【連載】植草一秀の「知られざる真実」

【連載】知られざる真実/2024年3月22日 (金) 住民を見殺しにした枝野官房長官

植草一秀

毎年3月11日になると東日本大震災を特集する。

しかし、この日が過ぎると震災の話などなかったかのように忘れ去る。

本年1月1日には能登半島で大地震が発生した。

いずれの問題も最重要のテーマは原発。

フクシマ原発は起こしてはならない事故が引き起こされたもの。

フクシマ事故は東日本を喪失する危機を伴った。

大地震が発生した際、火力発電所は火を止めることで水の沸騰を停止させ、即座に安全な状況に移行する。

しかし、原発はウラン燃料のエネルギー量が大きすぎるために核分裂反応を止めても沸騰が続き、水が蒸発するとウラン燃料がむき出しになって溶け出す=メルトダウンする。

正常時には原発自身の発電でモーターを回して水を循環させられるが、核分裂反応を止めると原発自身で発電できなくなり、外部電源によってモーターを回して水を循環させなければならない。

京都大学原子炉実験所元助教の小出裕章氏は次のように指摘する。

「出力100万キロワットの原発の場合、原子炉の中では、ウランが核分裂して3倍の300万キロワット分の発熱をしている。

大地震の際は制御棒を入れて核分裂反応を止めるが、実は300万キロワットのうちの21万キロワット分の発熱は、ウランの核分裂で出ているわけではない。

それまでに生成された「核分裂生成物」が原子炉の中に膨大にたまっており、「崩壊熱」を出している。

制御棒でウランの核分裂反応を止めても、21万キロワット分の崩壊熱は止められない。」

人気ブログランキングへ

「福島でも核分裂反応は止まったが、崩壊熱を止めることができないまま、電源が何もなくなり、冷やせないために炉心が溶けて、(放射性物質が)大量に出てしまった。」

本年1月1日に能登半島でマグニチュード7.6、最大震度7の地震が発生した。

最大震度を観測したのは輪島市と志賀町。

志賀町では最大加速度2828ガルの揺れを観測した。

この志賀町に北陸電力志賀原子力発電所が立地する。

小出裕章氏は次のように指摘した。

「志賀原発が10年にもわたり停止していたことが何より幸いだった。

原発の使用済み燃料は発熱しているが、10年たつと発熱量は運転停止直後に比べ、千分の1以下に低下する。

今回の地震で志賀原発は外部電源の一部系統が使えなくなり、非常用発電機も一部停止した。

稼働していたら、福島第1原発と同様の経過をたどったかもしれない。」

志賀原発が運転停止から10年経過していたために大惨事を免れた。

地震発生で露わになったのは避難計画の無意味さだった。

放射線量を測定するモニタリングポストも使用不能に陥った。

屋内退避をしようにも家屋が倒壊して屋内退避は不可能だった。

避難に自動車、船を利用することとされていたが、道路は崩壊し、港湾は隆起のために使用不能に陥った。

人気ブログランキングへ

2011年3月11日の地震で東京電力福島第一原子力発電所は外部電源を失った。

外部電源が地震で断たれた上、非常用電源も使用できず、モーターで水を循環させることができなくなり、そのために1号機から3号機までの原子炉核燃料がむき出しになり溶け落ち=メルトダウンした。

メルトダウンが始まるまでの時間は電源が失われてから、わずか4~5時間である。

福島原発では3月11日夜の時点でメルトダウンに至ることが判明していたが、原発周辺住民に対する避難指示が出されなかった。

この問題を私は2011年11月に上梓した

『日本の再生』(青志社)
51nd16xbdbl_sy466_
https://x.gd/stUsS

第1章に詳述した。

3月11日午後3時42分には原子力安全・保安院に対して、東京電力から福島第1原発1、2号機で炉心を冷やす緊急炉心冷却装置(ECCS)が稼動しなくなったとの報告が入っている。

これを背景に同日午後7時3分に「原子力緊急事態」が宣言された。

政府は3月11日午後9時23分に福島第1原発から半径3キロ以内の住民に避難を指示したが、半径3キロから10キロ以内の住民には屋内退避を指示したのである。

しかし、事態は変わらず、3月12日になって午前5時44分に福島第1原発から半径10キロ圏内の住民に対し、10キロ圏外への避難指示を出した。

本来は3月11日の夕刻、遅くとも「原子力緊急事態」を宣言した午後7時には半径10キロ圏内の住民に10キロ圏外への避難指示を出すべきだった。

政府は国民の命を守る行動を取らなかった。

この罪は万死に値する。

※なお、この記事は下記からの転載であることをお断りします。
植草一秀の『知られざる真実』2024年3月22日 (金)住民を見殺しにした枝野官房長官
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2024/03/post-c4d187.html
– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

スリーネーションズリサーチ株式会社
http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html

メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」
http://foomii.com/00050

2024.03.24 ★ISF(独立言論フォーラム)「市民記者」募集のお知らせ:来たれ!
真実探究&戦争廃絶の志のある仲間たち
https://isfweb.org/post-34309/

2024.05.20 ISF公開シンポジウム:小沢事件とは何であったのか ~司法とメディアの共犯関係を
問う~☆ISF主催トーク茶話会:原一男監督を囲んでのトーク茶話会のご案内
https://isfweb.org/post-35051/

2024.05.18 ISF主催トーク茶話会:孫崎享さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
https://isfweb.org/post-35054/

2024.05.19 ISF主催トーク茶話会:吉田敏浩さんを囲んでのトーク茶話会のご案内
https://isfweb.org/post-35060/

 

– – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – –

※ISF会員登録およびご支援のお願いのチラシ作成しました。ダウンロードはこちらまで。
ISF会員登録のご案内

「独立言論フォーラム(ISF)ご支援のお願い」

植草一秀 植草一秀

植草一秀(うえくさ かずひで) 1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ株式会社代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。 経済金融情勢分析情報誌刊行業務の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」を発行。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門1位。『現代日本経済政策論』(岩波書店、石橋湛山賞受賞)、『日本の独立』(飛鳥新社)、『アベノリスク』(講談社)、『国家はいつも嘘をつく』(祥伝社新書)、『25%の人が政治を私物化する国』(詩想社新書)、『低金利時代、低迷経済を打破する最強資金運用術』(コスミック出版)、『出る杭の世直し白書』(共著、ビジネス社)、『日本経済の黒い霧』(ビジネス社)、『千載一遇の金融大波乱』(ビジネス社、2023年1月刊)など著書多数。 スリーネーションズリサーチ株式会社 http://www.uekusa-tri.co.jp/index.html メルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」 http://foomii.com/00050

ご支援ください。

ISFは市民による独立メディアです。広告に頼らずにすべて市民からの寄付金によって運営されています。皆さまからのご支援をよろしくお願いします!

Most Popular

Recommend

Recommend Movie

columnist

執筆者

一覧へ