【特集】終わらない占領との決別

編集後記──終わらない占領と植民地主義との決別(後)(完)

木村朗ISF編集長

最後に、現在焦眉の課題となっているウクライナ問題、中国敵視と日米軍事一体化、米中新冷戦と台湾有事などについて触れておきたいと思います。

現在ウクライナ問題に関連してロシアの脅威が声高に唱えられていますが、冷戦終結後これまで一貫して脅威を受けてきたのは実はロシア側です。本来ならば、NATOや日米安保条約のような軍事同盟はソ連とワルシャワ条約機構が消滅する時に解散しなければならなかったはずです。それを阻んだのは軍産複合体の生き残り戦略のためであったことは明らかです。

そして、冷戦終結時に10か国であったNATOは当時のブッシュ大統領のゴルバチョフ大統領への約束を破るかたちでいまや30か国まで拡大しています。自国の国境周辺を包囲する形でNATOが拡大することで本物の脅威を受けているのはロシア側であり、プーチン大統領がウクライナのNATO加盟阻止を訴えているのは当然の要求であると思います(鈴木宗男「岸田政権とロシア」『月刊日本』2022年2月号を参照)。

また東アジアに目を転じると、冷戦時代、つまり90年代になる前の日本は米中対立に加担する事を慎重に避けてきました。しかし、冷戦終了後の日米安保再定義や新ガイドライン策定以降の日本は、米中戦争に積極的に参加する方向への方針転換を行い、自動参戦システムを構築することになりました。その結果が、中国敵視のプロパガンダと軍事力中心の抑止力強化で当然のごとくいまの危険な状況を招くことになっているのです。

こうした日米軍事一体化による危機の醸成の背後にあるのが日米軍産複合体の生き残り戦略と覇権国家からの転落に怯える米国の焦燥感、すなわち金儲けと世界支配維持の思惑です。この冷戦時代の遺物ともいえる新しい冷戦型思考・認識こそがまさに思考停止です。眼前の危機を克服して未然に戦争勃発を防止するためには、現在の思考停止状態からの脱却、中国敵視と日米軍事一体化からの根本的な転換が必要です。

そのためには、鳩山友紀夫元総理が唱えられているような日米安保体制の相対化、すなわち常時駐留なき安保論に基づく在日米軍基地、とりわけ在沖米軍基地の縮小・撤退が求められていると思います。そのような選択の延長線上に東アジア共同体構想の具体的可能性が浮上してくるはずです。

ここでいう日米安保体制の相対化とは、それを無条件の前提とせず徐々に縮小・解体していくという意味です。つまり日米安保条約の即時廃棄が今の政治状況・力関係の中で無理ならば、過渡的方策として段階的廃棄を目指して最終的には日米平和友好条約に転換していくということです。

もちろん、これは米国従属から中国従属に切り替えるということでは決してありません。日本の真の独立を達成して東アジア不戦共同体の構築につなげるという道を選択することです。現在の自衛隊の戦力を縮小・解体して憲法9条に沿った非武装国家に近づけていくという道とも連動していることはいうまでもありません。

People around the world.

 

ここで東アジア不戦共同体の構築と日本の非武装国家化の鍵をにぎっているのが他ならぬ沖縄です。しかし、現在、沖縄・鹿児島(奄美)の南西諸島では、対中国を想定した自衛隊による軍事要塞化が急速に進んでいます。馬毛島─種子島─奄美─沖縄本島─石垣島─宮古島─与那国島と連なる南西諸島(琉球列島を包含する)に自衛隊のミサイル戦闘部隊と海峡封鎖部隊が続々と配備し始めています。

中国軍に対する海峡通交の阻止や島々着上陸への対抗戦を想定した訓練・演習も常態化しつつあります。米軍による自衛隊基地の共用だけでなく、各島々の民間空港や港湾の軍事化も不可避となっています。このように沖縄・鹿児島(奄美)の南西諸島は、憲法違反の安保関連法施行で一挙に加速化した日米の軍事的一体化によって戦時には直ちに最前線となる軍事要塞化の様相を示しています。

今後は自衛隊による敵基地攻撃型ミサイルの島嶼配備や米軍による中距離ミサイル配備も計画されており、まさに戦争前夜の状況になりつつあるといっても過言ではありません。

台頭する中国の脅威と台湾有事を前提とする南西諸島防衛という口実でいま現在日米軍事一体化と南西諸島の軍事要塞化が急速に進められているのは事実です。

しかし、こうした緊迫した事態に直面して戦争前夜の状況と捉える危機意識をいま持つことは大事ですが、この危機が誇張されている面も見る必要があります。なぜなら、中国は台湾が米国の後押しを受けて一方的に独立を宣言して既成事実化することを恐れているだけで、何がなんでも軍事力を使って統一しようとしているわけではなく基本的には現状維持を望んでいることを知っておく必要があります。

いま中国を香港・ウイグル問題を絡めて挑発しているのは、米国・日本とその後押しを受けている台湾の蔡英文政権の方です。具体的には、米軍による台湾軍の訓練、米国高官の相次ぐ台湾訪問は、これまでの「一つの中国政策」の事実上の放棄であり、中国が一貫して主張する最後の一線を越えつつあることを示しています。

また、軍事衝突の一番可能性の高いシナリオは、ジャパンハンドラーの1人であるジョセフ・ナイ氏(ハーバード大学特別功労教授)がかつて述べていたように、米中の全面対決よりも日中の部分的偶発的軍事衝突です。この「オフショア・バランス」と呼ばれるシナリオで漁夫の利を得るのは米国です。なぜなら、米中の全面戦争は可能性が低いだけではなく、日中の軍事衝突で戦場になるのは米国ではなく、日本、とりわけ沖縄だけが戦場になる可能性が高いと思われるからです。

安倍晋三元首相の「台湾有事は日本有事、日米同盟の有事である」という言説とは逆に、本来台湾有事は日本有事とは無関係であり、日本を米中対立に巻き込もうとする米国のシナリオはまさに悪夢であると言わざるを得ません。再び沖縄を日本本土や米国を守るための防壁として利用し戦場とすることがあっては決してなりません。

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木村朗ISF編集長 木村朗ISF編集長

独立言論フォーラム・代表理事、ISF編集長。1954年北九州市小倉生まれ。元鹿児島大学教員、東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会共同代表。九州大学博士課程在学中に旧ユーゴスラヴィアのベオグラード大学に留学。主な著作は、共著『誰がこの国を動かしているのか』『核の戦後史』『もう一つの日米戦後史』、共編著『20人の識者がみた「小沢事件」の真実』『昭和・平成 戦後政治の謀略史」『沖縄自立と東アジア共同体』『終わらない占領』『終わらない占領との決別』他。

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