【連載】横田一の直撃取材レポート

知事辞職の川勝氏、リニアと闘う姿を伝えないメディアに反発(前)(データマックス2024.4.12)

横田一

写真:川勝平太・静岡県知事

新人職員への訓示が「職業差別とも捉えられかねない」と報じられた川勝平太・静岡県知事が4月10日に辞職届を提出後、定例会見に臨んだが、そこで“職業差別発言報道”への怒りを露わにした。メディアが「県庁というのは別の言葉で言うとシンクタンクです。毎日野菜を売ったり、牛の世話をしたり物を作ったりとかと違って、基本的に皆さんは頭脳・知性の高い方たち」という発言部分を切り取って「職業発言とも捉えられかねない」と伝えたことに対し、次のように反論をしたのだ。

「職業差別というのは悪なのです。差別してはいけないのです。人を弾劾することができる言葉です」「生業の違いはあると。区別と差別とは違うわけです。ジャーナリストの仕事、私の仕事、違います。どちらが上か下かというのはない。職業に貴賤はないのです。『そういう意味で申し上げました』といっても『職業差別だと捉えられかねない』というふうに報道されたのですが、途端に『職業差別』という言葉でざっと広がり、職業差別をする人間だと。とくに第一次産業に対する差別だという言論が広がりました。これは本意ではない。しかも驚いたことに農水大臣までが強い憤りを感じられるということで、本当に驚きました」。

そこで会見終了後、川勝知事を追いかけて「“職業差別デッチ上げ報道”に屈するのか」と声掛け質問をした。会見中は記者クラブ加盟記者しか質問ができないルールのためだが、エレベーターに乗り込んだ川勝知事は無言のまま。そこで「(前明石市長の)泉房穂さんの資料、もってきました」と言って資料を手渡そうともしたが、県庁職員に接近を阻まれた。そこで扉が閉まる前に「知事、泉房穂さんの資料ありますよ。不出馬(撤回の)、(続投要請の)県民の声が高まれば(出直し選挙への不出馬撤回するのか)」と叫んだが、川勝知事は一言も発することなく扉が閉まってしまった。

子ども関連予算を2倍以上にして10年連続人口増を達成した泉房穂・前明石市長の関連資料を川勝知事に手渡そうとしたのは、「暴言を吐くものの、仕事はする(住民のために奮闘する)」という共通点が2人にはあると思ったからだ。メディアが言葉狩りをするのも瓜2つと思って、コピーをしたのが山岡淳一郎著『暴言市長奮戦記』の関連部分(p.42~)。「暴言報道で市長の辞意表明」という小見出しのなかで、川勝知事辞職と重なり合う事態が4年前に明石市でも起こっていたのだ。

(明石市長選を春に控えた)19年1月29日、噂が現実のものとなった。「暴言報道」という爆弾が破裂する。神戸新聞と讀賣、毎日などの全国紙が泉の冒険を書き立てた。読売は、「買収遅れ市長、職員に暴言 兵庫・明石『火をつけてこい』」という見出しを打って、次のようなリード文を載せた。

「兵庫県明石市の泉房穂市長(55)が2017年、市の道路拡幅事業でビルの立ち退きが遅れていることについて、担当職員らを呼び、『(交渉がまとまっていないビルに)火をつけてこい。燃やしてしまえ』などと暴言を吐いていたことが分かった。市長は読売新聞の取材に発言内容を認め、『怒りにまかせて言ってしまった。市長の振る舞いとして度を越えていた』と述べた。(中略)

明石市によれば、暴言が報じられた1月29日、市役所に「暴力団のような発言だ」といった批判が電話やメール、ファックスなどで337件届き、市長を擁護する声は31件だった。(中略)

2月18日、泉は後援者たちに直接、語りかける会を催し、「一生かけても償いきれない過ちを犯したのがほんとうに申し訳なく」と頭を下げた。市長選には「出られません」と辞意を再度、口にした

泉前市長の暴言が報じられて辞職(市長選不出馬)となった経過は、「職業差別」と報じられた川勝知事が辞職に追い込まれたのと重なり合う。しかし明石市では、前代未聞の住民運動(続投署名活動)が始まり、不出馬撤回という奇跡的な展開につながっていく。山岡氏の本は「動き出した子育てママ」という小見出しをつけて、こう続けていた。

ところが、である。想像もしていなかった事態が生じる。寒風吹きすさぶ明石駅前に、幼子を育てる3人の母親たちが立ち並んだ。「明石前市長 泉房穂さんに市長選立候補を要請する署名」と表示板をぶら下げ、活動を始めた。SNSで知り合った母親たちは、最初はネット上で電子署名を集めたが、思うように数が増えず、「リアルで街頭演説をやるしかない」「時間があるので動けます」「エイエイオーッ」とメールを交わして、街頭に出たのである。

泉本人はもちろん、選挙を支える朝比奈も、他の後援者たちもまったく寝耳に水の出来事だった。政治に縁のなかった若い母親たちが、暴言は許されないけれど、「政策を引き続き実行し、さらに市民にとってやさしいまちづくりをすすめていただきたく、3月17日の市長選挙への立候補を要請します」と泉宛の要望書を読み上げる。

真冬の冷たい風が、署名用の要望書をめくりあげて吹き抜ける。署名に協力してくれる人もいれば、「そんな活動やめたほうがいいよ」と面と向かって言う人もいる。脅しめいた雑言も浴びせられる。怖れに震えながら、ときには子どもを抱えて道行く人に声をかけた。「立候補が無理でも、せめて、ありがとうだけは伝えたい」と切々と訴えた。そうして約5000筆の署名が集まった。

市長選告示の1週間前、「泉市政の継続を求める会 総決起集会」が開かれ、子どもを抱いた母親たちが集めた署名を持ってきた。司会に招かれて壇上に上がり、署名の束を差し出そうとしたら、泉は椅子に座ったまま泣き崩れて立ち上がれなかった。隣の後援会長の柴田に手で「行ってくれ、行ってくれ」と合図をする。柴田が立ち上がって泉の代わりに署名を受け取った。
市民に背中を押された泉は、出直し市長選への出馬に踏み切った>

(つづく)

【ジャーナリスト/横田 一】

 

本記事は「知事辞職の川勝氏、リニアと闘う姿を伝えないメディアに反発(前)(データマックス2024.4.12)」の転載になります。

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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