【連載】紙の爆弾

自民党派閥解散の茶番 所得税法から見た裏金「脱税」事件

足立昌勝

取材・文◉足立昌勝

政治家はなぜ政治資金を必要とするのか

自民党派閥の裏金事件のさなかに開会した通常国会の施政方針演説で、岸田文雄首相は「自民党内の政策集団が、いわゆる『派閥』、すなわち『お金と人事のための集団』と見られても致し方ない状況にあったことを率直に認め、真摯に反省し、政策集団が『お金』と『人事』から完全に訣別することを決めました」と述べたものの、求められる改革に向けての方針を提示することはなかった。
衆参予算委員会の審議でも具体的な改革案には触れず、無内容な答弁を繰り返した。
いま問われているのは、国民の感覚から離れた政治家の存在であり、具体的にいえば、なぜ政治家は政治資金を必要とするのか、いかにして派閥政治から脱却できるのか、である。
そして必要なのは、民主主義の原点に立ち返り、政治は主権者国民のものであることを確認し、具体的政策を打ち出すことだ。

1月31日、自民党安倍派(清和政策研究会)は政治資金収支報告書を訂正し、これまで認めてこなかった政治資金パーティーの収入が、3年間で4億2726万円に達することを明らかにした。
派閥からの「寄付」として追記された議員・元議員は91人に上る。
このうち、起訴された池田佳隆・大野泰正・谷川弥一の3氏の訂正額は2000万円を超えている。

安倍派の幹部7人は「嫌疑なし」として不起訴とされたが、不記載額は一番金額の大きい萩生田光一前政調会長で1952万円、次いで高木毅前国会対策委員長・松野博一前官房長官・世耕弘成前参院幹事長が800万円台で続き、下村博文元文科相・塩谷立元文科相・西村康稔前経産相となっている。
91人のうち起訴されたのは議員3人のみで、ほかの88人は刑事責任を問われなかった(ただし、安倍・2階・岸田派の当時の会計責任者は起訴)。

刑事責任の追及の度合いが分かれたのはなぜか。
議員本人を「嫌疑なし」とし、会計責任者についても責任が問われないということは、それらの88人について罪が存在しないことになってしまう。
彼らは大喜びで地元に帰り、「不起訴」「嫌疑なし」を宣伝できる。
そこには「4000万円の壁」があったといわれている。検察側が、不記載額が4000万円以上についてのみ起訴するとしたのだ。

この政治資金規正法上の不記載罪は、殺人罪や傷害罪のような結果の発生が犯罪成立の要件である「結果犯」とは異なり、規律に違反しても何ら結果の存在しない「形式犯」である。
ここでは記載しないことそのものが犯罪で、道路交通法のスピード違反と同じだ。
同じ罪を犯しながら、責任に大きな相違が存在する。
この大きな矛盾の原因は、日本の刑事訴訟制度が起訴するか否かを検察官の判断に委ねる起訴便宜主義を採用していることにある。

先の例でいえば、道路交通法では多忙・煩雑を理由に反則金制度が採用され、スピード違反は裁判を受けて罰金を納付するといった手続きを踏まないものの、反則金という財産罰を付加される。
そこには起訴便宜主義など存在せず、すべてが一律に処理されている。
不記載罪についても同様な処理をすべきで、議員間の不平等はなくさなければならない。
しかも、これは現行法でも可能だ。検察官が不記載した者全員を取り調べ、立件すればすむことである。
このような議員間の不平等が放置されるならば、一定の証拠が存在すれば起訴しなければならない起訴法定主義の採用も視野に入れるべきだ。

また、政治家本人への刑事責任の追及が行なわれていないのは、不記載について、「会計責任者の行なったことで、政治家本人は何も知らされていなかった」という言い分が通った結果だが、ここまで大きな社会的問題となった以上、政治家の連帯責任・監督責任を問うシステムの構築は求められて当然だ。
しかし、法律を作るのは政治家である。自身が刑事責任を問われるシステムを、どうすれば作らせられるのか。それを私たちは考えなければならない。

三バン政治と廃藩置県

政治家になるためには、「地盤・看板・カバン」の3バンが必要だといわれている。
地盤とは選挙区での支援者の集合体であり、看板とは知名度を指す。カバンとは、選挙に必要なお金を入れるカバンである。
日本では、幕藩体制から明治天皇制国家への移行に際し、徳川体制の基礎の下に新しい国家が形成された。
そこで行なわれたのが廃藩置県だった。
これは1871年8月29日に、明治政府がそれまでの藩を廃止し、地方統治を政府管轄下に置く府と県に一元化した行政改革である。
従来の300弱の「藩」は廃止したけれども、そのまま国直轄の「県」とした。

たとえば、かつての武蔵国は、川越県・忍県・岩槻県三浦和県・小菅県・東京府・品川県・神奈川県・6浦県と小分けにされた。
それらはその後統廃合され、現在の埼玉県・東京都・神奈川県となった。
この地域区分は、かつての住民意識を存続させることになった。
たとえば秋田県では、「おらが殿様の佐竹知事」である。
かつての藩主が知事になった例として、首相も務めた細川護熙熊本県知事(知事在職1983〜91年)、松平勇雄福島県知事(76〜88年)、加納久朗千葉県知事(62年〜63年)、久松定武愛媛県知事(51〜71年)、鍋島直紹佐賀県知事(51〜59年)がいる。
さらに滋賀県彦根市では大老の子孫・井伊直愛市長が9期(53〜89年)にわたり君臨した。このような地域意識は現在にも受け継がれている。

投票に際し重視されるのは、政治家が持つ政治理念ではなく、その地域での人的関係=地盤である。だから政治家は、地元での人的関係の構築に忙しい。
まさにムラ社会そのものだ。
住民の側も投票行為の基準は常日頃の付き合いであり、ムラ意識であろう。
日本の民主主義は未成熟と言わざるをえない。

そんな地盤を重視した選挙の結果、誕生するのが“政治屋”だ。
そして、政治屋を何年続けられるのかが、彼らにとって一番大事なこととなる。
だから地盤形成に勤しみ、地盤の培養に励むことが日常となってしまう。

政治には金がかかるといわれている。
なぜだろうか。政党助成金の交付で、それなりの資金は配られている。
小選挙区制で、選挙区の規模はかつてより小さい。
地盤の確保と培養に勤しむことこそ、大きな原因だろう。
自分の存在が忘れられないように、あるいは他の候補者が入り込む隙を与えないように、頻繁に地域集会に出かけ、選挙区の各地で開催される祭りや盆踊りにも顔を出し、にこやかに握手をして回る。そこに政治理念は存在しない。そんな者たちに国政が任されている。

政治家には、自己の政治理念を明らかにし、国家のあるべき姿を選挙民に示す義務がある。
それをしない者は候補者になってはいけない。
これが本来の民主主義における選挙の在り方だ。
しかし現実は、たとえば大物政治家が引退する場合、自分の子どもを候補者に指名し、影響力を確保しようとする。跡継ぎは「父の路線を歩む」と口にするだけで当選してしまう。
裏金事件は、このムラ社会から脱皮するチャンスとしなければならない。

国税庁を動かせ

2月1日、「自民党ウラガネ・脱税を許さない会」が自民党安倍派の議員10人について、所得税法違反で東京地検に告発した。
従来の政治資金規正法とは異なるアプローチといえる。
告発状によると、安倍派によるキックバック(還流)手法は、
①議員が派閥に納めたパーティー券の売上金のうちノルマ以上に売り上げた分の金額を議員の政党支部に還流
②ノルマ以上の売り上げ分を派閥の収支報告書に記載せず、議員側にも記載しないよう念押しし還流
③ノルマ以上の売り上げ分を、議員が派閥に報告せずそのまま懐に入れる
という3通りとされている。そこで還流され、懐に入れられた資金は課税対象とならないのか、というのが彼らの問題提起だ。

「政治資金には税がかからない」ということも、よく言われるところだ。
所得税法第9条第1項は、所得税がかからない所得を列挙し、その第19号は、次のように規定している。〈公職選挙法の適用を受ける選挙に係る公職の候補者が選挙運動に関し法人からの贈与により取得した金銭、物品その他の財産上の利益で、同法第10819条(選挙運動に関する収入及び支出の報告書の提出)の規定による報告がされたもの。〉

この規定における要件は、次の3つである。
①公職選挙法の適用を受ける選挙に関すること
②選挙運動に関して得られた金銭・物品その他の財産上の利益であること
③その収支報告書が提出されていること
この“特典”を受けるためには、3つの要件をすべて満たさなければならない。政治に関連する支出なら何でもいいわけではないことは明らかだ。

今回の裏金事件では、その収入が収支報告書に記載されていなかった(③)。
その事実は、19号の適用を受けることができないことを示している。
東京地検特捜部の姿勢が疑問視されているが、国税庁もこれに基づき、議員事務所に税務調査に入ることくらい可能なはずである。
国民からは厳しく徴収する一方、政治家には甘い国税庁を動かすような方策を考えることも大切だ。

ところで、政治資金パーティーは、収入を政治資金に利用することを目的として開催されている。パーティーに名を借りた献金の強要行為であり、それ自体、許されてはならない。
これを、19号の規定に照らして考えてみる。
会費1万円のパーティーで、パーティー券の売り上げは300枚あったが、参加者は200人程度であったとしよう。
さらに会場費を含めた実際の経費は1人あたり8000円であった場合、まず欠席者100人分の100万円は手つかずの収入となる。
会費から経費を差し引いた2000円が1人あたりの収入となり、200人分で40万円。合計140万円である。この140万円は、パーティー券を売り上げた結果である。

これは、「法人からの贈与により取得した金銭、物品その他の財産上の利益」(②)といえるのであろうか。19号を厳格に解釈すれば、それに当たらないことになる。
そこで得られた税収はすべて政党助成金とし、各政党に配分する基金としたらいいのではないか。現在の政党助成金は、一般会計から支出されている。
政治家が政治資金パーティーという甘い汁を吸っている間は、そこから得られた税金で助成金を賄えばよいのだ。
このような政治資金パーティーの開催を禁止するとともに、得られた収入については課税することを前提とし、法改正を行なうべきである。

国会議員は、消費税の導入や税率の引き上げなどのように、国民への課税については厳しい法律を策定する。しかし、自らを規制する法律については非常に消極的だ。
与野党を問わず、議員特権を自ら手放すことはない。
裏金事件が提起したのは、この特権に対する怒りだ。
裏金事件を受けて、自民党では安倍派・岸田派・二階派が解散を決めた。
しかし、志の一致する者同士の集まり=政策集団は今後とも続けられるという。

要するに「政治団体」か否かの違いで、実質的には変わらない。
政策集団だと主張し続けるならば、それぞれの集団=派閥が独立した政党となり、自らの理念を主張したらいいのだ。
派閥は人を集め、人に金を配布し、地位を与える。
これが今回、判明したことだ。そんな派閥など、この裏金事件を契機にすべて消し去ろうではないか。

真の意味で派閥の解消を目指すならば、裏金に対する課税は大きな武器となるだろう。
派閥の領袖が企業から多額の献金を受け、部下の議員に資金を配分するという、派閥の構造のすべてを打ち破らなければならない。
領袖の資金源である企業・団体献金も禁止すべきだ。
献金は個人の自由な意思に基づくものとすることが喫緊の課題である。
こうして“政治屋”を社会から排除することで、理念を持ち、国家の在り方を真剣に考える政治家が育てられるのではないか。それこそが、待ち望まれていることだ。
(月刊『紙の爆弾』2024年4月号より)

足立昌勝(あだちまさかつ)
「ブッ飛ばせ!共謀罪」100人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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足立昌勝 足立昌勝

「ブッ飛ばせ!共謀罪」百人委員会代表。救援連絡センター代表。法学者。関東学院大学名誉教授。専攻は近代刑法成立史。

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