるとの見立ても披露していた。
「1回の衆院選で政権は取れる」(東京新聞11月26日付)というのは、泉氏がことあるごとに訴える持論なのだ。

また、政権交代の必要性とともに自らの役割についても昨年10月14日、泉氏は参院徳島・高知補選で応援演説をした後の囲み取材で語っていた。
「実際に岸田さんは決断できない人ではなくて、自分のためなら決断する人なのです。それこそ、アメリカのためやったらすぐに防衛費を(倍増することを)決断できるし、安倍派に媚びを売るために国葬を決断できるし、みんな反対でも自分の息子を(総理秘書官に)大抜擢するわけでしょう。ポイントは誰のための決断か。
国民のため、国民の生活を守るため、国民の安心、国民の笑顔を守るために決断をしたらいいわけじゃないか」

「私が1人、国会議員になってもしょうがないじゃない。1人、総理大臣になったところで、どうせマスコミがネガティブキャンペーンをやって引きずり降ろされるから。マスコミなんて、すぐそういうことばかりするのです。
そういう意味では『私が』ではなくて、映画の総監督。シナリオを描いて映画の総監督のような形にしてキャスティングをしたい。
主役とか助演とかを配置して、全体のストーリーを作って、映画のタイトルは『日本の政治の夜明け』というか、『国民の笑顔』とか『国民の安心』。

大事なのは総理を獲ることではない。総理を獲るのは手前や、スタートや。総理を獲って財務省に対して『国民負担を課すな』『国民の負担減をしろ』と指示をして、中央省庁を再編してドラスティックな改革をして、国民が安心して暮らせる社会を作るのが目的なのだから。
目的は総理大臣になることではない。目的は国民の安心や。国民の笑顔が政治の目的や。今の政治家は自分のことばかりや。
総理になって国民を救うとかする気がないのだったら『目指すな』と言いたいですよ」

国民の負担増を許さない勢力の連合

泉氏は2023年10月の所沢市長選で地方選挙支援をいったん打ち止めにすると宣言した後、次期総選挙での政権交代に向けた活動を本格化させている。
12月7日には立憲民主党議員らの「直諌の会オープン勉強会」で講演し、国民負担増を狙う岸田政権を批判しながら「救民内閣」構想を紹介。翌12月8日にも、同党の原口一博衆院議員らが主催する「日本の未来を創る勉強会」で講師を務め、ここでも救民内閣構想についての意見交換をしたのだ。
今の政治を変えたいと考える野党議員との連携に前向きな泉氏は、次期総選挙に出馬予定の元国会議員主催の集会でも講演している。
昨年7月29日には、山口2区補選で自民党公認の岸信千代候補(現・衆院議員)に僅差まで迫った平岡秀夫元法務大臣の後援会主催の集会で講演。
タイトルは「政治を変えれば、生活は良くなる」だった。なお平岡氏は次期総選挙で立民公認候補として出馬する予定だ。

9月3日にも泉氏は、岡山3区で立民から出馬予定のはたともこ元参院議員の集会でマシンガントークを披露。
こちらのタイトルは「今の政治は裸の王様」。
この頃から泉氏は、志を同じくする「救民内閣」賛同議員を増やすべく、全国講演行脚を始めていたようにみえるのだ。
総選挙が確実視される今年の政治決戦に向けて、昨年から着々と布石を打っていたのは間違いない。
「救民内閣」構想はどう具体化していくのか。
注目点は、泉氏が先の東京新聞のインタビューで「既存政党とは別の新党を立ち上げるというよりも、全ての既存政党を壊すイメージ」と述べつつ、「国民の負担増を許さない勢力を1つにまとめるのか、連合軍で戦って勝つのかは、いずれでも良い」とも語っていること。
イメージとしては既成政党を壊すとしつつも「連合軍」、つまり野党との連携を否定していないことだ。

2つの選択肢がある。
泉氏が総監督に専念する場合と監督兼選手(プレーイングマネージャー)の1人2役をこなす場合だ。前者なら、救民内閣に賛同する現職議員や新人候補を応援、自公連立政権を下野させることを目指す。
後者なら政権交代実現のシナリオ作りをすると同時に、次期衆院選で明石市を含む兵庫9区(西村康稔前経産大臣が現職)などの小選挙区や比例区から出馬する。
この場合は、「泉房穂首相の救民内閣を誕生させよう」と呼びかけることが可能だ。

2人の泉が唱える「救民」と「救国」

いずれも決して荒唐無稽な絵空事ではない。実際、立民の泉健太代表は昨年6月14日、泉氏に対して以下のように実質的な出馬要請をしていた。
泉氏を「子ども・若者応援本部合同会議」に招き、岸田政権の少子化対策を論評してもらった時のことだ。
「おそらく今日ここにいる仲間たちの思いを私が代弁すると、『ぜひ、一緒にやっていただきたい』という思いをみんな持っていると思います。これはラブコールです」

これに対して泉氏は即答しなかったものの、連携の思いを込めたエールを送った。
「政治は希望ですよ。政治家は国民に対する責任がありますから、政治家はあきらめたらダメなのです。どんなにきつくても国民のために精一杯やっていくことだと思っています。今の状況が残念なものである以上、一番期待されているのはここにおられる皆さまだと思います」

8カ月後の今年2月16日、都内での講演を終えた泉代表に出馬要請の進捗状況を聞くと、「内部的な話なので」と無回答。
そこで、対抗馬の西村前経産相の名前を出した上で、兵庫9区から出馬する可能性について再質問をしたが、「さあ、どうでしょう」と言って笑みを浮かべるだけだった。

一方、泉氏に対し私はネット番組「横田一の現場直撃」への出演を依頼、快諾を受けた。
そして2月5日配信の番組で兵庫9区から出馬する“監督兼選手説”について聞いてみた。
すると、昨年10月の徳島駅前の囲みと同様、こんな否定的な回答が返ってきた。
「やっぱりシナリオを書いてキャスティングして全国上演館をあてがうみたいなあたりは大きな仕事なので、自分がその役者の1人だったら、やっぱりなかなかそれはできないので」

ただし泉氏提唱の「救民内閣構想」が多少形を変えながらも広まりつつあるのは間違いない。
このことを確信したのは、2月4日の立民党大会直後の泉代表会見。
泉代表提唱の「ミッション型内閣」が「政治改革救国内閣」とも呼ばれることから、「1文字違う泉前市長提唱の『救民内閣構想』とほとんど同じなのか」と聞くと、次のように答えた。
「似ていることを言っているのではないかというふうには思っている」
「自民党政権、まさに裏金政治を一掃する『救民・救国内閣』を作るために各政党が何をなすべきか。どうしたら次の総選挙で自民党を外すことができるのか、それぞれ(の野党が)出来ることを考えてもらう。その行き着く先が『救国内閣』『救民内閣』になるのではないかと思う」
「(泉氏と)同じことを訴えているのは心強いし、そういう声が世の中で高まっていくのも心強いと思うから我々と共感するところは多々ある」

支援候補が連戦連勝して参院補選での岸田首相との“応援演説対決”も制した後、政権交代への道筋を具体的に語り始めた泉房穂氏。
これから野党がどう連携して「救民内閣」誕生の気運を高めていくのかが注目される。
今年は、彼の言動から目を離すことはできないのだ。
(月刊「紙の爆弾」2024年4月号より)

横田一(よこたはじめ)
1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『仮面虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)。

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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