【連載】横田一の直撃取材レポート

岸田首相の命運をかけた島根一区補選(データマックス2024.4.27)

横田一

写真:岸田首相と錦織候補21日

 

衆院3補選で唯一の与野党対決となった「島根一区補選(28日投開票)」で、自民党がなりふり構わぬ総力戦を展開している。ここで元財務官僚の錦織功政候補(自民公認・公明推薦)が元立民衆院議員の亀井亜紀子候補に敗れれば、他の2補選は不戦敗であることから「補選全敗」となって、岸田降ろしが始まることは確実。岸田首相の命運を左右する一大決戦と化しているのだ。

岸田首相の危機感は、ラストサンデーの21日に続いて投開票前日の27日にも応援に駆け付けることでも見て取れる。細田博之・前衆院議長の死去に伴う島根一区補選だが、「弔い合戦で楽勝」との見方は裏金問題で吹き飛び、世論調査では錦織氏の劣勢が続いているのだ。

 

写真:岸田首相と錦織候補21日

21日の応援演説で岸田首相は、「自民の政治とカネの問題で大きな政治不信を引き起こしてしまっている」と陳謝したのはこのためで、細田氏が裏金問題の“震源地”といえる安倍派元会長だった負のイメージを和らげようとしているのだ。

石破茂元幹事長や小泉進次郎元環境大臣ら裏金問題を想起しない無派閥議員が前面に立って応援演説をしているのも、同じ狙いなのだ。

しかし、裏金問題は岸田派でも発覚。岸田首相の不人気ぶりは過去最低レベルの内閣支持率が物語っている。そのため、「(20日に応援に駆け付けた)小泉進次郎さんは人気抜群でプラスでしょうが、岸田首相が来ても票が増えるのか」と疑問視する自民党支持者もいた。地元の地方議員からも「首相が来てもプラスにならない」との声が出ていたが、それでも岸田首相(総裁)の島根入りが実現したのは自民党本部からの依頼であったためだ。錦織陣営が頼んでいないのに、総理の意向で押し掛けていたのだ。

そこで、私は21日の松江市郊外での街宣と聴衆とのグータッチを終えた岸田首相に向かって、「岸田さん、(応援演説)頼まれないのに来たのではないですか。不人気ぶりを自覚していないのですか。逆に票が減るのではないですか」と大声を張り上げた。

車に乗り込んだ岸田首相が窓ガラスを開けて、「お世話なります。どうぞよろしくお願いします」と聴衆に手を振っていた時のことだ。しかし岸田首相は、私の声かけには答えることなく、走り去った。
(この時の動画は【横田一の現場直撃 No.264】◆自民総動員 島根1区
20240422の冒頭で紹介)

無派閥有名議員を前面に出す安倍派隠しと並ぶ錦織陣営の選挙対策は、地元選出の大物議員を連呼することだ。岸田首相は21日の応援演説で「細田博之先生はいうまでもないが、(元首相の)竹下登先生、(義弟の)竹下亘先生、(元官房長官の)青木幹雄先生。そうそうたる先輩方がそろっておられた」と訴えた。

投開票2日前の26日には、その一人である故・青木元官房長官の息子である一彦参院議員が松江駅前でマイクを握って、錦織氏への支持を訴えた。裏金問題にまみれる今の自民党ではなく、一昔前の自民王国島根の姿を思い出してもらい、細田氏が9回連続で当選してきた議席を死守しようとしているのだ。

写真:小渕優子選対委員長と共に錦織候補の応援演説をした青木一彦参院議員(一番左)26日

しかし、聴衆の一人からは「裏金問題はどうした」というヤジが飛ぶなど、有権者の反発が和らいだとは言い難い。その受け皿になろうとしているのが亀井氏だ。岸田首相と同じラストサンデーに島根入りした立民の泉健太代表は、「自民は処分も真相解明も遅れ、政治改革案も遅れた」と批判。「本当は今の自民党政治には嫌気がさしているのではないか。今こそ一緒に立ち上がりましょう」と亀井氏への支持を訴えた。

政治の刷新を訴えたのは亀井氏も同じ。古い自民政治の象徴として、岸田政権がトリガー条項(ガソリン減税)を発動せずに業界への補助金で対応していることをあげ、国民第一の政治への転換を訴えたのだ。

新旧の政治対決の様相を呈しているのは、政策論争だけでなく選挙手法でも同じようだった。錦織陣営が力を入れているのが組織選挙。島根入りした自民党議員が建設関係や農業関連などの業界団体を回り、錦織氏への支持拡大に励んでいた。パーテイ券を買ってくれる企業団体に頼る“締め付け選挙”を展開しているともいえる。

そこで21日の街宣を終えた泉代表に「企業団体締め付け選挙を相手方が展開している」ことについて聞くと、こんな答えが返ってきた。

写真:泉健太代表と亀井候補21日

「1人ひとりの市民の方からすれば、(企業や団体の)上から言われることに様々な苦しみや悩みを感じられている方もいると思いますが、そういう人たちに『上の人の言うことを聞く必要はないよ』『これからは1人ひとりの考え方で投票しよう』と我々繰り返し言って、何とか勝ち切りたいと思っている」

「いろいろなところから(自民公認候補支援要請の)指示が来て、『今回はここにポスターを貼ってくれ』とか『(自民公認候補に)投票してくれ』という声があるのは聞いている」

泉代表も27日に島根入りを決定、岸田首相と二度目の応援演説対決となった。岸田首相だけでなく野党トップの命運もかけた激戦となった島根一区補選の結果が注目される。

【ジャーナリスト/横田 一】

 

本記事は「岸田首相の命運をかけた島根一区補選(データマックス2024.4.27)」の転載になります。

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横田一 横田一

1957年山口県生まれ。選挙取材に定評をもつ。著書に『亡国の首相安倍晋三』(七つ森書館)他。最新刊『岸田政権の正体』(緑風出版)。

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