【連載】紙の爆弾

【コリアン・ジェノサイド/裕仁最初の犯罪を問う(7)/前田朗(朝鮮大学校講師)】

前田朗

 資料「神奈川方面警備部隊法務部日誌」(姜・山本編『神奈川県関東大震災朝鮮人虐殺関係資料』)によると、関東大震災朝鮮人虐殺について鈴木忠純法務官は戒厳部に多数の報告書を提出しました。
現在、日本政府は記録がない、資料がないと言い募りますが、実は調査結果が摂政裕仁に報告されたのです。
鈴木法務官の日誌は「鮮人ニ対スル内地人迫害」「鮮人虐殺」と記しています。

重要なのは9月19日から22日の経過です。じっくり考えましょう。

9月19日、鈴木法務官は「犯罪容疑者処理報告書」を陸軍法務局長等に提出しました。
これを受けて9月21日、侍従武官陸軍歩兵少佐大島陸太郎がわざわざ出向いて鈴木法務官に面会し「聖旨ノ伝達」をしました。

「午前九時侍従武官陸軍歩兵少佐大島陸太郎来着司令部ノ隣家高嶋邸ニ於テ聖旨ノ伝達アリタリ」

「聖旨」とは摂政裕仁の指令です。

日付に注目しましょう。19日に鈴木法務官は横浜で報告書を提出しました。
その報告書は翌20日に宮中に届いたのです。報告書そのものではないかもしれません。
少なくともその要旨が摂政裕仁に報告されました。
だから21日に大島侍従武官が東京から横浜にやってきたのです。震災後の混乱と道路事情を考えると、鈴木法務官と同様に東京から横浜へ海軍の船で移動した可能性が高いです。
20日夜に横浜港に着いて、21日朝に下船したのでしょう。それゆえ21日午前9時に大島侍従武官は鈴木法務官と面会できたのです。
摂政裕仁に速やかに情報を集約し、かつ摂政裕仁から直ちに指令が伝達されたことがわかります。

摂政裕仁の「聖旨」を伝達された鈴木法務官は、9月22日、横浜地裁次席検事、東京控訴院検事、司令部附陸軍歩兵大尉、憲兵長らと「朝鮮人犯罪捜査二関スル件二付長時間打合ヲ為シタリ」。

その内容は不明ですが、朝鮮人犯罪の調査のために横浜に来てみると、実際に発見したのは朝鮮人虐殺の証拠でした。
そこで報告書を提出したところ、摂政裕仁から「聖旨」が届きました。前代未聞の出来事です。
鈴木法務官は驚愕したはずです。摂政殿下から「聖旨」が届くなどということは、想像したこともないはずです。
次にどうするべきか、自分一人では判断できません。だから22日に「長時間打合」が必要となったのでしょう。

「聖旨」の内容は不明です。確認すべき状況証拠の第1は前代未聞の重大事態であるがゆえに「聖旨」が出されたことです。
第2は、ここで重大事態とは朝鮮人犯罪ではありません。民間人による朝鮮人虐殺でもありません。
日本軍や警察による朝鮮人虐殺が起きたことを、宮中は重大事態と受け止めたのでしょう。
第3は「長時間打合」です。「聖旨」に従うために「長時間打合」をする必要があったのです。
戒厳部はどのような意思統一をしたのでしょうか。

「週刊MDSの2024年04月26日 1819号転載

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前田朗 前田朗

(一社)独立言論フォーラム・理事。東京造形大学名誉教授、日本民主法律家協会理事、救援連絡センター運営委員。著書『メディアと市民』『旅する平和学』(以上彩流社)『軍隊のない国家』(日本評論社)非国民シリーズ『非国民がやってきた!』『国民を殺す国家』『パロディのパロディ――井上ひさし再入門』(以上耕文社)『ヘイト・スピーチ法研究要綱』『憲法9条再入門』(以上三一書房)『500冊の死刑』(インパクト出版会)等。

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