【連載】紙の爆弾

川口市「クルド人問題」の本質 「入管法」不備を放置する日本政府の問題だ

木村三浩

ヘイトデモを受けて会見する日本クルド文化協会チョーラク事務局長(一水会のXより)

文◉木村三浩

クルド人は「問題」か

「クルド人問題」が騒がしい。埼玉県の川口市や蕨市など県南部に住むクルド人について、危険な車両運転、ゴミの放置、公園やコンビニ前でのたむろなどの迷惑行為によって地域社会に脅威を与えているとして、SNSを中心に批判が巻き起こっている。
昨年7月4日夜、クルド人男性同士の争いで、一方が運ばれた川口市立医療センターに双方の仲間が集結。約100人といわれる人々が路上で大騒動を起こし、逮捕者も出た。
たしかに衝撃的な事件であり、これがきっかけでネット上の“脅威論”がさらに勢いを増すこととなった。

そうして現在も「クルド人問題」という言葉がメディアやSNSに踊っている。
しかし、それには2つの意味がある。
ひとつは、今、一部の人々が焚き付けている“脅威論”、すなわち「在日クルド人の問題」である。
だが、本当にそんな「問題」が存在しているのかは、客観的な視点を持つことが必要だ。私自身、知人が多く居住していることもあって、これまで川口市を何度も訪れてきた。
ゴミの出し方がまずい、騒音が続くといったことは、地域住民にとっては迷惑だろうし、日本語の通じなさそうな外国人がたむろしていると、不安を感じる住民がいるのも仕方ない。
しかし、集団で行動するのは彼らの良き文化でもある。
実際、スーパーに行けば、5~6人の親族みんなで買い物をする光景を見かける。
そして、クルド人の側でも一部の者の行為を問題視し、自主的に行政と協力してパトロールを行ない、日本のマナーについて教え、その遵守を呼びかけて、共生の道を模索している。

我々一水会もその活動に賛同し、昨年から意見交換会を開いたり、トルコ語や中国語(と日本語)で書かれたビラ撒きを行なったりしてきた。
今年1月21日に新たに「日本クルド交流連絡会」が発足されると、顧問に就任してもいる。
「クルド人問題」があるというのなら、それを解消しようと努力するクルド人の取り組みも評価しなければならないだろう。

彼らはクルディスタンと呼ばれるトルコ・イラン・シリア・イラクに広がる山岳部にルーツを持つものの、少数民族として、歴史的に迫害を受けたことで、一部が世界各地に逃れてきた。
日本には、トルコからの分離独立を求めるクルド人組織と政府との対立が激化した1990年代から、難民として保護を求める人が増え始めたという。
そして現在、在日クルド人は川口市とその周辺に2500人程度が暮らしているといわれる。

なぜ川口市かについては、日経ビジネス(2016年4月21日付)が、彼らが家族や親戚の結びつきを重視する民族で縁者を徐々に呼び寄せた、また川口市は鋳物産業が盛えた工業の街で外国人労働者が働いてきた歴史があるため、と推測する。
川口市の人口は70万人、また日本に住む外国人は270万人といわれるから、極めて少数派ではある。
そんな彼らに対しては、生活態度や文化の相違の問題を超えて、「テロリスト」や「PKK(独立国家建設を目指す武装組織・クルド労働者党)とつながっている」といった決めつけによる非難まで投げかけられている。
そこには、トルコ政府の態度も影響しているようだ。

日本在住歴が長い人々が中心になって2013年に設立された「日本クルド文化協会」と、事務局長のワッカス・チョーラク氏(東京外国語大学講師)らを、PKKを支援したとして昨年末、トルコ政府が「テロ組織支援者」に認定。同国内の資産が凍結された。だがチョーラク氏に、そもそもトルコ国内に「資産」などなく、産経新聞の取材に「私達はテロ支援もテロ活動もしていない。
在外選挙で私達が支持した政党が、真偽は不明だが、その後PKKを支援したと政府は言う」と否定、冤罪を主張している。
ちなみに日本の公安調査庁は、昨年版の「国際テロリズム要覧」でPKKを「テロリスト」から除外した。

たしかに、在日クルド人たちが開催したイベントなどで、PKKの旗が飾られていた、といった指摘がある。しかし、クルド人にはクルド人のアイデンティティがあり、クルドの民族自決権もあるはずで、旗を出しているからテロリストだ、ということにはならない。
そして、PKKやクルド民族の扱いはトルコ国内の政治課題である。
内政干渉のように、日本から是か非かを言うことはできないだろう。

一水会は、トルコの愛国者政党「祖国党」とも関係を構築してきた。トルコはガザの紛争については、エルドアン大統領が「イスラエルこそテロ国家であり、ハマスは自由の戦士だ」と筋を通した主張をしている。西洋に対抗しロシアとも協力関係を維持するなど、西側とは異なる独自の存在感と矜持がある国だ。
さらにいえば、クルディスタン地域の民族問題は、世界各地でそうであるよう、米国が介入に利用しようとしている側面もあるだろう。
今後、さらに報道などで在日クルド人がクローズアップされれば、トルコ政府が日本政府に対し、何らかの言及をすることがあるかもしれない。
しかし日本国内においては、トルコ政権の意向も汲みつつ、日本人として、冷静に人道に基づき判断すべきだ。

入管法が問題の背景

もうひとつの「クルド人問題」は、「在日クルド人たちが抱える問題」である。
日本はトルコとビザの免除協定を結んでおり、トルコ国籍者はビザなしで入国し、3カ月間の滞在か可能。それも彼らが日本に来る理由となっているのだが、難民申請した人々は、認められずに在留資格を失った場合に、収容後、または収容されずに放免される「仮放免」となる。
これはただ解放されるわけではなく、身元保証人や保証金を用意して、法務省の許可を受ける制度である。

しかし、この状態では就労が禁止されており、生きていくためには不法就労に手を染めることになってしまう。
こうして滞在を認められながら、就労等で生活の基盤を持つことは認められない状態が、「クルド人問題」の背景にある。
彼らに対して、「納税していない」との批判もあるが、就労が認められないのだから納税しないのは当然だ。
健康保険もない。
つまり、「クルド人問題」とは入管法の不備であり、日本国の問題なのだ。
ちなみにこの仮放免者も、昨年に約900人だったのが現在は700人と減少している。

彼らを中途半端な状態に置かず「準難民」といった一定の立場を用意すれば、日本のルールに従わせ、地域の生活に順応させ、税金も納めさせることが可能となる。
なぜ政府がこの状況を放置しているのか、不可解ですらある。
川口市も同様の問題意識を持っており、奥ノ木信夫市長は2020年12月、法務大臣に要望書を提出した。
求めたのは①仮放免者が最低限の生活維持ができるよう身元保証の仕組みの導入など就労可能にする制度の構築②生活維持困難な仮放免者の健康保険をはじめ行政サービスの適否の判断、の2点。
昨年9月にも、再度①②の内容を求めた上で、③不法行為を行なう外国人について法に基づき強制送還などの厳格な対処を行なうように要望した。

これは、最近の傾向を受けてのものととれるが、一貫しているのは、国が地方自治体に対応を任せていることへの批判だ。
奥ノ木市長はインターネットの「金融ファクシミリ新聞」(昨年11月6日付)のインタビューで、以下のように強調した(一部要約)。
「つまり、仮放免の外国人による不法行為問題は国の制度が原因であって、本来ならば市が対応する問題ではない。たとえ、仮放免の外国人の子どもであっても学校は受け入れなければならないなど、人道上の義務的な部分が地方に押し付けられている。出入国在留管理庁が不法滞在している外国人を捕まえることしか考えていないとすれば、この問題が解決することはない」

在日クルド人の子どもは300人ほどいるといわれ、ボランティアが日本語を教えるものの、学校で理解力が追いつかず、不登校となるケースが多い。
義務教育を終えても仮放免のため就職は認められない。ここにも国の関与がない影響が出ている。

この問題に対して、解決の道を目指すのか、迷惑な連中だと排除するのか。
これが「クルド人問題」の問いだ。
川口市に30年以上住むジャーナリストの坪内隆彦氏は、「日本社会の価値観からいって、具体的にどういう問題があるのか指摘し、本人たちにも理解してもらうことが重要」と指摘した。
しかし、現地ではヘイトスピーチも繰り返され、2月18日にもJR蕨駅前で排斥デモが行なわれた。これに対し25日、川口市内で日本クルド文化協会が、「謝罪及び求釈明会見」を開いた。デモへの対抗としてレイシストをなじった発言を不適切であったと改めて陳謝したうえで、同胞のマナー違反には改善のため指導を行なうと言明。計約40頁の文書を作成し、Q&A形式で1つ1つの疑念に応答した。

病院で騒動を起こしたクルド人は法に基づき厳正に処罰されたこと、仮放免者は在住クルド人の約3割であり減少傾向にあること、PKKへの資金提供など虚偽であり、口座の確認に応じることなどを丁寧に訴えた。
日本の春分の日である3月20日に「抑圧からの抵抗と自由」を祝う新年祭「ネウロズ」が、さいたま市内の秋ヶ瀬公園で開かれた。今年の開催にヘイト的な抗議が集まり、楽器の使用不可を理由に中止となりかけたが、今度は賛成派から抗議が殺到、演奏を録音で流すなど条件付きで開催となったようだ。
他民族の文化伝統まで否定することなど、あってはならないのだ。
日本政府に「建国記念の日」式典開催を求める我々だからこそ、クルド民族の祝祭の無事開催を祝う立場である。
(月刊「紙の爆弾」2024年4月号より)

木村三浩(きむらみつひろ)
一水会代表。対米自立を唱える愛国社会活動家。『対米自立』(花伝社)『お手軽愛国主義を斬る』(彩流社)など著書多数。

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木村三浩 木村三浩

民族派団体・一水会代表。月刊『レコンキスタ』発行人。慶應義塾大学法学部政治学科卒。「対米自立・戦後体制打破」を訴え、「国際的な公正、公平な法秩序は存在しない」と唱えている。著書に『対米自立』(花伝社)など。

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